表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/57

上に立つべき者


 「そんなこと俺たちに話していいのかよ」


 「信頼を得るためには本音を言うべきだと、私は考えているんだ」


 ヨハネスと呼ばれた男とユウジは、淡々と会話を続けた。月明かりの下、二人の声が静かに響き合い、周囲の喧騒が遠く感じられた。


 「それじゃ、アンタのその不満とやらを聞かせてくれよ」


 「そうだな。まず、アルカナガーデンのダメなところは、僕のような無能でも高い地位につけることだ」


 ヨハネスの言葉に、皆が再び疑問符を浮かべた。そしてユウジが質問を投げかける。夜風が彼の髪を軽く揺らし、鋭い目つきがヨハネスに向けられた。


 「それはアンタにとって良いことじゃないのかよ?」


 「良くないね。世の中は常に強い者が上に立つべきだよ」


 「ヨハネス様は上に立てる器だと、私は思います」


 ヨハネスの言葉に続けて、ゴスロリ少女が擁護するように言った。ヨハネスは少し笑うと、彼女の紹介を始めた。その笑顔には、どこか自嘲が混じっているようだった。


 「はは、彼女の名前はエルゼ・ゴース。彼女の異能と格闘術、強かっただろ?」


 「あ? まあ、それなりにはな」


 「そんな彼女はずっと奴隷として働かされていたんだ」


 「……」


 「彼女のような才能ある者が、無能が作ったルールに縛られて力を発揮できないなんて、もったいないだろ? 私はそれがおかしいと思った。だからこうしてるのさ」


 「なんで俺たちに話を持ちかけた?」


 「有能なコネはいくらあってもいい。それに、君たちには早く勢力を取り戻してほしいからね」


 とりあえず悪意は感じなかったユウジは、ヒノとアイリスに「ちょっとこい」とジェスチャーで呼びかけた。三人は少し離れた場所で顔を寄せ、月光が彼らの輪を照らした。


 「なぁ、どう思う?」


 「話だけでも聞いてみればいいんじゃねえの」


 「私もそう思うよ」


 「そうか」


 ユウジは短い会議を終えると、ヨハネスに向き直った。その背中に、決意のようなものが漂っていた。


 「話だけは聞いてやる!」


 「理解してくれて助かるよ。まあ、話と言っても、まだ依頼を出せるレベルじゃないんだがね」


 ヨハネスはまだ調査中だが、いずれヒノたちに依頼するつもりらしい。彼の声には、どこか遠くを見据えるような響きがあった。


 「君たちは不老不死って知ってるかい?」


 「歳を取らず、体も朽ちない奴でしょ。童話に出てくるようなやつ」


 ヨハネスの質問に、ライゼが答えた。彼女の声には、少し懐かしさが混じっていた。


 「その通り。そして、ここからかなり離れた山奥で、不老不死の獣人が研究されてるらしいんだ」


 「まだ不確定なのか?」


 「ああ。だからこれから私たちが調査に行って、確証を得たら君たちに頼むことになるかな」


 「その依頼での俺たちのメリットと、アンタのメリットは?」


 「君たちのメリットは多額の金と遺物、もしかしたら不老不死が仲間になるかもしれない。私たちのメリットは、不老不死の研究資料の入手かな」


 「仲間に?」


 「どうやら互いに合意した研究じゃないらしいからね」


 ヒノがヨハネスに確認を取ると、満足したように下がった。彼の表情には、ほのかな納得が浮かんでいた。


 「ん〜、でもアルカナガーデンの奴を本当に信用していいのかしらぁ……」


 「私だってこんな話を持ちかけてることがバレたら、首が飛んでしまうよ」


 「でも、さっきはいきなり斬りかかってきたしね」


 リースが顔をしかめながら言うと、ヨハネスはエルゼにその場で謝罪するよう促した。彼女の眉がわずかに動いた。


 「先程は……大変……申し訳ありませんでした」


 「「「(めっちゃめんどくさそう)」」」


 謝罪を聞いた全員が心の中でそう思った。エルゼの声には、明らかな不本意さが滲んでいた。


 「彼女にもこう言ってるんだ。許してほしい」


 ヨハネスがそう頼んでいると、あることに気づいた。エルゼの顔が赤くなっている。月光の下、その頬の紅潮がはっきりと見えた。


 「なっ!? 誰だ! エルゼにお酒を飲ませたのは!?」


 「あ〜、ごめんなさい〜。私、飲ませちゃった」


 ベーアが笑いながら申し訳なさそうにヨハネスに謝った。彼女の手には、空になった木の杯が握られていた。


 「ヨハネス様、用事は終わりましたよね。もう帰りましょう。私、眠たいんです」


 「あっ! ちょっと引っ張らないでくれ!」


 嵐のよう去っていったアルカナガーデンの二人を、皆で見送った。酔いが覚めてきたクラスメンバーたちは、片付けを始め、帰りの準備に取りかかった。夜風が冷たく、騒ぎの余韻を静かに冷ましていった。


