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歓迎会?2


「……他の女の子もあんな感じなの?」


 シロガネはヒノの惨状を見て、周りの男子生徒達に静かに質問をする。

 観客席の木製ベンチに座り、フィールドに倒れたヒノを見つめるその目は、驚きと心配で揺れていた。

 訓練所の土埃が舞う中、ヒノのボロボロの姿が痛々しく映った。


「あそこまでやる奴はあいつだけだよ」


 ユウジは見慣れているように淡々と言った。

 その声には、ロウの異常さを当たり前と受け入れる諦めが滲んでいた。

 それに続いて、マーシャルも冷静にロウの戦績を伝える。


「だからこそ彼女は5年前から誰にも負けてはいない」


「5年も!? とんでもないな……」


 シロガネがロウの情報を集めている間に、次の対戦相手が決まろうとしていた。

 観客席のざわめきが一瞬静まり、ハインツの声が響き渡る。


「次、シロガネと戦いたい奴はいるか?」


「はい!」


 ハインツの呼びかけに元気よく応え、フィールドに降り立つアンナ。

 彼女の動きは軽快で、腰に下げた刀が微かに揺れ、観客席の視線を引きつけた。

 シロガネの話す時間が減っていく。


「じゃあ俺が戦う、あのリュウスイって子は?」


「アンナも強いよ。普段から異能で生成した刀を出しっ放しにするくらいヤバイ人だから。でも、アイリスに比べると全然優しいよ」


 ライゼはアンナを「ヤバイ人」と評しつつ、優しさも強調してフォローした。

 その口調には、クラスメイトへの親しみと、微かな安心感が混じっていた。


「情報提供どうも。じゃあ行きますか!」


 軽くストレッチしながら、シロガネは決意を言葉にする。

 体を軽く動かすたび、緊張が解れていくのを感じた。


 その瞬間、シロガネの雰囲気が少し変わった。

 ヒノは彼にとって最強の戦友だった。

 そのヒノが負けたのは、この平和な生活で油断したせいだとシロガネは考えていた。

 しかし、ロウの実力も本物だった。

 自分は絶対に油断せず、全力で挑むと心に誓う。

 ヒノの倒れた姿が脳裏に焼き付き、闘志が静かに燃え上がった。


「頑張れよ、骨は拾ってやる」


「骨なんて落とさねぇって」


 ユウジが冗談混じりにシロガネをからかうと、シロガネが呆れた声で返す。

 観客席から軽い笑いが漏れ、一瞬の和やかな空気が流れた。


「シロガネー、早く降りてこいー」


 ハインツに呼ばれ、フィールドのスタート位置に着くアンナとシロガネ。

 土の地面が足裏に硬く感じられ、戦いの緊張感が再び空気を支配した。


「まぁでも、本気でやっても骨落とすかもな」


 シロガネが軽くフットワークをしながら呟き、構える。

 先ほどのヒノの戦いを見た後では、本気を出さざるを得ないと感じていた。

 足を軽く動かし、体を温める動作が自然と出てくる。


 両脚に装甲を纏い、腰に二つの浮遊盾を生成するシロガネ。

 準備は整った。


「リュウスイ・アンナです。よろしくお願いします」


「(あれ? 物腰柔らかい感じの子?)シロガネ・ヤマトだ。よろしく」


「やるからには本気で行かせてもらいます。お覚悟を」


「なるべくお手柔らかに頼むよ」


「いざ……参ります」


 アンナは刀の鞘を左手で握り、右手で抜刀して構える。

 周囲に水球が浮かび始め、シロガネは彼女が自分と同じ複合型だと認識する。


「(空気中の水分を集めてるのか?)」


「はぁ!!」


 考える暇もなく、アンナの洗練された剣捌きがシロガネを襲う。

 刀が空気を切り、鋭い音がフィールドに響く。

 何度か刀を振り回した後、力を込めた振り下ろしが迫る。


 シロガネはそれをギリギリまで引きつけ、左足で刀を上から踏みつけると同時に、脚装甲の質量を増やしていく。

 装甲が地面を押し、土が軽く沈んだ。


「(水と刀の同時攻撃がないなら、刀に集中すればいいか)」


「っ! (ピクリともしない!)」


 刀を動かせないことに焦るアンナ。

 その瞳に、一瞬の驚きが走った。


「悪いけど手加減はなしだ!」


 その隙にシロガネは右手を伸ばし、アンナを取り押さえようとするが――。


「そんな分かりやすい手段!」


「おっ!?」


 アンナは即座に刀を手放し、左手でシロガネの右手を払いのける。

 そして右足でシロガネを蹴り飛ばす。

 その動きは流れるように自然で、刀が地面に落ちる音が響いた。


「(力が意外に強い!)」


「くっ! (腕力の勝負じゃおそらく勝てない!)」


 距離を取ると同時に、アンナは水を操り、刀を回収しようとする。

 水球が刀を引き寄せ、彼女の手元に戻る。


「(させるかよ!)」


