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苦手な方はご注意ください。

三国志演義

三国志演義・長坂坡退却戦~龍虎の咆哮~

作者: 霧夜シオン

この台本は故・横山光輝氏、及び吉川英治氏、北方謙三氏の著作した三国志や各種

ゲーム等に、作者の想像を加えた台本となっています。その点を許容できる方は是

非演じてみていただければ幸いです。

なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかって打てない)場合、

遺憾ながらカタカナ表記とさせていただいております。

何卒ご了承ください<m(__)m>

なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。

また、金銭の絡まない上演方法でお願いします。


ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、または他のキャラの

セリフに同じものが登場しても打ってない場合がありますので、注意してくださ

い。


三国志演義・長坂坡退却戦~龍虎の咆哮~


作者:霧夜シオン


所要時間:約45分


必要演者数:8~10人(6:2)

           (7:1)

           (8:2)

           (9:1)


※これより少なくても一応可能です。


はじめに:この台本は故・横山光輝氏、及び、吉川英治氏、北方謙三氏の著作した

     三国志や各種ゲーム等に、作者の想像を加えた台本となっています。そ

     の点を許容できる方は是非演じてみていただければ幸いです。

     なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかって打てな

     い)場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただいております。何卒

     ご了承ください<m(__)m>


     なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。

     また、金銭の絡まない上演方法でお願いします。

     

     ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、または他の

     キャラのセリフに同じものが登場しても打ってない場合がありますので

     、注意してください。



●登場人物


趙雲ちょううん・♂:あざな子龍しりゅう

     袁紹えんしょう公孫瓚こうそんさんを経て劉備りゅうびに仕える。智勇に優れた名将で、今回の退却戦

     では特に劉備りゅうびの家族である、甘夫人かんふじん糜夫人びふじん阿斗あと【後の劉禅りゅうぜん】の守護

     を命じられていたが、乱軍の中ではぐれてしまい、血眼になって捜し歩

     く。阿斗あとを曹操軍数十万の中、ただ一騎で守護しぬいて主君劉備の元ま

     で辿り着いた。


張飛ちょうひ・♂:あざな翼徳よくとく

     一丈八尺いちじょうはっしゃく蛇矛じゃほこを軽々と振り回す酒を愛する豪傑。劉備りゅうびの義弟。

     酒による失敗も多いが、その武勇は劉備軍の中でもトップクラス。

     この長坂ちょうはんの戦いにおいてはのちの語り草となる、長坂橋仁王立ちをして

     のけることになる。


劉備りゅうび・♂:あざな玄徳げんとく

     中山靖王ちゅうざんせいおう劉勝りゅうしょう末孫まっそんにして漢の景帝けいてい玄孫げんそん

     三顧さんこの礼を経てついに諸葛孔明しょかつこうめいを臣下に迎える。

     信義に厚いがゆえに国を奪う事を良しとせず、劉表りゅうひょう亡きあとも荊州けいしゅう

     乗っ取らなかった。

     その為に確固とした地盤を持てず、曹操そうそうに追われる事となる。


甘夫人かんふじん・♀:名前や字は伝わっていない。

      劉備りゅうびの正室。夫たちと共に江陵こうりょうを目指すが、途中で曹操軍に襲われ、

      ビ夫人や趙雲ちょううんとはぐれてしまう。


ビ夫人・♀:名前や字は伝わっていない。

      劉備りゅうびの妻で、彼に仕えている糜竺びじくの妹でもある。

      曹操軍に襲われ、甘夫人かんふじん趙雲ちょううんとはぐれてしまう。

      

曹操そうそう・♂:あざな孟徳もうとく

      漢の相国しょうこく曹参そうしんが末裔を名乗る。人相見に「治世の能臣、乱世の姦雄かんゆう

     」と評された、兵法、政治、果ては詩にまで名を残す三国志版の覇王。

     人材収集癖があり、惚れこむと例え敵でも味方にせずにはおかない性質

     。風雲に乗じて漢の皇帝・献帝けんていを擁し、丞相じょうしょうの地位に就く。

     自分に刃向かう者を朝敵の名のもとに次々とあるいは従わせ、あるいは

     滅ぼしていく。四十代後半~五十代。


荀攸じゅんゆう・♂:字は公達こうたつ

     王を補佐する才能を持つという曹操そうそうの腹心、じゅんイクの甥にして曹操

     軍参謀筆頭の地位にある。

     的確かつ優れた知謀を用い、様々な献策で曹操を補佐する。


きょチョ・♂:あざな仲康ちゅうこう

     猛る牛の尾を引いて引き戻したという怪力の持ち主。

     もとは農民であったが、黄巾賊残党討伐の為やって来た曹操そうそうに見出

     されて仕える。曹操軍の親衛隊とも言うべき虎衛軍こえいぐんを束ねる。


曹洪そうこう・♂:あざな子廉しれん

     曹操が旗揚げした時からつき従う、古参の武勇に優れた将。

     今回の曹操の南方攻略の際にも従軍している。


ちょうコウ・♂:字は(しゅんがい)。

     鎖の両先に鉄球をつけた武器を使い、趙雲をあと一歩のところまで

     追いつめる。

     原因は不明だが、実は吉川英治氏が考証ミスをしたと言われている

     。つまり、架空の人物である。

     魏の五将軍に数えられ、諸葛亮の北伐において計略で討ち取られる

     まで張コウは生きています。

     なので、同姓同名の別人物という扱いにすればよろしいんじゃない

     かな?


