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Guardian  作者: 天宮 碧
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20. 彼、物凄くいい子なんですよ。本当に。




「い、イリアス……様、一緒にご飯を……」

「食べます!!」


 昼休みになって直ぐに迎えに来てくれた友人に応じ、浮きたちそうな足取りで弁当箱を持っていく。


 この学園には食堂もあるが、給金があるとはいえお貴族様用に作られたメニューを高い金を払ってお行儀よく食べるのはどうも性に合わず、毎朝備え付きの台所で弁当を作って持って行っている。


 それを知った彼が一緒に中庭で食べてくれると言っていたので、この時間を心待ちにしていたのだった。

 ビバ友達。ビバ青春。


「わざわざ迎えに来てくれてありがとうございます」

「いえ、大した距離ではありませんし」


 いい子である。

 学園生活初めての友達にして出来すぎではないだろうか。


「様付けしなくていいですよ。貴族ではありませんし、なんか慣れなくて。俺のことはイリアス、と」

「ではこちらもアーロン、と呼んでください。敬語もいりません。……イリアス」


 そう言って少しはにかむ。

 いい子である(二回目)。


「ありがとう、アーロン」


 にこにこしながら応じると、輝かんばかりの笑顔を向けてくれる。


 このもだもだがいいのだ。

 一度やってみたかった友達との初々しい会話。


「この辺りで食べようか」

「うん。暖かいしちょうどいい場所が空いてたね」


 二人揃って芝生の上に座る。

 アーロンはいい所のお坊ちゃんらしくハンカチを広げて座っていたので、これからはベンチがあるところで食べた方がいいかもしれない。


「いただきます」


 弁当を二人で広げてさあ食べようと、ふとアーロンの弁当を見て絶句した。


(……すみ?)


あったのは黒焦げの暗黒物質(ダークマター)


 なんだろう、激しく見覚えがある。

 やはり類は友を呼ぶのだろうか。


「ああ、これ?イリアスが自分で作ってるって言ってたから、シェフに教えて貰って、真似してみたんだ」


 類どころじゃないかもしれない。

 少なくともイリアスは教えてもらう限りは何とかなっていた。

 つまりはただレシピに不忠実だっただけである。


 シェフの諦観の虚ろな目が見えるようだった。


 可愛らしくはにかむ少年に震える声で尋ねる。


「味見は…したの?」

「うん。シェフが。彼は美味しいけれど栄養が偏るから、こちらを持って行くように、と作ってくれたのを勧めてくれたけど、初めて自分で作ったものだし、せっかくだからと思って」


 仕える主人の息子に対し非礼のないよう最大限の気遣いがそれだったらしい。

 確かに炭素は沢山取れそうな見た目だ。


 ナイスアシスト。グッバイシェフ。

 

 おそらく彼の胃は物理的にも精神的にも破壊されただろう。


 初めてできた友人に同じような気遣いをすべきか、友人として辛い事実を打ち明けるか悩む。


(だって絶対この量の炭は致死量だろ!)


「……そっち食べたいから、お弁当交換しない?」


 できたばかりの友情を失う可能性があるのはすごく怖い。物理的にも精神的にも。

 イリアスは己の欲に忠実だった。


 彼は例によって花が咲くような笑顔見せる。


「うん!いいよ!はい!」

「…ありがとう」


 この笑顔でシェフの気遣いと胃を粉砕していったのかと思うと恐ろしい。


 ガリっ


 絶対食べ物からは出ないであろう硬質な音が口内に響く。


 そして広がる苦味と辛味(ハーモニー)


 何を入れたんだろう。すごく怖い。


 やたら黒光りする丸い物体をバリボリと噛み砕きながらイリアスは虚ろな目をした。


 ダメかもしれない。

 メイドイン貧民街(スラム)の頑丈な胃を持ってしても厳しいかもしれない。なんてものを作っているんだマイフレンド。


 このまま食べ進めることも出来ず、涙目のイリアスは食欲を理由にぱたりと弁当箱を閉める。

 心配そうな顔の友人に力無く微笑みを向け、彼女はは上手く回らない頭を回転させる。


 このままでは彼はまた弁当を作るだろう。なぜならシェフと友人(自分)にお墨付きを貰ってしまったから。

 しかし一度嘘をついた以上、彼に食べさせて真実を知られる訳には行かない。

 ただ、イリアス、というより人間が毎度食べるにはあまりに残念な出来である。


「でも、料理って大変なんだね。早起きしなきゃいけないし、シェフに感謝しなきゃ」


 すごく、すごく……いい子なんだけどなあ……。


 そこでイリアスはチン、と一つの答えを出した。


「もし良ければなんだけど、俺がアーロンの分の弁当も作ろうか?」

「いいの?」

「いいよいいよ。材料毎回余るし」


 これは事実である。

 大抵前日の夕飯の残りから作るが、宮の中で弁当を食べているのはイリアスだけなので、一人分だけ作るのも面倒でなんやかんや夕飯の残りを全て弁当用に作り直すのだが、一日置いた食材など王家の方々が食べるはずもなく、宮の使用人は今のところイリアス一人でほかに消費する人もおらず、弁当に入り切らない残飯は処分されるのだ。


「……じゃあお願いしてもいい?」

「任せてよ」


 イリアスは頭の中で喝采を叫んだ。

 気遣いと友情の勝利である。


「あ、そういえば、自意識過剰かもしれないんだけど、俺、なんか悪目立ちしてる?こっちみてヒソヒソされること多くて」

「……」


 ふと思い出して聞いてみると、無言が返ってきた。

 何故。


「ちょっと言えないかな……。で、でも、悪目立ちとかじゃなくて、全然!気にしなくていいと思う!貴族じゃない編入生がちょっと珍しいから噂になってるだけだって」


やけに慌てている様子だったが、少し恐怖の色が見えたのと、悪目立ちじゃないのは真実のようだったので納得しておいた。







「ただいま帰りました」

「お帰りーって何それ」


 指差しているのは少し()()しようと蓋を開けた某友人の弁当箱の某炭化物である。


「……要りますか?」

「え、要らない」


 心なしドン引きされているように感じる。


 ちなみに炭は消臭剤として加工して再利用した。



ア「イリアスのファンってあまりに熱量がなあ」

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