 シロガネが高速接近し、右足で足払いを仕掛ける。

 装甲の重さが地面を削り、素早い動きがアンナを追う。


「これしき!」


 アンナは咄嗟にジャンプで足払いを回避。

 その跳躍が軽やかで、地面に軽い土埃を残した。


「(次は空中じゃ避けられないだろ!)」


 シロガネは回し蹴りからの勢いを利用した2連蹴りを繰り出すが、その頃にはアンナの手に刀が戻っていた。

 水が刀を包み、再び彼女の手に収まる。


「はぁ!」


「(重いっ!)」


 刀と装甲脚がぶつかり合うが、アンナの刀は質量を上げており、下にいるシロガネが不利に。

 刀の振り下ろしを受け流し、距離を取るシロガネ。

 その衝撃が装甲に響き、地面に軽いひびが入った。


「ぐっ……強いな」


 アンナを褒めつつ、互いに攻防を続けるが、決定打は決まらない。

 二人の動きがフィールドを駆け巡り、観客席から微かなざわめきが漏れた。


「あなた、先程は本気でやると言いましたよね? なぜ本気でやらないのですか?」


 突然、アンナが刀身の先端をシロガネに向け、怒気を込めて言い放つ。

 その声が鋭く響き、フィールドの空気を切り裂いた。


「手を抜いてるつもりはないんだけど……」


「雷を操ると聞きました。放つタイミングはいくらでもあったはずです」


「そうだけど……(前の世界じゃ人を殺しちまう技だし、慣れてないから怖いんだよな)」


 シロガネは内心で葛藤する。

 元の世界での雷の殺傷力が脳裏をよぎり、手が一瞬止まる。


 しかし、この世界では意識があればダメージが軽減されるルールを思い出す。

 ヒノの戦いを見た後、試さざるを得ない状況が彼を押した。


「(でも、そうだな……やらないと負ける!)」


 覚悟を決める。

 その決意が、目を鋭くさせた。


「ッー! 馬鹿にしてるんですか!?」


 アンナの目が鋭くなる。

 彼女にとって、手を抜かれることは過去の屈辱を思い起こさせるものだった。

 その怒りが、刀に込められた異能に力を与えた。


「ならばこの一刀で分からせます!」


「ちょっと待った! 別にリュウスイさんに使うまでもないとか、そういうことじゃ」


「言い訳無用っ!」


 アンナが刀を鞘に納め、姿勢を低くする。

 水が鞘に流れ込むのを見て、シロガネは特別な技が来ると感じた。

 浮遊盾を目の前に配置し、身構える。

 水の流れが鞘を包み、静かな緊張感が漂った。


「(何が来る……!)」


「痛みを知って、その考えを改めなさいッ!」


 アンナが全力で地面を踏み込み、地面が割れる。

 跳躍力で一気にシロガネの懐へ飛び込む。

 その勢いが土を跳ね上げ、鋭い音が響いた。


「(速すぎるだろッ!)」


 神速で正面に迫るアンナ。

 鞘の質量を最大にし、地面をさらに踏んでヒビを入れる。

 鞘内で水を纏い、刀身を滑らせ加速する抜刀。

 一連の動作が合わさった一閃。


『流水閃』


「(集中しろッ!!)」


『迅雷・セカンドアクセル』


 脳に電気信号を流し、シロガネの世界がスローに。

 浮遊盾2枚で防御するが、水を纏った刀が盾を切り裂き、一枚目が突破。

 盾が砕ける音が鋭く響き、破片が舞う。


「(盾が持たない!? これはまずいやつだ!)」


『迅雷・フルアクセル』


 ヂッ――!


 雷がシロガネの体から溢れ、全身の動きが限界を超える。

 アンナの刀が空を切り、彼女は体勢を崩して倒れる。

 雷の余波で軽く感電し、手から刀が離れる。

 電気が地面を焦がし、微かな煙が上がった。


「はぁ……はぁ……俺の……勝ちだ」


「ま、まだです……ッ! ……?」


 アンナが立ち上がろうとするが、シロガネの顔が歪んでいるのに気づく。

 『迅雷・フルアクセル』の負荷が彼の体を蝕んでいた。

 前の世界の戦闘装甲システムを応用した即興の技は、想像以上の負担だった。

 体が震え、息が荒くなる。


「そこまでだ。両者ともよくやったが、アンナの勝ちとする」


 ハインツの声がフィールドに響き、戦いの終わりを告げた。

 その判断に、観客席から微かなざわめきが漏れた。


「…………あっー……情けないな俺……」


 シロガネが自分の状態を理解し、気を失ってアンナの上に倒れ込む。

 その重みが、アンナを地面に押し付けた。


「ゔっ!?」


「あーあ、ヒノと二人揃って……」


「すみません……少し熱が入ってしまいました。うぅ……重い」


 疲労と感電の影響で、アンナはシロガネを退かせない。

 ロウとは違い、恥ずかしそうに反省する姿を見せた。

 その表情に、微かな照れと優しさが混じっていた。


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