側近さんは意外とかわいい!
拙作ですがよろしくお願いします。
ここは魔王城。世界を統べる魔王様の屋敷であり、魔王に使える者たちの職場でもある。
そして僕はルミナ、この魔王城で下働きをしている。つい最近魔王城の入社試験を突破して、やっとここで働くことができるようになった。魔王城には毎年入社試験があって、全世界から100万人もの人達が試験を受ける。ただ、その中で試験に受かるのはたったの50人程度。要するに超絶難しいのだ。ちなみに僕は32回落ちた。30回以内に受かればいいほうで、50回落ちるなんてこともざらにある。
そんな難しい魔王城の試験だが、ここまで志願者が多いのには理由がある。
まずは給料だ。魔王城ではどれだけ下っ端でも辺境貴族以上のお金が貰える。そして勤務条件。役職によって内容は様々だが、必ず定時で帰れるし何より社食が美味い。ただの下っ端が世界最高クラスの食事を食べられるところなんてここくらいだろう。さらに、魔法訓練施設や大図書館などの本来魔王軍が使用する施設も一部利用可能である。これはつまり、世界最高峰の施設もただで利用することができるということだ。
だが、魔王城への勤務者のほとんどがこれらとは違う理由で志願している。それは圧倒的カリスマを持つ魔王様に対する忠誠心!……もあるけど、そのほとんどはなんと魔王様の側近さんに憧れて来ているのだ。なんでかって?側近さんは…(非っ常ーーーーーに長いので割愛)。そんなわけで皆が目指す最もすごい人が側近さんというわけだ。人気が凄すぎて最近はファンクラブもできたくらいだし。ちなみに僕も入ってる。
そして僕は今猛烈に感動している。何故かって?それはもちろん側近さんが目の前にいるからだ。とはいっても大分離れてるけど。いつもは魔王城の上の階層で仕事をしてる側近さんだけど、今日は僕らのいる階に用事があるらしい。てか側近さんが来てからなんだか空気がよそよそしいな。そう思って周りを見てみると一瞬で理由が分かった。そう、皆側近さんのほうを見ているのだ。それも仕事をしながらチラチラと。結構忙しい部署もあるだろうによくそんな器用に見られるな。とゆうか、直接見られていない僕でさえ気配が分かるくらいなのにそんなに見たら側近さんが困っちゃうよ!まあ気持ちはすごくよく分かるから何も言えないけど。
そんな感じでよそよそしい空気のまま時間が過ぎて、気づけば定時になっていた。さっきも言ったとおり魔王城は定時で帰ることができるが、言い方を変えると定時に帰らなければならない。もし過ぎてしまえば上の人からこっぴどく叱られるのだ。中にはそういう人たちもいるかもしれないがもちろん僕は叱られたくないので急いで廊下を進んでいると、視界の隅に何かが落ちているのが映った。
気になってそれを拾ってみると、どうやら誰かのハンカチらしい。それもすごくかわいいやつだ。僕も似たようなのを持ってるけどここまでのやつは初めて見た。これどこに売ってるんだろ…すごくかわいいし欲しいな……っじゃなくて!!いったい誰のだろう?絶対困ってるだろうし、誰か心当たりがないか聞いてみよう。そう思った僕はとりあえずタイムカードを切って人がいそうな場所を探すことにした。
人がいそうな場所を考えた結果、僕は図書館にやって来ていた。読書スペースには大体いつもある程度人がいるので何か手がかりがあると思ったからだ。というわけで来てみたのだが、どういうわけか中には全然人がおらず、いたのは側近さんただ一人だった。すっごく話しかけづらいけど、もしかしたら何か知ってるかもだし一応聞いてみよう。
「あ、あの、すみません…」
「おや、なにかご用ですか?」
「は、ハンカチを拾っ…たんですけど、何かご、ご存じない…ですか?」
カミカミになりながらも説明してハンカチを取り出すと、途端に側近さんの表情が変わり、
「あっ…それ、私のです」
