探偵は胸を揉む Dカップの真実と、記憶の残骸
第一幕:雨と密室の惨劇
雨が、ペンション「白樺荘」を外界から切り離すかのように激しく降り注いでいた。窓を叩きつける風は、まるで獣の咆哮だ。俺、久我奏太は、暖炉の前のソファで琥珀色のスコッチを傾ける。パチパチと薪が爆ぜるたび、壁の剥製の鹿の目が、ギョロリとこちらを睨んでいるような気がした。執筆のための静養、そのはずだった旅は、予期せぬ惨劇へと姿を変えようとしていた。
俺には、触れたものの過去を読み取るサイコメトリーの能力がある。しかし、この能力は少々特殊で、女性の胸を揉み込むことでしか発動しない。この力は、かつて俺が失った大切なものを探すために必要だった。
マミの挑発
向かいに座る旅行ライターのマミが俺に笑いかける。彼女の陽気な声とは裏腹に、その瞳の奥にはどこか冷たい光が宿っているように見えた。俺の能力は、マミの豊満な胸に強く反応していた。
「久我先生、そんなに深刻な顔して、もしかして、この閉ざされた空間で、なにか秘密を見つけちゃったんですか?」
マミはグラスを俺に向けて軽く持ち上げ、挑発するように囁く。彼女のブラウスのボタンは、その豊かなボリュームに引っ張られ、今にも弾けそうに見えた。
「まさか。俺はただの小説家ですよ」
俺は平静を装ってスコッチを飲み干す。
「ふふ。でも、先生のその目、まるで見抜いているみたい。私、結構な秘密を抱えてるんですよ。先生なら、それを暴けるかも」
彼女はそう言って、再び笑いかけた。俺の脳裏では、能力が危険な警鐘を鳴らし続けていた。
タナカ教授の観察
酒が進み、マミが自室に戻った後も、俺はオーナーのケンジと、大学教授のタナカと暖炉の前に集まっていた。
「それにしても、すごい雨ですね。外界から隔絶されてしまったようだ」
俺が窓の外を見やりながら呟くと、ケンジは寂しげに頷いた。
「ここ数日、ずっとこうでしてね。まるで、このペンションだけが別の世界に取り残されたみたいだ」
タナカはグラスを揺らしながら、冷めた口調で口を開く。
「それがこの場所の醍醐味だろう。外界の常識は通用しない。この閉鎖された空間の中で、剥き出しになった人間関係こそが面白い」
俺は、彼の言葉に妙な違和感を覚えた。
「小説家である俺は、静けさを求めてここに来ましたが…。教授であるあなたは、一体何を研究しに?」
タナカはフッと鼻で笑った。
「研究? そうかもしれないな。私はただ、人間を観察しに来たのさ。この場所は完璧な小さな生態系だ。通常の社交辞令が剥がれ落ち、人間の本性がむき出しになる。まるで、人間という生き物の、本質的な滑稽さを証明する舞台のようではないか」
彼はそこで言葉を区切り、ちらりとマミが向かった方向へ視線を向けた。
「ああ、それにあの女マミの体は、なかなか見事だ。しかし、私の興味はもっと原初的なものにある。完成された大人の女より、これからどう育っていくか…生命の変容と、それに伴う滑稽な欲望こそが、私の観察対象だ。この閉鎖された空間で、誰の肉体がどう転ぶか…観察のしがいがあるというものだ」
彼の言葉には、賞賛とも嘲笑ともつかない、歪んだ響きがあった。それはまるで、マミという人間を、ただの獲物として品定めしているかのようだった。
ケンジはタナカの言葉に眉をひそめ、不快そうに視線をそらした。
「…もういい。私は部屋に戻ります。あなた方の話を聞いていると、どうも気分が優れない。今日はもう閉めますから、あとはご自由に」
悲劇の始まり
