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炎vs氷


 ガーデンから離れた草原で、ロウとヒノは15メートルほど距離を取り、対峙する。

 風が草を揺らし、遠くにガーデンの壁がぼんやり見える静かな場所だった。

 足元の土は柔らかく、採取用の荷物が近くに置かれていた。


 他のクラスメンバーは声の届かないほど離れた場所で観戦することにした。

 彼らの姿は草原の起伏に紛れ、かすかな話し声だけが風に混じっていた。


「じゃあ、始めるか」


 そう言うと、ヒノは両手両腕から背中までに装甲とバーニアを最速で生成し、戦闘態勢に入る。

 装甲が軽く軋み、バーニアの低いうなりが空気を震わせた。


「……」


 ロウは構えることなく、足元から冷気が広がるだけだ。

 その冷気が草に霜を付け、微かな音を立てて広がった。


「(単純な異能勝負じゃ、あいつにはおそらく勝てない)」


 属性に特化したロウと複合型のヒノで、氷と炎の勝負をすれば確実に負けるとヒノは判断した。

 冷静な計算が、頭を素早く駆け巡った。


 ヒノの腕に纏った装甲は、大抵の部分から炎を出せる。

 ただし、背中のバーニアは噴出口からしか出せず、その分出力が高い。

 その特性をどう使うか、ヒノの頭に戦略が浮かんでいた。


「始めていい……?」


 ロウが涼しげな顔でヒノに確認を取る。

 その声は静かで、感情を抑えた冷たさが滲んでいた。


「いつでもどうぞ」


 ヒノは冷静に答える。

 その言葉が、草原の静寂に短く響いた。


 その瞬間、前回と同じ超速度の四角形の氷がヒノの顔に向かって伸びる。

 ヒノはわざとギリギリまで引きつけ、回避する。

 氷が空気を切り、かすかな風が顔を掠めた。


 同時に背中のバーニアを点火し、全力の速度でロウの眼前まで急接近。

 噴射音が草を揺らし、熱が土を焦がした。


「(っ!? 速い……!)」


「(遅えよ!)」


 前回とは違い、最初から本気の動きだ。

 ヒノの右ラリアットを、ロウは上体を逸らしてなんとか回避。

 その動きに、鋭い反射神経が感じられた。


「(反射神経がとんでもないな……!)」


 ヒノは地面を滑りながら時計回りに反転し、右掌をロウに向ける。

 手の平から炎弾を2発放つ。

 炎が空気を焼き、熱風が草を軽く揺らした。


「……!」


 ロウは1発目を避けるが、2発目は地面から生えた氷棘で防ぐ。

 炎が氷を溶かし、蒸発する。

 その衝突が、微かな水蒸気を漂わせた。


 炎と氷がぶつかり合うが、異能から生まれた力は通常とは少し異なる現象を引き起こす。

 その異質さが、二人の戦いを際立たせていた。


「(私の氷が溶けた。そこらの炎使いより火力がある。しかも私の回避先を読んでいた)」


 ロウが冷静にヒノの能力を分析し始める。

 それをヒノはすぐ察知した。

 彼女の目つきに、鋭い観察力が宿っているのが分かった。


「(鈍ってんな)」


 考える暇を与えるかと、ヒノは炎弾を防がれた直後、ロウの左側に回り込み、さらに炎弾を撃つ。

 撃ち込む場所は足元。

 その動きが、素早く土を削った。


「(攻め立てる速度が速すぎる……!)」


 考える隙を与えない。

 前回とはまるで違う動きに、ロウはついていけない。

 その焦りが、彼女の冷静さを一瞬揺らがせた。


 炎弾がロウの足元の地面に当たり、炸裂して土を吹き飛ばす。

 その衝撃が、草を散らし、小さな土塊を舞い上げた。


 若干浮いた形になったロウを見た瞬間、ヒノがバーニアを点火。

 ロウが足を地面につける前に懐へ飛び込む。

 バーニアの熱が、背後の草を焦がした。


「(空中だと氷の壁は出せねえだろ)」


「(間に合わない! ボディ……)」


 ヒノの左拳によるボディブローを読んだロウは、両腕に氷を纏い防御態勢を取る。

 その氷が、腕に硬く絡みついた。


 ヒノは防がれても構わないとばかりに、左肘の装甲から炎を噴射。

 推進力を利用して無理やり振り抜く。

 炎が空気を焼き、鋭い音が響いた。


「っ! あ"ッ!!」


 ロウの防御を貫通し、ダメージを与え、たまらず声が漏れる。

 さらに空中へと吹き飛ばされる。

 その衝撃が、彼女の体を草原の上空に舞い上げた。


