チーム模擬戦
賢狼カロとハヤテの娘、フィロの異能コピーが無事終わり、森で暴れてもいいという許可を得たヒノ達は、クラス内の模擬チーム戦をするため、ユウジが人選を始めた。
賢狼の森は巨大な樹木に囲まれ、葉っぱが空を覆い、薄暗い木漏れ日が地面にまだらな模様を描いている。
「じゃあ俺とアルマ、シロガネ、アンナ、マーシャル、シュム」
「そっちはヒノ、アイリス、ベーア、ルート、リース、ライゼ。これでいいか?」
ユウジの適当な選別が終わり、みんなに確認を取ると、誰も気にせず承諾した。
その気軽さに、森の静けさが少し和らいだ。
「それじゃ、いまから10分後くらいに強制的に始めるからな」
「ルールは負けを認めた瞬間退場。強がったりはするなよ。頭に血が上ってやりすぎるなよ」
「それユウジが言う?」
「なんだ? 俺は潔い男だぞ」
懐中時計を取り出し、確認しながらユウジがルールを説明すると、ライゼが一言余計な煽りを入れた。
ユウジが軽く睨むが、すぐに笑いに変わる。
「わーい、ローちゃんと一緒だ〜」
ベーアがロウと同じチームになったことを素直に喜んだ。
彼女の明るい声が、森に軽やかな響きを添える。
その後、両陣営は離れて作戦会議を始めた。
木々の間で二つのグループが分かれ、それぞれの声が小さく漏れ聞こえる。
ヒノ陣営。
木の根元に集まり、みんなが適当に座ったり立ったりしている。
「そういえば、ヒノとシロガネってどっちが強いの?」
「あ? ……ガチでやり合ったらあいつかもな」
「……」
ライゼの質問に、ヒノが少し考えながら答えた。
彼とシロガネの力量は拮抗しており、タイマンでの勝敗は運次第だと感じていた。
「作戦どうしよっか!」
ベーアがみんなに元気よく問いかけた。
その声に、チームの空気が少し動き出す。
「私は考えるの苦手だから、誰か考えといて〜」
リースがそう言いながら、異能で生成した大剣を地面に突き刺し、背中を預けるようにもたれかかった。
彼女の気楽な態度に、みんなが苦笑する。
「ヒノはそう言うの得意そうだけど」
「何でだよ」
ロウが期待の眼差しをヒノに向けながら言った。
ヒノはいつも通り面倒くさそうな仕草を見せつつ、誰も提案しないので渋々考えることにした。
「はぁ、ダメだった時に文句言うなよ。じゃあ━━」
その頃、シロガネ達も同じように作戦を立てていた。
木陰に集まり、ユウジが中心に立っている。
「シロガネくんって、ヒノくんとどっちが強いの?」
「ん? そうだな〜、本気でやり合ったらキョウヤの方が強いかな、やっぱ」
「へぇ〜、そうなんだ……」
シュムの質問に、シロガネが軽く笑いながら答えた。
ユウジがその言葉を聞いて口を開く。
「とりあえず作戦だろ。どうやって攻める?」
「私達はこういった複数人での戦闘経験はあまりないんですよね」
「いつも一対一だもんね。私も特に有効な作戦なんて思いつかないかな」
ユウジに続いて、アンナとシュムが話した。
二人の声には、少し困ったような響きがある。
「私は後方支援がいいなぁ」
「俺はやれることなら何でもやるぞ」
アルマとマーシャルも、自分に役割を振ってくれとばかりの素振りを見せた。
誰も作戦を立てられない状況に、ユウジが勢いよくシロガネを指名した。
「よし! シロガネ、お前に任せた!!」
「みんながいいっていうなら。でもそこまで凝った作戦は期待しないでくれよ」
そう言いながら、シロガネが作戦を立て始めた。
彼の頭が少し傾き、真剣な表情が垣間見える。
そして10分後。シロガネ陣営。
ユウジが懐中時計を手に持つ。
「10分経ったな! 始めるぞ!」
ユウジが声を上げると、一斉に前へと進み始めた。
足音が森の地面を踏み鳴らし、戦いの空気が漂う。
一方、その頃のヒノ陣営。
木の陰で待機していた。
「ヒノ、10分たったよ〜」
「じゃあ行くか」
ライゼが懐中時計を見ながらヒノに報告すると、彼が歩き始め、みんなもその後に続いた。
静かな森に、彼らの足音が響き始める。
周りは巨大な樹木に囲まれたフィールドで、上は葉っぱに覆われて視界が悪い。
最初に会敵したのは、ユウジ、マーシャル、アンナと、ロウ、ベーア、ルート、リースだった。
「あれ、そっちにシロガネがいないじゃんー」
「そっちもヒノがいねぇじゃん」
リースとユウジが互いに疑問をぶつけ合った。
二人の声が軽くぶつかり合い、緊張感が和らぐ。
「始めるよ」
ロウがそう言った瞬間、彼女の足元から地面が凍り始め、ユウジ達に迫った。
冷気が木々の間を這い、鋭い音を立てる。
「させませんよ!」
アンナが刀を凍った地面に突き刺すと、氷が一瞬で水に変わった。
ロウがそれを見て、少し冷や汗をかく。
「っ………」
「あの時と違って、今日は気持ちよく戦えますね、アイリス」
笑顔を見せるアンナが、刀についた水滴を軽く払った。