そう言い残し、ケンジが自室に戻ろうと立ち上がった、その時だった。
窓の外に、血まみれの包丁を構えたジェイソンが立っているのが見えた。
「ギャー!」
俺は悲鳴を上げたが、ケンジとタナカは気づかない。
ジェイソンは俺に気づくと、こちらを凝視するように立ち止まり、その存在をあえてアピールした。だが、俺がその正体に気づいたことを察すると、すぐに窓から素早く離脱し、暗闇の雨の奥へと跡形もなく消え去った。
ケンジは笑っている。
「何を馬鹿なことを言ってるんだね。久我さん、小説の書きすぎですよ」
タナカはグラスを揺らし、冷めた口調で俺に尋ねる。「君は一体、何を見たんだ?」
俺は震える声で答えた。「ジェイソンが…窓の外に…」
タナカはフッと鼻で笑った。「面白い。まるで、君の頭の中の妄想が、現実になったかのように振る舞っている」
俺は呆然と立ち尽くした。そして、その直後だった。
**耳をつんざくような、鋭い悲鳴がペンションの奥から響き渡った。**それは、人間の声とは思えない、悲痛で、どこか非現実的な響きだった。
「ユキの声だ!」
ケンジが血相を変えて立ち上がる。彼の顔からは血の気が引き、その目は恐怖に大きく見開かれていた。「何かの間違いだ…ユキ!あの子は…」彼は言葉を震わせながら、悲鳴の聞こえた方向へ駆け出した。
タナカは、最初の一瞬は凍り付いたように動けなかった。その顔は青ざめ、眼鏡の奥の瞳は不安と怯えで揺れている。「馬鹿な…まさか…」彼は何かに怯えるように周囲を見回し、ケンジに続いて、足早に物置小屋へと向かった。
第一の死体とDカップの違和感
物置小屋で発見されたのは、喉を切り裂かれ、血だまりに横たわるユキだった。その顔には恐怖と苦痛の表情が張り付いている。血はまだ温かく、鉄錆のような匂いが鼻腔を突き刺した。**しかし、不思議なことに、争った形跡は全くない。**荒らされた様子もなく、まるで誰かがユキを呼び出し、何の抵抗もなく殺害したかのようだった。
ケンジはユキの姿を見るやいなや、その場に膝から崩れ落ちた。「う、嘘だ…ユキ!ユキ!」彼は泣き叫び、ユキの亡骸に手を伸ばしかけたが、途中でその手を引っ込めた。それは、深い悲しみだけでなく、まるで何かを思い出したかのような、複雑な感情が入り混じった表情だった。
俺は慌ててポケットからスマートフォンを取り出すが、画面には「圏外」の文字が表示されていた。
「ダメだ…この天気じゃ当面つながらないな…」
タナカは、ユキの死体から一歩、また一歩と後ずさり、壁に背中を打ち付けた。「ありえない…こんなこと…!誰が…誰がこんなことを…!」彼の声は恐怖で上ずり、顔は蒼白になっていた。
その時、物置小屋の扉が開き、マミが顔をのぞかせた。顔色は青ざめ、身体が震えている。
「...なに、これ...?」
マミはそう呟くと、膝から崩れ落ち、恐怖に満ちた瞳でユキの亡骸を見つめた。
激情とサイコメトリーの衝動
ユキの死体は、血だまりの中に横たわったままだった。俺が呆然と立ち尽くす中、ケンジはタナカに向き直った。その顔は、先ほどの悲しみとは違う、抑えきれない怒りに歪んでいる。
「…タナカ先生、あなたがやったのではないですか」
ケンジの声は、ひび割れたガラスのように、か細く震えた。
タナカは眼鏡の奥の目で、彼を静かに見つめる。
「何を、とは?」
「あなたが…あの子をこんな風にさせたのです!」
ケンジの言葉は、悲鳴のようだった。タナカは静かにグラスを揺らし、嘲笑うかのように首を振る。
