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二次会(2)


 ヒノとシロガネの腕相撲は、台が壊れたせいで引き分けに終わった。木片が地面に散らばり、月明かりに鈍く光っていた。


 「まさか台が先に壊れるとはな」


 「はぁ、今回は引き分けにしといてやるか」


 「なんで上から目線なんだよ」


 「もうぅ〜、喧嘩しちゃだめですよぉ、二人ともぉ〜」


 二人が言い争っていると、酔ったアンナがフラフラと止めに入ってきた。彼女の足元はふらつき、言葉が空に溶けるように響いた。それを見たヒノの頭に、ある疑問が浮かんだ。


 「アイリスとアンナって、どっちが強いんだ?」


 「あっ、確かにそれ俺も気になる!」


 ヒノに同調するシロガネ。彼の目が、酒の勢いでさらに輝いて見えた。


 「えぇ〜、そりゃ私ですよぉ〜! 何言ってるんですかぁ〜」


 その言葉を聞いたアイリスは無言で新たな台を持ってきて、静かに構えた。それを見たアンナはニヤリと笑い、対面に座る。二人の間に緊張が漂い、風さえ止まったかのようだった。


 「もう、アイリスって負けず嫌いなんですからぁ」


 「調子に乗るのは勝ってからにしてよ」


 「ふふん、いいですよぉ〜」


 二人の間に見えない火花が散っているように見え、周囲の仲間たちは息を呑んだ。空気が一瞬張り詰め、誰もが目を離せなくなった。


 「この二人が力比べするの、久しぶりだね」


 「今はどっちが上なんだろ……」


 ライゼとルートがラフな姿勢で椅子に座りながら、興味津々に眺めていた。他のメンバーも同様に注目していた。月光が二人の顔を照らし、静かな期待が広がった。


 「おっしゃぁ、それじゃいくぜ! 3、2、1、0!」


 再びユウジの合図で、力と力のぶつかり合いが始まった。台が小さく軋み、地面に響きが伝わった。


 「くっ!?」


 「ふふん♪」


 アイリスは全力で腕に力を込めるが、アンナは余裕そうな笑みを浮かべている。素の力だけで言えば、アンナのフィジカルが圧倒的に上だった。彼女の手には、酒の影響を感じさせない確かな力が宿っていた。


 「どうしましたぁ、アイリスぅ?」


 「っ!!」


 徐々に押されていくアイリス。彼女の額に汗が浮かび、歯を食いしばる音が小さく聞こえた。


 「ははっ、この勝負、アンナの勝ちみたいだな、キョウヤ」


 「なんでお前が誇らしそうなんだよ」


 しかし、アイリスが負けそうになったその瞬間――


 「ぶべっ!?」


 アンナの肘と足元が突然凍りつき、勢いよく滑った。その隙にアイリスがアンナの手を一気に台に叩きつけた。氷の粒が飛び散り、冷気が一瞬周囲を包んだ。


 「……勝った」


 アイリスは優雅に椅子に座り直したが、周囲からはブーイングの嵐が巻き起こった。仲間たちの声が重なり、ガーデンに騒がしい波紋が広がった。


 マーシャルの質問に、ヒノは淡々と答えた。そしてシロガネも口を開く。


 「おい、アレは卑怯だろ、キョウヤ!」


 「俺に言うなよ」


 そんなやりとりをしている男子たちとは別に、女子たちはアンナに同情していた。彼女たちの声には、どこか温かい気遣いが混じっていた。


 「アンナちゃん、大丈夫ー?」


 「だいじょうれふ……」


 ベーアが心配そうに声をかけると、アルマも同情を寄せた。アンナの呂律が回らない声が、場の空気を少し和ませた。


 「すごい卑怯だったねぇ……」


 「貴族としてどうなのよ、アイリス!」


 リースもプンプンと怒りながらアイリスを叱りつけたが、


 「戦場に卑怯も何もないよ」


 アイリスは一向に悪びれる様子を見せなかった。彼女の瞳には、冷徹なまでの自信が宿っていた。


 「ここ戦場なんだ」


 シュムの冷静なツッコミでその場が締まると、ふと一人の男と少女が近づいてきた。それに気づいたユウジが振り返り、小さく舌打ちをした。月明かりが二人の影を長く伸ばしていた。


