目的地はすぐそこ
波はクラトン大陸に近づいていくにつれて激しくなっていっていく。だが、一定の場所まで辿り着いたあたりから、波は不思議と穏やかになった。その先からは魔物の数も減少し、ベアトリスがわざわざ相手取る必要があるものはほとんどなかった。
「ここまで来ると逆に怖いわね」
先程までシーサーペントと戦闘をしていたというのに、今度は穏やかになりすぎだ。降雨がない海というのは太陽の強い光が常に照らしてくる。干からびそうなほど強いが、そんな光をもろともせずに進んでいく。
この先に待っているであろう父様に会いにいくために。自分の中の感覚ではまだ一年も立っておらず、ほんの数ヶ月会っていない感覚ではあるが。例を挙げるならば、学院に通っていた時のような感じ。なぜなら、私とレオ君やユーリを含む三人は二年もの間眠りきりの生活をしていたようで、つい最近目覚めたばかりだからだ。
どうやって眠りっぱなしで生き延びていたのかは不思議なのだが、すぎたことを気にする暇を周りは与えてくれなかった。やるべきことが多すぎて、ここまで要所要所の不可思議な事態に注意を向けられなかった。
あまりにも都合良すぎた展開や、私の前世に関する深まる謎など……他にも気になっていることはたくさんある。
今はとにかく父様に会って色々と話がしたい。
「キュ!」
「どうしたの?」
スライムの声はどうやら正面を見ろ、といっているようだ。なぜだかわからないがここ数時間でスライム語というのかはわかないが……が、わかってきたような気がする。たまに会話が成立しているような錯覚を覚える。
「ん?あれは?」
津波の如き波を超え、大量の魔物の群れの中を強引に突破してきた今、目の前に見える新たな障壁に嫌になってくる。
大きな雲が立ち込めるそこには、雨が降り雷が何度も落ちている。比較的波は先ほどよりもマシなものの、明らかに状況的に良くなったとは言えなかった。
「せっかく安全域まで来てまたこれ?」
どれだけ障壁があるのだろうか?感覚的にもう半分は超えているはずだ。
通常の船であれば、何日どころか何週間も立ちそうな距離をスライム船はものの数時間でたどり着いていた。スライムでできた船は抵抗……というのか?とにかく、水の流れに阻まれず、かつ水の流れに乗ることができ、そしてスライムと多少なりとも仲良くなったあたりから急激に加速し出した。
できればずっと本気で海を渡って欲しかったものの、予想よりも早くつきそうなので許す。
「スライム君……頑張って」
「キュ!」
元気は十分。
「突っ切るぞー!」
「キュー!」
♦️
思った以上に道のりは難航している。スライム船は上から落ちてくる水を防ぐために体を伸ばして傘を作ってくれた。だが、その分だけ船の面積が削られていき、速度は落ちていく。
そして、落ちてくる雷は正確に私たちを襲ってくるのだ。スライム傘に直撃し、怪我を負ってしまうスライム。
「私のことは大丈夫だから、スライム君は速度を上げることだけに集中して」
「キュ」
雷は私が結界を張ることで防ぐ。魔力の消費が痛いが、これくらいは目を瞑るしかあるまい。
魔物もちょくちょくと顔を出してくる。なんでこんなところを泳いでいるんだよって文句を言いたくなるくらいにはいた。
「水龍はもう帰れ!」
さっきまでシーサーペントから逃げ回っていただろ!こっちくんな!
空から落ちてくる雷を逸らしてそれを水龍に直撃させると黒焦げになり、そのまま海の中に落ちていった。……この雷威力強くない?
仮にも水龍を一撃で葬る自然現象なんてあるか普通?簡単に倒してしまってきたから忘れていたけれど、龍っていうのは最強種とも呼ばれる存在なのだ。ただの自然現象で打ち取れるほど楽な相手ではない。
そして何よりも私がすごいと思ったのは、そんな雷に何発も耐えているスライムの方であった。
「君、すごいね……」
将軍が直接創造したからなのかな?将軍のことだから、それなりに強い魔物として作ったはず……。
「でも、この雷を超えたらすぐそこにありそうな気がする!」
その声に反応したツムちゃんが語りかけてくる。
《古代クラトン大陸から空中へと流れもれる魔力によって生み出されている雲のようです。おそらく目的地はすぐそこかと思われます》
よっしゃ!待っててください父様!娘が今向かいます!
急ですが、また新しい作品出す予定です。(四月上旬)
投稿が止まっている作品がいくつかあるのですが……それに関しては本当にすみません。
今後とも気長にお待ちいただけると嬉しいです……。