 「今、何時くらいだ?」


 「騒ぎすぎてて、時間が経つの気にしてなかったな」


 「そうだな」


 「キョウヤも結構楽しんでただろ?」


 「……ああ、そうだな」


 ヒノはシロガネの質問に素直に答え、こんな気持ちになったのは何年ぶりかと内心で思った。夜空を見上げると、星が静かに瞬いていた。


 「シロガネぇ〜、今日は楽しかったですねぇ〜」


 「げっ」


 「あぁ!! なんですか、その反応はぁ!」


 酔ったアンナにまた絡まれるシロガネ。彼女の声が近づくたび、彼の肩が小さく跳ねた。


 「そんなに私が嫌いなんですかぁ〜!?」


 「いや、そんなわけないだろ?」


 すると、アンナがシロガネの胸に顔を押し付けた。彼女の髪が彼の服に絡まり、酒の匂いが漂った。


 「私、シロガネたちと出会えてほんとによかったです。今日もシロガネたちがいたから迎えられた今日です」


 「アンナ……俺もみんなと会えてよかったよ」


 「だから……うっ!?」


 シロガネが感傷に浸ろうとした瞬間――


 「おええええぇ」


 「あああぁぁぁ」


 シロガネの胸はアンナの嘔吐物で汚染された。彼女が食べた全てが、シロガネの胸に盛大にかけられた。生温かい感触と酸っぱい臭いが、彼を襲った。


 シロガネはアンナを連れて、水で洗える場所へと急いだ。足音が地面に響き、仲間たちの笑い声が遠くに聞こえた。


 「帰るか」


 「そうだね」


 冷たい目で二人を見ていたヒノとアイリスはそう呟くと、ユウジ、アンナ、シロガネを除くメンバーで帰り道を歩き始めた。夜の静けさが、彼らの足元を包んだ。


 「いやぁ、あの二人、今思い出すと笑っちゃうわね」


 「あの二人、仲良すぎでしょ」


 帰り道で、ライゼとリースが二人を思い出しながらゲラゲラ笑っていた。彼女たちの笑い声が、暗い道に明るい響きを添えた。


 「本当にすぐ仲良くなったよね、あの二人」


 「シロガネは誰とでも仲良くできる才能あると思う……俺ともすぐ接してくれたからさ……」


 次に、シュムとルートが二人について話し始めた。ルートの声には、どこか懐かしさが混じっていた。


 「ヒノはシロガネとアンナを見てどう思う?」


 「あ? 何が?」


 マーシャルの質問に、ヒノはなんのことかと怪訝な反応を見せた。すると、アルマが空気を変える発言をした。


 「それって、男と女の関係ってこと……?」


 普段のアルマはこんなことを言わないが、酔った彼女は大胆にそう言った。アイリス以外の女子たちが「きゃー」と盛り上がる。夜道に、彼女たちの声が弾けた。


 「あぁ、そういうことか? 俺には何もわかんねえよ」


 「またまたぁ、興味ありませんみたいに気取っちゃってぇ」


 「いや、興味もてねえんだよ」


 「まさか……男好き!?」


 「ちげぇよ」


 リースのからかいにヒノが淡々と返すと、それを見た周りのメンバーが笑い始めた。笑い声が夜空に吸い込まれ、仲間たちの輪が温かくなった。


 みんなは単純に、ヒノがクールなだけだと思っていた。彼の表情からは、何も読み取れなかった。


 そんなやりとりをしながら歩いていると、帰る家を通り過ぎるごとに一人ずつ減っていった。足音が減り、静寂が少しずつ広がった。


 最後はアイリスとヒノの二人で歩いていた。月が彼らの影を長く引き、道に淡い光を投げかけていた。


 「キョウヤ」


 「?」


 アイリスが足を止めて、ヒノの後ろから声をかけた。彼女の声は、酔いのせいか少し柔らかかった。


 「少しだけ話したいことがあるんだけど」


 お互いに酔っているからか、ヒノも気軽に承諾した。彼の肩が小さく動き、振り返った。


 「いいけど。どこかくつろげる場所は?」


 「私についてきて。いいところあるよ」


 アイリスの案内で、二人はホットガーデンの中心にある大樹ユグドラシルに少し登った、夜空が見える場所に移動した。枝の間から星が見え、風が葉をそっと揺らした。


 「で、話って何だ?」


 「キョウヤの過去とか、その……さっきのこととか」


 アイリスの言葉に少し考えるヒノだが、別に話してもいいかと、自分のことを話し始めた。夜の静けさの中、彼の声が低く響き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