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【第四章】

【第四章】


 三日後の夜が明ける前のこと。

 僕はいつもの基地のグラウンドで、大尉の到着を待っていた。今回のアルバトル攻略作戦における、カレンの装備品を運んできてもらう手筈なのだ。

 当のカレンは地下二階で待機中なのだが、意外だったのはユウジが素直に休んでいるということ。

 せめて見送りにくらい出てくるかと思ったが、今のところそんな気配はない。

 何か思うところがあるのだろうか。

(カレン、調子は?)

(普通。さっき会ったばかりでしょ)

 普通という割には、その思念は刺々しさを帯びている。明確な殺意だ。

 僕は誤ってそれに串刺しにされないよう、先手を打って、ごめん、と謝罪しておいた。

 カレンは特に気にする様子はない。ストレッチでもしているのだろう。

「そろそろかな」

 僕が腕時計を見下ろし、東側ゲートの方を見遣ると、ちょうどトラックの走行音が聞こえてきた。続いてヘッドライトが僕の目を軽く眩ませる。僕は両手をぶんぶん振って、停車位置まで誘導した。

「お疲れ様です、大尉」

「おう。カレンの調子は?」

「いつも通りです」

「よし。装備品を搬入するから、手伝ってくれ」

 通常だったら、カレンにグラウンドに出てきてもらい、そこで装備の取り付けをすればいい。だが、加重や対称性のバランスを調整するためには、やはり地下二階の機材で計測する必要がある。

 さらに言えば、その後に地下三階でカレンに少し動いてもらい、最終的な調整を行うことも考えられる。

 実際は、僕が気分的に地下の方が調整作業をやり易いから、という都合もあるのだけれど。

 そんなことを考えている間に、大尉はトラックの荷台に上がり、がこん、と金属質な音を立てた。

 僕が覗き込むと、そこには棺桶のような鉄製の箱があった。開放されている。今の音は、その箱の蓋を開ける音だったのだ。そして中には、カレンの装備品一式が格納されていた。

「もうセーフティを解除すれば撃てる状態だからな、慎重に運べよ」

「わ、分かりました」

 僕と大尉が地下二階に運び込んだのは、一メートル半はあろうかという筒状の物体やら、やや大きめの機関銃やら、スパイクのついたコンバットブーツやら。

 運び込む度にカレンはしげしげとその装備品を眺めては、そっと触れてみたり、担いでみたりしていた。

「大尉、これ本当に全部カレンに背負わせるんですか?」

「おう、あとヒートサーベルを二本な。使い込んであるやつで構わん」

「分かりました」

(じゃあ、装備していくよ、カレン)

(さっさと済ませて)

(了解)

 そう念じてみたはいいものの、僕の心には何らかのわだかまりがあった。これはきっと罪悪感だ。カレンに戦いを押しつけているという、逃れられない現実に叩き潰されそうになる圧迫感。いつもいつも、僕の心を真っ暗な方へ引っ張り込もうとする。

(どうしたの、ケンイチ?)

(ああいや、何でもない)

 僕は黙々と装備品を扱うことで、その考えから逃れようと試みる。

 だって仕方ないじゃないか。カレンは自分の意志で戦ってるんだ。そう、戦いたがってるんだ。僕なんかがどうこう言っていい問題じゃない。

 それは、この前のテレパシー同士の言い合いではっきりしている。

「よし……。大尉、カレンの装備、完了しました」

「うむ」

 僕は立ち上がり、大尉の隣まで引き下がって、カレンの姿を眺めた。

 ジェットエンジンの配置は今までと変わらない。両肩から覗くヒートサーベルも同様。違うのは、隣に巨大な弾倉を有する大口径機関銃が二丁、装備されていることだ。

 遠・中距離戦で機関銃を、近距離戦でサーベルを使うというのが基本スタンスになるだろう。

 異様なのは、腰元から両脇に伸びている大口径散弾銃だ。これは、把手が付いている以外は単純な筒でしかない。弾丸は既に装填されている二発、二門合わせて四発のみ。予備弾倉はなし。

 この散弾銃は、戦闘開始早々に敵の出鼻を挫くために使われる。広範囲に、超高温に加熱された小さな弾丸を撒き散らすという代物だ。

 これを使うためには、カレンは真っ先に敵陣に飛び込み、自身を味方機が周囲にいない状況に晒さなければならない。が、それはカレンとて望むところだろう。

 問題は散弾銃の重量だが、二発ずつ撃ち終わってからすぐに放棄すれば問題ない。

「どうだいカレン、違和感はない?」

 何を言っているのかが大尉にも伝わるよう、僕は口頭で尋ねる。

(まあこんなものでしょうね)

「こ、こんなものって……」

「どうした? 何か不具合があるのか?」

 僕がカレンを一瞥すると、特にないとでも言うようにカレンは首を傾げた。

「大丈夫だそうです」

「よし。まだ時間はあるから、地下三階に移ってもらおうか」

 こうして僕たちはカレンの装備の微調整を完了し、地上に出て大尉のトラックに搭乗。前回同様、荷台で揺られながら、空軍本部へと運ばれた。

 ユウジはやることがないし、戦況はゲリラ基地のレーダーサイトでも観測できるから起こしもせずに置いてきたが……。まあ騒がしくされるよりはいいだろう。


         ※


 空軍本部と聞いて、僕は首都にでもあるのかと思っていたがそれは間違いだった。国家レベルでゲリラ戦を展開するにあたり、本部もゲリラ基地同様、森林地帯に隠されるようにして再建されていたのだ。

 前線からは遠く、大型のレーダーがいくつも頭を出していたが、流石に今の戦況でここまで敵が攻め込んで来ることはないだろう。爆撃されることはあるまい。

 地下の作戦指令室に立ち入ると、その広大さに僕は目を見開いた。そこは流石、空軍本部といったところか。

 指令室は天井が高く、六角形をしていて出入口以外の一辺ごとにレーダーサイトが配置されている。つまり、僕も含めて五人の管制官がいるわけだ。他の四人とは別に、僕はカレン専属の管制官ということになるらしい。

 カレンは実戦部隊に同行し、作戦概要について説明を受けている。それに彼女が従うかどうかは甚だ怪しいところだが。

 そして午前五時半。甲高いアラーム音が指令室に響き渡った。

《状況開始。繰り返す、状況開始》

 僕はレーダーサイトをじっと眺め、作戦通りにカレンたちが離陸したのを確認してからそっと目を閉じた。そしてテレパシーではなく、自分の中だけで呟いた。

 無事でいてくれよ、カレン……。


         ※


 カレンとシンクロして戦闘態勢に移行したのは、出撃から二十分後のことだった。

 カレンの直掩にあたる二つの味方機が、勢いよく左右に展開した。何だ? 何があった?

