ベアトリス、説く
気付いたらかなり投稿してますね。
これからもよろしくお願いします。
「お断りします」
「どうしてだ?」
生徒会とはいわばこの学院における権力者。
実力も兼ね備えているので、抵抗することは絶対にできない。
もし、生徒会に入れば、その後の学校生活はずっと覇者として過ごすことができる。
子供にとって、それがどれだけ楽しくて、優越感に浸れるか……。
それは、きっと誰もが夢見るはずのものだろう。
当然、前世の私だって生徒会に入れたらいいなと思っていた。
前世では……。
当たり前のことながら、今はそんなこと思ってもいない。
なぜなら、
「めんどくさいからです」
「はぁ?」
実際、この理由が私の中で大半を占めている。
クラブが毎日あるのにもかかわらず、それが終わり次第、大量に事務作業をこなす。
そして授業では常に優等生である必要があり、授業態度はもちろん、予習復習も欠かさず行うことが必須なのだ。
つまり、寝る暇がないのである。
それを私は知っている。
当時、覇者道を貫いて、完全に悪役令嬢と化していた私が、生徒会を潰してやろうと考え、伯爵家の娘(部下)を送り出した。
すると、一週間後に生徒会を勝手に辞めてしまった。
その理由が忙しいから。
単純明快にして、最悪。
生徒会が権力者じゃなくなれば、仕事も別委員会を作ってそこでやらせることができるというのにね。
なぜか拘っているらしい。
それに、私は一ヶ月程度で学院を抜け出す段取りを練っているのだ。
その中に生徒会に入る必要性はない。
予定としては
オリビアさんのいじめを止める
私が直々に問題を引き起こし、退学
もしくは、学院長の弱みにつけ込み、辞めさせてもらうか
オリビアさんは結果として、未だ犯人が見つかっておらず、いじめも止んでしまったので、ほぼ解決したも同然だ。
だが、一応心配なのでレイに、これからも付き添ってあげて、とお願いしておいた。
私は学校を辞めるが、レイにそんな予定はない。
そこで、お別れである。
レイは学院生活をエンジョイし、私は自由気ままな生活のために計画を続行する。
それだけである。
レイには申し訳ないが、一応オリビアさんの様子を定期報告してもらうことにでもしよう。
もしもの時であれば、レイが助けてあげて……。
「ちょっと待て!」
「なんですか?」
完全に、レイの兄貴の存在を忘れて、そのまま部屋から出ようとしてしまっていた……。
「それだけの理由なのか!?」
「ええ、それだけです」
「そんな理由だけで、これから先の数年間の未来をドブに捨てるのか!?」
私はすぐに学校をさるつもりなので、関係ないんだけどね。
そんなことは言えないので、適当に言い訳を述べる。
「確かに生徒会に入れば、みんなから慕われて、順風満帆に生きれるかもしれない。だけどその先に何があるの?」
「?」
「覇者のように振る舞って、みんなに尊敬されて、偉そうにしている。私から言わせてもらえば、窮屈以外の何ものでもないわ」
「!?」
「偉そうにしたいのなら、大人になってからすることよ。子供がどれだけ鍛えて、どれだけ努力しようと、大人になった頃には、追いついてくる輩がいるの。生徒会に入って偉そうにしてるやつほど慢心する。私は、慢心したくないので」
持論である。
公爵家の長女として、将来を約束されている。
そんな私が、慢心して、日々の日常を送った結果が前世の最後だ。
本当に私は、殿下のためと思って、結婚を諦めて嫁いだ結果があれだ。
私は敵国に暗殺されることはおろか、まさかの身内に殺されるという悲劇。
処刑人を担当していた戦斧を持った男も私の知り合いだった。
子供の頃の私をよく知っている人物。
涙を流すことなどあり得ない。
つまり、私が偉そうな態度を取り続けた結果、努力せずに慢心して生きていった結果が、前世の私なのだ。
だから、生徒会メンバーにもそうなって欲しくない。
私はそれを一度味わっているから。
そんな理由もあって、体を鍛え始めた。
もう慢心しない。
広い世界を知って、自分の実力のなさを思い知る。
そうすることで、私は今まで鍛えてきた。
「じゃ、私は帰りますんで」
今日は休日。
大人しく家で鍛えることにしよう。
今語ったことで、やる気も増してきたしね!
♦︎♢♦︎♢♦︎
「なんなんだ?」
あの女子は。
あんなやつ初めて見た。
誰もが憧れるはずの生徒会。
その誘いを断ったのだ。
少なくとも、入るに足る実力があるのは間違いない。
どこの家の子供かは知らないが、貴族家の娘。
教養はあるに決まっている。
だったら、なぜ入らなかった?
答えはもう聞かされた。
(俺はどこで慢心していた?)
自分は生徒会に入って、権力を握った気でいた。
そんなことない。
よくよく考えると、権力など握ってはいなかった。
学院長がこのシステムを作った。
生徒会が絶対の権力を握ると……。
だが、それは裏を返せば、学院長が情報を遮断すれば、俺たち生徒会には情報なぞ流れてこないのだ。
つまり、最終決定権を握るのは俺たちかもしれないが、それは厳密に学院長が審査したものしか手元にないということ。
学院長が決定権を持っていることに等しい。
何が言いたいか……。
それは、学院長が自らの決定権を譲渡するということによって、生徒会に入るメリットを増やし、魅力的に見せる。
その結果、全体の成績は向上するのだ。
中を覗けば、学院長が自分の書類仕事を生徒会に押し付け、権利を振るう。
君臨すれど統治せず
この言葉が正しい。
「ふふふ、上には上がいるということだな……」
頭の回転力もあるようだ。
ベアトリスという少女は自分よりも物事の先を見ている。
それは、先程の会話で明らかだ。
「俺は、いつから生徒会が頂点だと思ってたんだろう」
もちろん俺は慢心していたつもりなどなかった。
だが、生徒会に入っておしまいと考えていた時点でダメだったのだ。
「目指すはトップか」
生徒会長
その人物だけが、学院長と対等に話ができる。
もちろん、学校の規則についても話し合うことができる。
「ベアトリスに対して失礼なことをしてしまったようだな」
辺境伯の恥さらしだ。
「偽名まで使ったのがバカらしい」
ロイ?
そんな名前ではない。
俺の名前はグルートだ。
自分をさらけ出すのを恐れ、偽名を使った結果。
きっとそれもバレていただろう。
妹の友達なら、俺のことを聞かされていても不思議じゃない。
あの笑顔はそういうことだったのだろう。
「生徒会長になったところで、何があるわけでもないがな……」
自分が住むこの学院という世界において頂点。
そこを目指すのも悪くはないだろう。
なれたとしても、慢心することはないだろう。
俺はもう、ベアトリスに教わったから。
慢心せずに、上り詰める。
窮屈かもしれない。
それを上り詰めた先で変えて見せる!
(それで文句はないだろう?)
たまには、他人から学ぶのもいいものなのだな……。
「今日から……鍛えるか」
俺は生徒会室を出ていくのだった。




