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Guardian  作者: 天宮 碧
12/35

9.胃袋を掴まれたくらいには美味しかった。

お待たせしました。m(_ _)m

更新頻度をできるだけ週1くらいにしようと思います...。





 言われたことを指定された13時までに終わらせ、イリアスは食堂を恐る恐る覗いた。


「……ッな、!」


 ごはんが、できている!!


 一時的にイリアスの知能レベルが下がった。


「来たか。ちょうど出来たところだ」


 ひょっこりと現れたレオナルドを信じられない目で見る。


「あなた、影武者とかじゃないでしょうね?」

「違えよ!」

「じゃあ王族じゃなかったんですか!?」

「王族だけど!?」


 詐欺とでも叫び出しそうなイリアスだが、無理もない。

 基本的に貴族は料理をすることがない。御令嬢が趣味としてお菓子を作ることはあるが、シェフの指導の下、怪我などがないよう細心の注意を払われる。

 料理とは貴族にとって下々のものがすることなのだ。


 ましてや王族、それも王子となればまず機会が無いだろう。


「俺は自炊のできる王子なのです」


 イリアスは彼のドヤ顔に内心イラッとしたが、それでも己に出来なかったことをしてくれたのは事実である。素直に凄いですね、と返した。


「とは言っても、簡単なリゾットとスープだけだけど」

「……それでも、私にはできませんでした。ありがとうございます」


 苦笑した王子に素直に感謝すると、彼は胡散臭くない顔で笑った。


 その顔が一瞬誰かと重なって、イリアスは首を傾げた。

 イリアスは五歳の時から貧民街で暮らしていた。雲上人である第一王子とあったことなどないはずだが。


「イリアス?どうした?」


 変な顔で固まるイリアスを不審に思ってレオナルドが声をかけると、イリアスは頭を振って疑念を消した。

 妙に幼いところのある王子だから、どうせ貧民街のガキどもが可愛かった頃でも思い出したのだろう。

 そう、これは母性である。


(いや、それもどうなんだ?)


 流石に不敬だし、こんなでかい息子がいて溜まるか、と彼女は慌てて考え直したが。


「いえ、なんでもありませんよ」


 妙に生ぬるさが残る視線を向けられたレオナルドは気味悪げな顔をする。


「さっき頭でも打ったのか?やっぱり午後は休んでいいぞ?」

「心配するか不気味がるかどっちかにしてくださいよ」


 まったく失礼な主である。


 第一この極まった人手不足の中イリアスが休んだら、誰がこいつの世話をするというのか。

 ……料理スキルを見る限り実はもっとできることは多いのかもしれないが。


「食べよう。せっかく作ったのに冷める」

「そうですね」


 当たり前のようにレオナルドの椅子を引いて座らせ、自然に後ろへと控える。


「……何で?」

「何で、とは?」

「ニ膳あるんだから、一緒に食べるに決まってるだろ」


 使用人が主人と一緒に食べるというのはまずないことだと教えられたが、二人だけだし、一緒に食べる人間もないというのはやはり寂しかったのかもしれない。

 ここは断らない方がいいだろう。


「……ありがとうございます、ではご相伴にあずかりますね」

「その目やめろ」







 やはり彼は優秀だ。


 入ってそう間もないというのに、すべての業務内容を把握し、ある程度こなせる程度の手際の良さもある。

 魔法の使い方がわからない身で庭の花木全てに水やりをする、というのは驚いた。あの発達しきっていない細身を考えると無意識に身体強化系の魔法をかけているのかもしれない。料理の腕前では別の意味で驚かされたが。


 まあ、育った環境を思えば料理ができるはずもなかったし、これは自分の配役ミスである。


 そして、仕事の多さに辟易しながらも、なぜこんなことをせねばならないのか、不当な虐めであると今まで雇わされた馬鹿のように言わなかったということは、仕事内容の目的も把握していると思ってよいだろう。


 掃除も書類の整理も側仕えのふりをするならば身につけておかなくてはならない技術であるし、井戸からでなく滝から水を持ってきたり、料理を本邸で作らせたりしないのは毒を警戒してのこと。


 仕事を多くすれば必然的に『新しくやってきたかわいそうな側仕え候補』として周りに認知されやすく、同情を買って情報を収集しやすくなる。レオナルドの側に四六時中いようが、本邸をウロチョロしようが、すべては『我儘な馬鹿王子の気まぐれに振り回されているだけ』である。警戒はまずされないだろう。


 何より本人がこれ以上なく不服です!!と顔で主張しながら歩くのである。効果は抜群だ。イリアスは無表情のわりに感情がわかりやすいのが難点と言えるが、逆手に取ってしまえばとても優秀な用心棒(味方)である。


「面白いなあ」


 つぶやいた自分の言葉に自分で驚いて、ほのかに笑った。


 いつもなら、そろそろ見切りをつける頃だが、幸い、イリアスは頭が悪くなく、度胸も根性もある。少なくとも、仮にも王族の自分に悪びれもなく興味が無いと言い放つ程度には。

 それが、気楽なようにも、気に食わないようにも思えるが、こんな感情も失って久しい。

 暫くは、傍に置いておこう。




 ……それでも。


 生活水準を守るためまずは料理を教えなければ。


 先ほど出来上がっていた暗黒物質(ダークマター)を思い出した彼は、リゾットを頬張るイリアスに目をやり、誰も気づかぬほど微かに、目を細めた。




 ――――――遠い日の穏やかな記憶と、その光景はどこか同じ心地良さがあった。





この後ちゃんと道具の使い方から教えてもらいました。


レオ「なんでこの状態でイけると思っちゃったの...?」

イリ「案ずるより産むが易しと言いますし...」

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