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Guardian  作者: 天宮 碧
17/35

11. 作られた顔

お待たせしてすみません!

今回少し長め(?)です。





 王宮の、会議室らしき部屋の中。


「北方でまた異民族の侵入があったとか……」


「ゲルナード公の怠慢では?……」


「そちらこそ、税を……」


「噂では卿は……」


 神様仏様マリア様シオン様。

 もう誰でもいいから俺をこの場から連れ出してくれないだろうか……。







 イリアスが無駄に救済を求めることになるその数時間前。


 王宮に着いたイリアスはレオナルドに従って王宮の中を進んでいた。どこそこが来賓室で休憩所にされるとか御手洗いがどこにあるとか聞きながら、イリアスは不審感を感じていた。


「……なんですか?なんというか……城の兵士の視線が……」

「気にしなくていいよ」


 ニッコリ。

 と微笑まれ、彼女は「あ、なるほど答える気がないやつだ」と諦めた。

 まあ、彼が承知しているのならいいのだろう。

 あくまで自分は用心棒で、彼が気付かない危険に気付き対処するのが仕事である。


「まあ、すぐにわかるよ」

「?」


 何がなにやら分からないまま、レオナルドの後ろをとてとてとついて行くと、彼はひとつの扉の前で立ち止まった。


「じゃあ、次はこの中を見学させてあげよう」

「え、ちょ、中から話し声が―――」


 ガチャン


 イリアスの制止を華麗に無視した主人は割合大きな音を立て扉を開けた。


 仕方なく彼の後ろについて室内に入る。


 ひとつの大きなテーブルを囲み、手元に書類を置いた中年の男性達。


 先程室内から聞こえた声の量とは反対の、水を打ったような静寂の中、彼らの視線が痛いほどに突き刺さる。


 世間に疎いイリアスでもわかる。これは、偉い人達の会議で、もしかしなくとも自分達は浮いている……と。


 目の合ってしまった男性に仕方なくへらりと笑いかけると、気まずそうに視線をそらされた。


 そらそうだわ。自分だって何が起きているか分からない。


 イリアスが困惑する男性達に強く共感していると、主人はどんどんテーブルへ近付き、勝手に空いている席に座って足を組んでしまった。


 これは、動く気は無いという意思表示か。


 イリアスはニコニコしている主人に内心頭を抱えつつ、その後ろに立ち、背筋を伸ばしてすまし顔をした。


 もうどうにでもなれ。


 如何にも礼儀正しい側仕えの顔をして内心ヤケクソになっていることを見透かしてか、主人が喉の奥で笑う。


「レオナルド殿下は何故ここに?」

「悪いのですか?」


 その声に主人は声の主を見やると、冷たくも聞こえる声で言い放った。


「いえ……。いつもは、来られませんので……」


 イリアスは発言した男性を思わず見つめた。


 このように王族に自分から話しかける、更にはその貴い人に対し邪魔だとも取れる発言をすることは本来ありえない。イリアスは堂々としているが。

 男性の顔を見ればなるほど、他の人と同様に困惑の表情を浮かべているものの、戸惑いとは別に、侮蔑、苛立ちなどが視える。

 この男性はどうやらあまりレオナルドのことが好きでは無いようだ。


 周りを見渡せば、あからさまな発言や態度には出さないものの、同じような感情を抱く人がちらほら、というかほとんどだ。


(レオナルド殿下(この人)何したんだ……?)


 勝手に主人がなにかしたのだろうと決めてかかる新人側仕え、イリアス。


「いや、いつもは忙しいのですよ。街に降りると困っている方が沢山おられますからね。それで、私用の席は無いのかな?」


(ああ、可哀想に)


 イリアスはすっとぼけたその顔に見覚えがある。


 一見公務もせず遊び呆けている王子が気まぐれに来てわがままを言っているようだが、裏を読もうとするならば、この男性たちの無能さと無礼を揶揄しているようにも聞こえる。


(俺を雇い入れるためにねちっこく説得してきたことと言い、この人は他人に嫌がらせをするのが好きなんだろうなあ……)


「ありますとも。そちらは今回欠席のルーベン卿の席ですので、こちらへ」


 明らかにたった今用意した椅子を指し示す男性。


 さすが国の幹部。肝の座り方が尋常じゃない。


 レオナルドは返ってきた反応につまらなそうな顔をしながらも、大人しく席に座った。


「では、会議を再開してもいいかね?」


 そこで、今まで沈黙を保っていた人物が口を開く。


(この中で唯一敬語を付けずに皆を動かせる存在……)


 そして、そのような存在は今王宮に一人しかいない。


(国王陛下……)


 イリアスは伏せていた視線をつ、とあげ、その顔を盗み見た。


 普段謁見など公式な場では顔を上げることすら許されない人物だ。イリアスも市場に出回る絵姿でしか見た事がない。


(絵は若く描きすぎだな)


 若き頃の美しさを彷彿とさせるご尊顔ではあるが、大概失礼なイリアスは素直にそんなことを思う。


 彼女は国王への関心を失い、目だけ動かしてこの場に集まる人物の顔を見た。


 最も上座にはレオナルドと同じ白銀の髪(白髪かもしれないと思ったが流石に不敬なのでそういうことにしておく)にエメラルドの瞳を持つ国王陛下。その隣に金髪に国王と同じ瞳を持つ第二王子殿下。その反対側の隣に我が主第一王子殿下である。