文聘ぶんぺい・♂:あざな仲業ちゅうぎょう

     荊州けいしゅう劉表りゅうひょうに仕えていたが、劉表りゅうひょうの死後、蔡瑁さいぼう曹操そうそうへ降伏を決め

     た為、やむなくこれに従う。


夏侯恩かこうおん・♂:あざな子雲しうん

      実は三国志演義にのみ登場する架空の人物。

      夏侯惇かこうとんの弟とされているが、これは吉川英治氏が独自に追加した

      設定と言われ、直接の種本となった湖南文山氏の通俗三国志にお

      いては「曹操の随身」としか記載されていない。

      故・吉川英治氏&横山光輝氏の三国志においては、趙雲ちょううんと一騎打ちに

      敗れ、曹操そうそうに授けられていた名剣・青釭せいこうの剣を奪われてしまう。


淳于導じゅんうどう・♂:あざなは伝わっていない。

      彼も夏侯恩かこうおんと同じく、三国志演義にのみ登場する架空の人物。

      曹仁そうじん配下とのみ記載され、劉備りゅうび軍の糜竺びじくを生け捕りにして本陣へ

      連行しようとする途中、趙雲ちょううんに出会ってしまい討ち取られてしま

      まう。(なお、当台本では尺とか演者人数とか大人の事情で糜竺びじく

      とのシーンをカットさせていただいております。)


曹操軍部将1:曹操軍各将に仕える名もなき部将。死んだり怯えたり忙しい役その

       1。


曹操軍部将2:曹操軍各将に仕える名もなき部将。死んだり怯えたり忙しい役その

       2。


曹操軍兵士1:曹操軍各将に仕える名もなき兵士。死んだり怯えたり忙しい役その

       3。


曹操軍兵士2:上記その4。説明が面倒になったわけではない。


劉備軍兵士:今回は主に張飛配下として頑張ります。


民1:乱世に翻弄される哀れな民その1。


民2:上記その2。決して説明が(rya


ナレーション・♂♀不問:雰囲気を大事に。


阿斗:泣き声だけなので、得意な方お願いします。



※演者数が少ない状態で上演する際は、被らないように兼ね役でお願いします。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ナレ:曹操そうそうの南方攻略から逃れるため、劉備りゅうびは民達を引き連れて襄陽じょうよう劉琮りゅうそう

   頼った。しかし、すでに降伏を決めている蔡瑁さいぼうらに阻まれ、やむなく

   荊州けいしゅう軍需物資ぐんじゅぶっし貯蔵庫にして要害の地である江陵こうりょうを目指し、

   昼夜を分かたず逃げ続けることとなる。

   そのころの襄陽じょうよう城、曹操そうそうの執務室。


曹操:よし、劉曄りゅうようはこの新しい法案を出して民達に従わせよ。

   程昱ていいく、そちは劉表りゅうひょうの旧臣達をうまく散らして配置するのだ。

   ふう・・・こんなところか。


荀攸:丞相じょうしょう、お疲れではございませぬか。

   こんな多忙な折の小休止は命をうるおします。

   茶など、いかがでございましょう?


曹操:おぉそうだな・・・では、一服するとしようか。


   【三拍】


   うむ・・・忙しいときの茶は格別に美味いのう。ところで、税金の問題は

   片付いたか?


荀攸:税金などよりももっと重要な問題がございます。

   劉備りゅうびらをこのまま逃がしてしまうおつもりですか?


曹操:いや、みすみす逃がす気もないが、彼奴きゃつらは大勢の民を連れている。

   それゆえ一日の移動距離は非常に短い。慌てる必要はあるまい。


荀攸:しかし、劉備りゅうび江陵こうりょうの城へ入れさせてはなりますまい。

   蔡瑁さいぼうによれば、かの地には荊州けいしゅう軍需物資ぐんじゅぶっしの大半がたくわえられていると聞

   きますぞ。


曹操:うむ、そういう話であったな。


荀攸:これまでと違い、今の劉備りゅうびには諸葛亮しょかつりょうと言う軍師がついています。万が一と

   いう事もありますし、先手を打って江陵こうりょうをおさえ、同時に劉備を追撃するべ

   きと存じます。


曹操:むう、確かにな。

   ・・・よし、諸将を集めよ!


荀攸:はっ、かしこまりました。


ナレ:曹操そうそうは新たに帰順した将軍の文聘ぶんぺい案内人兼先鋒あんないにんけんせんぽうとし、腹心達にも兵を

   与えると、直ちに追撃の軍を発した。


   【二拍】


   一方、劉備りゅうびは二千ほどの兵に数万の民を連れ、ひたすら江陵こうりょうへむけて逃げ続

   けていた。

   しかし足弱あしよわな者も多く、歩みははかどらなかった。亡き劉表りゅうひょうの長男の劉琦りゅうき

   関羽かんうを援軍要請に出すものの便りは無く、今度は諸葛亮しょかつりょうが催促に向かう。

   だが既に曹操そうそうの追撃部隊は、劉備りゅうび達の肩をつかみかけていた。


文聘:追いついたぞ。・・・どうやら民も兵も疲れて眠りこけているようだな。


曹操軍部将1:将軍、ご命令を・・・!


文聘:一部の兵は我と共に先回りして待ち伏せるのだ。

   残りは全軍、突撃せよ! 


文聘・劉備役以外全員:【喚声】


劉備:ッ!? あのときの声はまさか!?


文聘:ゆけ! 劉備りゅうびを逃がすな!!


曹操軍部将2:民だからとて容赦するな! 邪魔するものは斬り捨てろ!


劉備:くっ、やはり追いつかれてしまったか・・・! 皆、逃げよ!!


民1:うわぁぁああ曹操そうそう軍だぁああ!!!


民2:ひいっ、た、助けぎゃっ!【斬られて息絶える】


民3:あ・・・がっ・・・・りゅ、りゅうび、さ、ま・・・


劉備:ああ、を慕って付いてきたばかりに・・・すまぬ、民達よ・・・!


文聘:あれは・・・、来たな・・・!


   【二拍】


   待たれよ、劉備りゅうび殿! すでに武運は尽きた! 潔く御首みしるしを渡されよ!


劉備:ッ!!

   ぬうう、貴殿は荊州けいしゅうにその人ありとうたわれた、文聘ぶんぺい殿ではないか!

   国難に逢いながら一戦もせずに国を売り渡し、敵将に媚びて昨日の友に斬り

   かかるとは何事か! 浅ましいにも程があろう!!


文聘:う・・・ぐっ・・・・ぬうう・・・・!


