探偵は胸を揉む:【蘇生者】死亡フラグが間違ってたのでサービス残業します
探偵は胸を揉む:【蘇生者】死亡フラグが間違ってたのでサービス残業します
【登場人物】
久我 奏太:ミステリー小説家。**女性の胸を揉むとサイコメトリーが発動するという異能を持つ。**山中で遭難し、偶然この山荘に立ち寄った部外者。神のミスで蘇生した非論理的な存在。
ユウキ:大学生。頭脳と洞察力に優れるミステリーマニア。ひょんな事件から久我の相棒となり、山荘の外から通信し、事件を配信する。
赤城 悟:エリート外科医。青柳と白石の友人。地位も名誉もあるにも関わらず、復讐のためこの山荘で「論理的な断罪」を企てる狂気の計画者。
青柳 誠:富豪の息子。赤城と白石の友人。
白石 健:大学院生(研究員)。赤城と青柳の友人。
Ⅰ. 血塗られた覚醒と、神の事務ミス
冷たさ。それは単なる寒気ではなく、生を終えた肉体に宿る永遠の静寂の冷たさだった。久我奏太は、己の心臓が、本来は停止しているべき場所で、力強く鼓動を再開している事実に、耐えがたいほどの違和感を覚えた。頬に触れるのは、乾いた血で硬くひび割れた山荘のシーツ。嗅覚は、シーツに深く染み込んだ、自分自身の生々しい血液の臭いを訴える。紛れもなく、ここは数時間前、医師の赤城悟に銃殺された、そのベッドの上だった。肉体の機能と**「死の記憶」**が激しく衝突し、彼の存在は非論理的な矛盾の只中にあった。体の奥底には、まるで氷の塊のような死の残滓が留まり、生の熱と混じり合うことで、全身は異常にヒリヒリとした感覚に包まれていた。それは、生と死の境界線を破って引き戻された者だけが感じる、存在の破綻だった。
意識の深淵。魂のデータ領域から、疲弊した中年男性(神様)の声が、ノイズ混じりで響いた。
神様:「困ったな。君の魂データは元々複雑怪奇で、システムエラーを起こしてしまったんだ。君はまだ『死ぬべき順番ではない』と判定されていた。完全に事務方のミスだ。だが、死体は上がってしまった。仕方がない、肉体はそのまま機能させておく。肉体と魂のデータ同期は不安定だ。せいぜい、この矛盾を抱えて、地獄のようなサービス残業を頑張りなさい」
声が消えると同時に、久我は己の**「呪い」**が異常に鋭敏になっていることを悟った。**女性の胸を揉み込むことで過去を読み取るサイコメトリーという「呪い」**に加え、死を乗り越えたことで、**生命のエラーや「偽りの死」**を感知する超感覚が開花していた。
耳元の極小インカムに、ユウキの冷静で理知的な声が届く。
ユウキ:「生きてますね、久我さん。驚きませんよ。あなたのような『非論理的要素』は、神のミスでしか生き残れない。僕は今、山荘の外から蘇生を見届けました。さあ、仕事です。配信準備は整っていますよ。赤城が『論理的な計画』を実行するのなら、僕らは**『論理の破綻』**を世界に晒しましょう。彼のシナリオを打ち砕く準備を。」
久我は、赤城が「単なる遭難者である君は排除すべき**『非論理的要素』だ」と言い放ったことを思い出した。この不本意な生を、久我は**「死後のサービス残業」**と自嘲し、血の匂いのするリビングへと向かった。彼の目的は、真実の究明ではない。この狂気の劇場を、全世界に配信することだ。
Ⅱ. 地獄の舞台と、狂気の論理
リビングには、乾いた血の鉄臭さと、硝煙の予感が濃く立ち込めていた。床には、すでに**青柳誠(富豪の息子)**が腹部から血を流して倒れている。その血痕は、争いの激しさを物語っていた。
隅から**白石健(大学院生)**が憔悴しきった様子で、顔を血で染めながら現れた。彼は青柳の倒れた姿と、死んだふりの赤城、そして蘇った久我という光景に、極度の錯乱に陥っていた。
白石 健:「くそっ... なぜだ... 間違っていたか! 犯人は赤城じゃなかったのに、俺が青柳を殺してしまった!」
彼は久我を指さし、憎悪と恐怖に顔を歪ませる。血で汚れた彼の顔は、狂気を際立たせていた。
白石 健:「お前が死んだふりをしていて、まさか、お前が赤城を殺した真犯人だったとは! 俺が昨日お前を泊めてやらなければ...!」
白石 健:「来るな!」
白石は拳銃を取り出し、震える手で久我に銃口を向けた、その瞬間――
パン!!
