19. ???
主人公不在、ツッコミ不在のネタ回です。
とある講堂にて。
放課後にも関わらず授業の時より人口密度が高い。これはいつもの事です。学年男女問わず、そこにいるほぼ全員がは新たな話題に沸き、その真偽について騒めいていました。
「皆様、お静かに!」
凛とした声が響き、空気を一新します。
ざわめきはピタリと止み、視線が壇上の彼女に集まりました。
「―――皆様ご存知の通り、イリアス様に初めてのご友人が出来ましたわ」
その声に講堂中がひそひそと、それでいて熱量を込めて盛り上がります。
「なんてこと!」
「これはおめでたい事なのよ、祝わなくちゃ……ああでも!!」
「みんなのイリアス様だったのに!!」
驚きと嫉妬、祝福と様々な声に満たされた空間をまたもや壇上の人物が抑えました。
「静粛に!!」
再びピリリとした静寂に包まれます。
「皆様、納得できないこともおありかと存じますわ。しかし、そのご友人は私たちでは決してなせないことをなさったのよ」
集まる怪訝そうな目に、一層彼女は声を張り上げました。
「私たち、イリアス様親衛隊は、その忠義心と崇拝のあまり、あの御方が寂しそうになさっていても、話しかけ、慰め、ご相談に乗ることなど、恐れ多くてできません。しかし、彼であれば、イリアス様のご憂慮を取り除き、笑顔にさせることが出来ますわ!ああでももちろん、憂いを帯びたお顔も素敵ですが、やはりあのお方には笑っていただきたい!皆様もその気持ちはお分かりでしょう?」
「もちろんですわ!」
「確かにその通りだが……!」
熱い演説に肯定が寄せられるも、なお納得のいかない者のため、抜かりない彼女は証人を用意していました。壇上の彼女は講堂の中の一人に手を向けると、そこへ注目が集まり、指し示された女生徒は静かに立ち上がりました。
「私、イリアス様が落とされたハンカチを拾いましたの」
突然始まる口上に、羨望の視線が集められます。私もまた、思わず羨ましく思ってしまいました。だって、あの小柄な体躯で文武両道、美しく愛らしく隙のないイリアス様のハンカチを拾うなんて、またとない幸運ですもの。
「私などが拾い上げたハンカチをお受け取りなさって、あのお美しい顔に微笑みを浮かべて、『ありがとう』と、仰いましたわ。その後にも、何か『お礼に―――』と続けられていたと思います。きっと優しいあの御方のことですもの、何かお礼をして下さろうとしていたのですわ。しかし、しかし!私、あまりに恐れ多くて、お言葉を遮って逃げ出してしまいましたの!」
講堂は無言を貫いていましたが、彼らからの『ああ……』という落胆の声が聞こえるようでした。
「善意で仰った言葉を遮られ、あまつさえ目の前から逃げ出されて、彼は、彼はどんな思いを……」
いいの、いいのよ。と隣の友人に抱き抱えられるようにして泣き崩れた彼女に無理もない、と同情の視線が集まります。
同時に、静かな声が響きました。
「これでお分かりでしょう、皆様」
説明はもう要らない、とその場でイリアス様のご友人を認め、害をなさないという結論が出て、その場は解散となりました。
何を隠そう、イリアス様には所謂ファンクラブというものが出来ています。
まだ学園に来られてそう日は経っていませんが、先生方にも好かれるほど勉強熱心な姿と、週に一度の体育で見せる身体能力の高さ。男女別ですので女子は毎回体育の時間双眼鏡を持って男子が使用しているグラウンドを見るのです。
更にはあの美しさ。
小柄で線の細い彼のことを貧弱と僻む男子もいましたが、それが良いのです!
サラサラと風に揺れる柔らかそうな黒髪と言い神秘的な金の瞳と言い、中性的な儚さに目を惹き付けられます。さらに無表情の中に垣間見える感情の揺らぎが可愛らしい。
別に小児性愛者というわけではありませんが、あの愛らしさと儚さを秘めた美しさは成熟した男性には出せません。
それになんと言ってもあの素晴らしい人間性。困っている人がいれば態とらしく助けようか、などと言わず、さりげなく手助けし、気がついた時にはその場を立ち去っているという男前ぶり。
これには今までイリアス様を僻んでいた男子たちも胸がときめいたことでしょう。
そんなわけで、誰が創始したか定かでは無いイリアス様親衛隊はイリアス様が人を魅了する度に雪だるまのように膨れ上がり、今や非公式の校内一大勢力となっています。
活動内容は多岐に及びますが、盗撮やイリアス様に親しい人への害なす行為は禁止されています。
今回の議題もそういったルールの再確認と、民度の維持のためでしょう。
会長の手腕には毎度驚かされますが、一体どなたが会長をされているのか、誰も知りません。
私たちはあくまで、彼に受けた優しさを隊内で共有し、感謝するということを主目的においているのです。
知る必要もないでしょう。
少々お喋りしすぎましたでしょうか。
私としてはイリアス様についてもう少し語りたいところだったのですが……。
あら、申し遅れました。
イリアス様親衛隊2番隊隊長、レイラ・アビンソンですわ。
覚えても覚えなくてもよろしくってよ、ただ、推しの名前だけ覚えて、よろしければこちらの沼にいらっしゃいませんか?
快適ですわよ?
講堂の外を偶然通り掛かった某友人くんが震えていたのはまた別の話。




