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救う力

「手紙の書き置きオッケー!よし、行くか」


 王城から抜け出す準備は整った。と言っても用意するものはほとんどなかったけど、なぜなら私に異空間に収納する魔法があるのだから!ずっと作りだしてから便利だとは思ってたけど、遠出するのにここまで役立つとは思わなんだ。


 ありったけ……と言うほどでもないけど、食料と水をいくらかもらい何があるかわからないので、着替えの服を一着だけ用意した。勝手に取ってっていいのかと思われるかもしれないけど、きっと許してくれるはず……!


 え?


 いきなりどこ行く気だよ、話が見えないだろって?


 今から行くのは……なんだっけ名前?


 《古代クラトン大陸です》


 そうそれ。そこに行って来たいと思います。


 今の現状、私は二つの選択に挟まれている。


 一つ目、魔族の侵攻を食い止めるために最前線である王国に残り、戦うか。


 二つ目、自分の身内である父様を救出するために、クラトン大陸へと向かうか。


 この二択である。なんでこんなタイミングで魔族が侵攻してくるのか……本当に嫌になる。


 もちろん、できることならどっちもがいいのだろう。王国民の命を救いつつ、父様の救出ができればの話だけど。私の分身体だってそこまで便利じゃないんだ。


 遠く離れれば離れるほど維持魔力が膨大になっていく。どれほどの距離が王国とクラトン大陸にあるのかは知らないけど、絶対に一日も維持できる自信がない。


 どちらも救うなんて力、私にはないのだから。


 父様なら大丈夫って何度も口にして来たけど、それは口にしてるだけで心配なのには変わりない。一日でも早く会いたい。今ではもう……たった一人の生きている肉親なのだ。


 幸いなことに、ユーリを始めとするあの三人はとても強い。三人で比べるとミサリーは見劣りしがちだが、一騎当千の猛者であるのに変わりない。私が生まれる前から冒険者として活動していて、戦闘の勘も働くのであれば十分だろう。


 それに、ミサリーには長年の伝手がある。勇敢な冒険者仲間を招集してもらうようにと書き置きに書いて置いたので、私のいない穴は埋められるだろう。


「後は……お気持ち程度だけど、結界と『これ』」


 危険を知らせる警報器の役割を果たしてくれる人形である。これが、壊れたら大きな音が鳴り、ついでに私の方へ魔法的なつながりをたどって伝わる仕組みになっている。


「……行くか」


 久しぶりな、いや……初めての一人旅だ。



 ♦️



 二年前……


 悪魔とは想像していたよりも柔い存在だった。私が戦ったのはあくまで下級悪魔であったが、自身の娘であるベアトリスと比べると天と地ほどの差があると実感した。


 いや、娘と妻か。


 二人が異次元すぎるのだ。私なんかの凡才が家族になれるなんてな、人生でいちばんの幸運だった。


 娘と友達であった少年も逃がせたことだ。対峙する悪魔の一体を水が多い尽くす。努力の末に得られたちっぽけな魔力だが、下級悪魔一体を屠るのには十分だ。


「潰れろ……!」


 左手と右手の指が完全に触れ合った時、魔力もそれと呼応し、包んでいた悪魔を締め付け、潰す。


「縺弱c縺ゅ≠縺ゅ≠!」


 言葉にならない声をあげて、悪魔が原型を失くす。


「はぁ……くっ、切り裂け!」


 瞬時に背後を振り返り、飛びかかろうとしているもう一体の悪魔を風の刃が刻んでいく。ただ、威力が足りなかったのかまだこちらへ向かってこようと目をギラギラと輝かせている。


「まだぁ!」


 一歩踏み込み、抜き放った剣は貴族が愛用するような派手なものではなく、実践を意識した頑丈な剣である。一閃、振るわれた剣が寸分違わず正確に悪魔の首を切り取った。


 硬い感触に剣が途中で止まりかける、だがそれを気合いと膂力で押し込み首を切り落とす。


「はあ……はぁ……くっ、早くいかねば」


 街へ……逃げ遅れた人がいるはずだ。


 こんな時になっても自身の娘の心配をしてしまうのは親の性なのだろうか、ちらりと屋敷の方へと目をやる。轟音が鳴り響き、振動で揺れた空気が空間を若干歪ませながら、私の聴覚と視覚を刺激する。


 娘に任せきりとは……不甲斐ない父親である。


 そして、今までヘレナのことをメアリを勘違いしていたなんて……きっとおそらく、誰かの『権能』によるものなのだろう。


 だとしてもだ、愛する妻を間違えるなどと。


 メアリは今、どこにいるのだろうか?最強の聖騎士は今どこで何をしているのか……気になりはすれど、今はそんな暇はなかった。


 ヘレナは一体何者かという疑問も頭によぎるが、私は彼女のことは信用している。彼女のベアトリスに向ける視線はいつでも温かく……


 そして、今思えばどこか儚げだった。まるで、いつか訪れる死別の前のように。


 街へと戻ると、燃え盛る業火の中人の姿は一つも見当たらない。流石に襲撃から時間が経っている、逃げ遅れも流石にいないか。


 それでも、悪魔たちは跋扈している。


「流石に、魔力が持たないな……」


 だが、このままでは他の領、他の国にまで被害が及ぶかもしれない。


「腐っても貴族!私は最後まで貴族の務めを果たそうぞ!」


 頼り甲斐のある頑丈そうな剣を一本構え片手には道に落ちている石を持ち、目の前にいる悪魔どもに向かっていく。


 どこまでの終わりも見えないような数だが、私は死ぬまでここから逃げることはないだろう。


「私も……ベアのように全てを救える力があるだろうか?」

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