幕間 イリアス
18時に間に合わなくてすみません!!
イリアスの過去の話です。
楽しみいただけたら幸いです。
イリアスという人間は、確かに産まれる瞬間までは両親のどちらにも愛され、望まれていた。
父親など、産まれる前からいくつも名前を考え、産まれる当日になってやっと、イリアスの名に決めたくらいである。
そう。イリアスという男性名に。
イリアスとは、父が古い文献を読み漁って出てきた、古の英雄である。武に優れ、優しく気高く、生まれ育ちも良い、正しく用意されたかのように完璧な英雄。
父は息子しか望んでいなかった。
娘とわかった時、父は怒り狂ったらしい。なぜ、なぜ、と何度も吐く姿は恐ろしく異常だったという。
イリアスは恐らく父は後継が欲しかったのだと解釈しているが、それでもその父の様子は聞くだに不可解で、嫌悪感を催した。
それでも、父はイリアスに対し冷たい視線をやるのみで冷遇まではされていなかった。
産まれる前から作っていた男の子用の子供服を着せ、まるで男の子を育てるように、イリアスに一人称や喋り方を教えた。時折イリアスの金の瞳に怯えたり、気味悪げに目を逸らしたりすることはあったが、それでも、イリアスたちの生活水準は保証されていた。
母とイリアスの環境が悪くなったのは、イリアスが物心付き、母だけでなく、たまに会う父に初めて口を聞いた時だ。
それは、屋敷を歩いていたイリアスが、曲がり角の向こうから歩いてきた父とぶつかりそうになった時だった。
「っ、ああ、悪いな。ちょっとお父様は先を急ぐんだ」
「?おとーさま、何かわるいことしてるの?」
「いや、まだ小さいお前とぶつかりそうになってしまったからな、驚いただろう?すまんな」
父としては、普通の親のように優しく声をかけ、普通の子供に対するように、優しく言いくるめて誤魔化したつもりだったのだろう。
しかし。
「ううん、そうじゃないよ?おれにぶつかりそうなことはあまりごめんねって思ってなくて、ちがうことで、なんか、うーん、こわがってる?」
「っ、」
父はその目を見開き、イリアスを凝視した。
「今は、おれのことが、こわいのかな?」
「っひ、あ、」
「大丈夫だよ、おれ、何もしな――――――」
「近寄るな化け物ッ!!!」
イリアスは、伸ばしかけた手を払われ、涙目になった。
「ふぇ、」
パシンッ
父が泣きかけたイリアスを平手で打つ。
「やはりあの女に子を産ませるのではなかった!!このような化け物はもう産まれないと聞いていたから貰ってやったのに!!」
立て続けに飛んでくる父の平手から身を守るためイリアスは身を縮めて腕で頭を覆った。
「ああ、その眼!その忌まわしい金の瞳!!まさかとは思っていたが、本当にこのような、穢らわしい、力を持っているなど!!」
ほんとうに、
「あ、……おとう―――」
気味が悪い。
※
父は、イリアスに手を上げたことを抗議した母と共にイリアスを古ぼけた離れに閉じ込め、やがて愛人を作り、息子を産ませた。
息子には、名前を付けていなかった。
愛する私の子、と呼んでいたのを見た。
イリアスのことは一度も私の子などと言ったことは無かったのに。
泣きながら母に謝るイリアスを、母は抱きしめた。
「リアは何も悪くないのよ。その瞳も、性別も、あなたがあなたらしくあるように与えられた物の、1つでしかないの。苦しめられる必要も、自分で否定する必要もないのよ」
お母様は、リアの綺麗な瞳も、優しい性格も、可愛い笑顔も、ぜーんぶ、大好きよ、と言って、母は涙に濡れた顔で微笑んだ。
その言葉に、少なからずイリアスは救われた。
けれど、彼女は知っていた。
噂が広がり、使用人達はイリアスを避け始めていること、悪魔の子だと言われていること、母が不貞を働いたことで神の怒りを買ったのだと言われていること。
大好きな母までもが自分のせいで悪評を広められていることは、イリアスが自己嫌悪に陥るのには充分だった。
イリアスは、自分の金色の能力が人に露呈することを恐れるようになった。
次もイリアス過去編、続きます。
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