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謎の行動

サボっていてすみません!

 掠めた首元を抑えながら私を守るかのように目の前に立ち塞がる殿下。傀儡と殿下のやり取りがうっすらと聞こえてくるがそれを聞いている以上に私の余裕は無くなっていた。


 頭の中が混乱して自分でもどうしていいかよくわからなくなっていたのだ。頭痛は依然として私の思考を乱してくる、傀儡が私にとって苦手な敵であったとしても、次出会った時は遅れは取らないつもりだった。しかし、こうなると私は攻撃を避けることすら厳しいかもしれない。


「傀儡……初めて会ったのは大体十年前ほどか?よくも僕の前に二度も顔を見せにきたな」


「随分と気が大きくなったようだね、僕ちゃん?とりあえずさ、そこどいてよ。絶好のチャンスなんだ」


「そんなこと言って僕がどくとでも思っているのか?彼女は僕の大事な人だ。絶対に傷はつけさせない」


 殿下が左手に魔法陣を展開した。


「お気持ち程度だけど……そこで休んでて、ベア」


 私の周りを囲うように小さな結界がうずくまる私を包んでくれる。結界は難易度の高い魔法だが……殿下は相当魔法の訓練をしてきたのだろう。


「おいおい、僕に無関係のおぼっちゃまを殺させるつもりか?早くそこを退け」


「ふん、そんな脅しには屈しないぞ」


「見た目が少し成長したからって強くなったと勘違いしてるのかな?」


「はっ、お前の方はだいぶ見た目が変わったな。そう……まるで他人と入れ替わったみたいだ」


「っ……」


 傀儡は殿下を睨みつける。もはやヘラヘラしていた態度はどこかへと消えていた。


「あの見た目は結構好きだったんだけどねぇ……?よもや一度死ぬとは思わなかったさ」


 傀儡の全身を闇が包んでいく。漂う瘴気のような魔力は周囲の空気を澱ませながら、剣の形を象っていく。そこには全身を真っ黒な鎧のような魔力と剣のような形をしている魔力の塊があった。


