表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Guardian  作者: 天宮 碧
9/35

幕間 レオナルド2

レオナルド視点2話目です。

次からはイリアスに戻ります。






それから何度か王宮を抜け出し、度々ヒーローに会いに行った。毎回次の約束をして。



ある約束の日。


いつものように庭まで入った俺が見たのは、警邏(けいら)が慌ただしく友の家に出入りする姿だった。


何があったのだろう。


裕福な商人の家のようだったから、強盗にでも襲われたのだろうか。


あの子は、大丈夫だろうか。


唯一の、俺の味方。優しい、俺の英雄。


見つからないように気をつけながら背伸びをしてヒーローの姿を探す俺の耳に、警邏の話し声が届く。


「あの商人、やけに羽振りがいいと思ったら、あんなもん扱ってたのか」

「挙句一家で逃亡か。人生転落するのはあっという間だなあ」


頭が真っ白になる。


(何?なん、で、え?逃亡?あんなもん?)


動揺し後退る足が、木の枝を踏み、乾いた音が鳴った。


「誰だ!?」


見つかった。


慌てて逃げようとするも7歳の子供の足ではすぐに追いつかれ、腕を掴まれた。

街におりていることだけはバレないように、と予め被ってきた帽子の縁を引っ張り顔を隠す。


「坊や、どこの子だい?ここは今、おじさん達が歩き回っていて危ないから、近づいてはいけないよ」

「あ、あの、おれ、あの、ここの家の子と、友達で⋯⋯、なにか、あったん、ですか」


どもりながらもそう言うと、話しかけてきた警邏は納得したのか、同情したような声で言った。


「ああ、ここの息子と。⋯⋯残念だけどね、坊や。もうその子はここにいないんだよ。おじさんたちも一生懸命探しているんだけどね」


あの子が、もう居ない。

その言葉に絶望しつつも、息子という言葉に引っ掛かりをおぼえた。


「むすこ?」

「あれ、違ったかい?ここにいる子供は家主の息子だけだったはずだけど。使用人も何人か雇っていたみたいだし、俺たちが把握してないだけで使用人の子供もいたのかな。まあ、雇っていた使用人たちも最後の賃金だけ渡されて、逃げたみたいだけどな」


最後の方は独り言のように呟いていただけだったが、俺の耳は正しくその音を拾い上げた。


あの子は庭にいた。使用人の子が親の雇い主の庭で何時間もお喋りするとは思えないが、もしかしたら商人の家とかだとそれが許されるのだろうか。


一人称と話し方を聞いて女の子だと思ったが、本当は男の子だったのだろうか。

あの子の年代を考えると声の高低では判断できない。


どっちにしろ、あの子はもう居ないらしい。


俺は足取り重く王宮へ向かった。


その後調べてみると、あの家の家主は危険薬物の類を仕入れ、闇市や貴族に流していたらしい。

禁止されている薬物を仕入れ、しかも国の運営に携わっている貴族にまで流通させるのは国家犯罪と同義だ。

家族も使用人も逃げ出すはずだ。

そんな悪評のある家にいたと知られたら世間の目は厳しいだろう。

家主は捕まえたが、どういう訳か刑が執行されることもなく、今も牢に繋がれ生き永らえている。


あの子がいた家には、どれだけ記録を漁ろうと、家主が子爵家から娶った正妻と愛人、それと正妻の息子、成人した使用人が3人しか存在しなかった。

では、つい最近弟が生まれたと言っていたあの子は誰なのか。


立場が、必要だ。

今の立ち位置で集められる情報は少なすぎる。

もっと警戒心を持たれず、人の関心にするりと入り込めるような。

情報を渡しても扱えなさそうなくらい馬鹿な、それでいて取り込めば益になるような。


そうして俺は、軽薄な馬鹿王子を演じた。


それでも、そこまでしても、未だに手掛かりのないまま、10年が過ぎてしまった。


情報自体は集まったが、10年もの月日をかけても、あの子に該当しそうな情報はなかった。

もし、もし、イリアスがその息子だったとするならば、頻繁に庭に来ていたあの子を覚えていないだろうか。

あの事件の際、あの子が誰かに逃がしてもらったのだとすれば、一使用人が勝手に入った子供を不問として逃がすのは無理があるだろう。となると、それは正妻か愛人か、息子か。


あの子を見つけてどうしたいのかは自分でも分からない。

安心したいのか、詰りたいのか、もう一度友として語らいたいのか。

あの優しい日々を、あの憧れを、取り戻したいのか。


(苦しい)


あの日から俺は、再び孤独になってしまった。


マリアもシオンも、よく尽くしてくれる。

でも、どうしたって彼らは臣下だ。

あの子が味方に、友達に、なってくれた瞬間、対等で自由な一人と一人として接してくれたあの優しい衝撃に、どうして代えられよう。


(ああ、でも1度だけ拒絶されたことがあったな)


優しくて強いあの子が、唯一聞き入れなかったこと。


(確か、顔を見せてくれと言った時だったか)


何故あんなにも頑なに顔を見せなかったのか。

あの子にこんなにも執着しながら、あの子を何も知らない。


(俺の世界には、あの子だけなのに)


一時の娯楽に逃げるのは容易いが、それでは満たされない。

ここ最近は新入りの少年で遊んでいるが、直に飽きてしまうだろう。今までもそうだった。


勝手に期待して、結局自分を対等に見ない相手に勝手に失望する。

馬鹿王子でも王族と肩書きがつく以上仕方の無いことだ。


今はまだ王族という身分の者に慣れていない彼は割と奔放に振舞ってくれるが、これからどうなってしまうのか。


(せいぜい少しでも長く、楽しませてくれるといい)


もう期待はしないから。


ちなみにレオナルド少年は授業をバックれていた模様。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