幽霊の君、生きている私
今日も今日とて、私達の日常は続いていく。そう。私がなんだかんだと生き延びる限りは。
「おはよう、隼人」
「おはよう、雪」
朝、眼が覚めると真っ先に君に声を掛ける。私以外誰にも見えない君。交通事故で亡くなった君。これは私の都合の良い幻?それとも、本物?私にはわからない。
「今日も学校休むの?」
「絶対行かない」
君はあの時、私を庇った。いじめっ子に道路に突き飛ばされ、信号無視をしたトラックに轢かれそうになった私を庇った君は亡くなった。いじめっ子の彼女はそんなつもりではなかったと言った。反省なんてしてないんだろう。あんな女とは顔を合わせたくない。だから、学校なんて行かない。行くものか。
「俺のことは気にしなくていいんだよ。俺は君の幸せを誰よりも願ってる」
「私は私のために、行かないの。それに、どうせ死ぬなら関係ない」
「死ぬなんて言わないでよ。俺の犠牲が無駄になるだろ」
「隼人が勝手に犠牲になるから、私は死ぬのよ。隼人がいない世界なんてクソ喰らえよ」
「だから俺はこうして君の側にいるんだろ」
「私に都合の良い幻の可能性大でしょ」
「…幻でも良いじゃん。君が幸せでいてくれるなら」
「良くない」
今日も今日とて押し問答。結局私はなんだかんだと自殺の用意をする。
「…今度は首吊り?辞めておきなよ。痛いよ。苦しいよ?」
「わかってる」
「わかってない。自分という存在が消える苦しみは、半端なものじゃないんだ」
それでも、制止を振り切って私は首を吊る。たった瞬間ロープが千切れた。
「邪魔しないでよ」
「俺は君の都合の良い幻なんだろ。だったら、ポルターガイストなんて起こるはずがない」
「…むう」
「つまり俺のせいじゃない」
「むむむむむ」
「あははは。変な顔。ね、今日も失敗したんだから、明日まで生きてくれるよね?」
「…うん」
こうして私は、なんだかんだで自殺を失敗しては、君に宥められて生きていく。こんな日常が、ただ無意味に続いていく。
「…ねえ」
「うん?」
「いっそのこと、全部夢だったらいいのに」
「…どこからどこまで?」
「隼人が死んだ日から、今日まで」
「…夢だったら、生きてくれる?」
「え?…もちろん」
「…わかった」
「…?」
その瞬間、ノイズが発生した。頭の中がぐわんぐわんする。気がつくと、私は病院のベッドの上だった。
「…え」
「雪!よかった、眼が覚めて…とりあえずナースコール!」
「隼人…なんで私の手で触れるの?」
さっきまで半透明で触れなかったはずの君は、確かにそこに存在して触れるようになっていた。
「ばか。なに寝ぼけてんの。お互いに生きてるんだから触れるに決まってるだろ」
「…え?」
それから病院の先生が来て、色々と診察された。先生が言うには、あの事故の後私は意識不明の重体になっていたらしい。隼人が庇って死んだというのは全部夢だった。隼人は私を庇おうとしたが間に合わなかったらしい。死にかけていたのは私の方。
「よかった…隼人、よかった…」
私はようやく今までのが夢だとわかって、安堵の涙を流した。
「そりゃあ怖い夢を見たな、どんまい」
頭を撫でられる。その感触は確かに隼人のものだった。よかった、本当に良かった。
「あの女の子は警察に行ったし、俺も生きてるし、体調が良くなったら一緒に学校に行くぞー」
「うん、わかった!」
こうして君と私の日常は続いていく。今度こそ、離れないように、離さないように。
ー…
「藤原さん、可哀想にね」
「彼氏が死んじゃって、とうとう壊れたんだってね」
「彼氏が生きてると思い込んで、学校に通ってるんだよね」
「本当に可哀想…」
うん。俺もそう思うよ。でも、幸せな夢に閉じ込めておかないと…雪はいずれ死ぬ。だったら、俺の呪いで幸せな夢を。俺と一緒に、いつか寿命を迎えるその日まで。生きている君と幽霊の俺の甘くて苦い日常を続けよう。