許チョ:文聘ぶんぺいッ、何をしている!

    劉備りゅうび! その命、この許チョがもらった!!


劉備:うっ、いかん! 新手が!


張飛:待てィ、我が君はやらせん!! ぬううんッッ!!


許チョ:うぬッ! 張飛ちょうひ、邪魔するか!!


張飛:我が君、ここはそれがしに任せて早くお逃げあれィ!!


劉備:頼む、翼徳よくとく!!


許チョ:ええい者共、劉備りゅうびを逃がすなァ!!


ナレ:劉備りゅうび張飛ちょうひにその場を任せ、鞭も折れよと馬を駆けさせた。

   やがて後から味方の糜芳びほうが追い付いてきて、趙雲ちょううんが裏切ったと聞かされる

   と、大声を上げてさえぎった。


劉備:バカな! 趙雲ちょううんは生死を共に誓い合った仲だ。裏切るなど決してあり得

   ぬ! おそらくこの混乱ではぐれたの家族を探してくれているに違いない

   !


【馬のいななきのSEあれば】


張飛:どうっ! 

   我が君、ご無事で!


劉備:おお翼徳よくとくは無事だ!

   ・・・ところで、趙雲ちょううん曹操そうそうに寝返ったと申すのだが・・・。


張飛:そういえば、彼奴きゃつ曹操そうそう軍の陣へ馬を走らせていくのを見たという者が・・

   ・。

   おのれ、趙雲ちょううん! 裏切者がどうなるか、思い知らせてやる!!


劉備:ま、待て翼徳よくとく、まだそうと決まったわけではない!


張飛:いや、知れたものではありません! 我が君にはどこぞで身を隠して味方が

   集まってくるのをお待ちあれ! お前ら、付いてこいッ!


ナレ:戦場を駆けて来たばかりで気の立っている張飛ちょうひは、劉備りゅうびの制止も聞かずに

   二十人ほどの部下を連れ、とある橋まで引き返してきた。

   橋の名は、長坂橋ちょうはんきょう


張飛:よし、お前らは馬の尻尾に木の枝を束にして縛り付け、林の中に隠れて

   ひたすら行き来していろ。


劉備軍兵士:は、はい。


      【二拍】


      張飛ちょうひ様、これで良いでしょうか?


張飛:そうだ。・・・ふふふ、これで二十人が四、五百人にも見えるだろうよ。

   そしてこの橋、一度に大勢で渡ることはできねえ。

   見てろ、裏切者や曹操そうそう軍め、一泡吹かせてやる・・・!


ナレ:その頃、趙雲ちょううん長坂ちょうはんの荒野をひたすら駆け巡っていた。

   劉備りゅうびに守護を命じられた甘夫人かんふじん達とはぐれてしまい、責任を感じて血眼にな

   り、探していたのである。


趙雲:甘夫人かんふじんさま! ビ夫人さま! 若君はいずこにおられるか!!

   くっ、このままでは何の面目あって我が君の御前ごぜんに出られようか!!

   お二方ぁッ!! 阿斗あとさまぁッ! いずこにおわすか!!


劉備軍兵士:あっ、趙雲ちょううん様! 趙雲ちょううん様ァ!


趙雲:おぉお前達、奥方様や若君を見なかったか!?


劉備軍兵士:【悲しげに】

      甘夫人かんふじんさまは敵に追い回され、髪を乱して向こうの方角へ逃げて

      ゆかれました!


趙雲:よしッ、わかった! お前達も逃げよ!

   甘夫人かんふじんさま、いま趙雲ちょううんが参りますぞ!


   【三拍】


甘夫人:ああ・・・もう、逃げきれませぬ・・・。

    我が身もこれまでであろうか・・・我が夫君おっとぎみ・・・ビ夫人、若君・・・。

    ? あ、あれは・・・趙雲ちょううん!?

    趙雲ちょううんっっ!!


趙雲:おおっ、甘夫人かんふじんさま! お怪我はございませぬか!?


甘夫人:おおお趙雲ちょううん・・・!

    わらわはこのとおり無事です。


趙雲:かかる難儀なんぎをお掛けしたのもそれがしが至らぬゆえ、どうかお許し下さい!


甘夫人:良いのです。こうしてそなたはわらわやビ夫人、若君を探しに来てくれた

    ではありませぬか。


趙雲:ははっ、ありがたきお言葉・・・! 

   むっ、あれは!?


淳于導:そこにいるのは敵将と見た! 我は曹仁そうじん将軍の配下にその人ありと知られ

    た淳于導じゅんうどうなり!


趙雲:ぬうっ、早くも曹操そうそう軍の将が・・・!

   甘夫人かんふじんさま、しばらくお待ちあれ。


   【二拍】


   我は常山じょうざん趙子龍ちょうしりゅう! 貴様などにかまっている暇はない、そこをど

   けィ!!


淳于導:おお、貴様が噂に聞く趙子龍ちょうしりゅうか! いざ、尋常に勝負せい!! ふんっ!


趙雲:ええぃ邪魔な! それほど死に急ぎたいか!! はあっ!!


淳于導:ぬおぅッ! な、なんと鋭い槍さばきか! でぇい!


趙雲:ふんッ! 何だそのへっぴり腰は! 貴様ごときに俺の相手は務まらん!

   りゃあああ死ねぇッッ!!


淳于導:うッ! ぐぶ・・ぉ・・・・!


趙雲:さ、甘夫人かんふじんさま、今のうちです! この敵将の馬にお乗りあれ!


甘夫人:わ、わかりました・・・!


ナレ:行く手に立ちふさがった敵将を一閃のもとに突き殺すと、趙雲ちょううん甘夫人かんふじんを守

   護し、いったん劉備りゅうびの元へと急いだ。


甘夫人:ああ、ビ夫人、若君・・・無事だとよいのですが・・・。


趙雲:それがしが命に代えてもお二方をお捜しして参りますゆえ、どうか、御心みこころ

   やすんじたまわれ。


甘夫人:頼みますぞ、趙雲ちょううん。そなただけが頼りです・・・!