(待ち伏せされてる)

(えっ)

 僕は言葉を失った。意識を元に戻すまでもなく、指令室内の言葉が聞こえてくる。

「敵機確認! 防衛線から離脱した先遣隊と思われる!」

(ッ! カレン、警戒)

 警戒してくれ、と言いかけた時には、左右の直掩機はドッグファイトに突入していた。カレンに対しても、真正面から敵機が機関砲を見舞ってくる。

 カレンはそれをひらり、ひらりと回避して、すれ違いざまに抜刀。ヒートサーベルは、敵機を正面から真っ二つに斬り下ろした。

 速度を上げるカレン。僕はレーダーサイトを意識の隅で捉え、状況を伝える。

(前方の雲の向こうに敵本隊! 気をつけて!)

(シンクロ頼むわよ)

 ほう、カレンの方から頼んでくるとは珍しい。僕は了解の意を示し、大口径散弾銃の使用を勧めた。

 それをカレンは読んでいたのだろう。気づいた時にはボン、と鈍い発砲音が響くところだった。

 左右から同時に一発ずつ射出された弾丸。二発同時だったのは、カレンが発射の反動を上手く受け流すためだ。

 以前のようにバク転し、反動の波に乗る。同時にばさりと翼を最大まで展開し、カレンは自身の身体を覆った。

 その直後、爆光が敵陣の真っただ中で煌めいた。逆光を相殺するほどの、目潰しにもなり得る光。発射された弾丸が空中で破裂したのだ。

 しかし、散らばったのは光だけではない。今発射されたのは散弾。光源を中心に、高熱を帯びた小さな金属球が無数に広がる。それが敵機の風防や装甲を穿ち、次々と無力化していく。

 敵機のパイロットからすれば、この状況は地獄だっただろう。自らの機体諸共、燃えるより先に溶けていくような高熱に晒されたのだから。

 今の二発で、いっぺんに十機近い敵機が地面に吸い込まれていった。カレンは翼で身を守った後に急上昇し、散弾の到達範囲から逃れている。

(カレン、敵の部隊が展開しようとしてる! 早く次弾を!)

(了解)

 カレンの挙動は機敏だった。ボン、と再び銃声がして、今度は敵の上空から散弾の雨を降らせた。重力に引かれた高温の金属球たちは、これまた敵機群に情け容赦なく襲い掛かる。

 こうして早々に十数機を屠ったカレンは散弾銃をパージし、背中から機関銃とヒートサーベルを一丁ずつ抜いた。


         ※


「敵機の待ち伏せだ! 情報が漏れてる!」

「全機、各個に敵機を撃墜せよ! 全兵装、使用を許可する!」

「重爆撃機隊、一時戦闘空域より退避! いい的になるぞ!」

 管制室は蜂の巣をつついたような騒がしさだった。当然だ。

 あの機密会議から三日しか経っていないというのに、ヴェルヒルブ空軍は見事なまでの空対空防衛線を築いていたのだから。

 カレンの登場で出鼻を挫かれた節はあるだろう。だが、それを差し引いても十分な戦力がアルバトル西方の空域には待機していた。

(カレン、サーベルのエネルギー残量に注意して。六時方向に敵機!)

(チッ!)

 テレパシー内で舌打ちするカレン。しかしすぐさま対応し、身を翻して真後ろから迫る敵機に対峙した。直後、機関銃によって敵機は前面から穴だらけにされ、黒煙を上げて落下していった。

 僕がカレンとシンクロしながら次の敵機の気配を探ろうとした、その時。

「ふむ、戦況はいかがかな」

 中性的な、しかし男性と分かる声がした。事務要員たちが踵を合わせる音がする。

「はッ、ご報告します、スルズ准将!」

 一瞬僕の気が逸れた。

 スルズ准将? 今作戦の指揮を執るという、スルズ・バルナ准将か? とっくに作戦は始まっている。今頃になって何の用だ?

 管制室に詰めていた中佐が、准将に現状報告を行っている。

 僕はふっと息をつき、カレンを援護すべく再びシンクロへの集中力を高めた。

 カレンはアクランによる機動性能をフル活用し、近接戦闘に注力していた。

 狙うのは敵機のコクピット。一刺しで敵機を無力化する。敵味方が混戦を繰り広げる中、主を失った敵機が一機、また一機と減速、墜落していく。

 ここぞと迫ってきた別な敵機に対しても、カレンは巧みに立ち回る。

 コクピットに突き刺したサーベルを軸に身体を回転させ、残骸の陰に入って敵機の銃弾を回避。

 敵機が頭上を通過するタイミングで機関銃を連射し、これさえも落としてしまう。見事というにはあまりにも冷徹な返り討ちだ。

(カレン、二時と三時方向から敵機、計四機。機関銃で迎撃を)

(了解)

 カレンは機関銃の弾倉を交換し、すぐさま急降下。

 まさか不利であるはずの下方に回り込むとは思っていなかったのか、四機編隊の隊形が乱れる。

 その隙にカレンは四機の後方に回り込み、ズダダダッ、ズダダダッ、と機関銃の固め打ちを浴びせる。旋回する前に全機が被弾。黒煙を上げながらあっという間に落ちていった。

 よし。待ち伏せされていた分は、カレンと自軍パイロットたちの奮戦で取り返した。じき爆撃機がより高空から現れ、爆撃を開始するだろう。そうすればカレンも帰投して――。

 そこまで考えて、僕は脳内がぐしゃり、と押し潰されるような不快感を覚えた。

 何だ? この攻撃意志……爆撃機以上の高高度から、僕たちを圧するように前方から迫ってくる。

(新しい敵だ! 規模は数十機の大編隊、高度は一五〇〇〇!)

(何? そんな高空に突然現れたの?)

(ああ……)

 僕はレーダーサイトを確認した。間違いない。接触まであと二百秒といったところか。

「危険だ……」

「どうした、ケンイチ・スドウ曹長?」

「危険です! 直ちに全機に撤退指示を!」

 隣の管制官に向かい、僕は声を張り上げた。

「今度は何事だ?」

 中佐が咎めるような声音で、ずかずかと歩いてくる。

「中佐、これを見てください!」

 席を立って、中佐にレーダーサイトを見るよう促す。すると、彼の顔色が見る見る青くなっていった。

「スドウ曹長、何か感じられるものはあるか? テレパシーで」

「は、はッ、敵機は――」

 僕はカレンを経由して、突如として現れた敵機群の様子を探った。規模も高度も先ほどと変わりない。ただ、接触予想時刻はとっくに五十秒も縮まっている。

(ケンイチ、あたしがもっと詳しく探ってみる。あたしから敵機を引き離して)

(わ、分かった!)