「(装甲型じゃねえお前は質量操作で踏ん張れねえ。それが弱点だ)」


 属性型のロウは装甲を出せず、重量を増し^_^て地上に留まることはできない。

 その弱点を、ヒノは冷静に見抜いていた。


「それじゃトドメと――」


 ヒノが右手から炎弾を撃とうとするが、右腕装甲が凍結していることに気づく。

 その冷たさが、手に鋭く刺さった。


「は? (少し触れただけで? どんな出力だよ)」


 ヒノは左手に切り替え、ロウへ炎弾を連射。

 しかし、少し時間をかけたせいで、ロウが体勢を整えてしまっていた。

 その一瞬の隙が、戦況を変えた。


 ロウは左手から氷を伸ばし、地面と繋げる。

 そこから発生する氷棘がヒノに迫る。

 氷が地面を這い、鋭い音を立てた。


「そんなので止められるかよ!」


 ヒノは棘を回避しながら炎弾を連射。

 地面に繋がる氷を撃ち抜く。

 炎が氷を砕き、破片が草原に散った。


「……!」


「そのまま落ちてこい!」


 伸びた氷が炎弾で砕け、ロウは支えを失い自由落下するはずだった。

 その瞬間を、ヒノは見逃さなかった。


「そんなの意味がない……」


「何!?」


 破壊されたそばから、ロウは氷を再生させ元通りに繋げる。

 その速度が、ヒノの予想を超えていた。


「(早く地面に戻らないと……!)」


「(氷を壊してもいいことがねえなら!)」


 ロウは伸ばした氷を左手腕から切り離し、その裏を蹴って一気に地面へ跳躍。

 その動きが、空中で鋭く響いた。


 ヒノは左掌を動かし、狙いをロウに変える。

 その判断が、瞬時に頭を駆け巡った。


「戻らせるかよ!」


 ヒノがロウへ炎弾を連射する。

 炎が空気を切り、熱が草原に漂った。


「……!」


 地面に着く前に炎弾が当たりそうになるが、ロウは氷の結晶を作り投げつけ、相殺。

 無事地面に戻る。

 その衝突が、小さな衝撃波を起こした。


「確かに君は強い……」


「?」


「そろそろ私も本気でやるから」


「そうかよ!」


 普段の余裕が消え、ロウが力を解放するように声を荒げる。

 その声に、冷たい決意が宿っていた。


 悍ましい冷気がロウから発生し始める。

 その冷気が、草原の草を一瞬で硬くした。


 ヒノは軽く笑みを浮かべ、ロウの出方を待つ。

 その笑みに、闘志が滲んでいた。


「呑まれて凍れ……!」


「!?」


 ロウが両手を地面につけると、超密度の氷棘が広範囲に広がり、ヒノへ迫り始める。

 その勢いが、地面を震わせた。


「手当たり次第かよ!」


 ヒノはバーニアで上空へ飛び上がるが、氷棘は上空まで伸びてくる。

 その速度が、草原の上空を切り裂いた。


「くっ!」


 ヒノは氷棘を回避しながら炎弾を撃とうとロウのいた場所を見るが――。

 その視線が、一瞬空を捉えた。


「(いない……!?)」


 突如、ヒノの背後の氷棘の影からロウが現れる。

 その動きが、静かに背後に忍び寄っていた。


 ヒノは振り向き、凍結が治った右腕で炎弾を撃つが、ロウは氷の足場を蹴り上へ飛び上がり回避。

 さらに上の氷を蹴り、ヒノへ急接近。

 その跳躍が、空気を鋭く切った。


「(上か!)」


「遅い……!」


 ロウは落下の勢いを乗せ、氷を纏った右脚の踵落としを叩きつける。

 その一撃が、重く響いた。


 ヒノは左手装甲でガードするが――。

 パキパキパキ

 触れている時間が長くなるほど凍結が進む。

 その冷たさが、装甲に鋭く食い込んだ。


「ぅっ! クソが!」


 ヒノはロウの足を無理やり弾き飛ばし、彼女へ右手炎弾を連射後、バーニアでさらに上空へ逃げる。

 その動きが、空中で鋭く響いた。


「逃がさない……」


 ロウは氷の足場から氷棘を伸ばし追ってくる。

 その執念が、草原の上空を埋め尽くした。


「(左手が……クソっ)」


「(誘いの可能性もあるけど……もう関係ない。両腕は凍結破壊寸前。このまま終わらせられる!)」


 ヒノは氷に追いつかれる。

 それどころか、氷棘がフィールドとなり空中に足場を創り出した。

 その異能の規模が、草原を圧倒した。


「(あいつ、こんな力使って平気なのか?)」


 ヒノは疑問に思うが、ロウはお構いなしに異能を酷使してくる。

 その無謀さが、彼女の決意を示していた。


 ロウは氷の足場に足をつけ、ヒノへ跳躍。

