13話
「さて、バールヤの街について何か知っていることはあるか?」
準備をしながらハーレンが問いかける。
「特には...」
李夏が言い、アレクセイも頷く。
「...お前たち、真面目に授業聞いてなかっただろ。1年の最初の方に地理は習うだろ」
ハーレンは呆れた顔をする。
「まあいい、バールヤの街は鍛冶が有名な所だな。近くに火山があって、火山の溶岩を使って鍛冶を行っている。バールヤの街の武器は一級品って噂だな。まぁ手を出せる価格じゃないんだけど」
ハーレンは愛用の魔銃と小腹満たしの飴をホルスターに入れながら言った。
「あとは...とても封鎖的で、基本的な情報しか世に出てないってところか」
「封鎖的?」
アレクセイが尋ねる。
「鍛冶屋ってのはみんな頑固なんだ。交易は一部の商人に任せてるし、誰も街から出ようとしない」
ハーレンはため息をつく。
「でも街に入れれば相手にしてくれるだろ。それに依頼してきたのはあっちだしな」
準備を終えた3人はバールヤの街に向けて出発する。
李夏とアレクセイは新たな土地に胸を踊らせた。
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バールヤの街の土を踏みしめる。所々火山灰が混ざっていて、どちらかというと農業に適した土だった。
小さな居住地に立派な鍛冶工房が点在していて、人気は全く感じない。いや、人自体はいるのだが外に出てきていない。
なにかに怯えているようだった。
「なんだこの匂い...!」
街に入った途端、猛烈な悪臭が漂う。
3人は思わず鼻をつまんだ。
「おえっ...」
あまりにひどい悪臭だったため、アレクセイはしゃがみこんで苦しんでいる。アレクセイは2人と違い獣人なため鼻も利くからである。
「この匂いも病が原因なんだろうな。とにかく今は安全な場所に移動しよう」
一緒に運ぼうかと考えたが、いざという時どちらも動けないのはまずいと判断し、李夏が抱えてハーレンが周りを警戒することにした。
街を出ようとした時、ひゅんと背が冷えた。
離れた岩場に、誰か立っている。その人物は大きな弓をしならせて矢を放った。
「っ……李夏!伏せろ!」
ハーレンが矢に向けて弾を放つ。魔法がこもった弾は空を切り、そして矢と相殺された。
岩にいる黒い影がこちらに向かって飛び降りる。着地と同時に砂埃が舞い、また矢が飛んでくる。今度の矢は炎を纏っている。
ハーレンはまた弾を放って相殺するが、これではらちが明かない。
「李夏、アレクセイ抱えて走れるか」
ハーレンは李夏を背に隠してそう言った。李夏は頷き、里の出口へと走り出す。しかし、それを影は許さなかった。
地面を蹴る音がした後、影は李夏の目の前にいた。そして弓を振りかぶる。よく見たら、弓の先に刃がついている。なるほど、この弓は近接攻撃もできるのか。李夏は呑気にそう考えた。
辺りが全てスローモーションに見えた。李夏は顔の前に手を伸ばし、
「プロテクト!」
ガキンと辺りを劈くような鋭い音をたてて刃が折れた。刃は地面に刺さり、李夏の前には薄青色の壁が張られていたが、李夏の集中が切れたのか壁は消えていった。
「ぐぅっ……!」
その衝撃で李夏は後ろに倒れ込む。それと同時に抱えていたアレクセイも地面に倒れる。
李夏は腰の剣を抜く。刃は光を反射した。
ハーレンも同じように影に銃口を向ける。
「ハーレン先輩……なんなんですかこれ……」
李夏が息を整えながらハーレンに尋ねる。
「そんなの俺が知りたい」
そう吐き捨てるようにハーレンは銃の金具に手をかける。
すると、影は慌てたようにきょろきょろし始める。
「ちょっと待ってください...!」
影はフードをとる。そこには茶髪に麦藁色のメッシュが入った長髪の青年...いや、少年が立っていた。かなり背が高いが。
髪を下ろしているため、顔はあまり見えない。
李夏は彼をかなり見上げているのだが、その大柄とは反して自信のなさそうた態度だ。
下...少年の腰のあたりをみると甲羅のある太い尻尾がついている。きっとワニやトカゲの獣人だ。
「ぼくについてきてくれませんか...!安全な場所知ってるので...!」
少年は李夏の腕をぐいぐいと引っ張る。
「え……え……?さっきまで僕らを殺そうとしてたんじゃ……」
李夏は混乱しながらも少年に尋ねる。少年は汗をかいて「体が勝手に動いてしまって……!」と申し訳なさそうに眉を下げる。
まあ、少年から見れば李夏たちは里の侵入者。警戒するのが自然だ。
李夏を掴む手はゴツゴツとしていて、硬く、マメもある。
この手は、鍛冶をしている。今いる場所から考えるに、間違いないだろう。
「分かった、分かったから!」
李夏は少年の手を振り払ってついていく意思を見せる。
「怪しすぎる。ついていく訳ないだろ」
ハーレンは李夏を背に隠して少年の行方を防ぐ。
「...ここのこと、何も知らないくせに?安全な場所がどこにあるのかも知らないくせに?」
少年の声色が変わった気がした。芯があって、力強い声だ。
その豹変ようでハーレンを怯ませると、再度李夏の腕を掴んで街の奥へと引っ張っていった。
もちろん、アレクセイを担いだ状態で。
「はっ!?強引に...!?」
ハーレンは慌てて李夏を追いかけた。
引っ張られながら、李夏は少年の後ろ姿をみる。それはどこかで見覚えがあった。
背が高くて、甲羅のある尻尾...
「あ」
この人、アグロフィーユ祭でぶつかったひとだ。
「アグロフィーユ祭にいなかった?」
「...この状況で普通に話すの?」
少年は振り向くと怪奇そうな目を向ける。
「あの日は事情があって通っただけ。祭りになんか行ってない」
少年はまた前を向く。李夏からは後ろ姿しか見えないが、人には言いづらい事情であることは察することができた。
李夏の腕を掴む手が、少し震えている気がした。