「笑えないな……これは」


 殿下がそう呟いた瞬間、傀儡が一気に距離を詰める。


「だ、だめ……」


 殿下に手を伸ばし、守るよう結界を発動させた。結界と黒剣が衝突する。ちらりと殿下が私を見た。それから手にメラメラと燃えたぎる炎を出現させた。


 私の結界が割れると同時に剣と手の炎が衝突した。


「うぐっ……」


「諦めなって、ここで無駄死にとか嫌でしょ?」


 実力の差は明らか、殿下は徐々に後ろに押し戻されている。それでも殿下は一歩も引かずに、笑って見せた。


「好きな子の前で逃げるなんて生き恥を晒すくらいなら、立ち向かう方がよっぽどかっこいいだろ!」


 もう片方の手から今度は鎌鼬が現れ、炎と合わさり、爆風が起きる。


「おっと」


 爆風で剣を弾かれた傀儡が隙を晒す。それを見逃さずに、一歩踏み込み今度は水と雷を顕現させた。


「うおおおお!」


 黒い魔力の鎧を狙わず、雷と水が合わさった混合魔法は傀儡の顔面めがけて放たれる。とても良いカウンターにはなったが、それは実力差の前では意味をなさなかった。


「ふう、四属性使いとは驚いた。魔法の訓練をすればきっと大成しただろうにね」


「がっ……!」


 剣に魔法を吸われ、代わりにカウンターが殿下の腹に打ち込まれた。ただ殴っただけだが、魔力に覆われた拳は成人した殿下の体を簡単に吹き飛ばすに足るものだった。


「さあて、王手だ。君がいなくなれば、人類は間違いなくこれからやってくる魔王軍によって滅ぶことだろう」


「あなた……魔王軍と、繋がって……」


 体は動かない。殿下の結界は傀儡の力によって捩じ伏せられ、その効力を失っていく。


「じゃ、お疲れ」


 黒剣が私に向かって振り下ろされる。死ぬ寸前にまできているというのに、私の頭はうまく事を把握できない。何回も死にかけてきて、実際に二回は死んだのだ。


 この程度の危機……とかそんなことは考えていない。ここが死に場所になるのかとか、そういうことも考えられずにただ傀儡の動きを見つめていた。


 スローモーション気味に映る傀儡の動きを見つめ、刃が眼前まで迫った時、目の前から火花が散った。


「……え?」


 いきなり火花が散ったことで、死から免れたことは理解できた。だが、それ以上に『転移』でその場に現れた人物の方が理解できなかった。


「ど、どうして……あんたが……」


「どいつもこいつも……私の言う事を聞けない愚か者ばっかり!あーもうイライラする!」


 眼前の茶髪の少女が頭をかきむしる。


「あ、悪魔の……」


 そこにいたのは、公爵領を破壊した憎き悪魔の少女だった。


「おいおい……嘘だろ、なんでお前がここに出てくる?」


「傀儡、あんただけは私に忠実だと思ってたけど、存外黒薔薇って頭が悪いのね。強者の命令を守れないんだから。ベアトリスは私の獲物……誰も狩り取っていいなんて言ってないんだけど?」


 傀儡は明らかに動揺し、一歩後ろに引いた。


 状況が理解できないのは私と殿下だけのようで、傀儡は動揺したものの、理解はしたようだった。


「くそ……なんでお前がそいつを守るんだよ。ふざけるな」


「なに?なんか文句ある?」


「ちっ!」


 傀儡は少女越しに私の方を見る。


「……次こそは仕留める」


 そう言って影の中に溶けて消えていった。その場に残ったのは少女と私と殿下だった。


「な、なんであんたが……」


「あーもう、こうなるならさっさとその肉体を奪えばよかったんだわ」


「っ!?」


 少女はこちらを振り返ると私の顔を掴んだ。


「お、おい!」


 殿下は何かまずいと思ったのか止めようとするが、少女は聞く耳を持たなかった。


「今すぐにでも『交換』したいところだけど……」


 憎たらしそうに顔を見つめると、ため息をついた。


「いい?余計な真似はしないでね、ベアトリス。もう今後()()()辿()()()()()()()


「ちょ、ちょっと待って!記憶?あなたまさか私の……!」


 過去を知っているの?


 去ろうとする悪魔の少女を止めようと手を伸ばすが、うまく体が動かなかった。


「待ってくれ!」


「……っ」


 殿下が悪魔の少女の手を掴んだ。


「ラウル様!」


 悪魔の少女からすれば殿下など振り解けば簡単に死んでしまうほどのか弱い生き物なのだ。もしここで殿下が死んだら、私は……。


 そんなことを考えていたが、その考えは杞憂に終わった。悪魔の少女は抵抗することもなく、ただ黙り込んでいる。


「なあ、君は一体何者だ?どこから来たんだ?」


「……………」


「何も答えてくれないか……」


 殿下はある程度予想はしていたのだろう、そこまで深くは落ち込まず、さっと顔を上げた。


「ベアトリスを助けてくれてありがとう。それと……君、()()()()()()()()()()()()?」


「っ!?」


 悪魔の少女が一瞬殿下の方を驚いた表情で見つめる。


「……いいえ、ないわ」


「そうか……」


「手を離してくれないかしら?」


 殿下は慌てて手を離す。


「ふん……幸せなものね、いつかは壊れるのに」


 そう言い残して悪魔の少女は転移していった。


「なあ、あの子知り合いなんだろ?一体何者なんだ?」


 殿下がいなくなった少女の代わりに私に聞いてくる。その時にはすでに痛みも引いて楽になっていた。


「敵……のはずなんだけど」


「え!?」


 一体何がどうなっているんだろう?

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