(2)召喚
願いを言い始める岩井先生は、それはそうだよね!と言う願いを口にした。
「えっと、元いた世界に帰して頂けますか?」
「魔王と討伐した後と言う条件が付けば叶えられますが……」
「では、その魔王のいる世界について教えていただけますか?」
そっか。残念だけれど、このまま帰る事は出来ないのか。
両親、特にお母さんは僕がいなくなったら心配するだろうな。
なんて親不孝なんだ……
「わかりました。願いを叶えます。皆様のいた世界とは異なり、魔法が存在する世界です」
っと、状況説明だけで願いの一つとして処理されるみたい。
岩井先生には悪いけど、僕達の為にありがとう。真剣に聞かないと。
「皆様の世界にも、トラ、ライオン、危険な動物が存在していたかと思いますが、こちらの世界にも同じ様に脅威となる魔獣と呼ばれる存在がおります。種族によっては魔法も使ってくる所謂魔王の手下です。それと、皆様の世界と大きく異なるのは、魔力が存在する事と、王族・貴族・奴隷が存在する事でしょう」
「……」
ここまで話すと、女性は口を噤んでしまった。
ここまでの情報でも、一応情報としてはありがたいね。
「その……では、その魔獣とやらの危険な相手から身を守る術を頂けますか?」
「その願いは漠然とし過ぎて叶えられません。例えば、何かの魔法を具体的に申告して頂けますか?」
これだけ言われても、ピンとこないだろうね。
僕なら、最強の防御魔法と最強の攻撃魔法って言ってみるけど。
「では、絶対に負けない強力な魔法……」
「不可能です」
おっと、僕も気を付けないとバッサリ切って捨てられる所だった。
「では、どのような魔法が……って、これも願いの一つにカウントされますか?」
「詳細の説明であればそうなります」
突然考え込む岩井先生。
それはそうだよね。
況説明だけで既に一つの願いを消費しているから、これ以上力を得られないで願いが終わって、向こうの世界とか言う所に放り出されても困っちゃうよね。
そんな二人のやり取りを観察している僕は、二人の表情に違和感を覚えていたんだ。
いや、岩井先生は正直どうでも良いけど、あの奇麗な人の表情。
すっごく素敵な笑顔だけど、願いが進むにつれて本当に微妙に悲しそうに変化しているような……
「わかりました。昔少し本で読んだ事がある世界と似ているので、そうだと仮定すると、回復魔法と身体強化でお願いします」
「回復魔法は付与できますが、身体強化は基本的には独自で鍛えるものですので付与する必要はないと思います。残り二つの願いで二つを付与しますか?」
おっと、余計な事を考えている内に岩井先生は回復魔法を選択したみたい。
でも、身体強化は鍛えて手に入れる事ができるなんて貴重な情報、願いを使わずに得られたのは幸運だよね。
これで岩井先生の残りの願いは一つ。
「じゃあ、最後の一つは……」
「魔王討伐後の帰還は宜しいのですか?」
そうだった……って先生もそんな顔しているよ。大丈夫かな?あの人。
そうなると全員この願いは言うだろうから、実質持てる力は二つだね。
僕はあの人からは一番離れた席にいるから、普通にいけば一番考える時間が有るし、何より他のクラスメイト……と言うか、ただの知人の状況も把握できるのは良かったよ。
「そ、そうですね……それでお願いします」
「承りました」
回復魔法だけだと、取り敢えずは死にはしない……かな?
身体強化は現地で鍛えると言っていたから、そう言った分類の技能も有るだろうしね。
「では次の方……」
う~ん、やっぱりあの笑顔の裏には悲しみの表情が見えるんだよね。
僕の特技だから間違いないと思うけど、今は言う時ではないかな。
余計な事を言って邪魔をしたと知人に言われるのも嫌だしね。
で、次に願いを聞かれるのは、渡辺正二。