ヴェルダント国到着!
あれから公道を走り抜けること1日ーーーー
「ゼネストの街が見えて来たぞ」
街が近づいた為、珍しく馬車に乗っている僕達3人と殿下。殿下が窓の外を見ながら教えてくれたんだ。
僕はといえば、初の外国にちょっとワクワク。だって自国すらそんなに出歩いてなかったし。
今となっては廃籍様様だね。
「ゼネストの街は国を守る要の街の一つだな」
僕が頭の中で実家を思い出していると、殿下が街を説明してくれる。
綻びもなくどっしりと空まで届くような城壁は、厚みもかなりあり長い年月増築と増強を繰り返して出来た頑丈な物。
何度も盗賊や魔物の侵入を防いできた実績のある城壁には、仕掛けも多く防備だけではなく攻撃も優れているらしい。まあ、詳しくは教えてくれなかったけどね。
そして今代の領主様になってから兵士と冒険者との連携が上手くいき、治安もいいから商業も発展してるんだって。
「何よりの目玉は街の中にある緑地園だな。市民の憩いのために開放しているが、泉もあって、街の中を綺麗な水が通っているんだぞ」
殿下は自分の事のように嬉しそうに僕に教えてくれる。うん、自分の国が好きなんだなぁ。僕とは大違いだ。
そんな事を考えながら相槌を打っていると、馬車は城門へと近づいていく。
「あれ?殿下、あっちに並ばないんですか?」
城門の前には街に入る為に並んでいる大勢の人達がいた為、前世一般人の感覚でつい言ってしまった僕。
「……おっ前、それ真面目に言ってんのか?」
「マスター、殿下は王族ですよ?貴族専用の門から入るに決まっています」
呆れた顔で僕を見る殿下とフェイに、そういえば!とポンと手を打つ僕の様子にため息吐かれたけどさ。
「最近の殿下の生活見てたらつい……」
「まあ、マスターの言う事もわかります。最近は殿下娯楽に夢中でしたし」
「ウッ……それを言われると弱いが……いや、むしろ面白すぎるのが悪い!」
「殿下、子供の言い訳ですよ」
呆れたフェイに突っ込まれても、堂々と胸を張る殿下の姿に笑い声が上がる。
まあ、こんな気さくな方だから僕も巻き込もうと思ったんだけどね。
そんな感じでのんびりした車内とは違い、外にいるゲンデ達は真面目な表情で辺境伯の兵士達とやりとりしていたらしい。
コンコンっと馬車の扉がノックされて、ゲンデの声が聞こえて来たんだ。
『殿下。辺境伯様が殿下御一行をご招待しております。いかがなさいますか?』
「ああ、受けてくれ」
『畏まりました』
ゲンデの返事の後動き出した馬車の中では、「おおー、王族っぽい」と揶揄う僕に「やかましい」と苦笑いする殿下のやり取りがあったけどさ。
殿下に関してはここ数日で信頼に値する事はわかっているけど、そのほかの貴族や王族には流石に僕だって言葉や態度はしっかり示すつもり。
でもさ……
「うわぁ!屋台がいっぱい!あ、何あれ!美味しそう!」
「マスター、窓にへばりつくのは流石にマナーが悪いかと」
うっかり好奇心が優って子供っぽい事したってしょうがないと思わない?
アラタの知識はあっても、アラタにとってもディゼルにとっても初外国になるわけだもん。13歳って言う年齢にも引きずられていたかもしれないけど。
「お前もそうやっていると年齢相応だな」
「む、あんまり子供扱いしないで下さい」
まあ、殿下に揶揄われたけど、帰りに少し街に降りる時間をとってくれるらしい。殿下曰く「金を落としていかないとな」だそうで。
フェイはちゃっかり殿下に「お金はお貸し致しますよ?きっちり王族価格で」って銀行のアピールしてたけどさ。
「そこは安くしますよ、だろう!」だの「王族の懐は大きい筈です」だのと殿下とフェイのやり取りを横目に、街並み観察をする僕。
……やっぱり冒険者っているんだよなぁ。
そう。騎士も居れば当然だろうけど、前世の記憶が戻ってからの初の他国だし、ついついじっくり見ちゃうんだよ。
人種?いや種族っていえば良いのかな?明らかに人ではなく獣身の冒険者も居れば、ファンタジー定番のドワーフやエルフもいる。
辺境だからかな?街の人達と同じくらいいるように見えるね。それに意外にも道や街が綺麗なんだよ。まあ、ディゼルの記憶からして、トイレはスライムトイレだったからね。
建物が煉瓦調なのはディゼルが育った街と一緒だけど、花や植物も飾っていてカラフルなんだ。なんか某有名アニメの動く城のモデルになった街を思い出したよ。
そんな感じで街並みを見ていたら、目の前に立派な城の様なお屋敷が見えて来た。
あ、そうだ!