一瞬聞き間違えたのかと思った。これが側近さんの?こんなにかわいいのが?側近さんはかっこいい系の人だと思ってたんだけど、意外と僕と同じ側の人だったらしい。そんなことを思いながら側近さんを見ると、なんだかもじもじしている。もしかして趣味がばれて恥ずかしいのかな?そう思うとなんだか面白くなってきたので少しだけイジワルをすることにした。
「側近さん、すごくかわいいハンカチ使ってるんですね」
「ッ!!」
その瞬間、側近さんの顔が真っ赤になって俯いてしまった。多少は恥ずかしがってくれるとは思ったが流石にここまで恥ずかしがられるとは思ってなかったので少し焦ってしまう。
「あっ…ごめんなさい!!えと…その……僕も似たような感じの持ってて、あの…いいよねって思って!」
自分のバッグを見せつけながら話すと、側近さんは少し落ち着いてきたようだ。
「すみません、私としたことが少々取り乱してしまいました。ただ、バレたのが貴方でよかったかもしれません。他の方だと多分かなりいじられるので」
「あーそうかも、それに意外過ぎて皆びっくりしちゃいそうですしね」
気づけば最初の緊張感がなくなって、話題もいつの間にかかわいい物についての談義へと変わっていて、最後には今度側近さんと一緒にショッピングに行く約束まで取り付けてしまっていた。いやお酒入ってたんかってくらい大胆だな僕。まあでも、憧れの側近さんと遊びに行けることになったからいっか!
その日のことを考えながら足取り軽やかに僕は帰路に着いた。
***
我は魔王軍の将軍、ローガンだ。偉大なる魔王様に仇なす者への矛として、また魔王様を守る盾として日々鍛錬に勤しんでいる。そして今は、軍の兵士共を扱いているところだ。
「おいお前達!今日は側近殿が軍の視察に来るそうだ。側近殿の前でだらしない姿を見せたら……どうなるか分かるな?しっかり気合を入れておけ!いいな!!」
「は!!」
「では戦闘訓練を行う。二人一組で位置につき次第試合を始めろ!」
「は!!!」
兵士達に指示を出し終えた頃に訓練場にノック音が響き、側近殿が入ってきた。
「お忙しいところすみません、視察に参りました」
「これはこれは側近殿、お待ちしておりましたぞ。どうぞ好きなだけ見て行ってくだされ」
「ええ、ありがとうございます」
少しの会話の後、側近殿は兵士達を観察し始めた。それにしても側近殿の姿勢や立ち振る舞い、かなり洗練されているな。まあ魔王様の近くにおられる方だ。強くない方がおかしいか。
しばらくすると側近殿が戻ってきた。
「ここの兵士達はなかなかよく育てられていますね」
「いえいえ、どいつもこいつもまだまだです。これから先が不安でたまりませんよ」
「そういうものですか?ところで、皆さんを見ていると私も少々体を動かしたくなりまして。ローガン殿、よければ一戦お手合わせお願いできますか?」
「今からですか?構いませんが、お時間は宜しいので?」
「ええ、他の仕事は全て終わらせてありますから」
「な、なるほど…」
噂によれば側近殿は我々幹部の一年分の事務作業を毎日こなしているという。それを我々の所に来るまでに終わらせただと?凄まじく仕事のできる奴だとは思っていたがまさかここまでとは……
「どうしたのですか?まじまじと見つめて…顔に何かついてます?」
「い、いえ!なんでもございません。早く始めましょう」
急に声を掛けられて少し驚いたが、すぐに平静を取り戻して木の大剣を取り出した。
「側近殿も好きなものをお取りください」
「ありがとうございます」
そうして少し悩んだ後に側近殿が手に取ったのは…ナイフだった。
「本当にそれで良いのですか?」
「はい、これが一番使いやすいので」
それにしてもあまりにリーチが違いすぎると思うのだが……。それでも相手は魔王様の側近、一切の隙を見せぬように集中力を高め、緩く構える。
「それでは試合を始めます!用意!……始め!!」
