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トラウマ

 ミサリーに言われ、私は急いで王都に向かった。


 転移で一瞬で来れるにしても、そこはすでに暴徒で溢れかえっていた。


「どうしていきなり?」


 民衆たちは王城の周りを囲んで、武器を振り回しながら暴言を吐いていた。ミサリーから王都で暴動が起きたと聞いた時は信じられなかったが、これを見せられたら信じるほかない。


「ちょ、ちょっと何やってるの!」


 民衆の一人に声をかける。だが、振り返ったのは赤い目をギラギラ輝かせた何かであった。


「っ!」


「があああああああ!」


 いきなりかみつこうとしてきたのを見て、私は咄嗟に突き飛ばした。体勢を崩し、少し距離が出来たと思ったらその人は私に興味を失くしたかのように王城の方に目をやっていた。


「なんなのよ……絶対に普通じゃない!」


 《権能の力を検知しました。民衆は何者かによって操られています》


「権能ですって?」


 人を操ることが出来る権能持ちがこれをやっているのか……でも、誰なのそれ?


 他国の画策?王国が落ちれば利益につながる国は……。


「考えてる場合じゃない。とりあえず、国王は無事かしら……」


 私は王城の中へと転移する。


 中に入り、国王を探して走り回っていれば、会議室の中に人だかりができているのを見つけた。


「国王陛下!」


 そこにはちゃんと国王陛下がいたが、ずっとうつむかれたまま動こうとしない。


「大丈夫ですか?外の暴徒たちは――」


 私がそう言いながら近寄ろうとした時、周りから一瞬にして殺気を感じた。


 周囲にいた騎士たちが赤い目を光らせながら私に剣を振り回してきた。


「な、なにをするんですか!」


 油断しきっていたせいか、剣が何回か服に掠ってしまった。咄嗟に、風の圧力で騎士たちを壁に叩きつけ事なきを得る。


「国王陛下?」


 私は思わず身構えてしまった。周りの騎士たちが赤目だったのだから、国王も私のことを襲ってくるのではないかと思ったのだ。


 だが、私の予想とは少し違い、国王が私のことを襲ってくることはなかった。確かにすでに赤い目になっており、誰かに操られてはいたが、かろうじて理性は保っているような反応を示した。


「べ……ア」


「国王陛下……」


「くび……を」


 私の方に手を伸ばしながら震えている。もう少しで理性が飛んでしまいそうだ。


「では、失礼して」


 トンと必要最低限の力で気絶させる。


「陛下も操られている?ってことは、もう王都は落ちたようなものじゃない?」


 じゃあ何で赤目の民衆が王城に群がっているのか……。


 私がそう考えていると、久しぶりに感じる懐かしい気配がした。その気配を感じた瞬間、私の体に悪寒が走る。


「お前は……」


「ちょっと予想外だったけど、良い買い物ができたなー」


 瞬間、私とその男、黒薔薇の幹部である傀儡は交差する。互いの攻撃が交差し、お互いの顔に一筋の傷を与えた。


「いきなりひどいじゃないか」


「黙れ!」


「それにしても……その目、もしかして怖い?」


 面白いものを見るかのような目で傀儡は私のことを見てくる。


 怖いかって?そりゃあ怖いに決まってる。メアリ母様を死に追いやった要因の一つが傀儡だからだ。


 メアリ母様は私を守るために死地に飛び込んだが、その最たる原因がこいつだから。


「手が震えてるねぇ?これなら俺でもなんとかなりそうだ♪」


「黙れ黙れ!お前は絶対私が!」


 私の影が形を変えたのを目の端で捉え、光魔法を詠唱する。影を消したと思えば、傀儡の手がすぐそこまで伸びてきていた。


 顔目掛けて伸びた手を交わし、もう片方の手で足を捕まえようとしてくる傀儡に対し、空いている手で殺傷能力の高い炎魔法を詠唱し……思いとどまる。


(この中には人が多すぎる!)


 巻き添えで殺すわけにはいかず私は後ろに飛びのいた。


「殺し慣れてるだろう、人はさ」


「うるさい、私が手にかけるのはどうしようもないクズだけなのよ!」


 不敵な笑みを浮かべながら余裕の表情を崩さない傀儡。


 今の攻防で身体能力に関しては私が圧倒的に上にいることは分かった……だが、それを相殺できるほど、私の体は震えで固まっている。


(くそっ!なんで動かないのよ!?)


 今の攻防で、絶対に急所に二発食らわせられるくらい余裕があったのに!トラウマが私の判断を鈍らせた。


「おー怖い怖い。そんなに怒んないでよー」


「何が目的?王都の人たちを操ったのはあなたよね?」


「そうだよ、俺の権能‘操作’でね」


 傀儡が指を鳴らすと、辺りに転がっていた騎士たちがゾンビのようにふらふらと立ち上がる。


「まあこんな雑魚は使えないけど」


 そういうと、騎士達は糸が切れたようにまたばたりと倒れた。


「えーっと目的だっけ?そんなの国家転覆に決まってんじゃん」


「私じゃないの?」


 心のどこかで私は何時も狙われていると思っている節がある。心の端でそうじゃないと聞き、安堵してしまった自分が嫌になる。


「俺は個人的な恨みで君たち公爵家を殺そうとしてきたけど、うちの幹部メンバーはそうじゃないからね。みんな世界征服っていう言葉が大好きなのさ」


「それはお前も同じだろう?」


「俺は違うさ、俺には俺の目的がある」


 その言葉を吐いた瞬間だけ、傀儡はどこか人間に一瞬だけ戻ったような感じがした。

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