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11月27日 焼きおにぎり 【9日目】

誰もカウンターにはいないが、

店内はパチパチと炭がはじける音がする。

女将はご飯の準備のためか、ご飯を三角に握っていた。


カラン


ドアが開く。

老人が一人立っていた。

杖をつき、少し腰が曲がっているように見える。


「女将さん、お久しぶりじゃ。席、座っていいかのぉ」

「もちろんです、ウリアルさん。どうぞ」

「あぁ、ありがとう」


ウリアルはニコリとして杖をつきながら店に入る。

そして、何か探し物をしているのかキョロキョロしつつ、椅子に座った。

女将はそれを不思議がりつつも、お茶を用意して渡す。


「はい、温かいお茶です」

「あぁ、ありがとう」


ウリアルはお茶を受け取ると、一口飲む。


「うまいのぉ……で、今日のメニューはなんじゃ?」

「今日は焼きおにぎりです」

「やきおにぎり?おにぎりを焼いただけか?」


ウリアルは少しだけ寂しそうな顔をする。

ただ、すぐに顔を横に振った。


「いかん、いかん。前回、だし茶漬けを食べたときに、

 色々学んだというのに……歳を取るのはいかんのぉ」

「ウリアルさんはまだまだ若いですよ」


女将はニコリとしてウリアルに話しかける。

ウリアルは笑顔になる。


「ほっほっほ。そうかのぉ……で、焼きおにぎりはどこじゃ?」

「それはですね……」


そう言うと、カウンターの奥から小さな七輪を出す。


「今から、目の前で焼くんですよ」

「なんじゃと?」


ウリアルは目をぱちくりした。


「焼くだけならフライパンか何かで焼けばよいのではないかのぉ」

「いえ、炭で焼くとよりおいしくなるんですよ」


女将はニコリとして、すでに温まっている七輪の網の上に

おにぎりを置いた。



ジュー



おにぎりの焼ける音が店の中に広がる。

ウリアルはその音に聞きほれたのか、黙って女将を見ていた。



少し経ち、女将はおにぎりをひっくり返して焼く。

ウリアルはもう食べれるものだと思い、箸を持った。

ただ、女将は奥から醤油の入った小皿とはけを持ってくる。


「女将さん、それは……?」

「これは、焼きおにぎりの味付けに使うんですよ」


そう言うと、はけを醤油に浸し、おにぎりに塗り付ける。

すると、醤油の焼けたいい匂いが店一杯に広がった。


「すごくいい匂いじゃ」


ウリアルはその匂いにうっとりしながら、女将を眺めている。

女将は焼けたおにぎりを皿に移し替えてウリアルの前に出す。


「どうぞ、焼きおにぎりです。熱いのでお気をつけて」

「あぁ、ありがとう」


ウリアルは箸を取り、焼きおにぎりを少し切り分けて食べる。


「うまい……のぉ。醤油の香りがたまらん」


ウリアルはしみじみと話す。

それを聞いた女将は笑顔になる。


「お口に合ったようで。ありがとうございます」


ウリアルはおにぎりをペロッと一つ食べきってしまう。

そして女将に話す。


「女将さん、お代わりは頂けるかのぉ」

「わかりました、ちょっと待ってくださいね」


そう言うと、女将は再度おにぎりを焼き始めた。

その焼いている音を聞きながら、ウリアルは再びキョロキョロし始める。

そして、時計のある方に何かを見つけたのか、じっと見ている。

それに気づいた女将は尋ねた。


「どうかしましたが、何か探しておられますか?」

「いや……何もない。気にしなくてよいぞ」


ウリアルは頷きながら、女将の方を向く。

そして、女将の後ろに何かを見つけたのか、尋ねる。


「女将さんの後ろに少し並べてある日本酒の瓶は何じゃ?

何か紐のようなものがついておるが……儂も飲めるのか?」


焼きおにぎりの焼き加減を見つつ、女将は答える。


「すみません、これはこのお店の常連さんの飲み物になります。

 なので、ウリアルさんにお出しすることはできません」

「そうなのか……因みに、紐は何を表しておるのじゃ?」

「それは、どのお客さんの物かを示すものです。

 ただ、私しかわからないようになっています」


ウリアルは日本酒の方を眺める。


「赤、青、緑、黄、紫、黒……合計6本か」

「そうですね。そこまでお客さんが多くないので、これで全部です」


女将は焼きおにぎりに醤油を塗りながら答える。

ウリアルはポケットからペンを取り出し、

自身の手のひらにすらすらと何かを書きつつ、不思議そうに話す。


「そうなのか。もっと人気なお店かと思ったがのぉ」

「大人数だと、私一人では対応できないので」


女将は苦笑いしながら、出来立ての焼きおにぎりをお皿にのせた。


「はい。お代わりの焼きおにぎり、できましたよ」

「ありがとう。頂くとするかのぉ」


焼きおにぎりを受け取ったウリアルは

にこにこしながら、焼きおにぎりにかぶりついた。

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