14話
悪臭に耐えながら着いた場所は、洞窟のようなところだった。
最低限生活できる道具に、あと鍛冶セット。ライトなどが置いてある棚には、家族写真と思われるものが飾ってあった。
そこには、茶髪で明るい水色の瞳の少年が2人いた。
ベッドだと思われる藁のマットには誰かが寝ている。 体格的に李夏より3歳ほど年下だろう。
「ここなら匂いもしないでしょ」
少年に言われてアレクセイを藁のマットに寝かす。アレクセイはどこか始めより楽そうな表示をしていた。
改めて案内してくれた少年をみる。
やっぱり長い髪で顔があまり見えない。服は大胆に前が開いたものを着ていて、体格に見合った胸板がある。
「ありがとう。ところで、顔を見せてくれない?」
自然と、息を抜いて話すことができた。たぶん、この人は無害だ。多分。
「えっ」
目の前の少年は身体をビクッと震わせた。
やはりいきなり距離を縮めすぎたか。と李夏は軽く後悔した。
「ごめん、無理ならいいんだよ」
2人の間に沈黙が流れる。
少年は何も言わない。ついさっき会ったばかりなので、自己紹介でもしようかとしたが、思ったように口が動かない。
俗に言う、気まずいという状態だ。
そんな時、バタバタとハーレンが走ってきた。
「李夏!アレクセイ!大丈夫か!」
額に前髪が張り付いている。ハーレンはそれほど急いだのに追いつけないのはさすが獣人といったところか。
ハーレンは息を切らしながら李夏とアレクセイを交互に見たあと、少年を睨んだ。
「お前、誘拐みたいな真似しやがって。面見せろ」
李夏は優しい態度から一変して、治安の悪い口調になったハーレンに驚く。今までよりイキイキして、慣れているような印象を受けた。
ハーレンはズンズンと少年に近づき、少年の前髪をかき上げると、
「ちょっ...!なにして...!」
李夏が止めようとした時、ハーレンは紫色の瞳と目が合った。
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「紫...!?」
李夏は嫌な予感がした。紫色の瞳。これは出会った頃のアレクセイと同じ目だ。
今のところ少年は落ち着いた様子だが、いつ暴れるか分からない。今のうちに距離を取ったほうが安全だろう。
「...なんだ、普通の顔じゃないか」
ハーレンはため息をついて少年から離れる。
「その目は...!」
李夏は慌ててハーレンを少年から遠ざける。ハーレンは不思議そうな様子で李夏を見た。
「紫ぃ?見間違えたんじゃないか?」
もう一度、少年を見る。かき上げたため髪が形を記憶して顔が見えるようになっていた。
しかしそこには、紫色なんてなかった。
「...あの、どうされました...?」
少年の目は、明るい水色だった。
「あ、あれ...?」
李夏の頭が混乱する。さっきは紫だったはず。でも今は水色だ。
少年は不安そうに李夏を見つめる。
「...強引に連れて来てしまってすみません。ぼくはクラハと言います。寝ているのは弟のメイハです」
おずおずとクラハは自己紹介を始めた。
まるで人が変わったように態度が変わったので、李夏の頭はますます混乱する。
「李夏さん、ハーレンさん...とアレクセイさん。皆さまのことは族長様から聞いています。依頼を受けて頂き、ありがとうございます」
そうクラハは深々と頭を下げた。
「俺こそ、さっきはすまなかった」
ハーレンも続けて頭を下げる。もちろん李夏も一緒に。
「さっそくですが、依頼の詳細を話してもいいでしょうか」
クラハは2人を座らせ、軽い飲み物を出すと、話し始めた。
「今、バールヤの街は謎の病に侵されています。その影響で街のほとんどの住人が寝たきりになり、皆苦しそうです。原因は火山で稀に採掘できる鉱石のヴェルネ石なのではと憶測が立っているだけで...」
「ヴェルネ石?」
ハーレンの問いにクラハは近くにある本棚から図鑑のような分厚い本を取り出して慣れた手つきであるページを開く。
「ヴェルネ石は魔力を持った魔法石の一つです。ただ問題があって、この鉱石に触れるとその人の魔力を暴走させるんです。だから一般的には使われていません。」
クラハが指を差したページには、紫色の光を放った少し小さめの鉱石が写っていた。
「もちろん、ぼくらも使っていません。でも鉱石自体はあのバールヤ火山から採掘できるんです」
少し離れた火山をクラハは指差す。火山からは溶岩がとめどなく流れ、ここからでも溶岩の熱気が伝わってきた。
「そして、ヴェルネ石に触れたことで起きる魔力の暴走……ぼくたちはそれを『ユーフォリズム症候群』と呼んでいます」
ユーフォリズム症候群。ヴェルネ石が原因で起こる。魔力の暴走の他に加虐性が高くなったり、情緒が不安定になることもある。
これにかかると、まずは吐き気やめまい等の一般的な風邪の症状と同じだが、症状が進むとやがて眠ったように気絶し、そのまま絶命する。
これは今のメイハと同じ状況。メイハは今より幼い頃、事故でヴェルネ石を触ってしまった。クラハも同じ場にいたのでヴェルネ石の影響を多少受けていた。
治療法はまだ見つかっていない。できるのは延命と穏和のみ。上級の魔法を使っても完治はできない。
「でっ、でも!ぼくは治療法をずっと探してきて……失敗して……」
クラハの声が小さくなる。それも無理はない。何ヶ月もかけて探しても見つかることはなかったのだから。
「それで俺らに……」
「はい。騎士団の活躍は色々なところで聞いていたので……」
そこで李夏は思い出した。色々なところ……アグロフィーユ祭にいたのはそれが目的だったのか。
そんな会話を李夏は無言で聞いていた。
先程のクラハの目の色と性格の変化。やはり怪しさは拭いきれない。
クラハの目が、また紫色になった気がした。




