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Guardian  作者: 天宮 碧
16/35

幕間 イリアス3

イリアス過去編、一旦区切りです。

次回からまた本編になります。







 それからというもの、イリアスは何とか屋敷に侵入して調べる方法はないかと計画を立てた。


 幸か不幸か、イリアスはあまり背が伸びていないため、屋敷にいた時見つけた抜け道はまだ使えるはずだ。

 侵入さえ出来れば、屋敷の内部は大体覚えているし、幼い自分の記憶力が頼りないと言っても、おぼろげなところはそもそも通らなければいいのだ。


 イリアスは少しずつ父親の周辺から調べ始めた。


 母に散歩と偽って外に出ると、低い窓から無人の部屋に侵入し、しばらくは物陰に隠れて使用人の噂話に聞き耳を立てた。

 どうやら執務室に出入りする特定の使用人が、執務室から出たあと妙に浮き足立っている様子が見られるらしい。話していた使用人はチップでも貰ってんのかね、と面白くなさそうに吐き捨てていた。執務室からでてきた本人に直接尋ねる使用人もいたが、本人は笑いながらのらりくらりと誤魔化し、何があったか知ることは出来なかった。

 1週間ほど様々な噂を聞いたが、これ以上収穫はなさそうだった。


 何はともあれ、執務室に何かありそうだ。


 ここでやっとイリアスは抜け道を使うことにした。


(玄関から続く廊下の花瓶が置いてある台を動かす……と、)


 花瓶は小さく、台も天板と廊下から見える三面に板をつけただけの軽いもので、子供の力でも動かせるのだ。


 静かにゆっくりと台をずらしていくと、大人が身を屈めてやっと1人通れるくらいの穴が口を開ける。


 イリアスは穴の3分の2が開いたところで動かすのをやめ、中に身体を入れた。載っている花瓶を割らないようゆっくり台をもとの位置に戻すと、視界が闇で覆われる。


 階段をおりると、暗い視界にぽっかりとした空間と、ばらばらの間隔で付いたいくつかの梯子が映る。


 どうやら前の住人が地下室を作ろうとして、途中で資金が足りず諦めたものの産物らしい。


 台の作りの雑さも穴を隠すだけの目的と考えれば理解できる。

 この空洞と穴を塞ぐためにかかる大金を惜しんだのか、なにかに使えそうだと思ったのかまでは分からないが。

 照明もないため、目を闇に慣らしたあと、イリアスは玄関からの各部屋の配置と梯子の位置を照らし合わせ、父の部屋があるであろうと思われる梯子に当たりをつけた。


 執務室が1階で助かった。この地下室と繋がっているのは応接間や客間、家主の部屋などの主要な空間が集まる1階だけなのだ。


 父は自室と執務室を隣接させ、続き部屋にしたため、父の部屋に入れればそこから執務室に入れるという寸法だ。

 梯子をのぼり、耳をすませて上に気配がないか探ると、イリアスは蓋を押し上げてそうっと穴から出た。

 明らかに高級品と分かる調度品に、愛人と息子と撮ったらしい写真が飾られている。


(……そうか。あいつのなかにおれたちは、もういないのか)


 屋敷にいた頃の部屋とも、もちろん古くてすきま風が入る離れとも、全く違う。

 如何に自分が愛されていなかったのかをまざまざと見せつけられた気分になった。


 イリアスは本来の目的を果たそうと気持ちを切り替え、部屋の捜索を始めた。

 ベッドの下、枕の下、中、クッションの中、机の引き出し、―――そして、違和感を感じて押した、引き出しの奥。


 かこん、と間の抜けた音を立てて、二重底が開く。


 あった。


 使用人が持っていた薬包紙と、それに包まれた甘苦い匂い。

 その二重底にあったのはそれだけで、なにか書類などもないかと探したが、部屋にはそれだけしか無かった。

 と、なると、次に探るべきは執務室である。


 執務室へ繋がるドアに耳を近づけると、微かに衣擦れと紙の音がする。


 しばらくはこの部屋にいた方が安全そうだ。再び穴から出るのもリスクが高い。


 イリアスは探した痕跡を消すと、厚みのある本棚の縁に足をかけ、1番上までよじ登ると、地上から見えないようにできるだけ壁に体を沿わせる。


 本棚と天井の隙間は子供のイリアスでも狭く、ここに誰か隠れているとは思わないだろう。


 やがて執務室にいた人物はちらりと部屋を覗き、再びドアを閉めると執務室からも出ていった。父だろう。


 イリアスはそろりそろりと足を注意深くおろし、執務室に誰をいないことを確認してからドアを開け、執務室の机の引き出しを片っ端から調べた。


 途中で人が来て慌てて隠れたが、父に用があったらしき彼は誰もいないと見るやどこに行ったのかと呟きながら出ていった。


 普通なら、後暗い書類などは鍵のついた引き出しに入れるだろう。だが、相手はあの捻くれた父である。むしろ鍵のついている方が如何にもと言った感じがして怪しまれると考えるのではないだろうか。


 ―――当たった。


 引き出しの中、多くの書類の中に紛れ込ませるようにして、やや他より縦の辺が長い書類があった。とんとん、と紙を揃えると、数枚、バラバラに紛れている。


 イリアスは万が一を考えてそれを抜くことはせず、ほかの書類をいちいちどかす形で順序を変えることなく書類を読んでいった。


 果たして、父は犯罪に手を染めていた。

 契約相手と、売る値段、服用後の作用まで書いてあったので、動かぬ証拠とみていいだろう。


 イリアスは書類を元に戻すと、父の部屋に戻り、また穴から離れに帰っていった。

 それからは母に相談し、1人で調査したことは怒られたが、一緒に逃げる算段を考えてくれた。


 かくして、警邏隊による捕縛騒動があった時も速やかに屋敷から逃げられたのだ。

 しかし、護衛を雇うだけの人脈も時間もなく、賊に襲われ貧民街に行くことになった。







「リア、本当にその名前、使い続けていいの?今は何も強制されていないんだから、名前を変えることも、女の子として生きることも出来るのに……」


 貧民街に来たばかりの頃、母が言ったことがある。


「いいよ。今更女の子らしい言動なんて性にあわないし、なにより、俺はヒーロー、だからね」


 そう言って笑ったイリアスに、首を傾げた後、母はそう、と言って目を細めた。


 どうせ英雄の名を持つなら、父のためでなく、あの素直で意地っ張りな、唯一の友人にとっての英雄でありたい。


 あの子にまた会えたら、俺があなたのヒーローだよ、と誇りを持って言えるように。





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