「殿下、僕はどうすれば良いですか?」
実は、さっきから辺境伯様にどう対応すると良いか迷っていたんだよねぇ。
「そうだな。アラタの能力については、王都で王に報告するまで俺の従者の振りをしてもらう。旅の途中で拾ってきた事にするが……良いか?」
「……仕方ありませんね。マスターは秘匿した方が今は良さそうですし」
って、フェイさん?僕の事だよね?殿下もなんでフェイに聞くのさ?
「殿下。その場合、俺はアラタを護衛出来ないので困るのですが?」
ゲンデまで……いや気持ちは嬉しいけどね。
「ゲンデはすまん。しばらくは騎士に混ざってくれ。アラタは自分でも守れるんだよな?」
あ、やっと話に加えてくれた。
「はい。大丈夫です」
僕には[保険]があるからね。[人災]と[医療]の重ねがけしていればいいかな?
「そこで了解するなよ」と悔しそうに言うゲンデには悪いけどね。ゲンデの心配はわかるからさ。今は殿下に従おう。
「では、私は不本意ですが殿下付き侍女に扮するのですね」
「不本意って……いやまぁ、そうしてくれると助かる」
フェイ——!だから殿下に敬意持とうよ……!え?『いざとなればマスターを優先します』?……うん、気持ちは嬉しいよ?だけど『マスター?』……看破スキルの判断でお願いします。
とまぁ、色々馬車の中で一悶着はあったけど、とりあえずはこれからの動きを確認していると馬車が止まったんだ。
「着いたな。扉が開いたらゲンデ、フェイ、アラタ、俺の順で降りるぞ。アラタはグエルの補佐兼俺の専属従者として出来るだけ近くにいろよ」
よくわかっていない僕の為に殿下が教えてくれた。ゲンデは素直に「はい」って返事はするんだけど、フェイがねえ……
「おい、フェイ。不本意なのはわかるが、顔くらい繕えって」
「申し訳ありません、殿下。根が正直なもので。ですがご安心ください。外に出ましたらきっちり演技致しますので」
……フェイったら、よっぽど僕が殿下に仕えるのが嫌なんだなぁ。うん、気持ちは嬉しいけどね。
人の良い殿下は「頼むよ」って苦笑してたけど、コレは看破持ちのフェイがそこまで気を許しているって事だからね。僕も安心できるんだ。
そして、扉が開き殿下の言う通りに降りてみると……30代位の強そうな大柄な男性と美人で優しそうな女性に、利発そうな僕位の男の子と可愛いらしい4歳位の女の子が殿下を迎えていたんだ。
辺境伯一家が総出でお出迎えしてくれたんだなぁ。
そう思って、殿下の後ろに控えていた僕とフェイ。あ、ゲンデは騎士として更にもう一歩後ろでいるよ。
「ダノン、今日は世話になる」
「殿下、久しぶりですなぁ!」
どうやら殿下と辺境伯は親しいんだね。お互いに肩を叩きあっているし。
「殿下、お久しぶりですわ」
「ようこそおいで下さいました」
「いらっしゃいました!」
あ、奥様と息子君と女の子も挨拶に加わった。家族ぐるみで仲良いみたいだね。人が良さそうな雰囲気はちょっとホッとするなぁ。
『マスター?まだよく分からない状況で油断はなさらないで下さい』
『わ、わかってるって』
流石、フェイ。僕の考え読まれてる……!
と、とりあえず、挨拶の終わった殿下が中に入るみたいだから僕らもついて行こう。
うん、グエルさんが僕の横にいて先導してくれるから助かるや。
それに、ちょっとワクワクしているんだ。
ウェルダントの国の貴族はどんな生活をしているんだろう?って思っていてね。
『マスター。今はキョロキョロしてはいけません』
あ、はい。失礼しました。
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