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オルドの自伝書  作者: うめ助
一章
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6話


「国民を戻す方法か……ちょっと心当たりがある」

 

 アレクセイが玉座の後ろの壁を押すと、壁がなくなって下へ続く階段か現れた。


 隠し階段は男のロマンだ。先代の王も、そんなロマンに駆られてこの空間を作ったのだろう。


「この下にある。使うのは禁忌とされているが、しょうがない」


 階段を降りて行くと、大きな扉がある。それは人四、五人分ほどある大きいものだ。


 アレクセイが扉を押すと、歓迎するように扉が開く。


 その先には、祭壇に捧げられている、魔法の杖があった。


 杖の先に付いている黒みがかった紫色の宝石が怪しくひかる。


「この杖は生き物の意思を変えられるんだ。王族なら使える宝具で……ちょっと待て、どうして光っているんだ?」


「光るとまずいことでもあるの?」


「光っているということは、杖の効果が出ているということだ」


 あ、と李夏は気づく。これが原因でアレクセイや国民がおかしくなっていたのかと。


「誰かが操作したのか?とにかく早く解除しないと...!」


 アレクセイは杖を手に取り、降りてきた階段を登って、杖の先を強く床に叩きつけた。


 杖に国民の負の感情が集まる。それはアレクセイの手にも伝わり、ビリビリと痛みが広がる。


 あまりの痛みに思わず膝をつく。


「俺の声を聞いてくれ……!戻ってくれ……!」


 すると動物たちの様子が変わり始めた。


「うん?今まで何してたんだ?」


「どうしてお城にいるんだろう...」


 動物たちは困惑しているも、ワイワイと騒がしくしている。


 そんな光景がアレクセイを酷く安心させる。


「ね。聞いてくれたでしょ?」


 後から登ってきた李夏が言う。


「調子いいこというな」


 アレクセイは呆れたような顔で微笑んだ。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 空は青い。


 もう暴れている動物も居なく、瓦礫はまだ散らばっているが、少しづつ片付けられている。


「アレクセイ、これはどこに置いたらいい?」


 李夏は自慢の力を使い、動物に混ざって瓦礫をどかしていた。


「それはあそこに置いてくれ。スイギュウとかがいるとこな」


 アレクセイが刺した先にはスイギュウなどの力持ちな動物が瓦礫をバラバラにしていた。


 1度バラバラにしてくっつけることで、資源節約にもなる。


 李夏が瓦礫を置き、次の作業に取りかかろうとした時、アレクセイに止められた。


「アレクセイ?どうしたの?」


「えと、その、あ……アレクでいい。長いし……」


 アレクセイの視線が泳いでいる。慣れないことをして緊張しているのだろう。


「もちろん!改めてよろしくね。アレク」


 李夏は笑って答える。


 アレクセイの表情が花が咲いたように明るくなる。


 あだ名で呼ばれるという初めての経験にアレクセイは胸をドキドキさせていた。




 空がだんだん赤色に変わる。そろそろ休憩時だ。


「じゃあ少し休憩しようか?ちょうど動物たちも集まってきたし」


 李夏は歩き出す。アレクセイも続いて李夏の小さくて大きな背中を追う。


「王様と……確か李夏とか言ったか?何飲む?」


 休憩の為、酒場のような所にいくと、バーテンダーと思われる動物に話しかけられた。


「ちょっと、まだ未成年だからお茶……」


 アレクセイが呆れたように言うのと同時に李夏が口を開く。


「僕はビールでお願いします」


 李夏の発言にアレクセイは驚いた表情をする。


「おい、なに未成年飲酒してんだよ...!」


 アレクセイは李夏の肩を揺らす。揺られながらも李夏は反論した。


「未成年もなにも、もう成人してるよ。15だよ。アレクだって未成年なんじゃないの?」


 アレクセイが止まる。


 この世界においては15歳から成人とされ、法律には守られなくなり、お酒も解禁されるのだ。


「……ごめん。てっきり未成年かと。あと俺も15」


「……そんな子供っぽい?」


 李夏は少し不貞腐れたような顔になる。


「ごめんって。俺もビールで」


 アレクセイは安心した顔で自分の分を頼む。


「ちょっとまっててくださいねー」


 バーテンダーは奥の酒樽からビールをつぎ始める。


 待っている間、李夏は疑問に思っていたことをアレクセイに話す。


「アレク、その尻尾邪魔じゃない?」


「邪魔だけどもう慣れたな」


 アレクセイは尻尾を軽く揺らしながら答える。


「そう。でも周りの人は慣れてないっぽいよ?」


 アレクセイははっとする。確かに今まではあまり玉座から動くことはなく、動くことがあっても召使いに持ってもらっていた。


 実際、復興作業中も何度か尻尾を踏まれていた。


「やっぱり邪魔かも」


「いいアイデアがあるんだけど」


 李夏はふふんと鼻を鳴らす。


「ちょっと尻尾触るね」


 そう言うと、李夏は慣れた手つきで尻尾をまとめる。


 数十秒後、アレクセイの長い尻尾はロープのようにまとめられていた。


「すごっ...!体が軽い...!」


 初めての感覚にアレクセイはテンションが上がる。


「こういうのは慣れてるんだ」


 李夏は自慢げにはにかむ。


 ちょうどその時、ビールとおつまみが届いた。


「おつまみ頼んでないけど...」


 アレクセイが尋ねる。


「サービスですよ。お2人は国の英雄なので!」


 バーテンダーは誇らしげに言った。それならと、ありがたくおつまみを貰う。


 気づけばかなりの数の動物が酒場に来ていた。


 辺りは笑い声に包まれる。久しぶりの平和だ。


 今は力を抜いて、思い切り楽しもう。



 二人がお酒を飲み始めて、数時間が経った頃。


「俺の酒が飲めないって〜?」


 酔ったアレクセイが近くの動物にだる絡みをする。動物は困って李夏に助けを求めようとする。


「.....」


 しかし頼みの綱だった李夏は無言で酒を飲み続けていた。李夏もだいぶ酔いが回っているようだ。


 しばらくするとガタッと大きな音を立てて李夏とアレクセイが同時に気を失う。


 絡まれていた動物はほっと胸を撫でる。


「ここまで一緒なのか……仲良しだな」


 そう動物が呟いたのは、笑い声にかき消された。


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