「私が? 私が観察していたのは、ただ一つの**『生態』。あなたは、その中で傍観者**を選んだに過ぎない」
ケンジは掴みかかる勢いでタナカに迫った。しかし、タナカは一歩も引かず、むしろ楽しげに笑った。その目に宿る光は、タナカに向けられた、底知れぬ憎悪と殺意だった。
タナカは、ケンジの殺意に気づいたかのように、フッと鼻で笑い、物置小屋を出て暖炉へと向かった。ケンジは、その後ろ姿をただ睨みつけることしかできなかった。
俺は衝動的に、彼女の胸に触れれば何か分かるかもしれないと思い、一歩足を踏み出した。だが、その腕をマミが掴んだ。
「ダメよ。警察が来るまで、死体に触れちゃいけない」
マミの言葉は正論だった。しかし、その声には、妙な焦りが感じられた。普段は陽気な彼女の表情は硬く、瞳にはまるで俺の能力を見透かしているかのような冷たい光が宿っている。
その隙に、俺は素早くユキの胸に手を伸ばし、ごくわずかに触れた。サイコメトリーは、深く触れないと鮮明な記憶は引き出せない。だが、ごく微かな感触から、俺は確信した。
「...この胸の感触、間違いなく……Dカップだ」
俺が呟いた瞬間、マミの視線が俺へと向いた。その眼差しは、鋭い刃物のように俺の胸を貫いた。俺が何者であるか、そして俺の能力をまるで知っているかのような、冷たい光が宿っている。俺は、彼女が何かを隠していることに気づき、背筋に冷たいものが走った。
罠とアリバイ工作
俺は自室に戻り、今後のことを考えていた。その時だった。ドアを叩く音がした。マミだった。顔色は青ざめ、身体が震えている。
「お願い…今夜、奏太さんの部屋で寝てもいい?」
マミはそう言って、俺の部屋に無理やり入ってきた。彼女の身体からは、微かに甘い香水の香りが漂い、その震える肩からは肌の柔らかな曲線が覗いている。
「怖いのよ。お酒でも飲まなきゃやってられないわ。ね、奏太さんも、もう一杯どう?」
俺は彼女の提案を断ることができなかった。隣に座ったマミは、少しでも距離が空くと、すぐに俺の肩に頭を乗せ、太ももを密着させてきた。彼女の体温が、俺の不安を少しだけ溶かしていく。
「…怖いのは嫌だわ。もう、何もかも終わってしまえばいいのに…」
マミはそう呟くと、俺に甘えるように寄りかかってきた。その柔らかな感触に、俺はどきりとする。しかし、彼女のグラスが空になり、俺がスコッチを注ごうとすると、彼女はそれを制し、代わりに俺のグラスにスコッチを注いだ。そして、俺のグラスを奪うように口をつけ、そのままゆっくりと飲み干した。
「ねえ、奏太さん。今夜は二人きり…特別な夜になりそうじゃない?」
そう言って、マミは俺の胸元に顔を埋めてきた。その吐息が、俺の意識を朦朧とさせていく。温かく甘い香りが俺の全身を包み込み、俺の頭は急激に重くなった。
「…マミ、これ…」
俺がそう呟いた瞬間、マミはにっこりと微笑んだ。その表情は、先ほどの恐怖に震える顔とはまるで違っていた。俺の意識は、ゆっくりと、しかし抗うことのできない速さで遠のいていく。俺は、今日という日の疲れと酒のせいだろうと自分に言い聞かせながら、深い眠りに落ちていった。
第二幕:深まる疑念、連続する悲劇
翌朝、俺は目が覚めると、隣のベッドでマミが穏やかに眠っているのを見つけた。彼女の寝顔は、昨夜の恐怖に怯えていた姿とはまるで違っていた。その安心しきったような表情に、俺は昨夜の出来事をすべて忘れそうになった。しかし、妙な胸騒ぎが消えない。