趙雲:はっ、お任せを。

   もうすぐ長坂橋ちょうはんきょうです、そこを越えれば・・・むっ、あれは!?


甘夫人:おお、張飛ちょうひ・・・! しんがりを受け持っていてくれたのですね・・・!


張飛:ん・・・? 誰か来たな・・・ッ! あれは、趙雲ちょううん! もう一人いるが、

   砂ぼこりでよく見えんな。それよりも・・・!


   そこへ来たのは誰だ!! 人か、けだものか!!


趙雲:なッ、どういうつもりだ張飛ちょうひ!!


張飛:貴様が裏切ったという知らせがあったのだ! 違うのならそれでよし、本当

   ならこの蛇矛じゃほこで、一撃の元にその胸板をぶち抜いてくれるわ!! 


甘夫人:張飛ちょうひ! 何を言うのですか! 趙雲ちょううんはわらわ達を探して敵の中を駆けまわ

    っていたのですよ!


趙雲:さがれッ、甘夫人かんふじんさまの御前ごぜんを!!


張飛:うッ!? そ、その声は甘夫人さま!?

   てことは、趙雲ちょううん、貴様は裏切ったわけではなかったのだな!


趙雲:当たり前だ! 何をバカなことを・・・!

   我が君のご家族とはぐれてしまったゆえ、こうして夜明けから血眼ちまなこになって

   探し回り、甘夫人かんふじんさまだけようやくお助けしてきたのだ。


甘夫人:それで、それで張飛ちょうひ、我が夫君おっとぎみはいずこに!?


張飛:ご心配めされますな。我が君はこの先の林で、しばしご休息なされておりま

   す。


甘夫人:おおお、ご無事でしたか・・・!


趙雲:張飛ちょうひ、それがしはビ夫人さまと若君の行方を再びお捜し申してくる。

   甘夫人かんふじんさまを頼む!


張飛:おう、任せておけ! 貴様も気をつけろよ!

   さ、甘夫人さま、こちらへ。


   【二拍】


   我が君! 甘夫人さまをお連れしました!


劉備:おお、かん! 無事であったか!!


甘夫人:はい・・・! もう今度ばかりは再び会えないのではないかと、

    覚悟しておりました・・・!


劉備:何を言う、いかなる時でもあきらめてはならぬ。

   それで、ビと阿斗あとはいかがした?


甘夫人:申し訳ありませぬ・・・はじめは一緒に逃げていたのですが、途中で敵兵

    に駆け散らされ、はぐれてしまいました・・・。


張飛:いま、趙雲ちょううんが取って返して捜しております。必ずやお連れして参る事でしょ

   う。


劉備:うむ。今は信じて待つほかない。さ、かんよ、向こうでしばらく休んでいるの

   だ。


甘夫人:は、はい・・・。


ナレ:一方、敵に追われ、見知らぬ民達に紛れてビ夫人は、若君・阿斗あとを抱いて

   長坂ちょうはんの荒野をさまよっていた。


ビ夫人:ああ・・・四方はみな、敵ばかり・・・かん夫人とも、護衛の趙雲ちょううんともはぐ

    れてしもうた・・・どうすれば・・・。


阿斗:【泣き声】


ビ夫人:おお、よしよし・・・若君、心配は要りませんよ。今に必ず趙雲ちょううんが来てく

    れます。


民1:ご夫人さまは、劉備りゅうびさまにかかわりあるお方じゃろ。その格好では目立ちま

   すじゃ。


ビ夫人:ええ、そう、ですね・・・。


民2:このボロをまとっておいでなされ。これなら人目につきにくいですだ。


ビ夫人:おお・・・感謝いたします。


民1:なあに、劉備りゅうびさまが新野しんやに来て下さってから、わしらは盗賊におびえねぇで

   暮らせるようになったんですじゃ。


民2:良きご領主様に治めてもらえて、わしらは幸せでしただ。


ビ夫人:(我が夫君おっとぎみ仁徳じんとくが、このような時にも・・・。)


許チョ:者共、劉備りゅうびを逃がすな! 刃向かうものは容赦するなッ!!


民1:ひっ、そ、曹操そうそう軍だァ!


民2:逃げろお! 殺されるぞォ!!


ビ夫人:うう、もう敵が・・・! 


許チョ:敵兵はくまなく探して殺せィ! 曹丞相そうじょうしょうに逆らうとどうなるか、骨身ほねみ

    しみて分からせるのだ!!


ビ夫人:に、逃げなくては・・・!


曹操軍兵士1:邪魔だ、どけェ!!


ビ夫人:うッ!! ・・・あ、足が・・・!


曹操軍兵士2:おい、農民にかまうな、行くぞ!


ビ夫人:こ、こんなところで倒れるわけには・・・あの家に隠れて、やり過ごさな

    いと・・・!

    せめて、若君だけでも・・・!


阿斗:【泣き声】


ナレ:一方、敵中に取って返した趙雲ちょううんは、ひたすらビ夫人と若君、阿斗あとの名を声を

   からして呼び叫んでいた。


趙雲:お二方ァ!! ビ夫人さま、阿斗あと様ァ!! いずこにおわすか!!

   ・・・命に代えてもお二方を捜してお連れ申さぬうちは、なんで再び我が君

   の御馬前ごばぜんにひざまずけようか!

   むっ、あれは・・・敵将か!? ええい、蹴散らして通るまで!


   それがしは常山じょうざん趙子龍ちょうしりゅう! そこの敵将、覚悟ッ!!


夏侯恩:なっ、なに!? 敵将だと!?

    おのれ、討ち取ってくれる! はっ!!


曹操軍兵士1:か、囲め囲め! 御大将おんたいしょうを討たせるな!


曹操軍兵士2:掛かれぇ! 討ち取れぇ!


趙雲:雑魚ざこは引っ込んでいろ!

   ふんッ、なんだその軽い打ち込みは!

   槍というのは、こうして使うんだ! うおぉッ!!


