死操
ヒノは上空へ飛び、定期的に巨大樹の上に着地しては再びジャンプした。
永続的に飛べるわけではないため、森の木々が連なる中を跳ねるように移動する。風が耳元で唸り、遠くの景色が霞む。
「(当たりに死体が転がってる。本当に皆殺しにしてるのか。相当やばい奴を相手にするわけか)」
移動しながら、忍びの里の民が虐殺された惨状を目にし、ヒノが気を引き締めた。
地面に散乱する死体は無残で、血の臭いが微かに漂ってくる。
「(死体だからか、生きてる奴より感知範囲が低いような気がするな)」
長時間飛べば装甲が焼き切れ、疲労も溜まる。
その回復の合間に死操体の観察をするのは、ちょうど良いタイミングだった。
だが、それも4回程度で目的の場所に到着した。
上空から見下ろすと、地面にいる男が目に入る。男は何かを探している様子だった。
「(明らかに生きてる奴、あいつか。奇襲して気絶させて異能が解ければそれまで、解けなかったら謝ればいいっ!)」
速戦即決を決め、ヒノが樹木の上から奇襲をかけた。
バーニアが一瞬炎を噴き、彼の体が急降下する。
「あぁ?」
急接近するヒノに、男が呆けた声を上げた。
だが、次の瞬間、その表情が切り替わる。
「っ!?」
「チッ」
紙一重で躱され、ヒノが舌打ちした。
男と視線が合い、ハンスがバックステップで距離を取る。
「なになにぃ!? いきなり俺様に攻撃してくるガキ!?」
やたらテンションの高い男、ハンス。
ヒノはすぐさま追撃しようと間合いを詰めた。
「おいおい、なんだこいつっ!?」
ヒノの拳が、男が生成した黒剣に止められた。
金属音が鋭く響き、火花が散る。
「お前、死刑確定な」
「(こいつで確定か)」
「お前何もんだ? ガキのくせに尋常じゃねぇな。円卓か?」
ガキィンと装甲同士が反発する大きな音と共に、二人の間合いが開いた。
その衝撃で、近くの木の葉が揺れる。
「にしては、パーティメンバー揃えずに来るとか、そんな自信あんのかお前?」
そう言うと、男と女がハンスの横に現れた。
ハットリ・マイと似た服装、心臓に突き刺された跡、そして女の方はマイに面影がある。
「(あいつの親か)」
「あ! お前、逃げた姫ちゃんに呼ばれて来たやつだろ? せっかくこの二人に会って欲しかったのになぁ」
常に高いテンションで煽るように、ハンスがヒノに問いかけた。
その声に、どこか楽しげな響きがある。
「残念だけど、俺に効果はない」
「うわっ、可哀想〜」
関係ないと言いながら、ヒノがハンスを狙い、上空へ跳躍した。
真正面ではなく、周りの障害物を利用し、視界外からの攻撃を仕掛ける。
「っ!」
「なんだよ、関係ないとか言いながら俺狙いじゃん」
男、ハットリ・ゲンジが刀を生成し、ハンスを庇った。
そして女、ハットリ・サクラが巨大な手裏剣を生成し、ヒノに向かって投げる。
ヒノがすぐさま空中へ逃げようとすると、女が手のひらに巨大な火の玉を創り始めた。
その熱気が空気を歪ませる。
『火術・劫火玉』
「(でかすぎんだろっ!)」
ヒノより何倍も巨大な火の玉をかわすと、空中で炸裂し、彼の体勢が崩れて地面に落ちた。
衝撃で土埃が舞い上がり、地面が震える。
すぐさまゲンジが近寄り、刀を振りかぶった。
その動きが素早く、風を切る音がする。
『風術・風太刀』
ヒノが右甲で受け流そうとしたが、あまりの切れ味に手の甲が切れた。
鋭い痛みが走り、血が滲む。
「(なんつう切れ味だよ)っ!?」
その隙を狙い、ハンスがヒノの心臓目掛けて黒剣を刺そうとした。
だが、ヒノは炎を利用して回避し、間一髪で躱す。
「んー、いいねぇ君達。新しいPTメンバーにいれた甲斐がある」
ゲンジとサクラの強さにご満悦なハンスが、さらにヒノに質問した。
その笑顔に、余裕が垣間見える。
「にしてもお前何もんだよ? ガキの動きじゃねぇな」
「さぁな、自分で適当に考えてろ」
「はぁ、つまんな」
ヒノの態度に特に怒る様子もなく、ハンスが淡々と言った。
同時に、マイの父母がヒノに襲いかかる。
