18話
メイハはなんとか今も身体を保っているけど、いつ壊れてもおかしくないほど病が進行している。
もしだ。もし仮にあの時のメイハの言葉が嘘じゃないなら。
いじめるなと言えるほどの愛を自分に向けてくれているのなら。
恩返しするのは今なんじゃないのか?
まず目の前の敵を倒して、原因を突き止めて、治療する方法を見つけることが、最大限の恩返しなんじゃないのか?
「そんなこと、お前なんかにできるの?」
冷たい、無機質な声が頭の中に響く。
顔を上げると目の前には自分が立っていた。真っ白な何もない空間に、2人だけ。
自分と違うところを上げるなら、鋭い瞳に紫色の目。なにもかも諦めたような表情。
「今まで動こうとしたことはあったが、一度も行動に移せたことなんてないじゃないか」
目の前の自分は淡々と話す。事実なのが悔しい。
「それに、メイハや村人が倒れたのはお前のせいだ。お前の魔法が暴走して、この病と悪臭を作ったんだ」
……え?
この騒動が、ぼくのせいで……?
「メイハへの劣等感と、自分の無力感。それが混ざり、そこをサーレイとヴェルネ石に刺激された」
サーレイ。彼はゴーレムを従えて自由自在に操っていた。あのゴーレムは洞窟で警護をしてくれていた。いきなり人を襲うような性格ではなかった。
それが、サーレイの影響であんなことをするようになってしまったのか。
「あいつ、いい性格してるよな。弱みに付け込んで操り人形にするなんてよ」
紫色の瞳の自分は呆れたように笑って続ける。
「ま、どっちにしろお前は何もできない。俺がいるかぎ……」
そう言いかけると突然、強い風が吹く。強風が吹いたのではない。それは人によって起こされたものだった。
「まだ分からない!」
肩につくほどの長さの金髪に、小柄な体。大人しそうに見えていた彼もあんな大声を出せるんだ。
外見は違うが、その姿が一瞬メイハと重なった。メイハも、同じように前に立ってくれた。
クラハたちの間に割り込む形で入った李夏は、クラハを庇うようにして紫色の目のクラハを睨む。
「なんで助けるのさ。他人だろ」
紫色が細くなる。声色は先程よりかなり鋭くなっていた。
「なんでって、困ってそうだったから!」
「は?」「え」
2人のクラハは、李夏の回答には目を見開いた。
「全員助ける。それが騎士だから!」
突拍子のないことを言っているのを李夏は自覚しているのだろうか。とんでもない暴論だ。
でも、その暴論がクラハの中に光を作った。
困ってそうだから助ける。ダメ元で依頼した騎士団には、こんなにかっこいい人がいるんだ。
少しだけ、勇気が出てきた。少しだけ、足を動かしてみようって思った。
守られるだけじゃダメだ。ぼくも、守れる人になりたい。
目を開けた時には、もう立ち上がっていた。
立っている。足に地面の感覚がある。重力を感じる。
何年も伸ばした、一番大切にしていた髪の毛が邪魔だ。
もう下は見ない。前が、見たい!
「クラハ……!」
緑色の目がこちらをみている。李夏はこんな顔をしていたんだ。
目の前が眩しい。前髪で視界の8割が見えていなかった頃に比べて、視界は白に覆われる。
なれない光と体の高揚で、溶けてしまいそうだ。
クラハは髪を高い位置で1つに括り、しっかりと前を向いている。そこには出会ったときより明るくて、希望に満ちた、水色の瞳があった。
「……あーあ、英雄サマがいるなんて聞いてないんだけど。もう俺は用済みかな。じゃあ……」
そう言って紫色の目のクラハが消えようとしたとき、何かにがっしりと腕を掴まれる。
「いいや、いかせない!」
水色は、笑っていた。
「全員助けるんだ!もちろん君も!」
その時、白い世界にヒビが入る。そして大きな音を立てて崩れると、元の岩陰に戻っていた。
隣には、李夏がいる。
李夏は安心したように微笑んで立ち上がると、クラハに手を伸ばした。
「行くよクラハ。ハーレン先輩が待ってる」
クラハはそっと李夏の手を取る。
涙が溢れそうになったのは秘密だ。