「ど、どうなんだ、スドウ曹長?」

「高高度に出現した新たな敵の編隊に対して、カレン軍曹が斬り込むつもりです。援護を申請します」

「りょ、了解だ。西方に展開中の各機、カレン軍曹を援護しろ! 残存火器に余裕のある者は、軍曹の両翼に展開して援護射撃体勢に入れ!」

《ブラボー小隊、了解》

《チャーリー小隊、お供させていただきます!》

 あまりの緊迫感に僕がごくり、と唾を飲んだ、その時。

「ふむ。敵もなかなかやるものだね」

「はッ、准将……」

 いつの間に背後に立っていたのか、スルズ准将が僕のレーダーサイトを覗き込んでいた。

 まるで針金でできているかのような細い手足と胴体。それらを器用に曲げて、准将は奇妙な踊りを始めた。

 いや、踊っているのではない。どの高度、どの角度から攻め込むべきか、自分の腕を使って考えているのだ。

「やはり頼みはカレン軍曹か」

 折っていた腰を元に戻し、直立不動の姿勢で言い放つ准将。僕はその糸のように細い目が、不気味に輝くのを見た気がした。

「高高度より接近中の敵機編隊、接触まであと六十秒!」

 隣席の管制官が再び声を上げる。それを正面から受けた准将は、無機質な口調でこう言った。

「スドウ曹長、カレン軍曹に命令。出来得る限りの急角度で、敵機下方より突撃せよ」

「なっ!」

 僕は思わず身を乗り出した。

「准将、他の味方機はカレンに追従できません! これでは本当に単機で、しかも下方から敵に接触することになります! カレンが危険です!」

「だがそれはカレン軍曹の望むところなのだろう?」

 准将の口の端がにやり、と歪む。まさかこの男、カレンを捨て駒にするつもりか!

 誰かを刺し違えてでも殺してやりたい。そう僕が思ったのはこれが初めてだ。奇妙なのは、その相手がヴェルヒルブ軍の一兵卒ではなく、味方であるところのエウロビギナ軍の高官であることだが。

(ケンイチ、銃身が加熱でおかしくなったから、機関銃は取り換える。サーベルもエネルギー残量が少ないから、適当に放り投げる。構わないわね?)

 カレンの思念が届く。ちょうど僕が怒りに駆られるのを打ち消すようなタイミングだ。

「う、あ、あぁ」

 僕の喉から曖昧な音がだらだら流れる。准将はこくりと頷き、再び歪みのない上品な微笑を浮かべた。

(ケンイチ、シンクロして)

(りょ、了解だ、カレン。でも――)

(敵機の規模は、さっきあんたが教えてくれたでしょ。先陣を切るくらいのことは、あたしが勝手にやるわよ)

 気をつけて、と念じようとして、僕は止めた。

 いくらカレンだって、自分の安全は確保してから戦っているのは分かる。だがそれは飽くまで、使えるものは使うというスタンスによるもので、周囲の状況がどうであるかは二の次だ。

 手段は問わない、とにかく今回も無事であってくれ。そう祈りながら、僕は自分の非力さを噛み締めた。


         ※


 シンクロした直後のこと。僕は敵機群の最前線が、ちょうど機関銃の射程に入るところだと気づいた。

(カレン――)

 しかしカレンは応じない。急上昇を続け、敵機が放ってきた機銃弾をすらりと躱す。やがて敵機の上空に出たカレンは、雲に身を隠すようにしてサーベルを投擲。

 雲のベールの向こうからでも、微かに爆光が見えた。

 カレンが二本目のサーベルを抜いた、まさにその時。僕の脳の奥底から、直感に基づく何かが這い登ってきた。

(これは……)

(どうしたの、ケンイチ?)

(敵機がこんな上空から現れた理由が分かった)

 僕は一旦、カレンに無用な戦闘を避けるよう指示した。そしてレーダーサイトから振り返り、テレパシーと口頭、両方で語り始めた。

「どうかしたのか、スドウ曹長!」

「はッ。中佐、新たな敵機群が高高度で現れた理由が分かりました」

「対処できるのか?」

「はい。カレン軍曹と、十分な後方支援があれば」

 僕の意識に上ってきた感覚。それは、標高四千メートルを誇る山脈の頂上付近が水平に均されており、その上に敵の最前線空軍基地があるというものだった。

「中佐、こちらの残存航空兵力は?」

「はッ、准将殿。損耗は二割程度かと――」

 そう中佐が説明しようとした、その時だった。

「そんな馬鹿な!」

 僕の反対側の席にいた管制官が、悲鳴に近い声を上げた。

「どうしたんだ!」

「ちゅ、中佐、大変です! 高高度の敵機編隊が一斉に降下を開始しました!」

「何だと!」

 中佐がたじろぐのが、視界の隅に入ってくる。

 何故敵機編隊の一斉降下が脅威なのか。それは、敵にとって有利な上空から味方の戦闘機部隊が襲われてしまうからだ。

 だが今さっきまで、その可能性を僕たちは一顧だにしなかった。

 もちろんここにも理由はある。このまま高高度の編隊が攻撃を開始すれば、現在エウロビギナの戦闘機群と交戦中のヴェルヒルブ機群にも被害が及ぶ。敵は同士討ちを起こしてしまうのだ。

 だがまさか、そんな禁断の手を本気で使うとは。

「もう少し様子を見よう」

 そう呑気に言ったのは、誰あろうスルズ・バルナ准将だった。その表情も立ち姿も、相変わらず冷淡だ。まるで無関心に、他人同士がプレーする盤上のゲームを眺めているかのように見える。

 僕にも少しはそんな冷静さがあればよかったのかもしれない。だがそんなことを考えても、気づいた時には後の祭りだった。

 僕はぐっと背伸びをし、そのまま腕を上に突き出していた。その手先には准将の襟が握られている。

「貴様、何をする!」

「手を離せ、曹長!」

 憲兵たちから怒号が響く。

 僕に跳びかかろうとした憲兵を、しかし准将は片手を上げて制した。その目は相変わらずひんやりとした温度を保っている。

「上官への暴力行為は軍法会議ものだが、そんなことを私は脅しには使わないよ、スドウ曹長」

「……」

「問題は、一体何が君をこんな行為に駆り立てているのかということだ。考えてもみたまえ。私の部下たちとて、この狭い空間で君を射殺することは困難だろう。だが、関節技だけでも君を殺すことはできる。それを知らん君ではあるまい?」

 その言葉を受けながらも、脳の片隅ではカレンが苦戦しているのを感じ取っている。するとそれを察したのか、微かに首を傾げて准将はこう言った。

「君は軍人には向かないのかもしれないな。争い事は嫌いだろう? それも、自分の親しい人物が巻き込まれているとすれば。だが実際問題、君は何をしている? 立派な戦闘支援行為だよ? 相手が敵国のパイロットだからといって、あまりに殺傷しすぎではないかね?」

「それは……、それは僕たちが望んだことじゃない!」

「だが抵抗もしなかった。違うか?」

「……」

「随分と釈明に必死なように見えるけれどね」

 その一言が、僕の脳裏に火を点けた。自分を止めることも叶わず、僕は腕を引っ込め、その反動で勢いよく拳を突き出す。

 しかしというべきか案の定というべきか、そんなものは通用しなかった。准将は軽く身を捻って拳を回避し、ごく軽く、しかし的確に僕の足首を蹴りつけた。

「うあ!?」

 僕は呆気なく転倒する。勢いそのままに、鼻先をしたたかに床に打ちつける。

 直後、ぶふっ、という声とも音ともつかない空気の振動が感じられた。僕の顔面から発せられたことは間違いないようだ。

 強烈な血の臭いに襲われる僕の頭上で、准将の声が響く。

「総員、聞いてほしい。本時刻を以てアルバトル強襲作戦は失敗と認め、中止する。全機、各発進基地へ帰投せよ。小隊隊長機は最後尾を警戒、味方が追撃されぬように。以上」

「う、あ……」

 大した出血量ではないはず。だが、僕の眼前は真っ赤に染まったように見えた。それほど僕が、本物の血を見慣れていないということなのだろう。あるいは、暴力行為に直接触れてこなかったということなのかもしれない。

 カレンは。カレンは無事なのか? 暴力の嵐の真っ只中から、無事に帰って来られるのか? 

