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Guardian  作者: 天宮 碧
13/35

10.言っていいことと悪いこと


やっと10話です!

お楽しみいただけたら幸いです。









 ことの発端は二日前。


「そろそろイリアスもまともな食事が作れるようになってきた」

「まともなしょくじ……」

「今までは毒物に近かった。」

「……」


 イリアスはそこまでとは思っていなかったため大変なダメージを負った。


「が、今では道具の使い方も覚えたし、焦がさないし、ちゃんと分量量るし、ちゃんと食事になっている」


 あれ、そこまでだっけ、とイリアスは真面目に考えた。


 うん、記憶にないな。


 実際に()()()()酷かったのだが、綺麗に記憶を抹消したイリアスは曖昧に笑い、レオナルドは彼女を呆れた目で見た。


「……まあ、いい。そういうことで、だ」

「?」

「この宮の外に出てみようか」

「……?」


 やっと料理指南から開放される、とスッキリした顔のレオナルドと、ピンと来ていないイリアス。


「……今までも何度か、御用付けで宮の外には行っておりますが」

「違う。優先順位の高い問題が解決した今、お前に宮の外を案内しておこうと思って」


 確かに、現在王宮内の第一王子の配下が自分しかいない中で、自分が迷子になった時誰も尻拭いできる人はいない。合理的ではある。


「なるほど。では殿下が午後の仕事をサボりたいわけではないのですね?」


 レオナルドはにっこりと例の胡散臭い笑みを浮かべた。


「……そんなわけないだろう?かしこーいイリアス君なら、俺がそんな事しないって分かるはずだけど?」

「そうですね、俺もだいぶ殿下のことがわかってきた気がします」


 その言葉に含まれた棘は言わずもがなである。


「可愛くないなー」


 レオナルドはわざとらしく口を尖らせる。

 可愛くない。


「ただの用心棒に可愛げを求めないでくださいよ……」


 イリアスは主人に向かって呆れたような目線を向けた。


「それで、最初はどこを案内してくださるんですか?」


 拗ねてしまったレオナルド(演技だろうが)の機嫌を取るように、イリアスは優しく話題を変えた。

 レオナルドは拗ねた振りをやめ、薄く笑う。




「王宮」







 既に馬車は用意してあるからそこまで歩こうというレオナルドに、イリアスは内心またかとげんなりしつつ、貰ったマントを着てくる許可を得て宮内の自室からマントを持ってきた。


「王宮って、ここが王宮では無いのですか?」


 厚手のマントを着て再び外に出たイリアスは、スタスタと先を歩き始めたレオナルドに尋ねた。


「正確には、王宮の敷地内、だよ。いつもイリアス達が本宮って呼んでいるところが、王宮。俺の使っている宮はあくまで王宮の敷地内にある余った後宮の1つに過ぎない。


 王宮を中心として大きい4つの後宮が囲んでいて、南にリリー宮、東にローズ宮、北にカメリア宮、西にダリヤ宮がある。それぞれの宮には沢山の侍女たちを住まわせるために造られた別棟が2、3棟併設されている。4つの後宮を囲むようにして造られた小さい後宮は身分がそう高くは無いけれど、国王や王子のお気に入りになった女性が住んでいたらしい。


 俺らが住んでいるのは一応大きい方の宮で、ダリヤ宮。人員もないし掃除も面倒だから別棟の方は使ってないけどね」


 それとない疑問兼話題のつもりで出した質問に対し、思っていたよりも長い説明が返ってきたため、イリアスは面食らった。

 どうやらサボタージュのため案内をしてくれると言っても、おざなりにするつもりは無いらしい。


「後宮まで含めて王宮の敷地。王宮と呼ぶのはあくまで俗称だね。王宮の敷地を中心に広がるのが王都、王家の直轄領だよ」


 ふんふんと話を聞くイリアス。


 軽く敷地内の配置を聞いている間に馬車までたどり着いた。

 先にレオナルドが乗り、後から車内の向かいの座席にイリアスが乗り込む。

 御者の顔を見れば前回ダリヤ宮まで乗せてくれた彼である。

 そこまで考えて、はた、とイリアスは気づいた。


「そういえば、御者はいいのですか?ダリヤ宮で働くお二方はともかくとして、御者の彼にも貧民街から出た時にお会いしていますし、今もこうして乗せていただいているので、彼が不審に思って誰かに報告すれば、殿下の今までされてきた隠蔽工さ……苦労が水の泡では?」

「ああ、彼は良いよ」

「彼も味方なのですか?」

「厳密に言えば違うけど、どちらかと言えば、そうだね」


 何やら煮え切らない返答である。


 イリアスが頭の上に?を浮かべていると、レオナルドは苦笑して答えを教えてくれた。


「彼は俺の契約精霊なんだ」


「!?!?」



 契約精霊。

 その名の通り、人間と契約した精霊のことを言う。


 ただ、契約するにはまず精霊が視えること、魔力や適正などの諸条件をクリアせねばならず、また、精霊力と人間である契約者の魔力を混ぜるため、人間側には大変な苦痛が伴う。


 そのような事情から、精霊と契約するのは余程の野心家か、専門職に就き必要性のある者など。そう多くいるものでは無く、見つかれば国に保護されるような貴重な才能である。


 契約精霊はあくまで契約に従い望みを叶えてくれる存在。味方と言えば味方だが、確かにシオンやマリアとは違うだろう。


「それ、俺に言っても良かったのですか?」


 そして、契約に従っているだけなのはイリアスも同じである。

 レオナルドからしたらイリアスも人間である分、精霊よりも警戒すべき存在であろう。


「そう言ってくれる間は大丈夫だよ。それに、イリアスは俺から与えられた情報に動かされる性格じゃないと思うけど」

「……それは、どうでしょうね……」


 イリアスは自分が時に慎重すぎることを自覚している。口約束は基本的に信用しないし、母が絡むとそれはより顕著になる。

 しかし。


 イリアスは与えられた情報に関して、裏を取ることなく信じることがある。


「?」


 怪訝な顔をするレオナルドに、イリアスは少し笑い、窓の外へと視線を逸らした。


「殿下、もうすぐ王宮のようですよ。やはり、近くで見るとより大きく荘厳に見えますね」

「あ、ああ、そうだな」


 レオナルドはあからさまな話題の転換に、不審に思いながらも乗ってくれるらしい。

 こういうところは、優しいと思う。




 その優しい彼は、()()()()()()()()()、とイリアスが言ったら、どう反応するのだろうか。


 イリアスは窓の外を依然として覗くふりをしたまま、小さく唇を噛んだ。



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