俺とマミが暖炉の前に降りていくと、温かい朝食が用意されていた。しかし、ケンジとタナカの姿はどこにもない。
「……まだ、温かい…」
俺が呟くと、マミは顔を青ざめさせ、ボートの陰に隠れるように震えている。
「ケンジさん、どこに行ったんだ?」
俺は嫌な予感を覚え、マミと共にケンジを探しに出た。湖畔のボート乗り場へ向かうと、横たわるケンジの姿があった。彼の首には、ユキと同じように深い傷が刻まれていた。血はすでに固まり、冷たい風が死臭を運んできた。
「嘘だろ...ケンジさんが...」
俺は膝から崩れ落ちそうになった。
傍観者の末路と観察者の恐怖
その時、背後から静かな足音が聞こえてきた。タナカだった。彼はケンジの死体を見て、わずかに眼鏡を押し上げる。
「素晴らしい。まさか、あの**『傍観者』が、舞台に上がる日が来るとはな。私の予想をはるかに超える展開だ。ケンジ、あなたは私を『原因』だと判断した。それは、実に人間らしい、短絡的な思考だ。だが、この惨劇は、誰かの悪意によって引き起こされた『結果』ではない。あなた自身が選んだ『傍観者』という役割が、この『物語』**の必然的な終着点だったのだ」
タナカの言葉に、俺とマミは息をのんだ。彼の顔には恐怖の色はなく、むしろ、興味と満足感が浮かんでいた。彼はそう言って、満足げに笑った。
しかし、次の瞬間、タナカの笑みが凍りついた。彼の視線は、ケンジの死体から、まるで鏡に映った自分の姿を見るかのように、俺とマミに向けられた。
「…いや、違う。私も…この舞台の『餌』なのか?」
タナカの顔から血の気が完全に失せ、彼の瞳に、初めて純粋な恐怖の色が宿った。彼は自らの理論が、自分自身をも巻き込む「生態系」の一部であることに気づいてしまったのだ。
俺は肩を落とし、どうすればいいのか分からず立ち尽くしていた。
「…こういう時は、みんなで一箇所に固まっていた方がいい。暖炉の前で、三人でいるべきだ」
俺の提案に、マミは何も言わなかった。タナカは震える手で眼鏡を押し上げ、冷めた口調で答えた。
「私は構わないが…。しかし、それは外界の常識だろう。私は自分の研究を続行する。恐怖に震えるお前たちの姿、お前たちを蝕む疑心暗鬼、それらすべてが私の研究の賜物となる。この閉鎖された空間で、人間性は崩壊していく。その過程を私はただ記録するだけだ。誰ひとり入ってくるな…! 入ってきたら、ただの**『標本』**として、この部屋のコレクションに加えてやる!」
タナカは俺とマミに背を向け、先を急ぐようにペンションへと戻っていった。
トイレ、物音、そして決裂
俺たちもその後を追うようにペンションに戻った。
タナカは部屋の扉を閉ざすと、内側から大きな家具で押さえつけるような音を立てた。まるで、その部屋を絶対的な聖域にしようとしているかのようだった。
暖炉の前で向き合う俺とマミ。重苦しい沈黙の中、マミは暖炉のそばにあった古いラジオのボリュームを上げ、思考をかき消そうとしているかのようだった。
その時、マミが「少しトイレに行ってくる」と呟き、席を立った。彼女の姿が消えた後、俺はタナカの部屋から微かに何かが倒れるような物音が聞こえたような気がした。しかし、ラジオの音が大きかったため、それが確信を持てるほどの音ではなかった。マミが戻ってこない間、不審に思いながらも、俺はタナカが再び現れることを警戒し、暖炉の火を見つめ続けた。
数十分後、マミが戻ってきた。しかし、その顔は先ほどまでとは一変し、まるで冷たい仮面を被ったかのようだった。彼女はまっすぐ俺に詰め寄るように声を荒げた。
