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神獣たる所以


 いつもの学園、いつものハインツの教室で、生徒全員が先生が来るまで駄弁っていた。

 教室には笑い声と雑談が響き合い、窓から差し込む陽光が机に柔らかな影を落としている。


「ハインツ先生、来るの遅くない?」


 リースが教室全体に問いかけるように声を上げた。

 彼女の声がざわめきをかき分け、みんなの注目を集める。


 いつも来る時間より、もう30分は遅れている。

 時計の針が静かに進む中、少しだけざわつきが落ち着いた。


「お腹でも壊したんじゃないのー」


 ライゼが気の抜けた声でリースに応えた。

 彼はのんびりと椅子に凭れ、どこか眠そうな顔をしている。


 ヒノの机の上に座っていたシロガネが、先生のことを気にし始めた。

 彼の足が軽く揺れ、考え込むように視線を宙に彷徨わせる。


「先生って依頼に行ってたよな? もしかしてまだ帰ってきてないんじゃ」


「その可能性はあるな」


 シロガネに同意するヒノが、淡々と答えた。

 外の依頼は儲けがいい分、命懸けだとラルナーから聞いていた彼の頭に、その言葉がよぎる。


「大丈夫だよ。先生は強いから」


 ヒノ達の話を盗み聞きしていたロウとアンナが、二人の元へ歩み寄ってそう言った。

 ロウの声には確信が、アンナの表情には穏やかな笑みが宿っている。


「自信あり気だな」


「ヒノ達はハインツ先生と戦ったことないから分かりませんよ、アイリス」


「アンナは何回か戦ったことあんの?」


 ヒノに続いてアンナが話すと、シロガネが興味津々に質問した。

 彼の目が少し輝き、好奇心が溢れる。


「はい、私では歯が立ちませんよ」


「(今度戦い申し込もうかな)」


 アンナの発言に、ヒノの戦闘欲が静かに掻き立てられた。

 そんな話をしていると、教室のドアがガチャリと開いた。


「おっ、これってみんな揃ってる?」


 ドアを開けたのは、金髪の女性。

 前に深淵の森で出会ったミーアだった。彼女の手には小さな袋がぶら下がっている。


「みんな揃ってるが、どうしたんだ?」


 一番近くにいたマーシャルが、落ち着いた声で問いに応えた。

 彼の視線がミーアにしっかりと注がれる。


「なら良かった。お兄ちゃんから伝言で『帰りがかなり遅くなるから、しばらく自由に訓練しててくれ』ってさ」


 ヒノとロウが「お兄ちゃん」という言葉に驚いた顔をした。

 二人の目が一瞬見交わされ、意外さに戸惑う。


 ミーア・ハインツはミハイル・ハインツの妹だった。

 その事実が、教室に小さな波紋を広げた。


「ちゃんと伝えたからねー。それじゃ、バイバイ〜」


 そう言い残して、ミーアは軽い足取りでどこかへ去ってしまった。

 彼女の金髪がドアの向こうに消える。


「妹だったんだ」


「何でお前らがそんなことも知らないんだ」


 ロウ達の情報網に呆れたヒノが、軽くため息をついた。

 彼の声に、どこか皮肉が混じる。


「何であの子は先生の伝言を? 手紙?」


「おそらく共鳴石だと思います」


「共鳴石?」


「共鳴石は互いの共鳴石を認識させることで、遠くにいても声を伝えられるんです。とても高価なので、大事な人や結婚する相手に渡すのが普通ですね」


 シロガネの質問に、アンナが丁寧に答えた。

 彼女の説明に、みんなが少し感心したように頷く。


 すると、ユウジがみんなに聞こえる声で話しかけた。

 彼の声が教室に響き、再び活気が戻る。


「なぁ、お前ら今日の予定とかあるか?」


「ない」


「キョウヤに同じく」


「ないよ……」


「私も特には」


「私もだよ!!」


「俺はない……」


「暇〜」


「僕もないよー」


「私も」


「俺も今日の予定は空いてる」


「私はいつも暇……」


「よしっ! じゃあ久しぶりに賢狼の森でアレやるか!」


