25. なんだコイツ
出落ちです。
「やあやあ!僕を呼んだね?そうだろう?呼んだね!
そうとも!!この僕が天才魔道具師、セシリアさ!!
どうぞ親しく、懇ろに、セシーと呼んでくれたまえよ、少年!!ハーッハッハッハ!!」
うるさい。
何だこの……なんだコイツは。
レオナルドに椅子に座るよう促されて、居心地も悪くじっとしていると、シオンが「セシリア様がご到着なさいました」と伝えた。扉を開けると同時に部屋に飛び込んできたと思えば、開口一番このセリフである。
内密と言ったではないか。こんな目立つ奴を連れてきても大丈夫か?
あからさまに胡乱げな顔をしてセシリアとやらを見るイリアスを主はくつくつと喉の奥で笑う。
「驚いただろう?こいつは見た通り変なやつだが、腕は確かだ」
「セシーと呼んでくれたまえ!」
(さっきも聞いたよ)
こいつ呼ばわりしたレオナルドに向けすかさずセシリアが言う。
「初めましてだね、少年!僕の作った適性検査機を使うのは君かな?」
「はい。そうですけど……」
セシリアの勢いに押され若干仰け反るイリアスに近づき、鼻がくっつくのでは無いかと思うほどの距離から目を覗き込まれる。
セシリアの無造作にまとめられた赤毛のくせっ毛が頬をくすぐり、イリアスは少し目を眇めた。
「いやあ、これはこれは……」
女性であるイリアスから見てもセシリアは美しい女性で、彼女から至近距離で覗き込まれその大きな猫目に映る自分を見ていると、ソワソワした変な気分になる。
「これは良い拾い物をしたねえ、レオナルド。どこで見つけたんだい?」
先程よりも薄くなった笑みを顔に張りつけ、主の方を流し見たセシリアに思わず身構える。
殺意という程では無い。これは……嫌悪、だろうか。軽蔑にも似ている感情だ。彼女は女性だが、魔道具師としてこの宮に入ってきているからにはなにか人を害することの出来る道具を持っているかもしれない。
イリアスはいつでも動けるよう、そっと腰を浮かした。
「たまたまそこら辺で見かけたから連れてきただけだ。なにか?」
「……いいや。気になっただけだよ」
そう言うと、彼女は再びイリアスの方を向いてパッと笑顔を作った。
「話し込んでしまって済まないね。今日の主役は君だってのに!
さあさあ、僕の素晴らしい魔道具とご対面だよ!」
テンションの差に戸惑うイリアスを置いてけぼりにして彼女は持ってきていたやたら大きな鞄の中をごそごそと探り始める。
「よし!これと……これだな!君、少々手伝ってくれたまえ」
鞄とは別に持ってきていたトランクも開け、その中には敷き詰められたクッションと、そこにピッタリと嵌るように詰められたガラスの瓶が入っている。滑らかな肌を持つ瓶の中にはキラキラと輝く何色もの粉や液体が入っており、その中からセシリアは薄紫色の液体と深い青色の粉を取りだし、おもむろにイリアスへと手渡した。
「これは?」
「所謂魔法薬の類なのさ!これを自ら入れてもらうことも大事な手順なのだよ!ささ、こちらにずずいといれてくれたまえ!」
どこからか、また別の瓶がでてきた。今度は金で作られた、彫られた紋様が美しく浮かぶ器である。
「ど、どれくらいでしょうか」
豪奢な装飾の割にポイと投げ出すように置かれた器を前に戸惑うイリアスにセシリアはニッカリと笑う。
「好きなだけ入れるがいいよ。それも個人差ということで検査に反映されるのさ!その瓶の中身は君が入れているあいだ尽きることは無いから安心して垂れ流してくれたまえ!その魔法薬は一人分しか入ってない、されども一人が使うぶんには無限のものなのさ!」
なんとも不思議なものである。
イリアスは緊張しながらまず液体の方を手に取り、とぽとぽとこぼさないように狭い瓶の口へと注ぎ入れる。
(どれくらいだろう、この中に粉も入るんだよな……)
でも、
(まだ、行けそうな気がする。もう少し……)
結局イリアスはガラス瓶の中には到底収まらないであろう程の量を入れた。
不思議なことに、それほど大きくない金の瓶は底が見えないまま、溢れてくるようなことは無い。
「さて、次はこちらだね、どうぞ」
