(3)召喚
渡辺正二は茶髪を長くしている男で、いつも僕に絡んでくるうちの一人。
「俺か。まず初めは先生と同じく、魔王を仕留めた後の帰還だ!」
「承りました」
「次は……その力を帰還後も使えるってのは有りか?」
「申し訳ありません。それは叶えられません」
おっと、僕の想像の遥か上の願いが有った。
確かに日本のド田舎で不思議な力を使えるようになれば、都会にも引っ張りだこの有名人になれるだろうね。
でも、都会は良い事ばかりじゃ無かったよ……
「じゃあ、炎魔法ってあるか?」
「ございます。では残りの一つは如何しますか?」
サクサク決まっていく渡辺の願い。
やっぱり不思議だね。
冷静に考えれば死ぬかもしれない世界に行かされるのに、僕も含めて誰も悲観的になっていないからね。
願いを一つ無駄にした先生さえ笑みを浮かべて……って、あれはあの奇麗な人を見て鼻の下を伸ばしているだけだった。
「最後は、貴族ってあるんだろ?王族は面倒そうだから、高位貴族の子供にしてくれ!金に困らない生活が良いからな」
「承りました」
これも、僕は想像しなかったよ。
確かに奴隷も有る世界と言っていたもんね。
先生なんか、ここで初めてしまった!みたいな顔をしているのが笑えるよ。
僕ももう少し真剣に願いを考えないといけない……けど、やっぱりあの人、悲しそうな顔をしている様に見えて気になって集中できないよ。
願いであれば、事情を話してくれるかな?
そんな事に願いを使って良いのだろうか……
こんな事を考えているうちに、僕の前までの全員の願いが決まったのだけど……
渡辺 正二 ①討伐後帰還②高位貴族③炎魔法
鈴木 証拠 ①討伐後帰還②高位貴族③回復魔法
安藤 裕也 ①討伐後帰還②高位貴族③水魔法
佐島 芳江 ①討伐後帰還②高位貴族③回復魔法
岩井 幸助 ①異世界状況説明②回復魔法③討伐後帰還
になった。
岩井先生以外は男女二人一組で行動する予定の様で、女性が回復魔法を取得して、男性が違う魔法を取得したみたい。
普段陰湿なくせに、意外と頭は回るようでびっくりしたよ。
いや、陰湿だから頭が回るのかな?
いよいよ僕の番と思った時、一番僕に当たりが強い渡辺がこう言ったんだ。
「もう俺達の願いは終わりだろ?そんな奴の事を見る暇はないから、さっさとその世界に送ってくれないか?」
「……それは可能ですが」
やはり、表面上の笑顔で僕を見つめる奇麗な人。
「僕も構いませんよ」
聞きたい事も有りますし……とは言わずにおいた。
「承りました。では、ご武運を……」
「お~~~~~」
思わず感嘆の声が出ちゃったけど、本当に四人と岩井先生が一瞬で消えたんだ。
凄いよね!
「では、願いをお願いします」
っと、僕の番だった。
運良く願いが最後になった僕は、今までじーっとこの奇麗な人を観察し続けていた。
えっと、ごめんなさい。正直に言うと、最初は見惚れていました。ハイ。
で、その結果……やっぱり作った笑顔の下には悲しい表情が隠れていると確信したんだ。
相当悩んだけど、僕は願いを一個使って、真実を話してくれるように頼む事に決めていた。
「はい。一つ目のお願いですが、お姉さんは何故悲しそうなのですか?本当の事を話していただけませんか?」
……パリン……
何かが割れる音がして、今迄は見た目の表情に一見一切変化の無かった奇麗な人が一気に悲しそうな表情に変化した。
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