10話
城下町は賑やかな空気に包まれている。大勢の人が忙しそうに歩き回っている。
忙しいのは李夏たちも大概ではない。
「こんなに人がいるなんて……」
「なにか祭でもしてるのか?」
誘った側である李夏の方が騒がしさに押されていた。一方のアレクセイは冷静にこの状況を観察している。
李夏は冷や汗をかきながらアレクセイの服の裾を軽く掴んでいる。
「うーん、なにかしてたかな……」
李夏は城下町にイベントや依頼の情報が書かれている掲示板があることを思い出した。
2人は掲示板に目をやる。どうやら『アグロフィーユ祭』という、作物の成長を願う祭が行われているようだった。
「アグロフィーユ祭?初めて聞いたな」
「確か……収穫祭みたいなものだったような」
2人で興味深そうにアグロフィーユ祭のポスターを見ていると、李夏に誰かがドンとぶつかってきた。
「わっ」
李夏は軽くよろける。ぶつかってきた人は急いでいたのか、李夏の方をちらっと見てすぐに立ち去ってしまった。
走り去った人はかなり背が高く、後ろ姿しか見えなかったが、腰に大きくて分厚い甲羅が敷きつめられたしっぽが揺れていたのは覚えている。
「あいつ、謝罪もできないのか」
アレクセイは呆れた顔でため息をつく。
「まあまあ、人混みなんだしぶつかるのも当たり前だよ。それよりせっかく来たんだしお祭りを楽しもうよ」
李夏はアレクセイの手を引いて一番の賑わいを見せる出店の方へ走っていった。
「……あっちょっと待って!これ!」
出店を見ていると、李夏が目を輝かせて足を止めた。
「これ、あの時の……!」
視線の先には、李夏が最初の町で食べたあの肉が置いてあった。
「ただの肉じゃないのか?」
あまりにも李夏が嬉しそうにしているため、アレクセイも興味が出てきた。
「ただの肉じゃないんだ。すみません、これ2つください」
会計を済ませ、李夏は買った肉の1つをアレクセイに渡した。
「これあげる。食べてみて」
「わ、わかった……」
渡された肉を見ると、確かに輝かしいオーラを放っていて美味しそうだ。
表面にまで染みている肉汁が光に反射してさらに輝きがましているような気がする。
「一思いにガブっと!」
李夏に急かされるがままに肉にかぶりつく。
その衝撃で肉汁が溢れ、口の周りについてしまった。
しかしそんなことも忘れるほど、美味しかった。触るとプニプニしていて、肉汁が染みてはいるが厚い皮なのだろうと思ったが、噛んだ瞬間に口の中で肉が弾け、凄まじい量の旨み成分が溢れだした。
「なんだこれ……こんな美味しいの食べたの、初めてだ……!」
その肉は王族でたくさんの料理を食べてきたアレクセイさえもうならせた。
李夏はそんなアレクセイの反応を見ると、満足そうに自分の分にかぶりつく。
同じく李夏の方でも肉汁が口の周りについた。
2人が食べ終わり、次の目的地を決めていると、なにやら奥の方が騒がしかった。
この騒がしさは冒頭とは違う。歓声ではなく悲鳴が聞こえた。
「魔物かな。行こう」
李夏の言葉にアレクセイは頷いた。