 僕はくらくらする頭で、必死にテレパシーを練り上げた。

(カレン……、作戦中止だ。撤退命令が出た)

(……)

 カレンのやつ、応答もせずに何をやっている? 味方がどんどん現場空域を離れているのに、このまま孤軍奮闘するのは危険すぎるではないか。

 僕は再びカレンとシンクロを試み、直後に彼女が窮地に陥っているということを理解させられた。

 カレンの呼吸は荒く、アクランの一部パーツはパージされている。被弾したのか、燃料切れか。いずれにせよ、使えなくなってしまえばそれはカレンにとって枷に過ぎない。

 問題は、機関銃の予備弾倉があと一つしかないこと。そしてヒートサーベルのエネルギー残量もまた僅かだということ。

 それに、カレン自身も無傷ではなかった。致命傷こそないものの、掠り傷は四肢に及んでいる。頬も煤で黒ずみ、また、疲労も蓄積していた。

(もういいカレン、止めるんだ! 撤退してくれ!)

(まだ戦える。何のために電磁スパイクを履いてきたと思ってるの?)

(まさか敵機を蹴りつけて撃墜するつもりなのか? 馬鹿はよせ!)

 と僕が念じる間に、カレンは被弾させた敵機に突撃した。ぎゅるりと身を捻り、電磁スパイクでコクピットを蹴りとばす。

 接触と同時に風防を粉微塵にし、高圧電流を敵機のコクピットに流し込む。操縦系統を滅茶苦茶にされた敵機は、呆気なく墜落していった。

 次の敵機を迎撃しようとして、カレンの脳裏に焦りと苛立ちが雷光のように煌めく。機関銃の弾丸が尽きたのだ。

(畜生!)

 カレンは機関銃を捨て、サーベルを放り投げた。迫っていた敵機は見事にコクピットから真っ二つにされる。これで身軽になったと言わんばかりに、カレンは急上昇と急接近を繰り返し、電磁スパイクをお見舞いし続ける。

 カレンは死ぬ気なのではあるまいか。

 そんな考えが胸中に芽生え、僕は鼻血を拭くのも忘れて再びレーダーサイトに見入った。冷房の利いている管制室内であるにもかかわらず、僕は全身から汗が噴き出すのを感じている。

 カレンに死なれるわけにはいかない。こうなったら――。

(カレン、敵機の一部が君の頭上を通過した! 速度と方角から、この空軍基地を狙っているようだ!)

(何ですって?)

 はっとした気配のカレンに、僕は大きな罪悪感を抱く。

 今僕がいる空軍基地が狙われているなど、明らかな嘘だ。そんなに東進できる爆撃機は、ヴェルヒルブ空軍にも存在するかどうか疑わしい。

 しかし、僕はさも怯えているような様子をテレパシー上で演出してみせた。

 こうでもしなければカレンは戻ってこない。そんな強迫観念に囚われていたのだ。

 戻ってこなければ、それは戦死したと判断されることになる。

 いや、どんな判断が下されるのかはどうでもいい。しかしこのままでは、確実にカレンは命を落としてしまう。

 だからこそ嘘をついたのだ。もしカレンが少しでも僕たちを味方だと思ってくれていたら、間違いなく帰ってくる。僕たちの命を救うために。

 そしてその時になってようやく、カレンは自らの無事を確認するだろう。誰も感謝しろとは言わないけれど。

「全機、敵機群の射程からの離脱を完了しました」

「よし。私はお暇しよう」

 中佐の報告を受け、准将はそう答えた。って、何だって?

 僕が鼻先を押さえながら振り返ると、准将もまた踵を返すところだった。

「ま、待ってください!」

「何かね、スドウ曹長?」

「まだ皆が帰投していません! 作戦は終了していないんです! それなのに――」

「そんなことは分かっている」

 ぶがぶがと鼻づまりの声で訴えかける僕に背を向けたまま、准将は軽く肩を竦めた。

「私も多忙の身でね。今作戦の報告書を書かねばならないんだ」

「前線の兵士たちは、命を懸けて戦っています! 彼らが帰ってくるというのに、司令官であるあなたが真っ先に管制室を後にするなんて!」

 本当は、カレンを労うべきだと言いたかった。彼女こそ散々敵機を退けてきたのだから。

 そう思うと、つい封印していた言葉が出てしまった。

「あんたたち大人はいつもそうだ!」

 一瞬で、管制室が静まり返る。

「僕たち子供を危険に晒してきて、守ろうともしないで自分たちばかり逃げ回って! 戦争を起こしたのはあんたたちだろうに!」

 鼻血が周囲に撒き散らされる。それ以上に、僕の怒号が空気を震わせた。

「子供を矢面に立たせて、責任も取れずにいるなんて恥ずかしくないのか! この臆病者!」

「ケンイチ・スドウ曹長」

 僕の怒鳴り声がマグマなら、准将の発した僕の名前は氷河のごとき冷気を纏っていた。そしてそれは、怒鳴り声の熱気を吹き散らすのに十分な威力を誇っている。

「この場で君を断罪することもできるが、控えておこう。やはり君は、軍人には向いていないようだ」

「な、何を今さら……」

「今だから言うんだよ。君は軍人である以前に、人間として力不足だ。自惚れるのもそこまでにしておいた方がいい。君に誰かを救うほどの力は、これっぽっちもない」

「ッ!