過去に一度だけ、ロウを止めようと本気で戦ったことがある。互角だったが、甘さを捨てきれず負けた記憶が彼女の脳裏をよぎる。
「では参ります!」
アンナが脚に力を込め、一気に跳躍してロウへ急接近した。
その動きに、風が鋭く鳴る。
「させない」
「……!」
アンナの前に、四本の装甲尾を装備したルートが立ち塞がった。
一本の装甲尾が刺突攻撃を仕掛けるが、アンナは刀で軽く受け流す。
「貰った……!」
残り三本の尾でアンナを仕留めようとしたが、何かに弾かれた。
金属音が響き、ルートの目が驚きに揺れる。
「なんだ?」
ルートが飛んできた物体の方角に視線を移すと、遠距離からの狙撃が原因だった。
その狙撃主はアルマだ。
「うはっ、結構当たるじゃんこれぇ〜」
『ギミックボックス』の盾とハンドガンを合体させ、スナイパーライフルのような武器を作り上げたアルマが、樹木の上に陣取って援護していた。
彼女の声に、少し得意げな響きがある。
「おらぁ!!」
「ちっ」
アンナを倒すのに手間取っている間に、ユウジが上から右拳を叩きつけようとした。
ルートは咄嗟にその場から離れ、拳が地面を叩く。
「逃げんなよ!」
「逃げてはない」
ユウジの煽りに、ルートが即座に反応した。
だが、逃げた先に剣と盾を持ったマーシャルが回り込んでいた。
「貰ったっ!」
「っ!」
着地を狙われたルートだが、その瞬間、彼は糸に引かれて浮遊した。
マーシャルの攻撃が空振りに終わり、彼が驚く。
「糸? ライゼか……!」
「そのままやっちゃいなよ、ルート」
糸で空中に浮いた状態で、ルートが装甲尾をマーシャルに向けた。
マーシャルは盾で防ぎながら後退する。
「呑まれて凍れ……!」
「させないと言いましたよね!」
「っ」
「アイリスは私が見ていないと危ないですからね」
「過保護だよ」
ロウが地面に両手をつけると、氷の棘が辺り一面に無差別に生えた。
だが、アンナに触れられた瞬間、全て水に戻される。
「水よ、凍てつき槍と化せ……『アイスジャベリン』」
後方で木の上に待機していたシュムの異能で、水が再利用され、三本の巨大な氷槍に変わった。
氷槍が空中を浮遊し、シュムの意思でロウへと突進する。
「よっせいー!」
ロウの後ろで待機していたリースが、大剣で氷槍を薙ぎ払った。
その衝撃で氷が砕け、キラキラと光る。
「一網打尽にできないなら、耐えるわよアイリス!」
「……アンナをどうにかしてくれれば、私が全部やれる」
リースが大剣を肩に担ぎながら言うと、ロウが即座に頼みごとをした。
その声に、少し焦りが混じる。
「ならアンナは私がぐへっ!?」
リースが話している途中に、アルマの狙撃が胴体に直撃した。
鈍い音が響き、彼女がよろける。
「ごらぁ!! 人が話してる最中に攻撃すんなぁ!」
遠くからプンプンしているリースを、アルマが困惑した顔で見ていた。
彼女の手にはギミックボックスが握られている。
「だって隙だらけだったし……」
狙撃銃に変形したギミックボックスを持ちながら、アルマが独り言を呟いた。
その時、もう一人の声がした。
「そうだな、隙だらけだ」
「うわぁ!?」
その声の主はヒノだった。
驚いたアルマが銃口を向けるが、彼はそれを掴み、爆破して粉々に砕いた。
「う、うぁぁぁ! 負けました! 私の負け!」
「認めるの早すぎんだろ」
あまりにも早いアルマの降参に、ヒノが少し困惑していると、そこに割り込んできた男がいた。
その足音が近づく。
「こそこそ隠れてきたのか!」
「見つけるのが下手なんだよ、お前!」
互いに笑顔で煽り合うヒノとシロガネ。
二人の間に軽い火花が散る。
シロガネの装甲脚とヒノの装甲腕がぶつかり合い、金属音が響いた。
接近戦になるかと思った瞬間、シロガネの目が一瞬驚きに揺れる。
「お前とはまだ先だ!」
ヒノが右掌に炎の球を作り、シロガネの目の前で炸裂させた。
自爆の衝撃を利用して、彼はシュムの方へ飛んだ。
シュムはヒノがこちらへ来るのに気づき、焦って詠唱を始めた。
彼女の手が震え、声が少し上ずる。
「うえ!? えっと、土の人形よ、我が求めに応じてその身を━━」
「おせぇよ!」
ヒノがシュムに右掌を向け、いつもより威力のある炎弾を放った。
炎が唸りを上げて彼女に迫る。
「わぁぁ!」
ヒノの速さにシュムの詠唱が間に合わず、彼女が情けない叫び声を上げた。
だが、炎弾はシロガネの浮遊盾二枚に防がれた。
「あれ、何ともない?」
「っ!?」
さらに浮遊盾二枚がヒノを挟むように移動し、彼を固定した。
磁力のような力で、ヒノの両腕装甲が左右から引っ張られる。
「何だ、この引っ張れる力っ!」
「今だ、シュム!!」
ヒノのような力ある物体を固定するには、脚装甲の質量を増やし、自身が引っ張られないようにする必要がある。
だからこそ、シロガネがシュムにとどめを促した。