開始の合図と共に体を縮め、全身の筋肉に力を込めて地を蹴った。手を抜くつもりはない。初撃で片を付けるつもりで側近殿の懐に潜り込み、大剣を振り上げた。しかし、側近殿はそこにはおらず気づけば背後に立っていて、今にもナイフを心臓に突き立てんとしていた。
「ぐっ!!!」
すんでのところで身を翻して大剣の腹で受け止めることができたが、とんでもない重さで一瞬腕が吹き飛んだかと思った。いや実際には体が大きく後方へ飛ばされた。なんとか着地することができたが、すぐさま次の攻撃が飛んでくる。強いとは思っていたがまさかここまでとは思っていなかった。
そうしてギリギリの戦いを続けているといつの間にか日が暮れてしまい、決着のつかないまま最後は立ち合いの兵士に止められて終わることとなった。
「いや~今日は中々楽しむことができました。休みができたらまた伺いますね」
「え、ええ…是非ともまたお越しください」
我としてはここまで疲れる戦いはあまりしたくないのだが……。
「ありがとうございます、それでは失礼しますね」
前線に出て戦うわけでもないのにこの強さ……本当に一体何者なのだと思考していると、目の前でとんでもないことが起こった。
「あっ……」
「……は?」
側近殿がコケたのだ。それも何にもないところで。地面に向かって盛大にダイブするところには先ほどまでの威圧感はなく、情けない悲鳴は空気に溶けて強者の気配の一切を消し去った。
「えっあっちょっその……忘れてください……」
「「「あっ…………はい」」」
顔を真っ赤にしてオドオドし始めた側近殿を見るとどこまでもかわいそうで我々は頷くことしかできなかった。それにしても側近殿、気配がなくなるとなんというか……急にかわいくなるような、どこからか庇護欲が湧いてくるようなそんな感じがして、我はますます側近殿のことがわからなくなった。
***
余は魔王、この世界を統べる最強の覇者であり、世間からは良い為政者として知られている。そんな余だが最近悩んでいることがあるのだ。それはずばり……
「側近が可愛いぃぃぃぃぃいい゛!!!!!!」
そう、側近が可愛いのだ。そう。すっごく。かわいい。なんか褒めたらすぐ照れるし見た目クールなくせに最近知り合いと出かけるからって有給出してたけど帰ってきたときの服マジで可愛かった何なのあれ余のこと誘惑してんの?いっつも男みたいにめっちゃクールぶってんのにすぐメス出してくんのやめて?
心を揺さぶらないで?
「魔王様、何をお考えになってるんですか?」
「そりゃもちろんお前のことだ。お前が最近可愛くて仕方ないってことを考えてるんだ。あぁそうだ、ベルには内緒だぞ?あいつは恥ずかしがり屋だからな。こんなの聞いたら顔真っ赤で仕事できなくなっちまうから…な……」
……あれ?余は今誰と話してるんだっけ?そう思って声の主の方へ顔を向けると、そこには茹でだこのようになった側近もといベルがいた。
「うおっ!?いやあの、その、これはだな……」
「……失礼します!!!!!」
……行ってしまった。いやそんなつもりはなかったんだよ?まじで。ただまあなんというか……かわいいよね。かわいそうはかわいいってやつ。犯罪だと思う。
あまりの可愛さでやる気が充電されたので仕事でもしようか。余自体はこんな感じだが実際は中々忙しいのでな。あーあと、ベルの機嫌を直す策を考えないとな……。
***
まずいまずいまずいまずい!!最近仕事でボロ出しすぎ!!!いつものクールな私はどうした!?さっきだって魔王様の前なのに急に逃げ出しちゃったりして!いやあれは割とよくあることだけど……。他が良くない!ハンカチ落としちゃったり将軍さんの前で大コケしたり!!はぁ…もっと気合い入れないとな……。よし!今日は息抜きに推しぬい買いに行くぞー!!!
側近さんのかわいい受難はつづく……多分。
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