 一気に距離を詰める。

 その動きが、空気を鋭く切った。


「(デタラメな異能使いやがって!)」


 とんでもない出力に、ヒノが心の中で愚痴る。

 その苛立ちが、頭を駆け巡った。


 直に触れる凍結攻撃を仕掛けてくるかと思ったが、それはフェイント。

 ロウはヒノの間合い直前でジャンプし、頭上を通り背後に回り込む。

 その動きが、静かに背後に忍び寄った。


 回り込む間に近くの氷棘に触れ、ヒノの足元から氷棘を1刺し生やすが、ヒノはそれを避ける。

 その回避が、素早く響いた。


 次にヒノは当然ロウの方を瞬時に向くが、突然後頭部に痛みが走る。

 その衝撃が、頭を鋭く揺さぶった。


「っ!?」


 氷のフィールドでは、ロウが地面に触れている限り、予兆なく攻撃が来る方向が分からない。

 後方視界外から四角形の氷が伸び、ヒノの後頭部に直撃。

 その一撃が、鈍い音を立てた。


 ロウは無防備になったヒノに駆け寄り、両手をそれぞれ掴む。

 その冷たい手が、装甲に触れた。


「壊れろ……!」


 ヒノの両腕装甲が粉々に砕け散る。

 その破砕音が、草原に響き渡った。


「やった……!」


 ロウが冷たく勝利宣言するが、ヒノの顔が上がる。

 その表情は闘志に満ちていた。

 その眼光が、ロウを鋭く捉えた。


「まだ終わってねえよ!」


 ヒノが叫ぶと同時に、両腕装甲が再生成される。

 その音が、静かに響いた。


「再生成……!? (防御を! っぁ!? )」


 異能を使いすぎたロウは頭痛で瞬時に反撃できない。

 その痛みが、彼女の冷静さを奪った。


 ロウが怯んで後退した瞬間、ヒノはバーニアで懐に入る。

 その速度が、草原を切り裂いた。


「(避けられない……!)」


 ヒノはロウの両腕を掴み、押し倒す。

 その力が、彼女を地面に引き寄せた。


 さらに装甲の質量を増加させ、バーニアをフル稼働。

 氷のフィールドごと叩きつけ、砕く。

 そのまま下へ突き抜ける。

 その衝撃が、草原に鈍い音を響かせた。


「離せっ!」


「離すかよ!」


 いくら抵抗しても、地面に激突する未来は変わらない。

 その勢いのまま二人を地面に叩きつけた。


 ロウは地面に叩きつけられ、少し小さめのクレーターができた。

 その衝撃が、土を軽く舞い上げた。


「俺の勝ちだ」


 ヒノは両膝をつき、仰向けのロウにマウントを取る。

 左腕で首を掴み、勝利宣言。

 その声が、静かな草原に響いた。


 ヒノの右腕装甲は中身まで凍結が進んでいる。

 その冷たさが、手に鋭く刺さっていた。


「……まだ……負けて……ない……」


 ロウはヒノの左腕を両手で掴み、凍結させようとするが、ヒノは首を強く締めつける。

 その力が、彼女の息を奪った。


「う"っ"!」


「意識が薄れれば氷は使えねえだろ?」


「ぁ……あ"ぁ"!」


 意識が飛びそうになる瞬間、ロウが叫び、意識を甦らせる。

 その叫びが、草原に鋭く響いた。


 普通なら使えないと油断した瞬間、ヒノの左腕装甲が凍結し、粉々に砕かれる。

 左腕自体も凍結しかける。

 その破砕音が、再び響いた。


「私は負けない!」


「っ!?」


 ヒノは驚くが、冷静に右腕装甲を外す。

 そして生の右拳をロウの顔面に勢いよく叩き込む。

 その一撃が、鈍い音を立てた。


「……私……は……」


 ロウの両手が地面にぱたりと落ちる。

 意識を失ったのだ。

 その静寂が、戦いの終わりを告げた。


 勝利したものの、ヒノも満身創痍だった。

 息が荒く、体が重く感じられた。


「はぁ……はぁ……(生きてんな……?)」


 この世界基準で死なない程度にやったつもりだが、際どい戦いだったため、ヒノは不安になり、ロウの胸に耳を当てる。

 その動きが、静かに響いた。


 トクン、ドクン


「外傷もあまり……ないな。よし」


 小さく確かな心臓の鼓動を確認し、一息ついたヒノは、心置きなく立ち上がりその場を去ろうとする。

 その足音が、草原に軽く響いた。


「アイリス!」


 心配で駆けつけたアンナに、ヒノが突き飛ばされる。

 その衝撃が、彼を軽くよろめかせた。


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