「ねえ...そういえば昨日、ユキの胸のサイズを言い当てたの?何か知ってるんじゃない?」
俺は、一瞬迷った。だが、昨夜のマミの怯えた様子を思い出し、何か真実を知る手がかりを得られるかもしれないと、愚かにも考えてしまった。
「俺には、触れたものの過去を読み取るサイコメトリーの能力がある。しかし、その能力は少々特殊で、女性の胸を揉み込むことでしか発動しない。ユキの胸に触れたのは、彼女の記憶を読み取るためだ」
俺の告白に、マミは警戒を解くどころか、ますます硬い表情になった。
「ユキのこと何か分かったの? その能力で」
「いや、あまり触れてないから、鮮明な記憶は分からなかった」
俺は覚悟を決めて、マミに詰め寄った。
「犯人が誰か知りたい。俺は、君が犯人ではないと信じている。だから、真実を知るために、君の胸を揉ませて欲しい」
俺がそう告げた瞬間、彼女の顔から、恐怖の色が消え去った。まるで仮面でも剥がれ落ちたかのように、その表情は冷たく、無機質なものに変わった。
「……私の胸に? 真実を知りたい? そんなの嘘っぱちよ」
マミは静かに、しかし全身の怒りを込めて囁いた。
「どうせ、私の胸を触りたいだけなんでしょ? 結局、男はみんなそう。ろくな理由もつけずに、女の体をモノとしてしか見ない。あんたもタナカと一緒じゃない!」
彼女の声は震えていた。怒りだけではない。深い絶望と、過去の傷が呼び覚まされたような痛みが、その瞳に宿っている。マミは俺を強く突き放すと、俺に背を向け、暖炉の前に戻った。俺たちは、重苦しい沈黙の中で、お互いに視線を交わすこともなかった。
第三の惨劇と最後の密室
そして、その数時間後、タナカが戻ってこないことを不審に思い、俺はマミと共に彼の部屋の扉を叩いた。返事がない。扉を蹴破ると、そこには床に倒れ、**無惨にも切り刻まれて絶命しているタナカの姿があった。**その目は、恐怖に大きく見開かれていた。「嘘...もう誰もいない...」マミの震える声が、俺の耳に響いた。ペンションは、外界から隔絶された密室とし、残されたのは俺とマミだけ。誰もが互いを疑い始めた。
俺の推理、そして衝撃の結末
俺の推理:完璧な犯罪、そして共犯者
俺は暖炉の前に戻り、再びスコッチを一口飲んだ。グラスを手のひらで温めながら、これまでの出来事を頭の中で徹底的に整理し始めた。バラバラに見える点と点が、一本の歪んだ線で繋がっていくのを感じた。
第一の殺人:ユキの死とマミの嘘
まず、最初の殺人、ユキの死だ。この事件には不自然な点があった。
俺が窓の外でジェイソンを見た時、俺、ケンジ、タナカの三人は暖炉の前にいた。その後すぐにユキの悲鳴が聞こえ、俺たちが現場に駆けつけた。つまり、俺たち三人にはアリバイがあった。
しかし、マミは少し遅れて現場に現れた。彼女は自室にいたと言っていたが、真実はこうだ。マミは先にジェイソンになりすまし、ユキを殺害。その直後、自室に戻り、着替えて遅れて登場した。
マミは、自分がジェイソンとして殺害を実行した後、その存在を第三者による犯行であるかのように装い、俺たちに**「ジェイソン」という偽の犯人像**を植え付けたのだ。ユキ殺害の罪を隠すための最初の偽装だった。
そして、彼女の不自然な行動。俺がユキの亡骸に触れようとした時、彼女は「警察が来るまで触っちゃダメよ」と言って、強く俺を制止した。その声には、妙な焦りが感じられた。普段は陽気な彼女の表情は硬く、俺に何かを隠しているような違和感を覚えた。
