16話
その頃のアレクセイは、
「...やべ、倒れちゃったな」
もう動けるほど回復した体を起こし、辺りを見渡す。
軽く外をみた感じ、街の入り口で倒れた後李夏たちに連れてこられたのだろう。
洞窟には、誰もいない。しかし武器を除いた李夏とハーレンの荷物が置いてある。
2人はどこにいったのだろうか。おぼろげながら、2人のほかに人がいたような。
隣をみると、子供が横たわっていた。
暗い茶髪に、麦藁色のメッシュ。それから太いしっぽ。この人物は棚に飾っている家族写真に写っている子供のどちらかだろう。
子供はだいぶ長い間寝ているようで、ベッドにしている藁のマットはくしゃくしゃになっていた。
「(...直してやるか)」
アレクセイがマットを掴んだ途端、なにかに腕を掴まれた。
それは寝ている人物の手だった。その腕は黒い痣に覆われ、まるで何かに侵食されているかのようだった。
「うわっ!」
アレクセイは驚いてマットから手を離す。
しかしアレクセイを掴む手は離れない。寝ている人物は目を閉じたままだ。
「(意識あるのか?)」
とにかく、手を離させることが最優先だ。アレクセイは腕をブンブンと振り回し、なんとかその手からのがれることができた。
腕には、ピリピリと軽い痺れが残った。
アレクセイは安堵のため息をつく。
その時、ある違和感に気づく。あの悪臭が弱くなっているような気がした。
休んだとはいえ、ここは洞窟で厚い扉を挟んでいるわけではない。今も悪臭で苦しんでいるはずだ。
洞窟の外を見てみると、火山で黒い斬撃がちらりと写る。
そうだ。街に入ったときに、あの火山から匂いがしたんだ。
それならさっそく自分も出発しようと、また洞窟の中へと視線をやる。
...あの寝ている人物は大丈夫だろうか。見たところ、街の中に敵対するものはないため、このまま出発しても問題ない。
しかし、彼はとても苦しんでいるように見える。実際に苦しんでいるのではなく、なんとなく同じ獣人としての感だ。
それなら、防御の上がる魔法をかけておこう。李夏のプロテクトほど硬くはないが、ないよりはずっとマシだ。
「...《ガーディア・フォルス》」
起きないように小声で呪文を唱えると、寝ている人物は薄い膜で包まれる。
これで安心だろう。アレクセイはまだ少し重い体を引きずって洞窟を後にした。
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「このっ...クソ兄貴!!!」
ハーレンは怒りに任せて銃口を引く。
弾丸は風を切り、サーレイのこめかみをかすめるように飛んだ。切れた髪の房がふわりと宙を舞う。
「ちょっと!いきなりは反則だよ!痛いのはごめんなんだから!」
そう言ってサーレイはまた銃弾を放つ。二種類の銃弾が交じり合い、その場はまるで抗争の現場のようになった。
まだ動けないでいる李夏をサーレイは横目で見る。
「久しぶりー!李夏くん!」
ふわふわと浮きながら李夏に近づく。
「元気だった?」
サーレイはきゃっきゃと李夏の手をとり友達のようにはしゃぐ。
嬉しそうにするサーレイに反して、李夏はさらに顔を強張らさせた。
あの時とまったく変わらない姿と性格。そして李夏の知らない能力。まさか李夏に自分の力を隠していたのか。
……能力を隠すなんて、自分は信じられていなかったのだろうか。あれだけ思わせぶりな事を言っておいて。
「なん、で...」
李夏はなんとか声を絞り出す。
「んー?別に、カナリヤさんのやり方に賛成できなかっただけ」
そうサーレイが言ったとき、なんだか周囲の気温が下がったような。
「だってさー?あの人は全員を助けようとするんだもん。そんなことできっこないのにね。大切な人だけ助ければいいじゃん」
サーレイは暇を持て余したのか、浮きながら爪をいじりながら言う。
周りに共感を求めるが、すぐにそれをやめた。
「ま、同意してくれないんだろうけど」
今までの明るく笑顔はどこにいったのか。そこにあったのは、口角が下がって氷のように冷たい視線と、無機質な声だった。
その目は、紫色の目の状態のクラハによく似ていた。




