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Guardian  作者: 天宮 碧
28/35

21. 覚悟

言い訳はございません。

申し訳ありませんでした。

......毎回謝っている気がするのは多分気のせいじゃない。




「シオンさん、お帰りなさい!!」


 心の中で滂沱の涙を流し先輩の帰還を喜ぶイリアスの目には涙の膜すら張っていないが、親愛なる先輩は可愛い後輩に対し微笑みながら「ただいま帰りました」と返してくれる。


 さようなら激務お久しぶりです苦労人。


 などということを考えながら、シオンとレオナルドがコソコソと話しているのを待つ。


「あー、シオン、ご苦労だった。それとイリアス、今日はもう暇を出してやる」

「へ?」


 さようなら激務、とは確かに思ったが、まさか通常業務の半分も終わっていないのに暇を出されるとは思わなかったし、イリアス自身、少しシオンに引き継ぎたいことや一人で宮を回している時に気になったこともある。


 だが、イリアスは被雇用者である。

 いくら気安く接し、それを雇用主が受け入れようと、このようにあからさまに立ち入ってくるなと言われては、引き下がらない訳にも行かなかった。


「……ありがとうございます。今日は一日部屋にいますので、もし御用でしたらお呼びください」







「殿下。イリアスの件ですが」

「元商人ロナウド・セルディンバーグとアイリス・セルディンバーグの息子で、六歳の時に母親と共に逃亡。その後貧民街で用心棒稼業を営み、足の悪い母親を養っていた。

お前のいない間に陛下とアイリス殿との対談があったのは連絡した通りだ。悪いな、手間をかけさせた」


 自分で得た情報を先に出し、報告の必要が無いことを伝えるが、シオンは静かに首を振った。


「ロナウドに愛人がいたことはご存知ですか」

「ああ、本妻のアイリス殿とイリアスを離れにおいやって堂々と関係を持っていたらしいな」

「ではイリアスが女だというのは」



 時が止まった気がした。



「っ、いや、イリアスは男だろ?用心棒として十分すぎるほど強いし、それに」


 それに、なんだろう。


 レオナルドはあまりにもイリアスについて知らない。

 この数ヶ月共に居たが、自分から何か生い立ちを語ったことも、感じていただろう苦しみも、急に王子である自分に召し抱えられた不安も、周りから受けたであろう偏見の目も、


 ――――――何も口に出されなかった。


 その事に改めて気づき、レオナルドは口ごもる。


「イリアスは確かに女です。

 戸籍上ではセルディンバーグ家嫡男として記載されていますが、貧民街の住人やかつての依頼主に尋ねたイリアスの素行、愛人の子が産まれたあとの文書改竄の形跡を照らし合わせ、多少苦労はしましたが、セルディンバーグ家の元使用人を探し出し、裏付けも取れました」


 国家犯罪レベルのことを仕出かした家に仕えていたなど元使用人としては必死に隠していたことだろうに、一体どうやって探し出したのか。


 シオンは力仕事はからきしだが、文官としては妙なほど優秀で、並の諜報員よりも情報収集・操作に長けている。


「イリアスとアイリス殿を離れに追いやった後、愛人とその子供を迎え、本邸に住まわせたそうです。おそらくこの子供はロナウド自身の子でしょう」


『お母さんの違う弟ができてね、ちっちゃくて可愛いの』


(……そういう事か)


 10年前、無知だった自分は彼女がそう言った時、どんな表情をしているのか分からなかったが、今ならわかる気がする。

 自分と母よりはるかに恵まれた弟を見て、きっと寂しくて、それでも恨んではいけないと自分を戒めていたのだろう。

 彼女の年に似つかわしくない聡明さは、当時、年相応の幼い心を持った彼女にとっては毒だったのだ。

 王族ならともかく、六歳など、親の元で甘やかされて苦労も遠慮も知らぬ年齢だろうに。


「殿下。イリアスが犯罪者の子供、それも女子となると、この宮では―――」


 自分はそんな彼女に、「ヒーロー」などと言って、自分の不幸まで背負わせてしまったのではないだろうか。

 不器用で、変に素直で、誰より優しいあの子は「味方」と言っていた母すらも守る対象として見ていたのに。


「殿下」


 あの子のことは、誰が守ってやれるのだろう。

 俺は。


「殿下!」

「頼む。イリアスにこのことは、俺たちが知っていることは伝えないでくれ。対応も、今まで通りに。」


 この先、彼女の存在はあらゆる意味で危険になる。

 イリアスの能力と、容姿。それに本人のせいではないにしろ犯罪者の子供という瑕疵と『女』という性別。


 イリアスは野心家にとって()()()()()

 レオナルドを利用するにしろ、彼女を利用するにしろ、価値が高すぎるのだ。


「ここまで来たら、彼女をここで放り出すことは出来ない。手元に置いておいた方が安全だろう。俺にとっても、彼女にとっても」


 しかし、あからさまに守ってもいけないのだ。

 憐れもうものなら、『弱者』として扱おうものなら、彼女がひっそりと守り続けてきた、『誰かを守る自分』としての自尊心が砕かれてしまう。そして、その自尊心を背負わせたのは、


(他でもない、俺だ)


 ヒーローと呼んだ。

 味方であってくれと願った。


 彼女は、彼女の性別も顔も知らない自分だから、友人になってくれた。

 彼女にとって性別も瞳も、生まれ持ったものは母を虐めた『嫌いなもの』でしか無かったから。


 でも。

 今は友人でもなんでもない。


 今の自分にとってイリアスは有用な駒、イリアスにとって自分は利害が一致する雇い主でなければならない。

 そう見られなければならない。


「……かしこまりました」


 シオンも今までレオナルドの側仕えとして共に苦労してきた仲で、シオンとしては手っ取り早くイリアスを()()()なり()()なりしたかっただろう。


「……ありがとう」

「いえ、貴方のわがままは今に始まったことではありませんから」


 そう言って、物心着いて以来の忠臣は微笑んだのだった。




 シオンはとうに覚悟を決めている。



(俺も、もう)


 腹を決めねばならない。

 見つかったかつての友が、見えぬところで苦しんでいるのなら、守ると決めたなら。


 戦う覚悟を、決めねば。

すみません。エピソードタイトルをつけ忘れていました。

2024/04/08 episode title

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