 僕は無意識のうちに、しかし本気で准将の背中に跳びかかった。足の裏で床を蹴り飛ばし、思いっきり腕を振りかぶる。

 もう一度床に叩きつけられたって構わない。僕を止めることはできないと思い知らせてやる。

 しかし響いたのは、拳が肉を打つ音でも、僕の頭が床に激突する音でもなかった。

 音はしない。僅かたりとも。

 准将は振り返ることなく、僕のこめかみを片手で掴み込んでいた。

「……」

 宙ぶらりんで完全に動きを封じられた僕。准将は僕を放り投げるでも、何かに叩きつけるでもなく、そっと床に足が着く高さまで下ろした。

「憎むべき相手に拳すら届かないのか」

 口元を歪めながら僕を一瞥し、憲兵を伴って去り行く准将。そんな彼に再度殴りかかる余力は、僕には残されていなかった。


         ※


 僕の頭は一旦真っ白になり、それから一周回ってぼんやりとした感覚に陥った。

 怒りは感じない。悲しんでいるわけでもない。自分が無力だということが強烈に示されて、感情という感情が消し炭にされてしまったかのようだ。

 そんな僕の脳内に、ゆっくり浮上してくるものがある。

「あ、カレン……」

 カレンを迎えに出なければ。

 ここは多くの戦闘機・爆撃機が離発着する場所であり、彼女も無事である以上、担当の係員に誘導され、問題なく帰投するだろう。

 それは分かっている。だが、僕はいつもの癖というか習性というか――いや、それ以上にカレンの無事を自分の目で確かめたくて、いてもたってもいられなくなった。

 自分の鼻の具合などお構いなしに、僕はすたすたと地上一階へ上がり、西方の空を見上げた。多くの戦闘機が着陸し、次々に格納庫へと牽引されていく。

 中には被弾してパイロットが負傷し、すぐさま担架で運ばれていくという光景も見受けられた。

 そんな中、ちょうど南中した太陽の下で、一際小さな影がだんだん近づいてきた。

 間違いなくカレンだ。だが、地面に近づくほどに体勢を崩していく。ほとんどのアクラン付属のスラスターはパージされ、辛うじてふらふら飛んでいるという具合だった。

 係員に半ば抱き留められるようにして、地に足をつけるカレン。いつものような凛々しさ、バランスのよさは失われ、倒れ込みそうになるのを必死に耐えている。

「カレン、大丈夫?」

 僕は声をかけてみた。するとカレンは顔を上げ、僕と目を合わせた。それこそ、殺気を帯びた目で。

 僕が再度声をかけようとした時には、カレンは僕の眼前まで歩んできていた。次の瞬間のこと。

「が……」

 肺から空気が強制排出され、胃袋から酸っぱいものがじわり、とせり上がってくる。

 それでも僕は腰を折り、無様に両手をついてしまった。

 ようやく気づいた。僕はカレンに膝打ちを食らわされたのだ。まともに口が利けなくなったため、僕はテレパシーでカレンに訴える。

(カレン、一体何を……)

(嘘つき)

(え……)

 カレンは立ち止まり、背中を向けたまま殺気を放ってくる。

(あたしはあんたの指示を聞いて、急いで帰ってきた。あんたの身が危ないと思ったから。あんたに死なれちゃ困ると思ったから。でも、帰投する間に敵機は見かけなかったし、この基地も無事だった)

(う、そ、それは)

(聞かせて。どうしてあんな嘘をついたの?)

 僕はなんとか上半身を起こし、ぺたんと尻をつきながらカレンの方へ身体を向けた。

(そうとでも……あんな風にでも言わなければ、君は帰ってこないと思ったんだ。あのまま戦い続けていたら、君は殺されて――)

(でももっと多くの敵を殺せた!)

 憤怒の感情をテレパシーに乗せて、カレンは叫んだ。否、叫ぶような勢いで思念を叩きつけてきた。

 がばっと振り返った彼女を見て、僕はぎょっとする。今までだって、カレンが怒りを露わにすることはあった。だが、こんなに冷静さを失った彼女を見るのは初めてだ。

 目は真っ赤になって見開かれ、頬は引き攣り、口と鼻で荒い呼吸をしている。

(あたしは好きで戦ってる。好きで敵を殺してるのよ! どうして? どうして邪魔するの?)

 そう言って、カレンは僕から顔を逸らして俯いた。がたがたと肩を震わせている。

 せめてその肩を押さえてあげよう。そしてゆっくりと気持ちを伝えよう。そう思って、僕はゆっくり立ち上がってカレンの正面に立った。そっとカレンに手を伸ばす。

(カレン、僕はただ君に無事に帰ってきてほしくて――)

 ぱちん、という音が、生温い風に乗って流れていく。何のことはない、カレンが僕の頬を引っ叩いたのだ。

 このくらい、激昂したカレンが繰り出す技としては可愛いものだろう。問題は、カレンのみならず僕までもがキレてしまったこと。

 再度ぱちん、と音が響く。

 今度は僕がカレンの頬を平手で打った。カレンは呆気に取られた顔で僕を見返してくる。

 そんな彼女に向かい、僕は真正面から視線を合わせた。

(僕、謝らないから)

(えっ?)

(いつも僕は、君の方が正しいと思ってた。でも今日は違う)

(な、何?)

(ごめん、なんて言わない。死に急ぐ君を相手に管制官としての任務を果たすのは、僕にはもう無理だ。いや、最初から無理だったんだよ。僕がどれほど君を頼って、でもどれほど心配しているか、君は知らないどころか知ろうともしない。愛想が尽きた)

(ちょっと、ケン、イチ?)

(大尉に報告してくる。僕たちの二人三脚は、今この時を以て解散だって)

 僕はカレンを一顧だにせず、そばを通り過ぎた。何かが僕の背後から吹きつけてきたが、それがただの風なのか、それともカレンの未練の念なのか、よく分からなかった。


         ※


 それから一週間が過ぎた。

 アルバトル強襲作戦自体は失敗したが、ヴェルヒルブ側を牽制するには十分な効果があったようだ。両国共に国境沿いで睨み合いを続けるだけで、攻め込もうという気配はない。

 作戦終了後、その日のうちに僕とカレンは大尉の運転するトラックでゲリラ基地に帰り着いていた。僕の場合、戦闘行為でなく仲間うちでの負傷の方が酷かったというのは、皮肉以外の何物でもない。

 大尉には僕から事の顛末を報告した。始めこそぎょっとした様子だったものの、大尉は、俺にも考える時間をくれと言って現在に至るも命令を下していない。

 両眉を上げて目をまん丸に見開いた大尉。彼のそんな顔を見たのは、今回が初めてだった。

 そしてこの一週間、僕とカレンは完全に絶交状態だった。口頭ではもちろん、テレパシーの遣り取りも一切なし。

 カレンは夕飯に注文をつけなくなったし、そもそも僕はそんなものを気にかけるつもりはない。

 そんな中、奇妙なのはユウジだった。彼もまた口数が極端に減っていた。何を考えているか分からない時もある。アルバトル強襲作戦の当日からこんな調子だ。

 時たま顔を覗き込むと、目線が虚ろで顔面蒼白になっている場合すらある。

 これはこれで、安易に声をかけられる状況ではないように見受けられた。

 早い話、僕たち三人は完全な機能不全に陥っていた。この間にカレンの緊急発進を要する事態が発生しなかったのかは、不幸中の幸いだった。

 だが、僕は思い返す。

 カレンは敵を殺したいと切望していた。単に生き残るとか、戦争に勝つとかではなく、目の前に立ちはだかる者を自らの手で屠りたいと思っていたのだ。

「一体何を考えてるんだ……」

 そんな考えに苛まれた僕は、その日はなかなか眠れずにいた。

 ベッドに横たわっているだけでも胸中がざわついてしまう。とてもこのまま横になってはいられない。

「ん」

 軽く息をついて立ち上がり、僕はダイニングに出て水を汲んだ。グラスに口をつける。思ったよりもひんやりしていた。

 一気に一杯分を飲み干して、短い溜息をつく。少しダイニングで過ごしてみようか。そんな考えに至った、まさにその時だった。

 どごん、という短い爆音と共に、頭上の地上階が揺れるのが分かった。ぱらぱらと天井の破片が砂状になって降ってくる。

(カレン、敵襲だ!)

