表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探偵は胸を揉む   作者: リチャード裕輝


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/6

女子寮の夜と、集団未練のポルターガイスト

女子寮の夜と、集団未練のポルターガイスト


第1章:歓迎されない訪問者


午後十一時四十分。

郊外に建つ、鉄筋三階建ての某化粧品会社・女子社員寮。


外観は清楚、内情は戦場。

洗濯物は飛び、ドライヤーは唸り、恋と愚痴と酒の匂いが渦巻く、情動密度の異常地帯。


「……なんで俺ら、女子寮にいるの?」


久我奏太は玄関前で立ち尽くしていた。

目の前には「関係者以外立入禁止」の張り紙。背後には逃げ場なし。


ユウキはいつも通り涼しい顔で言う。


「連続して“胸部周辺にだけ異常な霊障”が発生してます。下着が勝手に動く、ブラが消える、パッドが瞬間移動する。典型的な集団未練型ポルターガイストですね」


「なんだよそのジャンル! エロ寄りの怪異やめろ!!」


管理人室から、疲れ切った表情の寮母(60代)が出てくる。


「もう限界なんです……夜な夜な“きゃあ!”とか“誰か触った!”とか……警察にも相談しましたが……」


ユウキは一礼。


「安心してください。胸部専門の除霊探偵です」


「言い方!!」


久我は即座にツッコむが、寮母はなぜか納得したように頷いた。


「……ああ、なるほど。そういう……専門の……」


「違う!そういう意味じゃない!!」


こうして、成人女性しかいない女子寮に、胸しか触れない男が放り込まれた。


地獄の始まりである。



第2章:廊下は戦場、久我は囮


三階廊下。

電気は点いているが、空気が重い。甘い香水と、焦げたヘアアイロンの匂い。


ユウキはゴーストサイトを起動。


「……いますね。複数反応。しかも“胸部周辺”に集中」


「複数!? まとめて来るの!? やめろよ団体戦!!」


その瞬間。


バサッ!!


洗濯物が宙を舞い、ブラが一枚、久我の顔面に直撃した。


「ぶはっ!! な、なんだ今の!!」


ユウキは冷静。


「霊障です。おそらく“恋愛で報われなかった女たちの未練”が集合意識化しています」


「重い!設定が重いわ!!」


次の瞬間。


ズズズ……

廊下の空気が一斉に冷える。


久我は青ざめる。


「……来た……複数……囲まれてる……」


ユウキは即座に指示。


「久我さん、落ち着いて。右手を前方に。高さは胸の位置。左右にゆっくりスキャンしてください」


「スキャンって言うな! なんの装置だよ俺は!!」


恐る恐る右手を出す。


――むに。


「……ひっ」


――むにゅ。


「……うわ」


――もにゅん。


「……おい」


久我の右手は、連続ヒットしていた。


「ユウキ……やばい……いる……めっちゃいる……」


ユウキはタブレットを見ながら淡々。


「ええ。少なくとも三体。全員、未練のベクトルが“自己肯定感の欠如”に向いてます」


「専門用語でごまかすな!! 触ってるこっちの身にもなれ!!」



第3章:地獄のハーレム除霊


突然、久我の脳内に複数の声が流れ込む。


『やだ……! 触らないで……!』

『でも……久しぶり……男の人……』

『どうせ私なんか……どうせ……』


「情報量が多い!! 一人ずつ来い!!」


ユウキは冷静に解説。


「集団未練型の場合、“肯定”が鍵です。久我さん、一人ずつ感情を受け止めてください」


「無茶言うな!! 俺のメンタルは回線弱いんだよ!!」


だが、久我は腹をくくる。


「……分かった……」


右手に意識を集中。


「……君は……自分に自信がなかったんだな……」


『……うん……可愛くないし……胸も中途半端だし……』


久我は震えながらも、真剣に言う。


「……限りなくBに近いAだ……悪くない……むしろ、ちょうどいい……」



『……!』


(久我さんの迷言出ましたね....)


空気が一つ、軽くなる。


次。


「……君は?」


『……ずっと彼氏に比べられて……』


「比べるやつが悪い!! お前はお前だ!! 物理的にも情動的にも!!」


『……!』


また一つ、軽くなる。


三人目。


『……どうせ誰も見てくれない……』


久我は半泣きで叫ぶ。


「見てる!! 今めちゃくちゃ見てる!! 触ってもいる!! 霊的に!!」


『……変態……でも……ありがとう……』


ユウキ、横でメモ。


「……素晴らしいデータです……集団鎮魂の新パターンですね……」


「研究対象にするな!!」



エピローグ:そして現実は地獄


空気が一気に澄む。

霊障は消え、廊下は静寂に包まれた。


「……終わった……」


久我はその場に崩れ落ちる。


「もう二度と女子寮は来ない……」


その時。


ガチャ。


ドアが一斉に開く。


パジャマ姿の生身の女性たちが顔を出す。


「ねえ……さっきから廊下で騒いでるの誰?」

「なんか……胸のあたり、スッキリしたんだけど……」


久我は凍りつく。


「……え」


女性の一人が久我を見る。


「……もしかして……さっきの……」


別の一人。


「……触られた気が……」


三人、四人、五人。


視線が集中。


ユウキ、満面の笑みで久我の肩を叩く。


「おめでとうございます、久我さん。集団鎮魂、及び集団誤解成立です」


「成立すんな!! 俺の社会的死が成立してる!!」


管理人の声が飛ぶ。


「ちょっとあなた!! 何してるの!!」


久我、絶叫。


「違う!! 霊!! 霊なんです!! 僕は被害者!!」


女性陣、半信半疑。


「……でも……さっきの言葉……ちょっと嬉しかった……」

「……責任、取ってもらおうかな……?」


久我、全力疾走。


「やめろぉぉぉ!! 俺は除霊しただけだぁぁぁ!!」


廊下を逃げる久我、追う女子社員たち、後ろで爆笑するユウキ。


――こうして、女子寮の夜は更けていった。


今回の事件、これにて(社会的に)未解決である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