夏侯恩:うっ、ば、馬鹿な、槍が!?


趙雲:その命、もらったァ!!


夏侯恩:うッぐはァッッ!!


曹操軍兵士1:あ、あああ御大将おんたいしょう


曹操軍兵士2:く、くそぉっ、よくも!!


趙雲:まだやるか! 貴様らの主人ですらこのざまなのに、雑兵ぞうひょうごときがかなう

   つもりでいるのか!


曹操軍兵士1:ひっ、ひいいい!!


曹操軍兵士2:う、うわああああ逃げろおおお!


趙雲:ふん、口ほどにもない・・・ん?

   この敵将、良い剣を持っているな・・・。

   柄に文字が彫ってある・・・うっ! こ、これは、青釭せいこうの剣!?

   すると・・・そうか、あの猛将・夏侯惇かこうとんの弟の夏侯恩かこうおんだったのか・・・!


ナレ:青釭せいこうの剣。曹操そうそうの秘蔵している名剣のうち、倚天いてんの剣と対をなす剣である。

   倚天いてん曹操そうそう自らが身に帯びて青釭せいこうは寵愛する夏侯恩かこうおんに授け、この剣に

   位負けせぬほどの功をたてよと励ましていた。


趙雲:このような名剣が手に入るとは・・・!

   天からの授け物として、もらっておくぞ!

   道草を食った・・・急ぎ、お二方をお探ししなければ・・・!

   ビ夫人さま! 若君!! いずこにおわしますか!!


   【二拍】


   くっ・・・こうしてあてもなく訪ね歩いているうちに万一のことがあっては

   ・・・!


民1:う・・・しょ、将軍・・・!


趙雲:むっ!? どうした、しっかりするのだ!

   ッだが・・・この傷ではもう・・・!


民1:も、もしかしたら・・・、その、ビ夫人様かもしれねえです・・・敵兵に・

   ・・足を傷つけられ、あ、あの家の中に逃げ込んだんです・・・つい、

   今しがた、で・・・うっ、ぐっぅぅ・・・ッ!


趙雲:! おいッ、しっかりしろ! おいッ!!

   くっ・・・罪のない民を・・・おのれ、曹操そうそう軍・・・!

   ・・・よくぞ教えてくれた・・・礼を申す。どうか、安らかに眠ってくれ・

   ・・!   


   【二拍】


   ビ夫人さま! 若君!

   ! むっ、これは・・・!


阿斗:【泣き声】


趙雲:おおっ、若君ッ!


ビ夫人:う・・・て、敵兵・・・? いけない・・・!


趙雲:ビ夫人さま! 家臣の趙雲ちょううんです! 趙雲ちょううんが参りました!


ビ夫人:! おお・・・! よくぞ、よくぞ来てくれました・・・。


趙雲:遅れて申し訳ございませぬ・・・! 


ビ夫人:いいえ、良いのです。それよりも・・・どうか若君を、我が夫君おっとぎみの元まで

    ・・・!


趙雲:もちろんです! さ、ビ夫人さまも共に・・・!


ビ夫人:いいえ・・・この足の傷・・・わらわはもう動けませぬ。

    たとえ夫君の元へ帰り付けたとしても、わらわの命は長くはない・・・。


趙雲:何を弱気な事をおおせられますか! それがしがお守りして参ります。

   さ、この馬へお乗り遊ばされませ!


ビ夫人:わらわがそなたの馬に乗ったら・・・そなたは若君を抱いて徒歩でこの

    包囲を破らねばなりますまい・・・。


趙雲:それがしなら徒歩でも問題ありませぬ! お気に掛けられますな!


ビ夫人:手負いのわらわと、幼い若君・・・どちらが大切かは趙雲ちょううん、そなたにも

    分かっているはずです・・・!


趙雲:ッし、しかし!


ビ夫人:いつまで迷っているのですか、趙雲ちょううん・・・!

    さ、わらわを見捨てて若君を我が夫君おっとぎみの元へ・・・!


趙雲:むぅぅ・・・。

   ! ッいかん、敵兵のときの声が・・・!

   ビ夫人さま、すぐに馬を連れて参ります!


   【二拍】


   どうどう・・・さ、ビ夫人さま、早く・・・ッ!?

   ッな、何を!?


ビ夫人:趙雲ちょううん、若君の運命はそなたの手の中にあるのです・・・!

    わらわなどに心を掛け、手の中にあるたまを砕くような真似をしてはなりま

    せぬ!!

    ッッ!!


趙雲:ああッ、ビ夫人さまッッ!!!


ナレ:趙雲ちょううんは止めようとしたが、ビ夫人は最後の力を振り絞り、傍らの古井戸へ

   身を投げてしまった。


趙雲:ビ夫人さまァァァァッッ!!!

   うっ、うう・・・、何という事を・・・! 【泣く】


   【三拍】   


   敵の声がいよいよ近くまで・・・! こうしてはおれぬ。

   ビ夫人様、後で必ず・・・!


   【二拍】


   さ、若君、しばらくの辛抱ですぞ。この趙子龍ちょうしりゅうが、必ずや父君ちちぎみの元までお連

   れします!

   はあッ!


曹操軍兵士1:う、うわっ!? 敵だ、こんなところに敵がいたぞ!


曹操軍兵士2:劉備りゅうび軍の残党だ、討ち取れええ!


趙雲:どけぇい! それがしをさえぎる者は命を失うぞ!!


ナレ:趙雲ちょううんは若君の阿斗あとを鎧の中にしっかりと抱き込むと、馬の尻に一鞭くれるや

   、敵の真っただ中へと単騎突撃していった。

   彼の通った後には曹操そうそう軍の将兵たちの死体が山と折り重なり、流れる血は河

   となった。そこへまた、ちょうコウという一人の敵将が立ちふさがった。


張コウ:待てェい! そこの敵将、このちょうコウが討ち取って手柄にしてくれるわ!


趙雲:ええい、邪魔するなッ! そんなに命がいらんのか!!


張コウ:ふふふ、どうやら身分の高き将と見受ける。

    この武器が避けられるか! はあッ!