(気づいてる。あたしはエントランスから確認するから、あんたは屋上から敵を監視して)

(りょ、了解!)

 一週間ぶりにしては、スムーズな遣り取りだった。仲違いは今はお預けだ。

 それはいいとして、問題はこの基地が何故攻撃を受けているのかということ。いや、待てよ? 攻撃してくるなら、一撃で地上施設が吹っ飛ぶような威力の重火器で攻めてくるのではあるまいか。

 敵襲には非ざる行動に思えるが……。いずれにせよ、地上施設に出ないと状況は分からなない。僕は頭上の気配を探りつつ地上一階へ、そして屋上へと向かった。

 蓋状のハッチをゆっくりと空ける。扱いきれないながらも、僕は二十二口径を握っていた。こんなんじゃ使っても無駄かもしれないが。

 薄くハッチを空けて最初に目に入ったのは、レーダーの基部から上がる黒煙だった。

「なっ!」

 レーダーがやられた? これではカレンの戦闘支援どころか、他の味方の軍施設に警戒を促すことすらできないではないか。

 黒煙に紛れるようにして、小柄な人影が見えた。犯人はあいつか。

「動くな! こっちには武器があるぞ!」

 声の震えを押さえながら、僕は叫ぶ。もちろん相手も武装しているに違いないのだけれど。

 だがその相手から声をかけられ、僕は思いっきり胸を殴りつけられたような感覚に襲われた。

「悪いね、ケンイチ」

「お、お前……ユウジ、なのか……?」

 危うく拳銃を取り落とすところだった僕と異なり、ユウジは落ち着き払っていた。というより、何かを諦めていた。

 いいや、今はそれを詮索しているどころではない。僕はかぶりを振ってからユウジと向かい合った。

 僕はすぐさま拳銃を下げ、ユウジの下に駆け寄ろうとした。が、彼の腰元に拳銃が備えられているのを見て慌てて立ち止まる。

 声を震わせながらも、僕は尋ねた。

「な、なあユウジ? 一体何があったんだ? いやそれより、お前は無事か? だいぶ煙に呑まれていたようだけど……」

「ああ、俺なら平気だよ。無傷だし」

「それはよかった……じゃない! 敵襲だ! ユウジ、早く伏せるんだ!」

「もう爆発は起きないよ」

「どうしてそう言えるんだ?」

「だって爆弾仕掛けたの、俺だもん」

 僕は今度こそ拳銃を取り落とした。セーフティがかかったままだったのは僥倖だ。

 それよりも、僕は今のユウジの台詞を上手く認識できずにいた。

「お、お前が、レーダーを破壊した?」

「今そう言ったじゃん」

 いつもの人懐っこい笑みを浮かべて、ユウジはひらひらと片手を振った。

「そんな……。せっかく自分で整備したのにか? それより、レーダーが使えなくなったらこの基地はすぐに制圧されてしまうぞ! そもそもゲリラ基地としての存在意義が――」

「いいんだ、ケンイチ」

「は、はあっ? 何がいいんだって?」

「なかなか話し出せなかったことについては謝るよ。なあケンイチ、俺とカレンとケンイチの三人で、ヴェルヒルブに亡命しないか?」

「……あ」

 僕は脳内のみならず、胸中までもがいっぱいになって言葉を失った。ユウジは何を言っているんだ?

「ケンイチ、言いたいことは分かるよ。俺の両親はヴェルヒルブの空襲で殺されたんだから、親の仇の側に寝返るのはおかしい。そうだろ?」

「……」

「でも、実際は違った。俺の両親は生きてるんだ。ヴェルヒルブに亡命してね」

「ユウジ、一体何を言って……?」

「俺の両親は地質学者でね、エウロビギナの地理関係にはとても詳しかったんだ。そんな人物を、ヴェルヒルブがむざむざ敵国民として殺すはずがないだろう?」

 夜明け前の涼風が、周囲の木々をさわさわと鳴らしていく。その時になってようやく、僕は自分の顔に冷たいものを感じた。冷や汗が額から流れ出して止まらない。

 僕が口をぱくぱくさせている間に、黒煙が晴れてユウジの煤で汚れた顔が露わになった。

 いつも通りの明るく軽い口調で言葉を紡いでいたユウジ。しかしその表情には、苦悶の念がありありと見て取れた。

「俺が修理を手掛けたこのレーダーだけど、実は使う度に微弱な電波をヴェルヒルブ側に送っていたんだ」

「こ、この基地の場所を知らせていた、と?」

「ああ。レーダーを使いながら微弱な電波を送信していれば、他の皆に疑われる恐れも少なくなるだろうからね。もちろん、そんな細工ができたのはこの基地だけだ。でも、それだけで相手さんは大喜びさ。なんせ、謎の航空戦闘少女に亡命を促すことができるんだから。あるいはこの基地を攻撃して、ケンイチとカレンの二人を殺してしまう、とか」

 殺してしまう? カレンを? 僕だけでなく? そんな馬鹿な。

「嘘だろう、ユウジ? お前はあんなにカレンのことを慕っていたのに」

「だからレーダーをぶっ壊したんだろ、たった今」

「えっ?」

「いやいや、えっ? じゃねえだろうよ。さっき亡命しようって言ったのは、俺なりにお前を試したのさ、ケンイチ。俺にはやっぱり、どこにいるかも分からない両親より、カレンの方が大切だと思った。だったら、俺がいなくなってもカレンのそばにいてくれる人間がいなけりゃな」

 するとユウジは再び笑顔を見せた。しかし、それは年相応の顔つきではない。可笑しさや愛嬌の中に苦悶の念を封じ込めたような、顔の皮一枚で感情を押し殺しているような、そんな笑みだった。

「明日には大尉に来てもらおう。このレーダーを修理するのに。それから俺は、自軍の高官を通してヴェルヒルブから亡命の誘いを受けていたこと、レーダーにちょっかいを出したこと、それからやっぱりこんなんじゃいけないと思ったこと、全部を話すよ」

「でもそうしたらお前、軍法会議もんだぞ?」

 するとユウジは両手を腰に当て、俯きながら、そうだな、と呟いた。

「きっと重罰を受けるだろうし、しばらくは太陽を拝めないような暮らしを強いられるだろうな。けど、いいんだ。カレン、それにケンイチが無事なら」

「カレンと僕が無事なら、ってお前……」

「だから言ったろ? カレンのそばにいてあげてほしいって。たぶん彼女には、それが一番必要なんだ」

「突然そんなこと言われても……」

「おいおい、とぼけるのはよそうぜ。アルバトルに攻め込んでからこっち、ずっとお前とカレンはピリピリしてた。ケンイチはカレンを怒らせたんだ。でもそれって、カレンの内情に迫ることができた、ってことだろう? 少なくともケンイチは、俺よりもカレンにとって相応しいってことさ」