 「なんか用ですか?」


 男の服がアルカナガーデン特有のものだったからだ。見た目からすると、20歳くらいの若者に見えた。刺繍の入った上質な布が、彼の地位を暗に示していた。


 少女の方は、なぜかゴスロリ風の衣装を着ていた。黒と白のフリルが揺れ、彼女の小さな体に奇妙な威圧感を与えていた。


 「君たちと少し話し合いがしたくてね。いいかな?」


 「また今度にしてください」


 「ははは、予想通りの反応だ。少しだけでいいから、話を聞いてほしいんだ」


 男は全く動じず、それどころか椅子に座り始めた。その自然な態度に、ユウジの眉がわずかに動いた。


 「アルカナガーデンだから態度を変える程度の人。底が知れますね」


 「あぁ?」


 少女の毒舌に、ユウジが怒りを露わにした。彼の声が低く唸り、場の空気が一気に緊迫した。


 「失礼しました。つい本当のことを言ってしまいました」


 「無礼な真似はやめるんだ。僕たちは――」


 「お前らアルカナガーデンの奴らなんて、みんな似たようなもんだろ!」


 ユウジが男の腕を掴んで強引に立たせると、ゴスロリ少女の表情が一変し、両手に手甲剣を生成して突っ込んできた。刃が月光に反射し、鋭い輝きを放った。


 「(装甲型っ!?)」


 ユウジは瞬時に右腕に装甲を纏った。だが、少女の剣は彼の右腕をすり抜けた。空気が切り裂かれる音が響き、一瞬時間が止まったように感じられた。


 「(斬られた!? いや、切れてはないっ)」


 腕に外傷はなかった。しかし――


 「(右腕が動かねぇ!?)」


 「やはり弱いです」


 ユウジは全身に鎧を纏った。だが、少女は意に介さず剣を振るう。彼女の動きは軽やかで、まるで舞うようだった。


 ガギンッと弾く音が響いた。アルマがエアガンを生成し、少女に向けて撃ち込んだが、即座に反応され弾かれた音だった。弾丸が地面に落ち、乾いた音を立てた。


 「(自分で実体剣かどうか選べるの!?)」


 弾丸を弾かれたことに驚きつつも、アルマはすぐに理解した。少女は再びユウジに斬りかかる。その動きに迷いはなかった。


 「っ!?」


 だが、ユウジの肩装甲のギミックが展開すると、見えない壁が剣を防いだ。ギギギと刃が通らない音が鳴り、無理やり突破しようとするが全く破れる気配はない。金属が軋む音が夜に響いた。


 「くっ」


 その瞬間、ライゼの異能糸が少女を拘束し、さらにルートが装甲尾で二重に縛り上げた。糸と装甲が絡み合い、少女の動きを完全に封じた。


 「君、ちょっとやりすぎじゃない?」


 「敵なら容赦はしない」


 「あの方がヨハネス様に暴力を振るったからです」


 「腕掴んだだけでそうはならないでしょ」


 真面目な顔で言う少女に、ライゼは呆れた表情を浮かべた。彼女の声には、呆れと苛立ちが混じっていた。


 「エルゼ、やめるんだ」


 「……分かりました」


 「私の部下が失礼した。よかったら拘束を外してもらえないか」


 「……はぁ。ほら、ルートも」


 「……」


 二人は渋々拘束を解除した。糸が解け、装甲尾が地面に落ちる音が静かに響いた。


 「まず君たちに伝えておきたいことがある。私はアルカナガーデンに不満を持っている人間だ」


 「?」


 その場にいるヒノたちは皆、その言葉に不信感を抱いた。男の穏やかな口調と、その背後に潜む何かを感じ取り、誰もが言葉を失った。


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