『リュクスマンション・藤』をご案内 2
ポーン……
「皆様、お待たせ致しました。18階に到着致しました」
いや。全然待ってないよ、フェイ。だって、本当に静かでスゥゥって動いているのだけがわかる感じなんだもん。
「いやぁ、これだけ静かな乗り物は珍しいですな」
「って言うか、ここぐらいだろうな。こんなんあるの」
皆でワイワイ言いながらエレベーターホールに出ると、18階ならではの圧巻の高さからの景色が目に飛び込んできます。
「うわぁ!凄い!地平線まで森が広がっているよ!」
流石に大きなガラスに走り寄ってしまった僕。ウッ、しまった子供っぽ過ぎたかな……?
そう思って周りを見ると、どうやら他の人も同じだったみたい。僕と一緒に窓の外をジッと見ていたんだ。
良かった、僕だけじゃなくて……!とホッとしていたら、気になるものを見つけてフェイに聞いてみたんだ。
「フェイ、あの地平線にある大樹って世界樹?」
「はい、そうですよ。……一応、皆様にお伝えしておきますね。今見えている景色は本物ではありません。勿論、湖もです。特殊な素材を用いて作られた造形の景色ですので、誤解なさいませんようにお気をつけ下さいませ」
僕もだけど、改めてそう説明されても目には本物に見えるから、全員が「え?」って顔でフェイを振り向いたんだ。
「皆様の目を楽しませているようで、私どもも嬉しく感じます。では皆様、お部屋をご案内させて頂きますね」
全員狐に化かされたような顔をしている中、フェイだけが満足そうに共用廊下を先導して行く姿に、それぞれ顔を見合わせて苦笑する僕ら。
まあ、それよりもまずは部屋が大事だよね!
「さあ、皆様どうぞお入り下さいませ」
やっぱり18階だけあって、廊下も豪華な絨毯が敷きつけられている中、立派な玄関扉を開けると……
重厚な黒い壁に金の金具のプラケッドライトが優しく光り、三階とは各段に違う広さの廊下が僕らを出迎えてくれます。
こちらも勿論大きめのウォークインクローゼット(WIC)があり、その中からファー付きスリッパを人数分用意するフェイ。
今回はみんな何も言わなくても、履き替えてくれたよ。みんな、慣れて来たんだねぇ。
「入ってすぐにある左右の扉は、寝室となっております。どちらも日の光をふんだんに取り入れる為、大きな出窓が特徴となっております。
ここはスティール家が宿泊される際には、主に専属従者やメイド達の控え室兼寝室予定でございます」
「ほう……従者やメイド達も喜ぶな、これは」
「というか、辺境伯家のメイド達今回争奪戦になりそうだな……」
「む、殿下。そこは言わんでくだされ」
「厳選して連れてくるんだろ?だったらここの事言わず連れて来た方が良いと思うぞ」
「……確かに」
なんかこうやって聞いていると、辺境伯家の従者さんやメイドさんが癖ありそうって思うよね?
実際どうなのか、ちょっと楽しみになって来たよ。
「では、移動しましょう。そしてこの廊下にもう一つある扉がトイレでございます。因みに、18階の売りはトイレが1戸に二つあることでございます。もう一つ、主寝室にトイレが隣接されておりますので安心してご使用が可能になっております」
ここでピクッと反応したのはグエルさんとセラさん。うん、トイレって結構切実な問題だからね。わかる、わかる。
心の中で同意していると、フェイが先導して廊下の先の部屋の扉を開けてくれたんだけどね。
そこは、光溢れるサンルームとサービスバルコニーもついていて明るくて開放的なリビングだったんだよ。
「こちらがスティール家の皆様が普段お過ごしになる予定のリビングでございます。
サンルームでは緩やかな日差しを浴びながら読書。サービスバルコニーではティータイムを優雅に過ごせるようにテーブルと椅子をご用意させて頂きました。
リビングではゆったりと過ごせるように、大型のソファーと大画面TVを設置しております。気分によって音楽も嗜めるようになっておりますので、楽しんでお過ごし頂けるように配慮させて頂きました」
笑顔のフェイの説明に、「うちより過ごしやすいかもしれん……」とボソっと呟くダノン様。
殿下といえば、「良いねぇ」とご満悦の表情ですが……ん?殿下はここじゃないでしょう?という視線を向けると、何故かショックを受けた表情の殿下。
いやいや、辺境伯御一家と同じフロアで泊まらなくても、殿下にはロイヤルパレスがあるでしょうに。
なんて殿下に言ったらね。
「冗談じゃない!金額がとんでもないんだろう?だったら俺は18階で良いっつーの!」
なんて本音が出ていたよ。殿下、既に散財しているからねぇ。あ、グエルさんに「18階は予算オーバーですよ」と言われて更にショックを受けてたよ。
うん、ウチのフェイさんと商談して下さいね。って、殿下が泊まるのが何階かは後で教えるとして。
リビングは広さは勿論、手前に水周りが一箇所にまとまっていて、メイドさん達が動き易そうな感じなのも良いんだ。
セラさんの目がキッチンに釘付けだったからね。セラさん、もしかして料理好きなのかな?