 心と心の問題なんだよ。ユウジはそう言って肩を竦めた。

「ユウジ……」

 まだ届く距離でもないのに、僕はユウジの肩に手を伸ばしていた。それを意識してか、ユウジも半歩遠ざかる。

「俺のことは気にすんなよ。いっそ忘れてくれ。そして、カレンと幸せに――」

 しかし、ユウジの次の言葉が発せられる機会は二度と訪れなかった。

 ズシャッ、と肉体が破損する音と共に、ユウジの左半身が消し飛んだのだ。

 僕の足元にまで血飛沫が飛散する。それからタイミングをずらして、パアン、という発砲音が轟いた。

「ユウジ!」

 自分が血塗れになることなど構わない。負傷者は助けなければ。そう思って、ユウジのそばにしゃがみ込んだのは正解だった。もし立ち続けていたら、第二射で今度は僕が殺されていただろうから。

「ユウジ、おい大丈夫か! ユウジ!」

 腕のなくなった左肩に手を当てるものの、どくどくと溢れ出す血液を止める術はない。

 僕はもう無我夢中でユウジの身体を揺さぶったが、出血を酷くするだけだ。それ以前に、ユウジの瞳からは、既に生気が失われていた。

 自分の腕とシャツ、それにズボンまでもが真っ赤に染まっていく。それに気づき、危うく悲鳴を上げかけたところで、僕は足首をむんずと掴まれ、勢いよく引き摺られた。

「うあ! カ、カレン!」

(何やってんのよ、馬鹿! さっさと身を隠せ!)

(身を隠すって?)

(狙撃される! 早く建物の中へ!)

(で、でもユウジが――)

(ユウジがどうかしたの? あっ)

 その気配からするに、カレンもユウジの遺体に目を留めたらしい。

 しばらくカレンは固まっていたが、敵の狙撃第三射が頭上を掠めたところで正気に戻った。

 振り返って匍匐前進を始めるカレン。彼女に続き、僕ものそのそと屋上から下りるハッチへ向かっていく。

 狙撃による第四射はない。代わりに、この基地の正面フェンスが発破で吹き飛ばされた。

(地上部隊まで動員してくるとはね。どうにか隠れてやり過ごすしかない。ケンイチ、どこか思い当たる場所は?)

(そ、それなら……)

 僕が選んだのは、地上一階の防空壕だ。地下三階まで下りる時間はないものと判断した結果である。

 しかし、あんな無残な、それも仲間の遺体を前にして、どうしてここまで冷静でいられたのか。

 正直自分でも分からないが、もしかしたらユウジが天に召される前に力を貸してくれたのかもしれない。常に冷静であるように、と。

(こっちだ、カレン)

 階段を下り切った僕はカレンを手招きし、エントランスから見て左奥の通路へ。その先にある重金属製のハッチを開け、そこに入るようにカレンを促した。

 続いて僕が入ると、それだけで防空壕の収容人数に達してしまった。僕とカレンは体育座りをし、この狭い防空壕で肩を寄せ合った。

 その直後、ハッチの向こう側からくぐもった爆発音がした。手榴弾かロケット砲か、何による攻撃なのかは分からない。だが、少なくとも敵は正面突破を試みているらしい。

 敵が僕たちを発見する前に退散してくれるといいが……。

 だが、最も大きな脅威は敵ではなかった。それも僕にとってではなく、カレンにとって。

 僕がハッチを封鎖すると、当然ながらこの空間は闇に呑まれることになる。

 この狭さ。この暗さ。それが、カレンに何らかの刺激を与えたようだ。

「いてっ! カレン、立ち上がっちゃ駄目だ!」

(逃げなきゃ……)

「えっ?」

(ここから、逃げなきゃ!)

「逃げなきゃ、って、たった今逃げてきたんだろう?」

(くっ!)

「ちょっ、待って! カレン!」

 ハッチを押し上げ、出ていこうとするカレン。僕はカレンの腰に抱き着いて止めようとしたが、思いっきり踵で蹴り飛ばされた。

 その時には既に、この建物は敵部隊の猛攻を受けていた。銃声、爆発音、壁が崩れる鈍い音。それらが入り混じって、とても音声は届きそうにない。

(カレン、何をやってるんだ! 危険すぎるぞ! 戻れ!)

 こうなったら仕方がない。

 僕もまた防空壕から出て、カレンの背中を追いかけた。既にカレンはエントランスを出て、敵の火線の集中するグラウンドへと飛び出そうとしている。

 身体を動かすことについては、僕はカレンには全然及ばない。追いつけないと判断し、僕はボロボロになったエントランスに到達。扉のわきに備え付けられたグレネード・ランチャーに煙幕弾を込め、立て続けに発砲した。

 とにかく、カレンが敵の的になることは避けなければ。そう思ってのこと。

 弧を描き、グラウンドに落ちた煙幕弾から、猛烈な勢いで白煙が噴出する。

 しかし、カレンを救うにはほんの僅かに遅かった。

 タァン、と一際大きな発砲音がして、カレンは向かって右側に吹っ飛んだ。

「……!」

 驚きと恐怖がないまぜになり、僕もまたグラウンドに飛び出した。敵の銃弾が飛び交う中に出ていくなんて、正気の沙汰ではない。先ほどの煙幕弾が上手く機能してくれたのが幸いだったが。

 とにかく僕も、と飛び出した勢いでカレンの下にひざまずく。

(カレン……)

(ケン、イチ。ごめ、ん。急に、怖くなって……)

 カレンに謝られるなんて一体何年ぶりか分からなかったけれど、そんなことはいい。

(喋るな。どうにかするから)

「動くな!」

 流石に敵も、いつまでも煙に巻かれているわけではなかった。白煙が見る見る晴れて、自動小銃の銃口がぬっと突き出されてくる。濃緑色の迷彩服を着たヴェルヒルブ軍兵士が、円を描いてじりじりと近づいてくる。

「こちらランド・クルーズ。第一目標クリア、第二・第三目標の身柄を確保」

 ああ、そうか。ユウジが殺されてしまったことをクリア、と言っているのだな。そして僕とカレンを確保した、と。

 そこまで状況を飲み込んで、僕は視界が真っ赤になった。この感情が怒りなのか悲しみなのか、よく分からない。だが、少なくとも平静ではなかった。

「ケンイチ・スドウ曹長だな。我々はヴェルヒルブ陸軍所属の陸戦部隊、ランド・クルーズだ。貴官には一緒に来てもらう」

 言葉の芯から無機質な声。それを聞きながら、僕は反対側の足首に仕込んでおいたものを引き抜いた。

 それは、一本の注射器だ。以前、大尉が貨物輸送をしてくれた時に個人的に届けてくれたもの。

「立て、スドウ曹長。誰か担架を持ってこい。カレン軍曹を搬送――」

 僕の腕がぐっと引き上げられる。それを振り切ってうずくまり、僕は注射器を思いっきり胸に突き刺した。

 どくん、と心臓が跳ねて、視界がよりクリアになる。同時に、まるで突然血液の循環が始まったかのように、熱いものが全身を駆け巡る。

「おい、何をやってるんだ!」

 僕はさっと立ち上がり、声をかけてきた兵士の胸に掌を叩きつけた。驚いたのは周囲の兵士たち。理由は明快で、その兵士が後ろ向きに十メートルも吹っ飛んだからだ。

 相手の肺から空気が流れ出す。その中には、確かに鮮血が混じっていた。

「お前らなんかに、カレンを渡すもんか‼」

 そう叫んで僕はカレンをお姫様抱っこし、両足に力を込めた。次の瞬間、大きく背後に跳躍。グラウンド上に円を描くように土くれが舞い上がる。カレンのようにバク転し、僕は建物の屋上へ飛び乗った。

