8. できたのは。
更新遅くなってしまいすみません……!
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」
どさっと持っていた荷物を下ろし、イリアスは荒く肩で息をした。
(人間から本当にこんな音が出るとは知らなかった)
言っておくが、イリアスは決して体力が無いわけでも筋力がない訳でもない。
用心棒家業をしていたのだから、筋力はともかく体力では同年代の男子に勝るし、筋力にしたってそれなりにあるのだ。
※以下特に読まなくても問題は無い。
まず最初に取り掛かった書類の整理。これをしないと朝から始まるレオナルドの仕事がしにくいだろう。
執務室の有様は思っていたよりも悲惨で、シオンに教わった時はそこまで酷くなかったため、彼が事前にある程度片付けておいてくれたのだろう。彼は偉大だった。
とりあえずイリアスは先輩に尊敬の念を抱きながらあちこちに散乱した書類を分類ごとにまとめ、更に期限が迫っているものが上になるように今日の分の書類を机に積んでいく。インクの補充をし、羽根ペンを削った後、既に済ませた昨日の書類を本邸に持っていくものと各貴族、各部署へ持っていくものとで分けてまとめ、引取りに来た使用人に渡す。
それがおわったら水の持ち運び。
指定された滝までそこそこの距離がある上、水は重く、一度に運べるのはせいぜい桶2つが限界である。
宮中の水を取り換え、更に庭に水遣りをするのに、雑にざっぱあん、とぶちまける訳には行かない。汲んできた水を如雨露に入れ直し、慈愛を込めて植物の根にかけねばならなかった。
今まではシオンが魔法でちょちょいとやってくれたのだが、魔法の扱い方を習っていない貧民のイリアスは厳しい肉体労働を強いられたのだ。
これで午前が終わった。今運んでいたのは本宮から貰ってきた食材である。本宮までがまた遠いのだ。重いし。
比較的小柄で少年にしか見えないイリアスを気遣い、本宮の人達は台車を貸してくれたが、それでもやはり重いものは重かった。
微妙に傾斜があり、上り坂ではもちろん、下り坂でも台車が勝手に転がってしまわぬよう、全身の筋肉を使っていたのも大きい。
※ここまで愚痴タイム
というわけで、イリアスは午前だけですでにへばっていた。
「外套あづいー……」
レオナルドの宮についた瞬間に私室で重苦しい外套を脱ぎ捨て、食材を持って厨房へ向かう。
貧民街では料理する道具も材料もなかったため、料理の知識など母が付き合ってくれたままごとの範疇に収まっているが、まあ、何とかなるだろう。
結果。
どうにもならなかった。
頑張ったが、炭はどうやっても炭にしかならなかった。
「無念」
さて、どうしよう。
既に正午になってしまったが、目玉焼き(っぽいやつ。意図して出来上がったものでは無い。)と軽く塩揉みしたサラダだけしか出来上がっていない。
割と真剣にイリアスが悩んでいると、
「おい、もしかして何か問題が――――――っ、どうした!?」
「あ、殿下……」
いたたまれない。
仕事ならば大抵の事は完璧にこなしてみせるのが常のイリアスだが、ここまでの失態は初めてである。
床に散った何かの細切れと、煙を上げる調理器具。生産された暗黒物質に再び目を向け、イリアスはすっ……とその視線を逸らした。
怒られるだろうか。呆れられたかもしれない。
「申し訳ありません、ご命令のものは出来上がっておらず、本日は本邸のシェフに―――」
「違う。それは良い。手、見せて」
レオナルドは堅い手で細いイリアスの手を取る。
「よし、怪我は無いな」
じろじろと眺めた後にぱっと手を離す。
「あの……」
「何!?もしかしてもっとダイナミックに変なとこ傷付けたの!?」
「ダイナミックな傷付け方って何ですか……。
あの……怒らないのですか?」
元が用心棒としての腕を買われたとはいえ、屋敷にこもって特別危険もない今、レオナルドにとってのイリアスはタダ飯喰らいでしかないだろう。
雑用も満足に出来ないのでは、本当に役たたずだ。
別にそのことに落ち込んだり傷付いたりしている訳では無いが。決して。
「そんなことで怒らないよ、業務外の事頼んでるのはこっちだし」
本当にな。
とは流石に言えないが。
「とりあえず、今日の昼食と夕食は気にしなくていい。あと何が残ってる?」
「書類整理、水汲み、食料調達以外の全部です……」
そう言うと少しレオナルドは目を丸くした。
「なるほど。これは逸材だ」
「何の話ですか?」
「思ってたより終わってたなって話」
(やっぱ無茶だとは思ってたんだな……)
もはや怒りすらわかない。
「じゃあまずこの惨状をどうにかして」
「はい」
「どうせ客なんか滅多に来ないから、まずは俺と君の部屋だけ優先して掃除とベッドメイクして。応接室とか廊下は後で」
「?はい」
使用人の私生活の範囲まで仕事に含めるものなのか?
「その間に、俺はご飯を作ります」
「はい……って、え?」
「その間に、俺はご飯を作ります」
「いや、聞こえなかった訳ではなく、……殿下が作るのですか?」
「そう言ったはずだけど」
なんだそれは私以上に心配じゃないかあんた一応王族のお坊ちゃんだろここは大人しくプロに任せようよ。
という心の声をイリアスはぐっと飲み込み、まあ、できると思っちゃうよねわかるよ、という温かい視線を向けた。
「何かとても失礼なことを考えてないか?」
「イイエ?」
気のせいですとも。ええ。
「まあ、いい。じゃあとりあえずここ片付けて解散。13時に食堂集合な」
「はい」
とりあえずもう使い物にならない食材は捨て、ある程度台所を綺麗にしてイリアスは掃除に向かった。
イリアスは一応有能な部類です(まだ)
マリアとシオンが人間をやめているだけです。
イリアス「まだって何!?」
いつかなれるといいね、人外。




