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Guardian  作者: 天宮 碧
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5. 新人教育(?)









それからイリアスは、シオンやマリアにくっつき、王宮の生活や仕事に慣れていった。


「いいですか、洗濯は服によって洗い方が違うので、服の装飾や布地、色にも気を付けて種類を分け、丁寧に洗うのです。この生地は弱いのでやさしく、これは色が移りやすい染料ですので……」


「イリアス。ちょうどいいところに来ました。書類の整理の仕方を教えようと思っていたのです」


「そうそう、お上手ですよ。そのように銀食器を磨くのです」


「今日は殿下や大臣への取次の仕方を教えますね」



………………。





「……俺、用心棒として雇われたはずなんですけど、本来の仕事をまったくやっていない気がします」



そうなのだ。


雇われてから一か月、ずっとマリアかシオンの側でいったいどの役職の仕事なのかわからないものを延々とやらされている。


そしてもう一つ気になること。


「何故俺は、一か月もここにいてマリア様とシオン様、殿下のお三方のお姿しか見ていないんです?」


おかしすぎる。


今日も今日とてよくわからない仕事を終わらせた晩、マリアとシオンがそろっているところを狙って聞いてみた。

マリアとシオンは、互いに顔を見合わせてから、す⋯⋯っとイリアスから目をそらした。


「何故、俺は、お三方以外の姿を見ることもなく、業務外の仕事を、しているのです??」


言葉を短く切りながら、強い口調で迫ると、二人は何やら押し付けあうような目線を交わしたのち、シオンが言いづらそうに「あー⋯⋯、それはですね」と話し始めた。

シオンが負けたらしい。


「私たち以外、この宮にいないのです」


「は?」


「私たち以外、この宮にいない」


シオンは再び同じフレーズを繰り返す。


どういうことだろうか。


「それは、いまが終業時間で、ほとんどの人が自宅からの通勤⋯⋯ということですか?」


わかっている。

それなら日中に誰かしらと遭遇するはずだから、この解釈は自分のした質問の回答に当てはまっていないなどということは。

第一、この2人も通勤しているため、他の人がいるなら、終業時間とはいえ、その人たちもちらほらいるはずである。


「違います。

 そもそも、殿下に仕える人間が、私たち三人しかいない、という話です」





「⋯⋯⋯⋯はいぃ?」


衝撃の事実である。

何故王族、それも皇位継承権の一番高いはずの第一王子に仕える人間が3人しかいないのだ。



「あなたの実際の業務は護衛ですので、側にいても怪しまれぬよう、側仕え見習い、という形で雇うことになっているのですが、如何せん人手が足りていないので⋯⋯」


(側仕えでも色々できるようになる必要性があるわけか)


なるほど、紅茶の出し方や雑務の仕方まで諸々やらされたわけである。


イリアスは四六時中レオナルドの傍にいることを前提としているが、貴族としての責務や私生活もあるであろうマリアやレオンはそういう訳にも行かない。

1人でも問題なく仕事を回せるようになれと。


(できるかそんなもん!!)


そもそもこのだだっ広い宮の管理やらレオナルドの世話やらを2人だけでやっていただけでも驚きなのだ。

この2人が常人なみの能力しか持っていなかったなら、到底できないことである。

それを、1人で。

呆れなのか怒りなのかよく分からない感情で身体を震わせるイリアスにさすがに思うところがあったのだろう。


「あー⋯⋯、慣れれば大丈夫になりますよ」


そんな超人になってたまるか。







「イリアスの調子はどう?」

「とても⋯⋯、頑張ってくれていますよ、ええ」


本当に。

こちらの涙を誘うような健気さである。


「この宮に3人しかいなかったことに絶句しておりました」

「だろうなあ」


面白がるような口調で同意する主。

シオンは心底後輩を可哀想だと思った。


「仕事の覚えも早く、マリア殿も私も助かっております」


「逸材じゃないか、良かった良かった」


本当にはっ倒したい、この王子。後輩のためにも。


「あ、今はっ倒したいって思っただろ」

「よく分かりましたねえ。もっと人を雇えばマリア殿も私も余裕を持って仕事が出来、イリアスも全ての仕事を覚えるなどという過酷なことをせずとも良いのですが⋯⋯」

「それが出来ないのはお前が一番よく知っているはずだけど」


シオンは言葉を飲み込む。

その通り、幼馴染である自分が一番、この王子の厳しい環境を知っている。


「⋯⋯言ってみただけですよ」


この人には、味方と呼べる人間が居ない。


幼馴染であるシオンや元々乳母(ナーサリー)でそのまま侍女として雇われたマリアでさえも、レオナルドは信頼していない。比較的マシと言うだけだ。

側妃の子として生まれたが、自分の子である第二王子を王にしたい王妃から邪険にされ、第一王子だからと担ぎあげる人間はいつ手の平を返すか分からない。


飄々として掴みどころのない軽薄な馬鹿王子。


それがこの王子の纏う防護服だ。


「イリアスの教育はどのくらいまで進んでいる?」


レオナルドの声に意識が引き上げられる。


「おおよそは終わりましたが、ダンスや挨拶の仕方などはまだです」


王子の傍に侍るのならば、ある程度の社交は必須だ。


「わかった。では、今までのお前の仕事を全て引き継ぎさせろ」

「それは、どういう⋯⋯?」

「そのままの意味だ。お前には別で頼むことがある。どの道、イリアスを側仕えとして常に置くならお前が一緒にいるのは不審だ」


「⋯⋯畏まりました」


不安しかない。


初対面の人間に対しては殊更奔放に振舞う癖のある主。

飲み込みが早いとはいえまだ教育が終わっていない、この宮である意味1番()()()後輩。


シオンは胃痛の予感に堪えきれぬ溜息をつき、主に問いかけた。


「それで、私は何の任を?」







「――――――イリアスの家の調査」






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