 その方々を取り囲むように男性達、もとい大臣たちが顔を揃えている。


(あっ、これ、俺だけが場違いなやつだ)


 どうせ会議の内容なんざ聞いたところで分からないだろう。

 イリアスは大人しく目の前に座るレオナルドの髪の毛を数えることにした。






 そして冒頭に戻る。


 ピリピリした空気に元々敏感な生業をしているイリアスは会議に一切意識を向けないということは出来ず、大臣たちの足の引っ張り合いを虚ろな瞳で見ていた。


(国の幹部が何をしているんだ、何を)


 お上品に国策と絡めているものの、相手を引きずり落とすことをメインに話し合って(殺りあって)いる気がする。


「ところで兄上のその彼は新しい従者ですか?とうとうシオン殿にも愛想を尽かされたのですか?」


(うわ、こっちに話題が……)


 くすり、とやたら綺麗に嗤ったのは第二王子のクラウディオである。


 なんとも嫌な笑い方だとイリアスは思ったが、レオナルドはさして気に留める様子はなかった。


「いや、シオンは別件で今手が離せなくてね、急遽彼を側仕えとして雇い入れたんだ。可愛い顔をしているだろう?」


 レオナルドはする、と腕を後ろに伸ばしてイリアスの頬を撫でた。

 思わずイリアスは顔を少し顰めたが、クラウディオもそれはまた同じだった。


「兄上は男色にもお目覚めになったか。全く、王族としての自覚というものがお有りではないのですか?」


やれやれ、とでも言いたげなクラウディオの声。


(誰もマントのことに触れてこないな……)


 イリアスとしては男色云々より先に目に留まることがあろうにとそちらの方が気になる。


 スルースキルが高い。


「そちらの彼、顔を上げなさい。君は?」

「?」

「自己紹介」


 いまいち話が読めていないイリアスにレオナルドが小声で助け舟を出す。

 ああ、とイリアスは姿勢を正しクラウディオを真っ直ぐ見つめた。


「私は、新しくレオナルド第一王子殿下の側仕えとなりました、イリアスと申します。」

「……家名は?」


 ここで出身が貧民などと言えば色々バレそうで恐い。

 どうしよう、とイリアスはレオナルドを見たが、彼は意地悪くにやにやと笑うだけで、先程のような助け舟は期待出来なさそうだ。

 イリアスは仕方なく、正直に、しかし誤魔化す形で答える。


「私は貴族の出では無いため、家名はございません」


 これならまあ、良いだろう。

 平民が王族に仕えることも滅多に、というか聞いたこともないが、貧民よりはまだましだろう。

 一方その答えを聞いたクラウディオは一瞬ぽかんとした顔をしたものの、すぐにその顔を笑顔へと変えた。


「そうか。それで兄上の側仕えを務められるとは、余程優秀な人材なのだろう。これからも励むと良い」

「ありがたき、お言葉にございます」


 イリアスは簡素に礼を言う。


(確か、殿下とクラウディオ王子は王位を争っているんだったっけ?)


 それでは、先程の笑顔は単なる社交辞令や励ましではなく、兄が平民などと馴れ合い、貴族の反感を買うであろうことへの期待だろうか。


 いずれにせよ、下手に首を突っ込むとややこしそうである。


 結局会議中にイリアスにふられた話題はそれだけで、嫌味合戦と微妙に進んだ国策会議は程なく終わった。







「どうだった?見学は」


 王宮からの帰り道。


 馬車に揺られながらレオナルドは意地の悪い笑みを浮かべる。


「どうだったじゃないですよ……。あんな修羅場連れていかないでくださいよ。せめて事前に言ってください」

「悪かったって」


 カラカラと笑う彼を軽く睨んだあと、イリアスが言う。


「それにしても、殿下は陛下や大臣のの前だと割としっかり猫を被るんですね。ダリヤ宮の皆の前だとたまに口調崩れますけど」

「あー……やっぱバレてたか。素が結構雑で、後からオウジサマらしく直したんだよ」


 オウジサマと言う時に皮肉気に口を歪める。

 なにやら思うところがあるらしい。


「まあ、でも少し嬉しいです。ダリヤ宮の皆には心を開いてる証拠じゃないですか?」

「は……?」


 たとえ契約上の関係であっても信頼されるのは嬉しい。

 何より、あまり明るい笑顔を見せないこの人に、信頼出来る誰かがいるということに安心した。


 思わず微笑んだイリアスを見て、レオナルドは目を丸くする。

 その顔がじわじわと赤くなったかと思うと、レオナルドはイリアスから目を背けてしまった。


「お前、たまに恥ずかしいよな」

「失礼な」


 人をまるで馬鹿みたいに。


「そういうのは自分で言わないんだよ!」

「言ったっていいじゃないですか!俺こんなに頑張ってるのに!」

「それも自分で言うことじゃねえ!」


 ぎゃいぎゃいと騒ぎながら、馬車での時間は過ぎていった。







仕返しする話。


「あ、それと、ダリヤ宮では楽な口調でいいのでは?」


「……そうする」



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