第二の殺人:ケンジの死と睡眠薬の罠
次に、ケンジの死だ。翌朝、俺は目が覚めると、隣のベッドでマミが穏やかに眠っているのを見つけた。しかし、俺には昨夜の記憶がほとんどない。マミが勧めてきたスコッチを飲んでから、おかしなことに急激な眠気に襲われ、朝までぐっすりと眠ってしまったからだ。特別な夜を期待していた俺の意識を、すべて台無しにする不自然な眠気。今思えば、あれは酒に睡眠薬を盛られた可能性が極めて高い。
マミは俺を眠らせ、その間に部屋を抜け出し、ケンジを殺害した。そして、誰もが犯行時間を早朝だと信じ込むように、温かい朝食を用意してごまかしたのだ。俺の部屋に泊まったのは、殺害中の完璧なアリバイを確保するための計算された行動だった。
第三の殺人:タナカの死と謎の言葉
そして、タナカの死だ。タナカが自室に引きこもってから、マミは15分ほど席を外していた。この短い時間で、彼を殺すのは物理的に不可能に思える。しかし、タナカの言葉を思い出すと、別の可能性が見えてくる。
タナカはケンジの死体を見て、まるで完璧な実験結果を見たかのように満足げに笑った。「素晴らしい」「私の予想をはるかに超える展開だ」とまで言った。彼は自らをこの惨劇の**『観察者』**だと信じていた。
だが、俺たちの存在に気づいた途端、「私も…この舞台の『餌』なのか?」と怯え、自室に逃げ込んだ。彼は、自らの観察対象だったはずのマミが、実は自分よりも上の捕食者であることに気づいたのだ。そして、彼は「入ってきたら、ただの『標本』**として、この部屋のコレクションに加えてやる!」と叫んだ。
この言葉の真意は、彼がこれまでの人生で、誰かをモノとして見てきたように、今度は自分が誰かに「標本」にされるという恐怖だったのではないか。
タナカは、マミが自らの手でユキを殺害したこと、そしてケンジも殺したことを知っていた。マミはタナカを脅し、だからこそ、たった15分あれば十分だったのだ。抵抗しない相手であれば、一瞬で命を奪うことができる。タナカは、マミが部屋にやってくることを知っていた、あるいは彼女の合図で扉を開けるように仕向けられていたのだろう。
これらの不可解な出来事が、すべてマミが犯人であるという一つの結論に繋がっていく。それに、単純明快だ。このペンションで生き残っているのは、俺とマミだけだ。俺でないということは、犯人はマミしかいないからだ。
マミは、自らの手でユキを殺し、ケンジとタナカを殺害した。そして、その罪を隠蔽するために、偽の物語を創り上げようとしている。
マミは、ただの旅行ライターではない。彼女こそが、この雨のペンションに潜む殺人鬼だ。
最後の対決、そして更なる裏切り
俺は、意を決して立ち上がった。マミの部屋へ向かい、すべてを問い質す。彼女の罪を暴き、この惨劇に終止符を打つために。
俺は部屋のドアを叩いた。返事はない。静かにドアノブに手をかけ、ゆっくりと扉を開ける。
そこに広がった光景に、俺は息をのんだ。**マミが、床に倒れていた。その胸には、血に濡れたナイフが突き刺さっている。**彼女の瞳は、虚ろに天井を見つめ、すでに事切れていた。
「……うそ、だろ……」
俺の推理は、完全に崩れ去った。マミが犯人だ。彼女がすべての死を演出した。そう信じて疑わなかった。だが、そのマミが、なぜか殺されている。
このペンションには、俺とマミだけが残っているはずだった。もし、マミが犯人ではないのなら、一体誰が……?
