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Guardian  作者: 天宮 碧
18/35

12. 街へ

遅れてすみません!


暑い日が続きますが、皆様も熱中症にはお気をつけください。






 王宮修羅場体験ツアーからひと月。


「なあ、イリアスー、街降りない?」

「行こーよー」

「聞こえてる?」


(殿下がうざい)


 どうせ本性がバレたのだからと開き直ったのかなんなのか、やたら構ってくる。

 仕事に一区切りついた辺りでタイミング良く言ってくるのも小賢しい。


「前は全然話しかけてこなかったのに……」


 用心棒として雇われたはずなのに一緒にいる時間が少なすぎて意義を失ったほどである。


「拗ねてる?」

「誰が拗ねてるか」


 シンプルに煽ってくる。

 距離の詰め方が尋常じゃない。絶対友達いないだろこいつ。


「で、街行かないの?」


 なおも言うか。


「前も行ったじゃないですか……。私からしたらむしろホームに近いので真新しさないんですよ」

「遠慮が無くなったことに関してはお前もどっこいどっこいじゃないか?」


 ぶつぶつ言うレオナルドは無視して、イリアスは手元の書類を揃え、くるりと丸めて棚にしまった。


「……じゃあ、殿下の奢りで食べ歩きならします」

「奢る」


 冗談で言った言葉に即答されたイリアスは少し目を見開いたあと、くすりと笑ったのだった。







「いつ来てもここは賑やかですねえ」

「王国で1番大きい市場だからな。イリアスは俺に雇われる前も来ていたのか?」

「そうですね、仕事柄商人を客にすることが多かったので、市場などは結構行ってると思いますよ」


 ガヤガヤと絶えず人の声がする街。

 そこを歩くマントで体を覆った小柄な少年と平民服を着た美丈夫の姿があった。

 言わずもがな、イリアスとレオナルドである。


「貴方は何かで顔を隠さなくて良いのですか?」


 平民服を着ていても王子である。

 艶やかな銀髪は手入れが行き届き、とても平民には見えない。


「大丈夫。とっくに俺の正体は皆知っているから」


「王子ー!今日はいい肉が入ったんだ!食っていかねえか!?」

「安くしとくよ王子!」

「あら、今日は可愛らしいお供を連れているんですねえ、どこの子?」


 言ったそばから街の人々の声が聞こえる。


 かつてこんなにも王子という言葉に重みを感じないことがあっただろうか……。


 イリアスは頭を抱えそうになった。

 街の人に後でそっちにも行くよと声を掛けながら、レオナルドは最初に声をかけた男性が広げる店に足を向けた。

 鳥串を2本買ってくると片方をイリアスに渡す。

 イリアスは本当に奢ってもらえるならと礼を言うとありがたく受け取り、主の顔を見上げた。


「楽しそうですね」

「……そうか?」


 彼は相も変わらず美しく胡散臭い(イリアスにとっては)笑みを浮かべているが、微かに目に明るさがあるように見える。

 身分がバレていては変装の意味が無いとか用心棒としてはハラハラするとか言いたいことは沢山あるが、ちゃんと気分転換になっているなら良いだろう。


「殿下はこういった気安いやり取りを好む傾向にある気がします」


 でなければイリアスなどとうの昔に首が飛んでいるだろう。シオンも温厚で気が弱く見えるが、仕事のできる人間である。

 いざとなったら非情な命令も難なく遂行できるだろう。


「そうかもしれない。俺は、今、楽しんでいる」

「なぜ急に片言」


 どこか間抜けた顔でイリアスの言葉を反芻するレオナルドは傍目から見て異常者である。


(やだーこの人の隣歩きたくなーい)


 イリアスがいつものように失礼なことを考えていると、レオナルドが不意に笑った。


「そうだな。俺は気安いのが好きで街の奴らと話すのが楽しい」


 花が咲くように。


「……綺麗」

「?」


 イリアスは自分の口から出た言葉にハッとして口を噤んだ。


「綺麗?何がだ?」


 聞こえてしまったらしい。

 キョロキョロと周りを見るレオナルドに、仕方なくイリアスは説明した。


「や、貴方の……笑顔がですね、なんか、綺麗で……いつもは思わないんですけど」

「……いつもは綺麗じゃないと?」


 そっぽを向いてしまった。拗ねたのだろうか。


「いつもは胡散臭くてあんま好きじゃないです。なんか利益の為に作ってます感いっぱいで」

「単純に失礼なやつだなお前」


 素直に答えると顔の向きを少しだけずらしてジットリとした目線だけ送ってきた。器用なお人である。


「何が違うんだか」

「……なんか今のは、雲ひとつ無い青空とか、朝露が降りた花弁とかを見た時みたいな感覚で……。不純物がないというか、……ああもう!いいでしょう綺麗だと思ったんですよ!もう!!」


 ヤケクソになったイリアスは不覚!という感情を隠すことなく低下した語彙力で綺麗ですと繰り返す。


「イ、イリアス、もういい。皆がみている」

「あ……」


 街の人達はこちらを見てやたら生温かい視線を送っている。

 レオナルドの笑った顔を見てひたすら綺麗だと褒め、美しい光景を用いてまで絶賛した。

 イリアスは周りからどう見られているか想像し、真っ赤になった。

 ただ距離が近くレオナルドを慕っているだけの子供という認識ならまだいい。


 しかし、きゃあきゃあと黄色い声を上げながらも静かにヒソヒソと興奮して目線を交わすお嬢さんたちを見る限り、余り嬉しくない推測をされていそうだ。例えば、男同士の主従の禁断の恋とか。


 ああああ……と頭を抱えるイリアスをレオナルドは綺麗に笑って見ていた。


 その後、街の人達のお店を回ったがどこも妙な視線を送られ大変いたたまれなかったことだけ言っておく。




レオ「やっぱ恥ずかしいあいつ」

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