前世の記憶
終章までのストーリーは考え終わってるのに、完成させるのに時間がかかる定期。
まさかここまで長編になるとは私も思いませんでした。
結界には私の魔力をふんだんに使用するつもりだ。結界は常時起動するためには常に術者の魔力を消費し続けなければいけないという欠点があるが、それを解消するために、私はとある道具を探している。
「魔力循環の魔道具って、お店に売ってないのかな?」
空気中の魔力を吸収してそれを循環するという魔道具なのだが、如何せんこれがどこにもない。
っていうか、殿下に聞いたところこの魔道具は国宝級に代物らしいので、道端の店にはおいていないとのこと。
どうにか手に入れる方法はないものか。
だが、探すために離れた間に襲撃されちゃたまったもんじゃないから、しっかりと結界は張った。私の魔力は常にちょっとずつ削られるし、少し結界に攻撃と思われるものが当たった場合、私に警告が来るから子供の蹴ったボールとかにも反応してとても困っている。
魔道具を探すのはまた今度にしよう。結界があるから、傀儡などの例外を除いてほとんどの敵は侵入できないし、結界を起動するのにたくさん魔力を使ってしまった。
「今日はゆっくり休んで魔力を回復しないと……」
というわけで、久しぶりに殿下の部屋へと足を運んでいるわけですが、最近は割とシャキッとしてる殿下、やっぱ女の子が部屋にいると意識しちゃうのかな?
照れてて可愛い。
「こうやって二人になるのも久しぶりですね」
「ああ……その、何を話していいものか」
話題作りに困っているご様子。最近の近況を離しても戦ってばっかでちょっと女子らしいことは言えない……というか、前世と比べて私全然女子らしいことしていない。
「はぁ、女子力不足……」
「?」
「なんでもないです」
殿下の部屋は昔来た時と比べて少しも変わっておらず、むしろ荷物が減ったまである。学院で普段生活してるっていうのもあるだろうし、王城にいないというのも分かるが、ちょっと物寂しい感じが……。
泊るといったものの、殿下の部屋ってベッド一つだけだし、まあそこはどうでもいいんだけど。
「昔は、こんなふうになるとは思ってなかった。まさか、ここまで会う機会がないとは思ってなかったよ」
「そうですねぇ、私もそう思ってます」
前世では全く知らなかった強敵や友人がたくさんいた。世の中は広いっていうけど、いくら何でも広すぎた。私の知っている常識が一切通じない世界に私は足を踏み入れている。
「昔はさ、君が僕のお嫁さんになるって思ってとても喜んだよ」
「え?」
「最初はどうせ他の貴族と変わらない、権力のための政略結婚をさせられると思っていたけど、ベアトリスは面白いし、優しいし、可愛い。僕にはもったいないけど」
あと強いし……と付け足す殿下に苦笑いを浮かべる。
「でもさ、離れ離れになってみてさ、それがもう叶わないってわかったんだ」
真剣な顔で殿下が言った。
「もう、僕のことは好きではない……いや、最初から好きではなかったのだろう?」
「そんなことないです。はじめはラウル様のことが好きで……」
「その初めっていうのが何時の事かは知らないけど、積極的に接しているように見えて、絶対に一線は超えてこなかったよね?僕の部屋に来た時も『恋話をしよう』って、まるで自分のことをはじめから除外しているみたいな言い方をしてた」
ああ~……そんなこと言ったわ。
「他に好きな人でもできたの?」
「好きな、人?」
私は少し考えこむ。
「思いつく限りは見当たらないですけど……」
「そういうんだったらそう言うことにしておこう。でも、僕っていう選択肢はもう消えちゃったよね」
と、消え入りそうな声で殿下が呟く。
「違います。私はラウル様のことが好きで……」
「そんなふうには見えなかった」
「それは……」
前世の記憶では……って言っても信じないだろう。
「僕は君が好きだ。僕にはもったいない『元婚約者』よ……」
殿下が私の頬を撫でる。抵抗はしない。殿下の細まった目を見て、あの時のことを思い出す。
処刑台の上に立たされて、ギロチンの刃が落ちてくる瞬間を。
『お前なんて、最初から好きじゃなかったんだ……』って……殿下がそう冷たい目で言って……。
でも今の殿下は私のことを好きと言ってくれた。前世のころの夢だったことが今現実になっている。だけど、それに対する喜びは……あんまりない。
私は強くなった、殿下のことを怖いとはもう思わない。でも、あの冷め切った目が忘れられない。
いっそのこと、前世の記憶があることを打ち明けてしまおうか?
そうすれば楽になるんじゃないだろうか?殿下だったらきっと……信じてくれるよね?
前世では、私はあなたのことを愛して……そしてあなたに殺されたって言っても信じてくれるよね?
「あの……ラウル……殿下」
「なんだい?」
「私、実は……ほんとは!」
そして、私が前世のことを吐露しようとした時、
突然口が動かなくなった。
「っ……!」
「どうしたんだ?」
メアリ母様の記憶がよみがえった時に感じた耐えがたい苦痛が再び襲い掛かる。いや、でも……違う。
「あがっ……ああああ!」
「ベアトリス!?」
その場で倒れこむ私に向かって殿下がなにかを叫んでいる。だが、それは私の耳には入ってこない。
私の頭の中は今起きた現象で頭がいっぱいになっていた。
(前世のことを……口にできない?)
しようとしてこなかったから、知らなかった。今世の私が前世のことを口にしようとすると、まるで誰かに口をふさがれたように声に出ない。そして、鈍器で叩かれるような痛みが頭を襲う。
これは……傀儡の仕業ではないだろう。傀儡が前世のことを知っているとは思えない。私が話していなかったし、操作の権能があっても流石にそこまでのことはできないはずだから。
じゃあ、これは誰が決めたルールだ?
誰が……
《口にしなければいいものを……》
頭の中でツムちゃんじゃない、誰かの声が響く。いつも聞いているあの忌々しい声だ。私のことを乗っ取ろうとしている奴の。
前世で、殿下は私を殺して……いや、あの時殿下はなんて言ってたっけ……いや、首が斬られた後、確か少し意識があったような?
その時にも殿下は何か言ってた!
だけど……思い出せない?なんで?絶対に忘れられない記憶のはずなのに……。
支えようとする殿下の手を振り切る。
「大丈夫です、ラウル様」
「本当か?すぐに医者を……――!」
その時、殿下の影が蠢いた。
「一名様ごあんなーい♪」
殿下の首元を狙う刃を私は頭を押さえながら魔法で防ぐ。風の魔法は制御がうまく効かず殿下の首元を掠った。
「あらあら、弱ってやんのー!」
「……」
「傀儡!」
「やあ久しぶりだね、坊ちゃん」
影から飛び出てきた傀儡がにやりと笑みをこぼす。
やっとストーリー進んだね。
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