俺は、突きつけられた新たな謎に、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。その時、背後に殺気を感じた。
「ギャー!」
俺は悲鳴を上げ、振り返る。そこに立っていたのは、血まみれの包丁を構えたジェイソンだった。しかし、その体つきはどこか女性的で、マミと同じように豊かな胸が隆起している。それは、俺の能力を強く刺激するものだった。
ジェイソンは唸り声を上げ、その包丁を振り上げた。俺は間一髪でその一撃をかわし、その勢いを借りて、ジェイソンの胸に飛び込むように、両手で揉むように深く触れた。
真実の奔流:ホラー人形になった日
その瞬間、強烈な記憶が奔流のように流れ込んできた。ユキの記憶だ。
私が小学生だった頃、父の冷たい声が突き刺さった。そして、いま中学生になった私は、その記憶を抱え続けている。
「このことを黙っていれば、タナカ先生から金がもらえる。ママの病院代が払えるぞ。ママのためだ。分かってくれ」
その声は蛇のように冷たく、私の全身を這い上がってくるようだった。私は怖くて、体を硬くする。頭の中の警報が激しく鳴り響いた。
「いやだ…」
声にならない声が、喉の奥で潰れる。父は私の抵抗を気にする様子もなく、冷たい手で私の下着を脱がせた。ゴムが伸びる乾いた音が、部屋に不気味に響く。父の指先は、まるで魚の鱗のようにざらざらしていて、嫌な感触だった。「タナカ先生、娘をお願いします」その言葉は、まるで私をモノとして差し出す儀式のようだった。
タナカは、別室のベッドに私を連れて行くと、私の身体を弄びながら、胸に触れた。部屋は、消毒液の匂いと、嗅いだことのない甘い香水の匂いが混じり合っていて、それが胸の悪くなるような異様な空気を作り出していた。そのぬるりとした感触に、私はゾッとする。
「ユキよ、おまえの身体はまだ未完成であり、故に無限の可能性を秘めている。これは人類の未来をかけた、崇高なる実験なのだ。おまえの母も、この偉大なる役割を知れば、さぞ喜んでくれるだろう。」タナカはそう囁き、獲物を前にした獣のごとき眼差しで、私の瞳を射抜いた。そして、かすかに膨らんだ乳房に顔を近づけ、その先端を口に含む。「ああ、未だ熟しきらぬ、見事な乳房だ。では、実験を開始しよう。」
そう言うと、タナカは硬く生暖かい塊を、私の体に押し当ててきた。
「やめて!痛い!」
私の悲鳴は、タナカには届かない。表情ひとつ変えず、彼はただ「実験」を続ける。シーツには、赤黒いシミが広がり、それが私の震えを物語っていた。体が奥から冷えていくような、魂を抜かれるような感覚だけが残る。
タナカは、そんな私にジェイソンの仮面をつけた。視界が狭まり、呼吸が白く濁る。
「ユキ、大丈夫だ。痛みはもう、君の感知できる範疇ではない。」
その言葉は、まるで呪いのように響いた。彼の硬く、生暖かい塊が、再び私の体に押し当てられる。その瞬間、私の身体に温かい液体が流れてくるのを感じた。それは、まるで温かい血のようだった。しかし、私にはその痛みが、まるで自分のものとは思えなかった。それは、ジェイソンの仮面をつけた、**「ホラー人形」**の痛みだと、頭の中のもう一人の私が囁く。
温かい液体は、私の太ももを伝い、シーツを濡らしていく。その中に、潮のような匂いと鉄錆の匂いが混じり合っていることに、私は気づいてしまった。それは、私自身のものであると同時に、誰かの、あるいは何か得体の知れないものの匂いのように感じられた。
だが、私はもう、その熱も、ぬるりとした感触も、何も感じない。ただ、無機質な人形が、言われるがままに動かされているだけだった。
「計画通りだ。この後は、受胎という最後の段階に入る。」
タナカの声が、仮面の内側に響く。まるで、彼の言葉が私の脳に直接語りかけるかのように。ジェイソンの仮面は、私を私でなくした。あの仮面をつけたら、もう痛みを感じない、何も考えない、ただ言われた通りに動く人形になれる。それは、虐待と恐怖の象徴であると同時に、誰も私の心に触れられないようにするための鎧でもあったのだ。ジェイソンという人格を演じることで、私という存在は消え去り、自分自身を守ろうとした。
