知識
図書館にて、横に長い机を前にヒノとアイリスが座っていた。
古びた木の机に積まれた本が、静かな空間に落ち着きを与えている。
ヒノはアイリスが持ってきた本を隣から覗き込むように見ていた。
その視線に、純粋な好奇心が滲んでいる。
「神獣って結構いるんだな」
「でも出会う機会はあんまりないかも」
「こいつとかめっちゃ強そうじゃん」
ヒノが本に描かれた絵を指さした。
その絵には、鱗に覆われた巨大な生物が威風堂々と描かれている。
「これは竜だね」
「竜? へぇー」
「生息地域によって氷を吐いたり火を吐いたり違うんだよ」
「へぇー、こいつ体長も凄いでかいんだろ?」
「うん、この図書館くらいの竜もいるらしいよ」
「おぉ、凄いな」
ヒノの関心の高さに、アイリスが少し驚いた。
その瞳に、彼のワクワクが映り込む。
「キョウヤはこういうのに会ってみたいの?」
「そりゃどんなのか見てみたいだろ」
「そうなんだ」
ワクワクするヒノを見て、アイリスが面白がっていたが、目的から逸れていると思い直した。
彼女が本をめくり、危険な生物を教え始めた。
「このウネウネした奴から出す糸は、空気に触れるとすぐに硬化するのか。体は細いし隠れられてたらめんどそうだなぁ」
「それに高熱に当たると毒素が発生するから。キョウヤは気をつけないとね」
「よく調べる奴がいるんだな」
「そういう人のおかげで後の人が楽に戦える。感謝しないと」
一通り図鑑を読み終えると、アイリスが次の本を開いた。
ページをめくる音が、静かな図書館に小さく響く。
「ん? これは人間だよな……いや獣?」
ヒノの目に映る絵には、人間に獣の耳と尻尾がついた姿が描かれていた。
その異形の姿に、彼が首をかしげる。
「これは獣人」
「獣人?」
「分かりやすく言うと、カロと人が混じった感じかな」
「混じったって、人間と獣が交尾でもしたのか?」
「こう……」
ヒノの生々しい言い方に、アイリスが言葉に詰まった。
その顔が、少し赤くなる。
「どこで生まれたか不明だよ」
「けど、このガーデンでまだ見たことないな」
「このガーデンにも少しはいるよ。でも彼らはガーデンをあまり好まないから」
「なんでだ?」
「獣人は差別されたり狙われることが多いの」
「狙われる?」
「獣人は数が少ないせいで、変質者に狙われるらしいよ」
「はぁ、そりゃ大変だな」
時間が経つにつれ、本が徐々に机に積み上がっていった。
気がつくと、窓から差し込む光が夕陽に変わり、部屋をオレンジ色に染めていた。
「今日はこれくらいでいいかな」
「ああ。サンキューな」
「……うん」
様々な知識を蓄えたヒノ。二人が図書館を出た。
外の空気が少し冷たく、夕風が穏やかに吹いている。
「そういえば、キョウヤは祝場に出るの?」
「なんだそれ?」
「……知らされてないんだ」
ヒノは賞金首を討伐した祝いを明後日やることを知った。
その事実に、彼が少し面食らう。
「別に面倒だから出なくてもいいか」
「……だめ」
「え?」
「ハンスを倒したのはキョウヤだから、出なきゃダメ」
「えぇ、まじか」
ヒノがアイリスの表情を見ると、本気だと感じた。
その真剣な瞳に、彼がたじろぐ。
「……」
「じゃあ出るか……」
強引に迫るアイリスに気圧され、ヒノが祝場に出ることになった。
その決定に、彼の肩が少し落ちる。
その日はそのまま家に帰ることにしたヒノ。
家に着くと、ウキウキした様子のシロガネがいた。
「ようー、おかえり! 明後日お祝いパーティがあるんだって聞いたか?」
「あぁ、聞いた(なんかテンション高いな、こいつ)」
ヒノが料理を作るシロガネに返事を返し、心の中で呟いた。
鍋から漂う香りが、部屋に温かさを添える。
「祝いか。相当嫌われてたんだな、ハンスって奴は」
「どんな奴か調べてみたけど、そこら中で殺しをやっては人と遺物を強奪してたらしい」
「よくそんなこと続けてたな、あいつ。怖くならないかね」
「俺達にはきっと理解できないさ」
人を殺せば、その人と関わる人の恨みを買い、狙われる。
ヒノがそれを「怖い」と表現すると、シロガネが小さく頷いた。
「ところで、お前なんかいいことあったのか?」
「なんで?」
「テンションが高い」
「そうか? まぁあったよ。いいこと」
「何だよ、気持ち悪い」
シロガネから前の世界の毒素が抜けつつある気がした。
その明るさに、ヒノが少し目を細める。
「そういえば、今回はおじさん帰ってくるの遅いな」
「遠出って言ってたし、遅くはなるんじゃない?」
「そうなのか、聞いてなかった」
「俺達が活躍したって聞いたら喜ぶかな」
「どうだろうな。でも殴られたくはない」
二人がたわいない会話をしながら食事を摂り、その後眠りについた。
窓の外で、夜の静けさがガーデンを包み込む。