そして、次にフェイが案内したのは、リビングに併設されているトイレ。日本の多目的トイレのように広いし、お風呂に至っては家庭用のサイズというか……もはや旅館の個室風呂だね。
木の温もりを感じるお風呂は最高だもん。スティール家が
羨ましいよ。
『マスターのベースルームはもっと豪勢ですよ?』
……フェイさん……僕、見るのが怖くなってきたよ。
『慣れたら大丈夫ですよ』
慣れるかなぁ……?
なんて僕が違う意味で恐々としていたら、主寝室から感嘆の声が聞こえて来たんだ。
どうやら、フェイが僕と念話しながらも皆を寝室に案内していたみたい。
「こちらは周囲180度が大型の窓という、圧巻の景観を楽しめる寝室となっております。一級の遮光カーテンもございますから睡眠もしっかり取れつつ、朝には壮大で爽やかな景色が皆様にスッキリとした目覚めをもたらしてくださるでしょう」
「へえ、こりゃ見事」
「……セレナにも見せてやりたい」
殿下もダノン様にも高評価なのは嬉しいね。でも僕はベッドの方がびっくり!
天蓋付きのワイドキングベッドってあるんだ……!と密かに驚愕。うん、僕今まで普通のベッドでしか寝たことなかったからね。
「こちらですと、セレナ奥様やレナお嬢様がお気にいるがと存じますが、いかがでしょうか?」
「ああ、あの二人はこのようなベッドが好きなんだ。だが、質感は触ると最高品質だとわかる。……今になって心配になって来たが、この部屋は借りるとなると幾らになる?」
「ダノン様、お耳を拝借。……ですが、今ならこの価格でどうでしょう?」
「!!それは……一部屋一人使う計算であっているか?」
「はい、このタイプの部屋を四部屋ご用意できます」
「……いた仕方ない。それで頼む」
「ありがとうございます。それでは今日から既にご利用可能ですが、いかがなさいますか?」
「今だと、アインスに気付かれてしまうから、出発の日だな」
「ではそのように手配いたしましょう」
すんなりと辺境伯御一家の件は決まったね。多少、ダノン様のお顔が鈍ったみたいだけど、フェイなりに考慮した金額だったんだと思うよ。
……殿下が期待した顔で見ているね?フェイ、ほどほどにね。僕はセラさんに交渉してくるから。
「セラさん、今のセラさんの立ち位置は微妙なんです。ダノン様と一緒にいるのが見られたらまずいのはご理解頂けたと思います。ですので、これからはこのマンションに泊まる予定の殿下の騎士達の管理を願いできますか?」
「まぁ、私の事を考えて下さるのは嬉しいですが、このとおり身体が丈夫ではない為、ご迷惑をおかけしてしまうと思うのですが……?」
「うん、その件は大丈夫。【ハイキュア】と【ハイヒール】で治るはず。……どうですか?」
「!!……え?身体が軽い……?本当に?」
「はい、これで騎士達にも対応出来ると思うのですが……?」
「まぁ!まぁ!まぁ!!!なんて嬉しい!!ええ、もう私にお任せ下さいませ!騎士の管理をしっかり果たさせて差し上げますわ!」
「良かったぁ!セラさんは一先ず今日からこのマンションに住んで、大体の事覚えて下さいね!」
「はい、しっかりお役に立ってみせますわ!」
あ、セラさんの表情がかなりよくなった。うん、お世話好きそうだし、胆力あるし、マンションと人とのいい繋ぎ役になりそうだなぁ。
「……マスター?私は?」
「?フェイは僕付きで忙しいでしょう?だからセラさんに騎士達や殿下の事頼んだんだけど?」
「ですよね!私以上にマスターのお世話出来る人いませんからね!」
「う、うん。お手柔らかにお願いしたいけどね」
「ふふふ……お任せ下さい」
ん?フェイに更にやる気が出て良かったけど……ちょっと早まったかな?……まあ、なんとかなるでしょ。
さて、まずは僕もこのマンションに慣れなくちゃ、ね!
アクセスありがとうございます♪