しかし、痛みは消えても、熱だけが、体の奥に残っていた。それは、私という存在が壊されたことを、そして、まだほんのわずかに、人間としてそこに存在していることを、微かに主張するようだった。人形になったはずの私の心に、その熱は、消えることのない汚辱の印を焼き付けていた。
新たな結末:復讐の連鎖、共犯者の末路
復讐の連鎖は、ここから始まった。
ユキは、父ケンジの貧困と母親の病院代という重圧が、タナカの申し出を断れない弱みとなったことを理解していた。ケンジは娘を差し出しながらも、タナカの暴挙を止めることはできず、ただ見ていることしかできなかった。地下室の壁に貼られたホラー映画のポスターとジェイソンの仮面は、幼いユキの心を砕き、自我を奪い、ただのホラー人形へと変貌させたのだ。彼女にとって、ジェイソンの仮面は、その全てを隠すための仮面であり、そして、新たな復讐の象徴でもあった。
そして、その記憶の断片の中に、マミの姿が見えた。
白樺荘のロビーで、マミはユキの瞳に自分と同じ冷たい光を見た。ユキが一人で復讐を計画していることを知ったマミは、「一人で抱え込まないで。あなたの傷は、私の傷でもある」と、そっと手を差し伸べた。マミは、自分自身ができなかった復讐を、ユキという「代理人」を通して果たそうと決意したのだ。マミはユキの死を偽装した。彼女がユキの胸元にそっと手を置いた。『大丈夫。もう、誰もあなたを『モノ』としては見ない。私たちは、ただの被害者じゃない』
俺は、マミがユキの復讐を助け、自らの復讐をも遂行したのだと確信した。彼女はユキにナイフを渡し、タナカとケンジの命を奪う手助けをした。
しかし、復讐が成功し、ユキがジェイソンの仮面を脱いだ時、マミは後悔の念に駆られた。
「…ユキちゃん。もう、これで終わりにしましょう。これ以上は、あなた自身を壊してしまうわ」
マミは悲痛な面持ちで、ユキの震える手を掴んだ。しかし、ユキの瞳はすでにマミの知っている少女のものではなかった。
「いいえ、マミ。まだだめ。この仮面を、捨ててはいけないの」
ユキの声は冷たく、どこか見知らぬ他人のようだった。マミはユキの背後に、過去の自分と同じ絶望の影を見出した。復讐の連鎖は、止まらない。マミは、ユキを救うためにナイフを奪おうと手を伸ばしたが、ユキはそれを許さなかった。彼女にとって、マミは復讐の連鎖を断ち切ろうとする「裏切り者」に他ならなかった。
そして、マミは胸にナイフを突き立てられた。それは、ユキがタナカとケンジを殺したナイフ、そして、マミ自身がユキに渡したナイフだった。マミは、自分の復讐に加担したことで、その報いを受けたのだ。
結末の独白
「…この胸の感触...やっぱりDカップだ。ユキ...お前なのか」
俺の頭の中に、ユキの声が直接響く。それは、目を背けたくなるような、吐き気を催すような地獄の記憶だった。
**すべてが、今、一つに繋がった。**そして、その連鎖のどこかに、己自身の過失があったことを悟る。
「もし、あの時俺がユキの胸をしっかり揉んでいれば、ユキの抱えていた悲劇的な真実を、すぐに知ることができたはずだ。ケンジも、タナカも、マミも死ななかったし、ユキがこの恐ろしい殺人鬼になることもなかった。すべては、俺の能力への躊躇と、中途半端な理性によるものだった。」
ジェイソンの仮面の下から、ユキの声が聞こえた。「…これで、全部終わりだ…」彼女の瞳は、怒りと悲しみ、そして虚無感に満ちていた。俺は彼女の過去を全て知ってしまった。復讐という形でしか救われなかった魂の叫びを。
俺が言葉を失っている間に、ユキは音もなく窓から抜け出し、暗闇の雨の中へと消えていった。俺はただ一人、血に染まった床に立ち尽くす。この能力は、単なる「真実を暴く道具」ではなく、相手の人生を背負う「重荷」なのだと悟った。ユキの壮絶な過去を知ってしまった今、俺は、真実を知ることの重みを、そしてその真実を誰かに伝えることの難しさを知った。