白石は、久我を撃つことなく、胸を撃ち抜かれて絶命した。彼の目には、最期の瞬間に**「論理的な結論」**が下されたことへの、哀れなまでの諦念が浮かんでいた。
久我が視線を向けた先には、床に倒れていたはずの**赤城悟(医師)**が、別の銃を構えて立ち上がるところだった。彼の顔は、完璧な勝利を確信した狂気に満ちていた。赤城は内心で勝利を確信し、**死んだふりの最中に隠し持っていた銃で白石を始末したのだ。赤城は久我の蘇生を理解できず、久我を「排除済みの幻影」**だと信じ込んだ。
赤城悟:「ふう。これで全て終わりですよ。さようなら白石。……さて、久我くん。まさか君が、本当に幽霊になるとは思わなかったよ」
赤城は久我を無視し、銃を構えたまま独白を始めた。その声には、冷徹な論理と、抑えきれない狂気、そして医師としての裏切られた矜持が滲んでいた。
赤城悟:「僕の『芸術』は、ただの殺人ではない。『論理的な断罪』だ。この世の法は、金と地位の前では無力だ。だから僕が、『論理』をもって彼らの『存在』を否定するのだ。」
赤城は、青柳と白石の倒れた姿を見下ろし、傲慢な外科医が手術台の虫けらを見下ろすかのような表情を浮かべた。
赤城悟:「青柳誠くん。彼は、酩酊を装い、僕の妹をレイプし、瀕死の重傷を負わせた。そして、親の莫大な金と裏工作で、事件を**『不慮の飲酒運転事故』**として揉み消した。適切な処置がされていれば、妹は生きていた! 彼は、一人の女性の命と尊厳を、紙切れと酒の匂いで踏みにじり、僕が信じる医学の倫理さえも嘲笑った。その罪は万死に値する!」
赤城悟:「そして、白石健くん。彼は、ノーベル賞さえ狙えるはずだった僕の親友の研究データを、己の学位と名誉のために意図的に改ざんし、全ての責任を親友になすりつけた。親友は学位を剥奪され、社会的な非難に耐えきれずに消息を絶った。彼は、人の未来と命を奪い、己の栄光のためだけに利用した裏切り者だ。この卑劣な裏切りを、法は裁かなかった!」
赤城悟:「故に、僕の『芸術』は必然なのだ。彼らの『論理的な断罪』だ。そして今、残るは君だけだ。非論理的な幽霊よ。」
Ⅲ. 論理の崩壊と、曖昧な意識
赤城が独白を続けるその一瞬、久我は倒れている青柳誠に近づいた。男性の胸を揉んでもサイコメトリーは発動しない。久我は、蘇生者特有の超感覚を集中させた。彼の指先は、青柳の体から発する**「微かな生命の熱」と「異常な不整脈」**を感知した。これは、「偽りの死」を暴く、生と死の矛盾を抱えた久我だけの鋭敏さだった。
久我はユウキに、確信に満ちた言葉でその事実を伝えた。
久我:「ユウキ、まだ生きている。青柳の、命の火が消えていない。銃弾は、わずかに致命的な臓器を避けている。赤城の論理は、『全員が死んだ』という誤解によって成り立っている。これを崩す。」
ユウキ(インカム):「了解しました。久我さんの蘇生は、この殺人劇が『論理』ではなく『偶然』で動いている証拠です。赤城は今、極度の興奮状態で、皆が死んだと信じている。彼のシナリオを、『全員生存』という最高の皮肉で打ち砕く準備を。」
赤城は独白を終え、再び銃を久我に向けた。しかし、次の瞬間、銃口を自分の頭に向けた。