「何をやってる! プランBだ!」

 再び銃撃が開始された。なるほど、身柄確保が困難となったら、今度は殲滅か。ユウジを即射殺したところからするに、彼を生かしておく必要性は、連中には最初からなかったのだろう。その推測、いや恐らくは事実に、僕はぐっと唇を噛み締める。

 カレンを横たえて、そばに膝をついてこう念じた。

(カレン、すぐに戻る)

 それからレーダー基部まで這って行き、ユウジの瞼を閉じてやりながら言った。

「ちょっと借りるからな、ユウジ」

 僕が手にしたのは、彼の腰に差さっていた拳銃。四十四口径、六発装填のリボルバー。

 これだけ大きな銃になると、発砲時の反動は凄いはず。だが、僕はそんなことにはお構いなしで、軽く動作確認をしてからグラウンドの方へ向き直った。

 斜め下方からの猛烈な銃撃。僕は角度的にそれを喰らわないギリギリのところに立ち、すっと目を閉じた。

 プラン変更の指示が聞こえたのは――あのあたりか。

 自分なりに見当をつけてから、今度はコンクリート片を撒き散らしながら僕は跳んだ。

 空中で身を捻り、弾丸を躱していく。向かったのは手前中央、プラン変更を命じた人物のところすなわち隊長だ。

 ふっと重力に引かれ、僕の身体は空中で静止する。

 今だ。

 僕は二発を発砲した。一発が隊長の胸に、もう一発が頭部に吸い込まれ、直撃。隊長はのけ反るようにして倒れ込む。その額には大きな穴が空いていた。

 続けざまに僕は発砲。隊長の隣に控えていた、通信機を担いだ兵士を狙う。増援を呼ばせはしない。今度は一発で片づけた。

「隊長! おい、隊長が!」

「落ち着け! 任務続行、プランBだ!」

「慌てるな、副隊長の私が指示を――」

 そう言いかけた副隊長の正面に下り立った僕は、彼の足を思いっきり蹴りつけた。みしり、と嫌な音がする。相手は悲鳴も上げられない有様だった。

 副隊長は随分と長身だ。僕の身体をすっぽり隠してくれる。僕は彼の襟首を掴み、盾にしながら再びバク転。散発的な発砲が起こり、副隊長の防弾ベストと肉体に弾丸が食い込む。

 僕が目標地点、すなわちエントランスに到達するまでに副隊長はぼろきれ同然になっていた。

 エントランスにあるのはグレネード・ランチャーだ。僕はズタボロでとっくに絶命した副隊長を投げ捨て、ランチャーを構える。それから残りの煙幕弾を全弾、敵の足元に撃ち込んだ。

 大方の敵の目を眩ませながら、僕は最寄りの二人に駆け寄った。思いっきり身体を捻り、右足を軸に一回転。左足を蹴り出し、二人の側頭部を打つ。

 堪らずのけ反った二人の顔に拳銃の残弾を叩き込み、自動小銃を二丁共拝借。再び土埃を上げて跳躍し、僕は敵陣のど真ん中、白煙の中心へと飛び込んだ。

 自分で訓練した時には、全く扱えなかった自動小銃。だが、今の僕はいつもの僕ではない。

 身を屈め、自動小銃を握らせた腕を交差させ、フルオートで弾丸をばら撒いた。それからすぐに腹ばいになる。

「九時方向に敵! 仕留めろ!」

「軍曹、向こうから攻撃を受けています!」

「敵はあっちだ、応戦しろ!」

「な、何をやってるんだ! こっちは味方――がはっ!」

 僕の頭上を無数の弾丸が飛び交うのを感じながら、僕はある感情に囚われていた。歓喜と興奮だ。これだけの敵を自分自身が翻弄できていることで、僕の胸中は大きく波打っている。

 敵軍の防弾ベストとて、自動小銃の弾丸をそう何発も食い止められるわけではあるまい。白煙が晴れた頃、そこには多くの死体があり、負傷者がいた。そして地面は真っ赤だ。水はけの悪いグラウンドに、血だまりが無数にできている。

 僕は跳躍を繰り返し、弾丸が尽きるまで負傷者にとどめを刺す行為に勤しんだ。といっても、それほど長い時間ではない。無傷で撤退を試みている敵を仕留めなければ。

 腰元の背後に差していたコンバットナイフを引き抜く。僕にはあたかもそいつが血に飢えているかのように見えた。――今からたくさん吸わせてやるよ。

 滑空しているような気分で駆けながら、僕はナイフ一本で暴虐の限りを尽くした。逃げ惑う敵の肉を裂き、骨を断ち、あるいは放り投げて後頭部から頭蓋を破砕した。

 大方の敵を片づけた時、森林のやや奥まったところから何らかの気配を感じた。

 一人だけ遠距離に陣取っている敵がいる? ああ、狙撃手か。

 なかなか狙いをつけられないでいるうちに、撤退の機会を逃したのだろう。僕が切味の落ちたナイフをぶん投げると、短い悲鳴と共に木の上から落下した。

 がさり、と音がしたのを聞き取り、僕は大股で、しかし焦ることなく接近した。

 そこには、肩にナイフを突き立てられた兵士が一人。案の定、そばには高性能狙撃銃が落ちている。

 僕がわざと音を立てると、彼はすぐさま蒼白になって僕を見上げた。

「ま、待ってくれ! 君の友人のことは謝る! 私は命令されただけで、殺したくはなかったんだ!」

 ならどうして軍人になんてなったんだ。そう思ったけれど、最早自分に聞く耳の持ち合わせがないことははっきりしている。

 僕は敵の首を片手で掴み、そのまま足が浮くまで持ち上げた。だんだん顔が土気色になっていく。

 それでも足をばたつかせる余裕はあるらしい。目障りだな。僕は少しだけ、指にかける力を強めた。

 ぐしゃり、と音がして敵の頸部は破裂。鮮血を巻き上げながら、ぼとり、と頭部が落下した。

「さて、もう気配はない、か」

 あたりを見回している間に、今度は僕の頭がくらくらし始めた。

「あれ?」

 重力に対抗する術もなく、その場に倒れ込む。その後、警報を探知した大尉が医療班と共に駆けつけ、僕とカレンを回収したことは、後になってから気づいたことだ。

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