趙雲:うっ、こ、これは、鉄球が鎖の両先に!?

   くっ! ぬうっ!


   【二拍】


   ぐっ、や、槍がッ!


張コウ:どうした、手も足も出んのか!? ああ!?

    そりゃっ、そりゃあッ!


趙雲:ッ! くっ、しつこい敵だ・・・!

   だが今は、敵将を討って功を競う時ではない!

   阿斗あとさまを無事に我が君の元までお連れせねば・・・!


張コウ:ぬうっ、逃げるな! 口ほどにもないぞォ!!


趙雲:くそ、まだ追ってくるか・・・ッ!? う、うおぉぉッ!?


ナレ:背後に迫る敵将・ちょうコウを気にするあまり、前方の注意が疎かになっていた

   趙雲ちょううんは、地面の大きなくぼみに気づかず、馬の足を突っ込んでしまう。

   馬から振り落とされながらもなんとか体勢を立て直そうとしたが、

   すでにちょうコウは鉄球を振り上げていた。


張コウ:はっはァ! 覚悟ォ!!


趙雲:くッーー!!


張コウ:!!? こっ、これはッ!? ぬ、抜けんッ!


ナレ:ちょうコウの手から放たれた鉄球は、趙雲ちょううんの肩をわずかにそれて背後の土に

   音をたててめり込んだ。

   とっさにちょうコウは引き抜こうと力を込めたが、粘土質の土壁つちかべは、鉄球

   を容易に放さなかった。


趙雲:天は若君を見捨てたまわず、それがしに青釭せいこうの剣をつかわす!

   はあああッッ!!!


張コウ:ぐぉあああああーーッッッ!!!


趙雲:っ、はぁ、はぁ・・・。

   何という斬れ味・・・さすがだ。

   若君、ご無事ですか?


阿斗:【泣き声】


趙雲:【安堵の溜息】

   よかった・・・もうしばらくの辛抱ですぞ。

   それがしが、必ず・・・!


ナレ:趙雲ちょううんは刹那の隙をついて一刀の元にちょうコウを斬り下げると、おびただしい

   血をかぶった。

   窮地を脱して馬を敵から奪うと、再び長坂橋ちょうはんきょうを目指し駆け抜けていく。

   同時にその動きは、山頂から戦況を眺めている曹操そうそうの目にもとまっていた

   。


曹操:むう・・・・・曹洪そうこう、あの将は何者だ? まるで無人の野を行くように我が

   陣を駆け抜けていく。なんという大胆不敵だいたんふてきな奴だ。


曹洪:さて、いったい何者でしょうか・・・さすがにここからでは。


曹操:他に知っている者はおらんのか?


曹操軍部将:むう、凄まじい勢いですな。


文聘:ううむ、分かりませぬ・・・。


曹操:じれったいのう。

   曹洪そうこう、そちが確かめてこい!

   

曹洪:ははっ!


   【三拍】


   そこへ行く敵方の将よ! 願わくば、尊名そんめいを聞かせたまえ!


趙雲:それがしは常山じょうざん趙子龍ちょうしりゅう

   我が行く手を立ちふさがんとするか!


曹洪:否! 通られよ! はあっ!


趙雲:? 一体、何のために・・・? いや、そんな事を気にして

   いる暇はない。急がねば・・・!


   【二拍】


曹洪:【馬のいななきSEあれば】

   どぉうッ!

   丞相じょうしょう閣下、わかりましたぞ!


曹操:おう。して、何者だ?


曹洪:常山じょうざん趙子龍ちょうしりゅうとのことです!


曹操:何! 趙子龍ちょうしりゅうだと!?

   かねて噂には聞いていたが、なるほど、敵ながら目覚ましい働きぶりだ!


   ううむ・・・。


曹洪:? 丞相じょうしょう、いかがなされました?


曹操:・・・・・欲しい。


曹洪:えっ? (い、いやな予感が・・・)


曹操:欲しいぞ、はあの趙子龍ちょうしりゅうを配下に欲しい!

   者ども、趙雲ちょううんを捕らえて我が前に連れてくるのだ!!


曹洪:なっ! 生け捕りにせよとおおせられますか!?


曹操:そうだ! 剣も槍も、石弓いしゆみも用いてはならん!

   ただ一人の敵、狩りでもするように疲れを待って生け捕り、ここへ連れて

   参るように各将へ伝令を飛ばせィ!!


曹洪:は、ははァッ!!(ああ・・・丞相じょうしょうの悪い癖が・・・)


ナレ:鶴の一声は瞬く間に曹操そうそう軍各将の元へ伝わった。

   真の勇者、真の良き将を見れば、敵であろうと配下に加えようとするのは、

   もはや曹操そうそうの病と言ってよかった。

   先に関羽かんう傾倒けいとうして後で後悔したにもかかわらず、今日また常山じょうざん趙子龍ちょうしりゅう

   と聞いて、持ち前の人材収集欲を起こしたのであった。

   だが同時に、これは趙雲ちょううん阿斗あとにとっては幸運となる。


趙雲:はぁ、はぁ、どういうことだ・・・、敵の動きが変わった・・・?

   矢も一本も飛んでこなくなった・・・。

   まるで、こちらの疲れを引き出そうとするような・・・。

   まさか・・・。


曹操軍部将1:趙子龍ちょうしりゅう、いい加減に降伏しろ!


趙雲:はぁ、はぁ、ッええい、黙れ!! はあッ!


曹操軍兵士1:ぐわああッ!


曹操軍部将2:くっ、まったく、丞相じょうしょう閣下も無茶な命令を出される。

       弓を使えばすぐにでも討ち取れるものを・・・!


趙雲:ぜぇ、はぁ、はぁ・・・ッどけぇえええ!!


曹操軍兵士2:ひいいッ、こ、これじゃ、近づけない・・・!


