チーム模擬戦2
シロガネに促され、シュムが杖をヒノに向けたが、彼が何かし始めたのに気づき、詠唱を止めた。
森の空気は戦いの熱で重く、木々の間を冷たい風が抜けていく。
「こんなので止めれると……思うなよ……!」
浮遊盾に挟まれ、装甲磁力で空中に固定されたヒノが、バーニアと手からの炎噴射で無理やり脱出した。
炎が唸りを上げ、盾が一瞬揺らぐ。
シロガネの触れた装甲に磁力を付与する能力は、触れる時間が長ければ長いほど強くなる。
逆に言えば、短ければ力は弱まる。シロガネがヒノに触れたのは一瞬だったため、彼はすぐ脱出できた。
「くっ……!」
シロガネが悔しげに声を漏らした。
ヒノは脱出後、瞬時にシュムの前に立ちはだかった。
「……! スチールロッドッ!」
「(そんなこともできるのか、ほんと万能だな)」
シュムが唱えると、杖が鋼のように硬化した。
少しの攻防の後、ヒノは右手に熱を集中させ、無慈悲に杖を溶かして破壊した。溶けた金属が地面に滴り落ちる。
「(こんな簡単に……!?)」
「トドメだ」
杖を破壊され、シュムが唖然とした顔をした。
ヒノが右掌を彼女の顔に向け、炎が集中する。だが、彼はすぐさま手を握り、後ろへ裏拳を放った。しかし空振りだ。
「助けるために突っ込んでこなかったか」
「……やっぱりな」
インプットした動きを強制実行させる『迅雷』を、ヒノが予測していた。
だが、シロガネも読まれる気がしていたのか、移動距離をヒノより手前に設定しており、裏拳は空を切った。
「私は降参〜」
シュムが気が抜けたように女の子座りで地面に座った。
彼女の肩が落ち、疲れが顔に滲む。
「(二人はリタイアさせたが、こっちも同じくらい出てるか)」
ヒノがチラッと奥を見ると、ロウがいるが、リースとライゼがリタイアしているように見えた。
戦場の喧騒が遠くから聞こえる。
ヒノの予想は正しかった。
彼が戦っている間に、リースとライゼはユウジとマーシャルに退場させられていた。
元々ユウジは、ロウやアンナ相手でなければ厄介な強さを持ち、マーシャルは凡庸な異能ながら技量はヒノと同等だ。
ヒノチームの残りはアイリス、ルート、ベーアとなった。
そんな中、アンナとロウは他のメンバーと離れた場所で戦闘を繰り広げていた。
木々の間には氷と水が飛び交い、地面が濡れて光っている。
ロウは両手に獣の爪を模った氷を纏い、アンナの刀を防いだ。
近距離で凝縮された力の氷は、アンナでも干渉できない硬さを持つ。
「しつこいよ……」
「ふふ、もう降参ですか?」
刀を氷爪で受け止めながら苛立ちを見せるロウを、アンナがニヤニヤと煽った。
ちなみに、アンナの刀は本気以外では逆刃刀状態だ。
幾度も刀技を防ぎながら、ロウが考えを巡らせた。
そして名案を閃き、口元に微かな笑みが浮かぶ。
「降参するのはアンナの方だよ」
ロウが地面から自分を覆うほどの氷棘を大量に生やした。
冷気が一気に広がり、木々が白く染まる。
「何回やっても無駄です!!」
アンナが氷を即座に水に戻した。
だが、ロウは水の中から両手を広げて突進し、アンナにタックルして抱きついた。
「な、何のつもりですか!?」
「こうする」
ロウがアンナと密着した自分を氷で覆い始めた。
顔以外が氷のミノムシ状態になり、二人が固まる。
アンナの水に戻す力と、ロウの凍らせる力がせめぎ合っている。
氷と水がぶつかり合い、小さな蒸気が上がる。
「私の勝ち……」
「……でも私を凍らせることはできませんよね?」
