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オルドの自伝書  作者: うめ助
一章
4/36

3話


「救うなんて、英雄にでもなったつもりか?」


「英雄なんておこがましい。だけど苦しんでいる人には手を差し伸べないといけない。それが、どんなに悪者でも」

 

 剣先がどんどんアレクセイに近づく。しかしアレクセイは一向に怯んだ様子を見せない。


 李夏が剣を刺そうとした時、アレクセイは李夏の前から消えた。


 正確には、李夏の後ろに回った。


「くっ...!」 

 

 李夏は思わず後ずさる。その隙にアレクセイは李夏の首元に剣を置く。剣が少し当たって首から血が垂れる。

 

 その時、アレクセイは李夏の持っている剣が目に入った。

 

「なんでお前が...!」


 アレクセイが一瞬動揺したのを李夏は見逃さなかった。


 王家の剣でアレクセイに一発入れる。ザシュッと鋭い音がアレクセイから出る。


 アレクセイの胸元からどくどくと血が出て痛々しい。かなり深く切りつけたはずなのに、アレクセイは余裕そうだ。


 しかしどこか目が虚ろな方向を向いている。まるで何かに操られているかのような。


「はは、その剣、強いだろ。そうだよなぁ。バールヤのとこの鍛冶屋に作ってもらったからなぁ」


 そう言うと、李夏の持っていた剣を足で蹴り落とした。


 攻撃を入れたのはこちら側なはずなのに、気づけば壁際まで押されていた。


 アレクセイの様子がどんどんおかしくなってくる。目を大きく見開き、口角は不気味に上がり、ガン、ガンと大きく踏みしめてこちらに歩いてくる。


「何その目……!怖いって……!」

 

 アレクセイは手を前に出し、何かの準備をしていた。手にだんだん魔力が集まり、あまりの魔力量に押されてしまいそうだ。


「ど、どうしよう...なにか、なにか...!」 

 

 李夏は周りを見渡す。しかし瓦礫だらけで、防げそうなものはにもない。瓦礫で防ごうにも、簡単に李夏ごと崩れるだろう。

 

 もう時間はない。

 

 間に合わない。

 

「(だめかも)」

 

 李夏はもう動くことも出来なくなっていた。目の前の大きすぎる力に、慄いていた。

 

「(ダサいな。僕。あんなにかっこつけたのに)」

 

 気づけば、魔力の玉は李夏を飲み込める程大きくなっていた。

 

 アレクセイが玉を放つ。目の前が黒に覆われる。

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━

 

 チュンチュン。

 

 鳥の鳴き声がする。

 

 緑の匂いと、子供がはしゃぐ声が聞こえる。

 

 ここはどこだろう。

 

 そっと目を開ける。

 

 ここは...モーツ保護地区だろうか。李夏が知っている姿ではないが、どこか見たことのある建物があった。

 

 李夏の前には噴水がある。それを囲むように子供たちが走り回っている。

 

 街の周りは木で囲まれていて、暖かい空気に包まれる。

 

 雪や寒さとは程遠い風景が広がっていた。

 

 李夏がボーっとそれを眺めていると、見知った顔が見えた。

 

 白い髪に小さい耳、今ほどではないが長い尻尾を持った獣人の子供。きっと幼いアレクセイだろう。

 

 アレクセイは子供らしく満面の笑みを浮かべて周りの子供たちと遊んでいた。

 

 

 ノイズが走る。



 至る所から爆発音が聞こえる。


 黒煙は立ち、叫び声、泣き声が聞こえ、負の感情が集結していた。


「早く!無事な者は城の中へ!」


 そう叫んでいたのは少し成長したアレクセイだった。


 声を掛けながら瓦礫をどかしたり、転んだ人を運んだり、火の中に飛び込みもしていた。自分だって死ぬ可能性があるのに。


 そうだったのか。アレクセイも頑張っていたんだ。


 世界が混乱に落ちようとした時、全力で抗っていたんだ。



 ノイズが走る。

 


 空は黒い。建物は倒壊し、子供の声なんて聞こえない。


 噴水も崩れ、水が零れている。


 その前に、アレクセイが立っていた。


 アレクセイは虚ろな目をしている。


「俺は、誰も守れなかった。誰も、救えなかった」


 李夏とアレクセイの間に灰が入り込む。


 李夏はアレクセイが灰で見えなくなりそうな時、手を伸ばした。


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