「……」
ヒノが静かに炎を解放した。
その瞬間、彼の周囲が熱で揺らめく。
『炎動』
この状態は、ヒノの動きをサポートする炎の出力が上がり、熱で体がほぐれて反射的な動きが強化される。
装甲から溢れる炎が、彼の姿を一層際立たせる。
「なんだ?」
装甲から溢れ出る炎を見て、ハンスが警戒した。
だが、次の瞬間、彼の目の前にヒノが現れた。
「なっぐっ!?」
鋭い右ボディブローがハンスの腹にヒットした。
ヒノは相手の意識を削ぎ、異能への耐性をなくした後、炎で心臓を貫くつもりだった。
だが、拳に伝わる違和感。
ハンスの顔がニヤつき、ヒノがすぐに離れた。
「危ねぇ危ねぇ。やっぱりアイテムはあった方がいいよなぁ」
ハンスの顔以外の体に、薄い金属の鎧のようなものが纏われていた。
その鎧が、衝撃を吸収したようだ。
「(衝撃をある程度無効化される?)」
「ま、パーティメンバー揃ってきたから、アイテム集めし始めたんだけどな」
「(頭狙っとけばよかったな)」
一人語りするハンスを気にせず、ヒノが狙いを頭部に絞って動いた。
その動きが、さらに鋭くなる。
「はっはぁ! そりゃ頭狙うよな! わかるよわかる!」
ハンスが黒剣で防ぎ、ヒノの拳を掴んだ。
そしてサイドからゲンジが迫る。
『風術・突風』
風を纏った鋭い突きが来た。
ヒノはハンスに掴まれた拳を高熱にした。
「あつっ!?」
耐性すら貫通する高熱に驚いたハンスが距離を取った。
だが、ゲンジの突きはどこかに当たる覚悟をしていたヒノだったが。
「……」
「!!」
技が緩んだ。
ヒノがその隙を感じ、逃さなかった。
「悪いな……」
ヒノがカウンターで右の貫手をゲンジの胸の傷に突き刺し、体を燃やして灰にした。
炎が一瞬で彼を包み、灰が風に舞う。
それを見たハンスが激怒した。
その瞳が、初めて怒りに燃える。
「はぁ!? 何やってんだてめぇ! 人が苦労して手に入れたもんによぉ!?」
「どうやら完全に物にはできてないみたいだな」
「は? ……まぁいいや、埋め合わせはお前かお前の仲間でやるからよ、覚悟しとけよ」
ハンスが掌握しきれていないことに気づいていないと、ヒノが悟った。
その隙が、彼の頭に浮かぶ。
「(だけど持つか?)」
強い力には代償がある。
熱を上げすぎると装甲が溶けて消える。それまでにハンスを始末するか、一旦逃げるか。
「(いや、こいつを一回逃せば後々面倒なのは確実だ)」
そこに、耳につけていた通信端末から音声が入った。
それを聞いたヒノが、ハンスに話しかけた。
「お前、大したことないな」
「あ?」
「3対1なのに俺に押されてる。しかもこんなガキにだ。なんか凄い賞金首って聞いてたからがっかりしたな」
「ガキが……イキがってんじゃねぇぞ」
「だから、そのガキにしてやられてんのは誰だよ、雑魚」
「殺すっ! 決めたわ、お前は必ず俺の手で殺す」
ヒノの挑発に乗ったハンスが突っ込み、黒剣を振るった。
ハンスの力量は確かに強いが、ヒノの経験がそれを凌駕していた。
そして、ハンスの頭部を捉えた。
ここで打ち込めば当たる。だが、ヒノが違和感を感じ、直感を信じて身を引いた。
巨大な大剣を持った男が、最大重量で振り下ろした落下攻撃。
その衝撃で、大規模な土埃が巻き上がる。
「(キレた風に見せて誘いかよ、あぶね)」
「あーあ、残念。あと少しでミンチだったのにな」
煽りに乗ったように見えて逆に誘うハンス。
ヒノが彼の強さをここで再評価した。
「(常に相手に自分の思惑を知られてると思って動けか)」
かつて戦いを教えてくれた人の言葉を思い出し、ヒノが構え直した。
その記憶が、彼の動きに冷静さを取り戻させる。
「(だがどうする。こういうことをできる奴は、確実に自分の死を感じたら迷わず撤退する)」
ヒノが機動力を活かして一旦隠れた。
木々の陰に身を潜め、息を整える。
「(今はまだあいつに余裕があって、俺を殺せると踏んでるから退かない。やるとしたら、一気に追い詰めて退く暇も与えずに殺すしかないか)」