ナレ:行く先々の曹操そうそう軍の包囲はまだ分厚かった。

   しかし、曹操そうそうが生け捕りの命令を出した為、趙雲ちょううんは鎧の胸当ての下に三才の

   幼子おさなごを抱えながらも次々に敵陣を破っていく。

   名のある敵将を何人も斬り捨て、しかも傷は負わず、やっとの思いで

   長坂橋ちょうはんきょう近くまでたどり着いた。


曹操軍部将2:者共、趙子龍ちょうしりゅうを逃がすなァ! ゆけ、ゆけェい!!


文聘:敵は疲れているぞ! 包囲して生け捕るのだ!! かかれ!!


趙雲:はぁ、はぁ・・・くっ・・・あれは、文聘ぶんぺいとその部隊・・・!

   追いつかれては・・・馬よ、もってくれ・・・!


曹操軍部将1:それっ、あと一息だ!


曹操軍部将2:これ以上やらせるな! 兵ども、生け捕れええ!!


趙雲:や、やっと、長坂橋ちょうはんきょうが見えた・・・ッはぁ、はぁ・・・!

   おおーーーーいッ、張飛ちょうひィーーーーーッ!!


張飛:むっ、あれは・・・趙雲ちょううんか! ようしッ!!


   【二拍】


   趙雲ちょううん、無事か!!


趙雲:ああ、な、なんとか・・・。


張飛:ここは俺に任せて、貴様は少しでも早くあの橋を渡れッ!!

   曹操そうそう軍ども、この燕人張飛えんひとちょうひが相手してやる!!

   うぉぉぉおおおおおッッッ!!!


文聘:なにい、張飛ちょうひだと!? いっ、いかん!


曹操軍兵士1:う、うわああああ、なんだこいつは!!


曹操軍兵士2:ひいいい、ば、化け物みたいな強さだ!!


張飛:てめえら雑魚共が束になった所で、この俺様にかなうわけねえだろうが!!

   ふんッ!


曹操軍部将1:ぬうっ、これでもくらえッ!


張飛:ああ? なんだそのへっぴり腰は!!?

   おらァッ!!


曹操軍部将1:ぐ、げッ・・・・!!


文聘:い、いかん、兵どもが怯えておる・・・。

   ええい、退けッ!


張飛:フン、身の程を知れ!! さっさと曹操そうそうでも連れてこいッ!


ナレ:その頃、趙雲ちょううんは疲れ果てた自身と、よろよろに弱り果てた馬を励ましながら

   、やっと劉備りゅうび達の所まで帰り着いた。


趙雲:おお・・・我が君・・・!


劉備:趙雲ちょううん! 無事であったか! む? その懐に抱えているのは?


趙雲:若君でございます・・・。

   お許し下さい・・・申し訳ありませぬ・・・!


劉備:何を詫びるのだ。さては、阿斗あとは途中で息絶えたか・・・。


趙雲:いえ・・・先ほどまで、火のつくように泣き叫んでおられましたが・・・

   疲れてしまわれたようです。

   ですが・・・ですが、ビ夫人さまが・・・!


劉備:ッ! ・・・ビの身に、何か・・・?


趙雲:身に深手ふかでを負われ、歩くことも出来ないご様子でしたので、それがしの馬を

   勧めました。

   しかし・・・、しかし、足手まといになると・・・若君を守れと・・・そう

   おおせられて、井戸に身を投げられましてございます・・・!


劉備:!! ・・・そうか・・・ああ、阿斗あとに代わって、ビは死んだか・・・。


趙雲:井戸は板や枯れ草などで覆い隠してきました・・・。ビ夫人さまの魂が、

   若君をお守りくだされたのでしょう。

   それがしただ一騎で敵の包囲を破って参りましたが、これこの通り・・・。


劉備:うむ・・・。


   【二拍】


   ッ、誰でもよい、この子を拾って余の眼の届かぬ所へ連れて行け!


阿斗:【泣き声】


趙雲:ッ!? 我が君、何をなされますか!?


劉備:趙雲ちょううん、すまなかった・・・!

   そなたの如き武勇と忠義にすぐれた家臣は、またとこの世で得られるもの

   ではない。

   それを我が子一人の為に危うく討死にさせるところであった・・・。

   子供はまた産めば得られるが、良き将はたやすくは得られぬ。


趙雲:わ、我が君・・・。


劉備:誰でも自分の子は可愛い。だが、その笑顔泣き顔一つが親の気持ちを弱める

   。ゆえに放り捨てたのだ。

   そなたが命を掛けて守り抜いてきてくれたものを、粗末にしたわけではない

   。

   諸将よ、の心を疑ってくれるなよ。


趙雲:うぅ・・・くッ・・・!【泣く】

   今のお言葉・・・この趙雲ちょううん生涯しょうがい、忘れは致しませぬ・・・!


ナレ:趙雲ちょううんは、額を地にりつけて泣いた。

   越えてきた千難万苦せんなんばんくも忘れ、このお方の為なら死んでも良いと心に誓い直し

   た。


   一方、曹操そうそうは山を下ると、趙雲ちょううんが駆け去った方へ戦力を集めだした。

   曹仁そうじん曹洪そうこう夏侯惇かこうとん張遼ちょうりょうきょチョ、楽進がくしん・・・名だたる曹操そうそう軍の将達

   も、その進軍先を長坂坡ちょうはんはへと定めた。


曹洪:丞相じょうしょう閣下、趙子龍ちょうしりゅうの逃げ去った方角こそ、劉備りゅうびめのいる場所に違いありま

   せぬ。


曹操:うむ、今度こそ徹底的に叩き潰してくれよう。

   ・・・む? あれは・・・?


曹洪:文聘ぶんぺいとその兵、でございますな・・・。

   どうした、文聘ぶんぺい! その乱れようは何だ!!


文聘:はッ、それがしは趙子龍ちょうしりゅうを追い、長坂橋ちょうはんきょうであと一歩のところまで追い詰め

   ましたが、そこへ敵将張飛てきしょうちょうひが加勢に現れ、ついに取り逃がしたばかり

   か、味方もこの有様です・・・!


許チョ:な、何と言う弱腰か! 不甲斐ない奴め!