「?」


「?」


 その後、ユウジが話についていけていないヒノとシロガネに説明してくれた。

 簡単に言うと、森でのクラス内チームバトルだ。


 各ペアで馬車を駆り出し、賢狼の森へ向かい、到着した。

 森の奥へとみんなで進む中、木々の間から木漏れ日が差し込み、足元の落ち葉がカサカサと音を立てる。


「みんなで行動するのは久しぶりですね」


「そうね〜! 昔に戻ったみたい」


 アンナとリースが懐かしそうに言うと、ロウが申し訳なさそうに口を開いた。

 彼女の声が少し小さくなる。


「ごめん」


「もう解決したんだし気にしない! 気にしない!」


 ロウの発言にすぐさま、ベーアが背後から彼女に抱きついて言った。

 その勢いに、ロウが少しよろける。


「くっつかないでベーア。暑いよ」


「えへへー、ごめん〜」


 ロウが辛辣に言うが、その表情はどこか嬉しそうだった。

 ベーアの笑顔が、彼女の心を軽くしている。


 しばらく歩いていると、渋い男の声がどこからか聞こえてきた。

 その響きに、みんなの足が止まる。


「今日は何をしにきた? 人の子らよ」


 声が聞こえた直後、木の上から二体の狼が降りてきた。

 前に会ったカロよりも大きな体格で、体に傷跡が複数ある狼と、面識のあるフィロだ。


「昔みたいにここを訓練に使わせてくれよ、ハヤテ」


 ユウジが狼の名前を呼び、頼んだ。

 彼の声に、懐かしさと信頼が込もっている。


「……いいだろう。ただし今日は頼み事がある」


「頼み事?」


「我が娘のフィロに異能を写させてほしい」


「(何だそれ)」


 ハヤテの頼み事が分からず、ヒノが心の中で呟いた。

 彼の眉が少し寄る。


「何それ?」


「異能写すというのはですね」


 シロガネがアンナに質問すると、彼女が丁寧に説明を始めた。

 その声が森の静けさに穏やかに響く。


 神獣の中でもカロとハヤテは、人の異能をコピーできる。

 デメリットは一切なく、同盟関係のような狼達なので、申し出があればいつでも受け入れる状態だった。


「いいけど、俺達の誰かでいいのか?」


 ユウジの言葉に、ハヤテが「行け」という素振りを見せ、フィロを歩かせた。

 フィロはロウの隣へ行き、座って尻尾を振る。彼女を下から見上げた。


「私のでいいの?」


 ロウがフィロに確認した。

 コピーすればそれ以上はできないため、慎重に聞く彼女の声が柔らかい。


「おねがい、します」


 まだ言葉が拙いなりに、フィロが頑張って伝えた。

 その真剣な瞳に、ロウが小さく頷く。


 ロウがしゃがみ、フィロの額に自分の額をくっつけた。

 すると二人の周りから冷気が放たれ始め、森の空気が一気に冷える。


「ヒノ、少しだけ異能をお願いしてもいいですか」


「……あぁ、そういうことか」


 アンナの頼みに察したヒノが、右手に装甲を纏った。

 彼の手から炎が揺らめき始める。


 徐々に周りが凍り始めた。

 ヒノとロウ以外の生徒は、ヒノの背後に集まり、冷気を避ける。


「うわっ、すごい冷気っ」


 リースが驚き、冷気が強まる中、ヒノは楽そうに片手で相殺する炎を出した。

 炎と氷がぶつかり合い、小さな水蒸気が舞う。


 冷気がクライマックスを迎え、辺りの氷が砕けた。

 ロウとフィロが額を離すと、彼女がフィロに確認する。


「どう、使えそう?」


「試し、てみます。……」


 フィロがそう言うと、四足に力を込め、空に向かって吠えた。

 すると辺りに氷の棘が生え、鋭い音が森に響き渡る。


 ホットガーデン最強候補の異能コピーは成功した。

 フィロの瞳が満足げに輝き、ハヤテが静かに見守っていた。


タイトルを変えました。特に効果がなかったら直ぐに戻してゆっくりとやります。

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