赤城悟:「いや、待て。君という『幻覚』を排除するより、『現実』を完全に消し去る方が論理的だ。誰もが僕の『断罪』は神の仕業だと結論づける。これで、『そして、誰もいなくなった』が完成するのだ」
赤城の狂気が極点に達し、自己の行為を**「神の論理」**として完結させようとした瞬間、久我は電光石火で赤城の手首を払い、銃を床に叩き落とした。
久我:「やめろ、赤城。君は死なない。生きる義務がある。君が裁きたかった相手は、**まだ生きている。**君は真実を見届ける責任がある。」
赤城は、蘇生した死者からの非論理的な抵抗に逆上し、獣のような唸り声を上げて久我に掴みかかった。激しい争いの末、久我は暖炉の薪に頭を強くぶつけ、意識が急速に遠のいた。
久我(薄れゆく意識の中で):「あ、また…死ぬのか…? 今度は…本当に…」
久我の意識が闇に沈む直前、赤城もまた心身の限界を迎え、気絶して床に倒れ込んだ。
Ⅳ. 究極の不条理と、凡人探偵の勝利
数秒後、久我は痛む頭を押さえながら、強烈な吐き気と共に目を覚ました。
床には、先ほどまで「死体」として倒れていたはずの青柳誠と白石健が、苦痛の呻きと共にムクリと体を起こしている。彼らは死んでいなかった。誰も。
赤城悟が、ゆっくりと目を開け、この光景を認識した瞬間、立ち上がった青柳と白石の視線が、自分を撃った犯人である赤城を明確に捉えた。彼の『完璧な論理』は、生きた証言という最も非論理的な真実によって完全に崩壊した。
彼は、声も出せずに顔を歪ませた後、号泣した。それは、完璧な論理が、最も非論理的な**「全員生存」**という茶番によって、打ち砕かれたことに対する、絶望と狂気の嗚咽だった。
赤城悟:「頭がくるってしまう……あああああぁぁぁぁぁぁぁ!!なぜだ! 論理が! 僕の断罪が! なぜ誰も死なない!」
久我:「ユウキ、赤城が**『論理的な断罪』**を熱弁した独白は、すべて世界に届いたか?」
ユウキ(インカム):「ええ。すべてです。彼の**『狂気の論理』**は、世界中に晒されています。そして、全員が生存している事実も同時に配信されました。」
久我は、頭の痛みを堪え、赤城の狂気と、蘇生した人々の呻き声に満ちた山荘を見渡した。
久我:「赤城。君の**『論理的な断罪』は、『狂人医師による銃乱射事件』という汚名として世論に永遠に刻まれる。君が裁きたかった相手は、世論という地獄で裁かれる。これで、君のサービス残業**は終わりだ。」
ユウキ(インカム):「ええ。そして、誰も死ななかったという**『非論理的な真実』**が、『誰も死ぬべきではない』と論じた狂気の医師を裁いた。久我さん、あなたの存在こそが最大の『非論理兵器』でした。警察と救急が山荘に向かっています。」
久我は、赤城の狂気と、蘇生した人々の呻き声に満ちた山荘を見渡した。
久我:「初めて女性の胸を揉まずに解決できた。本当にユウキくんありがとう。」
ユウキ(インカム):「いえいえ。まあ、男の胸を揉んでも物足りないでしょうし、今回はこれで良しとしましょう。」
久我は、神のミスがもたらした**「二度目の生」で、「生ける地獄」を配信し、「呪われた能力」の制約を超えて「論理の狂気」を打ち砕くという、究極の復讐を達成したのだった。その「全員生存」**の結末は、夢か現か曖昧なまま、彼の記憶に刻み込まれた。