曹洪:ええぃ、丞相じょうしょう閣下の威光とこの大軍を率いて蹴散らされてくるとは何事

   か!


曹操:ぬうう、全軍、進めッ!


   【二拍】


   !? これは・・・?


ナレ:敵にとっては最後の砦。それゆえ敵兵がひしめいて守っているだろうと曹操そうそう

   や諸将は予想していたが、うららかな日差しに風はなく、川の水も穏やかに

   流れている中、一人の男が橋の真ん中に陣取って守っているきりだった。


文聘:あ、あれです・・・あの張飛ちょうひに我々は散々な目に・・・。


許チョ:ちッ、いかに張飛ちょうひといえど、たった一人だぞ!

    ええい者ども、かかれェーー


曹操:【↑の語尾に被せて】

   待てッ、きょチョ! 早まるな!!


許チョ:し、しかし丞相じょうしょう


曹操:橋の上の敵将はおとりだ! 見よ、対岸のざわめく林を!

   伏兵が隠してあるに違いない。うかつに近寄ってはならん!


張飛:おお、そこへ来たのは敵の総帥たる、曹操そうそうではないか!!

   劉皇叔りゅうこうしゅく義弟おとうと張飛翼徳ちょうひよくとくとは俺様の事だ!!

   潔く一騎討ちし、速やかに勝負を決しろォ!!!


ナレ:その声は長坂ちょうはんの水にこだまし、殺気は落ちかかる稲妻のようであった。

   そのあまりの凄まじさに、曹操そうそう軍全体に恐怖が伝播でんぱしていった。


曹操:なんじ張飛ちょうひか。・・・今、関羽かんうがかつて余に言った事を思い出した。

   自分の義弟おとうと張飛ちょうひと言う者がいる。彼と自分とでは比べものになら

   ん。

   ひとたび怒って敵軍に突撃する時は血の雨が降り、敵将の首を取る

   事は袋の中を探って取り出すようなものだと!

   ぬうう・・・なんという恐ろしい猛者もさか!


曹操軍部将2:何をさように恐れられますか! 丞相じょうしょう閣下の配下にも、張飛ちょうひ

       以上の者がいる事をしかとご覧あれ!


曹操:まてっ、早まるな!!


曹操軍部将2:張飛ちょうひ、覚悟!!


張飛:ああ? 貴様のような雑魚では物足りんわ! 曹操そうそうを出せッ!!

   ぬううんッッ!!


曹操軍部将2:うっ、うわああああ!?【川に叩き落される】


曹操:(ぬうう・・・どうしたものか・・・ええい、やむを得ん。)

   全軍、退けっ!


許チョ:えっ、退くのでございますか!?


曹操:そうだ。張飛ちょうひだけでなく、対岸の伏兵がある。おそらく諸葛亮しょかつりょうめの罠だ

   ろう。彼奴きゃつのために夏侯惇かこうとん曹仁そうじんの合わせて二十万の軍が壊滅させられてい

   る。

   ここは退くのだ!


許チョ:はっ! 全軍、撤退せよ!


張飛:待てッ、曹操そうそう! 逃げる気か!! 勝負しろッ!!


許チョ:張飛ちょうひ、その手には乗らんぞ!


    【三拍】


張飛:・・・よし、退いたな。

   お前ら、出てこい!!


劉備軍兵士:張飛ちょうひ様、あれでよろしかったでしょうか?


張飛:おう、よくやった!

   仕上げに橋を焼き落とせ!


劉備軍兵士:時間稼ぎでございますか?


張飛:そうだ。その場しのぎだろうがかまわん、やれっ。


劉備軍兵士:ははっ!


      【二拍】


張飛:我が君! 橋を焼いてまいりました。これで少しは時間が稼げます。

   今の内に退却を!


劉備:うむ、趙雲ちょううんも無事に合流したことだ。急がねば・・・だが、こんな状況では

   とうてい江陵こうりょうへは出られまい。漢津かんしん方面へ出るしかあるまい。


趙雲:そうですな・・・ともあれ急ぎましょう、我が君!

   しかし、張飛ちょうひ、さっきの一喝は凄まじかったな。

   ここまで聞こえたぞ。


張飛:ははは、あれくらいどうってことはねぇさ!

   貴様が曹操そうそう軍数十万の中をたった一騎で駆け抜けてきたんだ。

   俺様もいいとこ見せねえとな!


劉備:見事だったぞ、翼徳よくとく! 曹操そうそうめ、さぞきもを冷やしたであろう。


張飛:ははっ、ありがたきお言葉!


劉備:さあ、皆、急ぐぞ!!


ナレ:その後、予想外の早さで橋を三方に掛けられ、再び散々に痛めつけられる

   劉備りゅうび軍であったが、諸葛亮しょかつりょうとその指示を受けた関羽かんうの援軍によって、からく

   もその命を拾う。更に劉表りゅうひょうの長男、劉琦りゅうきの援軍も加わり、江夏こうかにて軍を

   立て直すこととなる。


   劉備りゅうびという大きな得物を逃がした曹操そうそうだが、その勢いはとどまる事を知ら

   ず、呉の孫権そんけん最後通牒さいごつうちょうの文案を練り、同時に水陸の軍を呉との国境へ向

   けて威圧展開する。

   呉では降伏と抗戦の二派に割れる中、一人の人物が孫権そんけんに呼びだされた。

   魯粛ろしゅくあざな子敬しけい

   彼は主君を前にして、胸に秘めた策を開陳かいちんするのであった。



END



はいはいはいおはこんばんちわー、作者であります。

・・・うん、公式の投稿は実に年単位ぶりになってしまいました(;^ω^)

すでに書き上げて試読せずに積んでいる台本はもう20を超えているのに、です。

例によって、間違いなく初心者向けの台本ではないですね、ええ(;´Д`)


もしツイキャスやスカイプ、ディスコードで上演の際は良ければ声をかけていた

だければ聞きに参ります。録画はぜひ残していただければ幸いです。

ではでは!

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