「……」
アンナを凍らせられないことに気づいたロウ。
しばらく二人は見つめ合った。密着状態では水の異能で抵抗され、ロウが離れれば解凍される。
「分かったなら、早く解いてください。これじゃ決着がつきませんよ」
アンナが呆れたように促した。
彼女の声に、少しの笑いが混じる。
仕切り直しの格闘戦が勝ち筋だが、ロウはこのまま離れるのは敗北感があると考え、なんとか足掻こうとした。
彼女の目が少し意地っ張りに光る。
「頭突き勝負」
「やめてください……模擬戦でそんなことしたくありません」
一方その頃、シロガネとヒノは激しい戦闘を繰り広げていた。
二人の動きが森に響き、地面に焦げ跡が残る。
「本当めんどくさい戦い方するなお前!」
「こっちのセリフだアホ!!」
少し前にやったように、浮遊盾でヒノの左手を引き寄せた。
体勢が崩れた瞬間、シロガネが急接近し、顔面を狙った回し蹴りを放つ。
「(あぶね……!)」
ヒノが身を引いて回避したが、顎に掠りそうになった。
だが、回避後、回転力を引き継いだ足払いで体勢が崩れ、前のめりに倒れそうになる。
倒れる前にヒノがバーニアを点火し、シロガネにタックルした。
そのまま遠くまで運ぼうと、炎が二人の間を駆け抜ける。
「あぐッ!?」
移動中、シロガネの背中に痛みが走った。
ヒノが両手に熱を集中させ、彼の背中を焼いていた。異能耐性があっても焼かれるとは思わず、彼が驚く。
「いてぇ……な!!」
少し怒ったシロガネが、右膝をヒノの顔にぶち込んだ。
その衝撃に、ヒノが一瞬怯む。
「ッ!? クソっ!」
怯んだヒノを蹴り飛ばし、二人は地面を転がりながら離れた。
土埃が舞い上がり、二人の息が荒くなる。
「もう終わりにするか?」
「あったまってきた所だろ」
中々勝負が決まらない二人には、互いに負けたくないという強い意志があった。
その瞳が鋭くぶつかり合う。
そんな二人を、見学者と化したアルマとシュムが観戦していた。
木の陰から、興味津々に眺める。
「ヒノくんとシロガネくんが戦うともう別人みたいだねぇ」
「あんな風な二人初めて見るよ。なんていうか怖い」
「でも動きの一つ一つが勝ちに向かおうとしてる」
「……」
戦いの中、ヒノとシロガネは薄々気づいていた。
先に増援が来た方が勝つと。
「(誰でもいいから早く来てくれ!)」
「(あいつら遅いな、何やってんだ)」
二人とも仲間に期待を膨らませていたが、その相方二人は今だに氷のミノムシを続けていた。
氷の中で、二人の声が小さく響く。
「は……はくちゅ!」
アンナのくしゃみで、ロウの顔に唾液がかかった。
ロウがそれを凍結させ、粉々に砕く。
「きたない」
「なっ!? いつも清潔にしてますよ!」
「そういう問題じゃない」
「そもそもアイリスがこんなことをしてるからですよ。風邪を引いたらどうするんですか」
「風邪引いた方が負けにしようよ」
「なんですかそれ」
しばらく時間が経った。
ヒノとシロガネが互いに疲弊しきってきた頃、模擬戦に終止符を打つ者が現れた。
「お待たせ、ヒノくん!!」
ベーアがそう言いながら、ヒノとシロガネの戦闘に割り込んできた。
彼女の明るい声が、疲れた空気を切り裂く。
「きたか。じゃあ俺達でコイツをやるか」
「了解!!」
「はは……無理。降参」
ベーアとヒノが構えたが、シロガネは戦闘を放棄し、仰向けに地面に倒れて降参した。
彼の息が荒く、笑みが疲れに滲んでいる。




