表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/20

17.グロスタープレイス3

 ソファの肘に腰をかけ、ルークは優しーくフレディの髪をなでた。嫌がらせでも腹いせでもなく、芯からまろやかな気持ちからの行動だった。


 そんな行動も気持ちの方も、不思議に思っている自分だっている。けれどこんなことができるなら、こんな気持ちになれるなら、酒の神の偉大さを褒め称えてやってもいい。


 フレディにも想いは伝わったのだろう、抵抗の素振りを見せず、年下の従弟の腕の下で、ぼそりとこんなことを言う。


「少し悔しかったんだ。君といる時が、きっと一番素直なんだよ。思うとおりにふるまっている。気兼ねも遠慮もないんだ」


「少し」


「少しだよ。あくまでも」


「そういうことにしといてやろう」


 ルークはソファから飛び降りた。ふらつかない自分の足に満足し、にやりと笑う。着けたままのマントの下に手を入れて、どすんと絨毯に座り込んだ。


「オレがフレディだったら、ずっと楽しく遊び続けてやるのに。もちろん、これだって贈れる立場にあるわけだし、オレなら」


 口笛のファンファーレは予定よりも長く必要だった。やっと指が胸のポケットを探しあてる。すべらかな感触から伝わり、駆け抜けるような石の秘力。


 現れた姿に、フレディは目を細めた。ランプの淡い光を集めも弾きもせずに、それはやわらかに照らされていた。


「それが」


「そう、狙いはこれだったんだよ。イエローパールのネックレス」


「素晴らしい細工だね。かなりの職人の会心の出来と言ったところかな」


「そのとおり、銘がついてる。『倖』。三連作の真ん中のシロモノで、前には『瞬き』、後には『嘆き』。なんだかわかる?」


「たいていの悲劇には当てはまりそうだ。ほかの二つもここにあるんじゃないだろうね」


「これだけだよ。残りの二つは、あー、エルドリッジの思い出部屋かもね」


 眉を寄せるフレディを見てわかった。彼は知らないのだ、メアリーアンの育った家に存在する、彼女の母親の秘密の部屋のことを。


 湧き出す優越感をしつこいと思いながら、しかし、ルークは問いかけを無視して説明は省いてしまった。どうせいつかは話を聞くのだろう。この程度の優越くらいは目をつぶれ。


「三十年前に、ロザリンド・シモンズは、アーサーにこれを贈ったんだ。母親から継がれた、ジュリエッタの連作のうち、もっとも輝かしいネックレスをね」


「贈った? どうして」


「犯罪初心者のドラゥフトに、だよ。調べたんじゃないの?」


「あのふざけた記録は、インデックスを作るべきだよ。途中で投げ出した。君たちのどちらかから聞きだそうと思って」


「意外と大雑把なヒトだよね、フレディって」


「だんだんと、こんな風になったんだよ。自分でも時々驚いてる」


「その方がずっといいよ。そんな感じでこれからも変わっていってよ」


「いやそれは……できれば……」


 それは破滅行きの道に思える。あるいは突き抜けた幸福への道行きか。


 棄却。この考えは良いわけもない。


「で、ネックレスの話は?」


「センチメンタルな話だよ、聞いたら後悔するような恋愛寸劇。寸劇の名に相応しく、時間はほんの十五分。鐘と鐘の間くらい」


 こほんとわざとらしい咳払いが部屋に落ちる。


「その日のドラゥフトは、あ、若かりしドラゥフトね。初期も初期で駆け出しの頃のこと」


「栄光の父親へのフォローはいいから、先を続けて。聞くまでもなく、よーくこの身に沁みているから」


「へいへい。つまりドラゥフトはね、難攻不落と言われているモントローズの屋敷に忍び込んだんだよ。んで、まんまと失敗。今と同じ、鋼鉄の侯爵が守り固めてるあんな城、駆け出しの若造に崩せるはずがないのにさ」


「崩せたらさそがし名のあがることだろうけどね」


「それそれ、名をあげようって、手っ取り早く。ま、敢え無く失敗して撤退するも、もちろん侯爵の私設部隊にロンドン中を追い回された。そして逃げ込んだ先が、あちらのシモンズ邸だったってわけ。真夜中だってのになぜか庭で、怪盗は娘に遭遇してる。追われ追われて傷まで負うも、されど麗し姿を目の当たりにせし娘、見えぬ糸に引かれしように、扉開いて招き入れる。男はマントに影を溶かし、内には光と輝きし」


「ルーク、ルーク。頼むから、ふつうに」


「あれ、そう?」


「詩は苦手なんだ、昔から。未来永劫」


「そんなにはっきり言われたら勘弁してやるしかないな。んでは簡潔に言うとー」


 またグラスを口にと運ぶルークの動きを、フレディの目は怪しそうに追っていた。少年の方はそんなことには、まるで気付かず飲み干して、次のためにと注ぐ動きを、極めてスムーズに行いながら、



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