手渡された粉の方も入れたが、こちらはちょうどガラス瓶の大きさ相当の量を入れて終わった。
セシリアは空になったガラス瓶を元の場所に丁寧に片付け、トランクと鞄を持ってイリアスから離れた。どういう訳か、先程まで興味深げに見ていたレオナルドも同じように離れている。
「あの……?」
「気にしないでくれたまえ、少々障りがあるのだよ。そちらの金の瓶をぎゅっと抱きしめて検査は終わりだよ。僕が許可をするまで決して離さないでいてくれたまえ」
飄々としていたセシリアが緊張しているように見えるのは気のせいだろうか。
イリアスは不安になりながら金の瓶をそっと胸の前で抱きしめた。
途端に、カタカタと瓶が震え出した。腕の間から何やら光が漏れている。
(紋様が……)
どうやら装飾ではなかったらしい。震える瓶を押さえつけるようにしっかりと抱え込み、じっと耐えているあいだ、異変に気付く。
(なんかあったか……「いや熱い!え、熱っ」
金の瓶と触れている腕の内側が焦げそうなほど熱くなり、イリアスは思わず取り落としそうになる。
「抱え直せ!」
耳に届いたレオナルドの声にハッとし、耐えて抱え直すも、震えも次第に大きくなってきており、イリアスひとりで抱えるのは難しくなってきた。
セシリアの許可を今か今かと待ち、耐え続ける。イリアスの体ごと震え出し、イリアスは瓶を抱えたまま椅子から転がり落ちる。なるほど、セシリアとレオナルドが離れるはずである。これを離そうものならあちこち飛び回って被害が出るかもしれない。
「いいよ、離してくれたまえ」
天の声かと思った。
瓶はイリアスがおずおずと腕の力を緩めるに従い震えなくなっていき、熱くも無くなっていた。
「これは……すごいねえ」
「ああ……俺もこれ程とは思わなかった」
なんの話だろうか。
瓶を受け取ったセシリアは瓶をぷらぷらと揺らして苦く笑っている。
「さて、イリアスくんと言ったかな?僕の魔道具の真骨頂さ、見ててくれたまえよ!」
そう言うとセシリアは持っていた瓶を下に思い切り投げつける。
(ええええええ!?)
驚くイリアスをよそに、瓶はからんころんと音を立てて転がると、
パキャ
ヒビが入った。
「え、大丈夫ですかこれ!?」
「見てろ、きっといいもんが見れるぞ」
レオナルドの言う通りもう一度視線を落とすと、さらにヒビは広がり、中から光が漏れ出す。
バキンと硬質な音を立てて完全に割れた瓶からは、何やら色とりどりの煙が立ち上った。
「……うわあ……」
煙が晴れた瞬間、三人は宮のどこでもない、広大な草原にたっていた。
肌を柔らかく刺す草の感覚。
抜けるような青空。
髪を揺らし、鼻腔を爽やかに満たす涼しい風。
現実的では無いのに、五感がこれは現実なのだと訴える。
何よりも現実的では無いのが、目の前に広がる光景だった。人が10人腕を広げて抱き抱えても足りないであろうほど立派な幹を持つ大樹に、たくさんの小さな人型が群がっている。全員異なる色の衣を着て、虫のような透明の羽を生やし、思い思いに樹にもたれたり登ったり、飛び回ったりしてくつろいでいる。
その内の何人かがこちらに気づき、仲間に声をかけて寄ってきた。近づいてわかったが、彼らには白目がない。ということは、地上にいるどんな人型生物にも当てはまらない。てっきり森の奥地に住むという妖精族かとも思ったが、彼らとも違うらしい。
一人一人近づいてきたかと思えば、皆イリアスの周りをぐるりと回ったり、鼻や頬にキスをしたり、丁寧にお辞儀をしたりと挨拶をして樹へとまた帰っていく。
一際輝く金の鱗粉を纏わせた白いワンピースの女の子がやってきて、おでこにキスをし、にっこりと笑った。
その瞬間、足元が歪み、思わず目をぎゅっと瞑ったが、次目を開けた時には元の場所で3人立ちつくしていた。
お読み下さりありがとうございます!
ちなみにイリアスはめちゃくちゃ目がいいです。
体長30cmくらいの子達の衣服の色を50m先から見ていると思ってください。
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