12月2日 釜めし 【14日目】
女将はコンロの上に置いてある少し大きめの釜をじっと見ている。
釜は火にかけられており、すでに木のふたからは蒸気が漏れていた
「女のカンってやつかしら」
そう呟きつつ、ふふっと笑った。
少し時間が経ち、釜めしができてコンロの火を止めたと同時ぐらいに扉が開いた。
「ようやく来れた!!」
開いたと同時に男がバタバタと入ってくる。
「女将さん!お久しぶりです!!」
「ライルさん。いらっしゃい」
ライルは女将にあえて嬉しいのか、笑顔がはじけていた。
薬指にはきらりと光る指輪がついていた。
そして扉の方を向いて声をかける。
「ママ!この店だよ、早く!」
開いていた扉からベビーカーを押して女性が入ってくる。
「はいはい……ってここは!」
「スフィアさんもいらっしゃい」
「女将さん。ホント、久しぶりね!」
スフィアも女将にあえて嬉しいのか、満面の笑顔になる。
薬指にはライルと同じ形の指輪がついていた。
「お二人とも……いえ、三人とも店の中にお入りくださいな」
女将はカウンター側まで来て、四つある椅子のうち二つ片づける。
スフィアはその場所にベビーカーを置いた。
「ありがとうございます、助かります」
「いえ……とってもかわいい赤ちゃんですね」
ベビーカーを覗き込んだ女将は笑顔で話す。
ベビーカーの中ではまだ立つこともできないであろう赤ちゃんが、すやすやと寝ていた。
「女の子でウルっていうんです。さっきまで起きてたのですが、いつの間にか寝てしまったようで」
「ウルちゃん、とってもかわいいですね」
「でしょ!」
スフィアはとろけるような笑顔でニコニコする。
「おねんねしているのであれば……せっかくなんでこれを食べちゃってください」
カウンター奥に戻った。
二人はカウンターに座る。
座ったのを見た女将は、すでに加熱を止めていた釜を二人の前に置く。
その後にお茶碗としゃもじ、お茶を二人に渡した。
「今日は……おごりってことにしちゃいましょう。
どうぞ食べてください。赤ちゃんの相手で普段はとっても忙しいと思うので」
「何から何まですみません……まだ、何も話していないって言うのに。
ママ、いつも大変だと思うし先に食べな。俺がウルを見ておくから」
「いいの?」
「もちろん。こういう時だけでもパパらしいことさせてくれ。
あと女将さんとも少し話したいし」
「わかったわ、ちょっとお願いね」
そう言うと、スフィアは釜めしのふたを開く。
白い蒸気がブワッと立ち込めた。
すると、色鮮やかな赤い色の魚が入っていた。
「これは……」
「鯛釜めしです。私の師匠から、良いことがあったときはこれを食べるよう、
習ったもので」
「……どうして良いことがあったってわかったのですか?
とっても久々にこの店に来たって言うのに」
話していたスフィアと共に、横にいるライルも不思議そうな顔をしている。
ふふっと笑ったのち、笑顔で女将は返事をした。
「女のカンです!あったかい間に食べてください」
「えぇ。ありがとう」
スフィアは鯛をほぐしながら食べ始めた。
それを横目で見ていたライルは、ウルのことを気にかけつつ、女将に話す。
「どこから話せばいいのやら……
5年ぐらい前にこの店を飛び出したあと、ママ……スフィアに思っていることを
打ち明けることができたんだ。そしたら、同じことを思っていたことがわかって」
「ホント、もうちょっとで帰る所だったわよ……」
鯛めしを頬張り笑顔なスフィアが口を尖らしながらいった。
ライルは苦笑しながら謝る。
「ごめんって。で、人間と魔族の戦争をどうにか食い止めようとして、
俺の仲間……シア、アルト、ストレングスに相談したら、賛成してくれて」
「私の方も、ノースとネルに言ったわよ。すっごく笑われたけど……」
二人とも何か恥ずかしかったことを思い出したのか、顔を少し赤らめる。
「まぁそのあとは本当に色々あって、戦争を止めて人間と魔族の和平が成立した。
ちょうどそれが1年前だから……4年は頑張っていたってことか」
「そうよ。私との結婚もその間はずっとはぐらかされてたんだから」
「仕方ないだろ!人間と魔族が戦争しているのに、結婚はできないし」
「むー」
顔を膨らませたスフィアはぽかぽかとライルを叩く。
ライルは守ることなく受け止めている。
「痛いって……まぁ、そのあとは結婚して、つい半年前に子供ができたんだ。
で、その間ずっとこの店に来たいと思っていたんだけど、いつまでたっても扉が出なくて……」
「ずっと、ある店に行きたい!って言いながら、何の店かは教えてくれないから……」
「仕方ないだろ。この店って隠れ家なんだからそんな簡単に言えないし」
「それはそうね」
「まぁ、言って頂いても良いですが、扉がどなたの前に出るかは私もわからないので」
苦笑しながら女将がフォローする。
「で、ここに来たかった理由って言うのが……」
ライルはポケットに入れていた青い手帳から、ボロボロになりつつもテープなどで補強して形を保っている紙を取り出し、女将に見せる。
「いつ扉が出るのかわからないから、ずっと持ってたらボロボロになっちゃった……
白い紐についていた、この紙について教えてくれないか?」
女将は首を横に振ってこたえる。
「それはライルさんの持ち物なので、私が教えることは何もないです」
「そうですか……」
少し残念そうに肩を落とす。
女将はそんなライルに尋ねる。
「因みに、その紙にはなんて書いていたのですか?」
「見るかい?」
ライルは紙を女将に渡す。
女将は慎重に受け取り、紙を開いた。
~~~~~~
『この手紙を開いた方へ』
『恐らく、こんな変な手紙を開くぐらい悩み、苦しんでいる事じゃろう』
『儂から言いたいことはたった一つじゃ』
『悩むぐらいなら今すぐ会いに行きなされ』
『もしかすると、会ったことで苦しむことが増えるかもしれん』
『じゃが、会わなかった場合、死ぬまでその判断を後悔することになるじゃろう』
『苦しむことや辛いことが増えても、やらなくて後悔するよりはマシじゃ』
『だから……今すぐ会いに行きなされ』
『しがない老人』
『urialより』
~~~~~~
女将は紙を閉じ、一呼吸したのちライルに返す。
「本当に良い内容でしたね」
「そうなんだ。このウリアルという爺さんはなぜか俺の困っていることがわかっていて、アドバイスをくれたみたいなんだが、お礼がどうしても言いたくて」
ライルは少し寂しそうな顔をする。
「おぎゃあ!!!」
「起きちまったか」
ライルは横に置いていたベビーカーから赤ちゃんを取り出す。
「よしよし!」
ウルを抱っこしてあやす。
「そうそう、ウルって名前もこの爺さんの名前からいただいたんだ」
「あなたが譲らなかったからね……パパ、ご飯食べて」
鯛めしを食べ終わったスフィアがライルからウルを受け取りながら話す。
「そりゃ、そうだろ。俺の恩人だぞ」
「ハイハイ。何度も聞きましたよ」
そう言いながら、ウルを手慣れた手つきであやしている。
「ったく……俺も釜めしを頂くとするか」
「そうですね。ぜひご賞味くださいませ」
ライルは釜めしを一口食べる。
「やっぱ、この店の料理は旨いな」
「ありがとうございます」
女将は笑顔で答えた。
◆◆◆
ここは異世界小料理店「隠れ屋ポプラ」
ポプラの花言葉は「勇気」「度胸」
そして「時間」
女将はその濃密な日々を料理を作って楽しんでいる。
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