15. 一応まだ16でしょ?
( '-' )スゥゥゥ⤴︎︎︎
さぼって、すみませんでしたッッッッッ
「イリアス、街で菓子を買ってきた。あげる」
「イリアス、夏になって暑くなってきたから体調には気をつけなよ」
「イリアス」
「イリアス」
うっっぜええええ!!!!
あの熱が出た時からやたらとレオナルドが甘やかしてくるのをイリアスは正直鬱陶しく感じていた。
そしてこの構われようは仕事を教えてもらった時を彷彿とさせた。
あの時はシオン、マリアがいたが、何故1人で二人の分まで構おうとするのか。
大変気味が悪い。
最初の方は機嫌よくてラッキー、などと思っていたが、1週間も続くとそろそろ変なものでも食べたのかと疑いたくなってくる。
短い付き合いだが、この男の気まぐれとデリカシーの無さは大いに理解しているため、彼が柄でもなく気を遣い続けていることくらいわかるのである。
ただ、そのきっかけに心当たりが無さすぎる。
看病してもらって情が湧いた?ありえない。そんなことをしていたら彼は多くのメイドを甘やかさねばならない。第一にそんな簡単に心を許すほうでも、それごときで人に深く感謝するような情の深い人間でもない。
イリアスはさらりと心中で主の人間性を否定し、首を傾げた。
普段あまり気にしないようにしているが、どうしても強い感情を浴びるとこちらの意志に関係なく影響を受ける時がある。
その点において、彼が感情を見せないよう、表面上よく抑えていることが分かる。大きく感情を揺さぶられることがないのか、自分でコントロールしているのか、ほとんどそういったものを感じなかった。
しかし、今はどうだろう。
心配と親愛をにじませた美丈夫がやたらと自分一人に構ってくるのである。
並の少女であれば顔を赤らめ堪能するであろう状況も、彼女にとっては面倒以外の何者でもなく、地味にストレスをためていた。
「あの、殿下」
「何?」
呼び掛けただけで蕩けるような笑みを向けてくる。この甘さにイリアスは思わずウエッと言いそうになった。
「俺、なんかしました?」
「いや、何も?」
怖すぎる。
理由もなくこいつは煌めかしい笑顔を向けるのか。
「なんか、距離近くなってません?」
「そう?」
どこか楽しそうに返すレオナルド。
「そうだとすれば、最近部下にもこちらから歩み寄らねばならないと思い直したからだろうね」
うっさんくせえ。
依然として疑いの目を向けるイリアスをレオナルドは笑顔でかわし、そうだ、と話題を変えた。
「近々、シオンをこちらへ呼び戻そうかと思っている。その代わり……」
「え、本当ですか!?やったあ!!」
瞬間、レオナルドの方からとてつもなく冷えた視線を感じ、ようやく主の言葉を遮ってしまったことに気がついた。
側仕えとしてせっかくマリアとシオンに教育してもらったのに、こんな初歩中の初歩、人としても大切なところでミスをしてしまうなんて。
いくらレオナルドが王族にしては寛容だからといって甘えすぎていた。
「あ、の、申し訳……」
「へえそっかーお前にとっては俺の話を聞くことよりシオンの帰還の方が大事なんだね懐いてたもんねそっかそっかー」
悪いのはこちらだが、やけに面倒くさい拗ね方をされた。
「いえ、あの、違って……」
「そんなにシオンが好きですかー」
「いえ、勿論敬愛する先ぱ……」
「愛ぃ!?」
大変うるさ…かしまし…元気なことである。
「お前っ、あのな、シオンは良い奴だが男同士での恋愛はあまり良い目で見られないし、何よりあいつはいいとこの子息でもある訳で、お前にとっても障害が多くてだな、あまりおすすめはしないというか」
「あんたには必要な情報を抜き出すスキルってのがないのか」
むしろ社交辞令を捉えてぐだぐだと言い募る有様である。
「本当に一体どうしたんですか?あんなクールぶって『クスッ』とか気色の悪い笑い方してたじゃないですか。つい先日まで」
よもや本当に熱ではあるまいなと顔を近づけると、レオナルドはばっと仰け反った。
「……っ、どうもしない!」
「そうですか。なんかあったなら本当にちゃんと言ってくださいよ、1人で考え込まれるよりは楽でしょう」
レオナルドはその言葉にむっつりと押し黙ったまま暫くして頷いた。
「お前こそ……」
「はい?」
「いや、なんでもない。それで先程の話だが」
イリアスがああそうだったと居住まいを正すのを見てから、彼は言葉を継いだ。
「その代わり、お前が学園に行くことになった」
(……は?)
「学園って、あの、王立の?」
「魔法学園」
「国の超尊い方々しか通えぬと噂の、」
金持ち学園?
辛うじて、仮にも王室が運営に携わる学園にそのような噂がたっていることを言わずに済んだ自分にイリアスは心の中で盛大に拍手した。
「正確には優秀な人材しか、だ。少数ながら優れた能力を持つ平民も特待生として通っている。」
(凄い……。貴族だらけの学園で過ごすのも大変だろうに)
確かに王立魔法学園卒業という肩書きがあれば平民でも上級職を得たり、コネを作りやすくなるだろう。
だが、平民どころか貧民になったイリアスは7歳時に国民が受ける魔法適性診断も受けていなければ、特別な能力を示す試験も受けていない。
「なぜそんな話になったのです?」
すると主は苦々しげな顔になった。
「お前をまあ……寵愛しているという噂がたってね……」
なるほど。
単純に嫌がらせか。
ほぼ先日の会議乱入が原因だろうが、イリアスの名前と顔は知れ渡り、誠に不本意だが、レオナルドの男色の相手である疑惑がかかっている。
主の数多いる敵からしてみれば、彼のお気に入りを引き剥がして不快にさせたいだとか、王家の醜聞を広めたくないだとか、ピッタリと側にいるイリアスの代わりに己の派閥からスパイを紛れさせたいだとかといった思惑があるのだろう。
「とばっちりじゃないですか」
「……ごめん」
素直に謝る彼に慌てたイリアスは慌てて言い募る。
「いや、別に嫌とかでは……っ、嫌ですけど、あの、貴重な体験ですし、ありがたいことですし、あなたのせっ、い、ですけど!まあ結果オーライというか!」
微妙にフォロー出来ていなかったが。
「……本当?」
「本当です!全然行きますよ!貴方の用心棒としての仕事が本格的に無くなりますが!」
その言葉ににっこりと笑うレオナルドを見て、イリアスは途端に嫌な予感がした。
(あ、この顔……)
やっちまった。
「ありがとう。イリアスは一年生として入学してもらうんだけど、実は俺も3年生として急遽編入させてもらうことになったんだ」
学園生活、楽しみだなあ
と笑う主に全てを悟った。
(……っ、嵌められた……っ!)
過去一砂糖なヒーローと過去一塩なヒロインです。
お納めください(まだ15話目)。




